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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第六章 エルフの国

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№36. 備えあれば憂いなし

「はぁ〜。我が転生してからしばらく経つが、現代はそんなに進んでるのか。まるで未来都市ではないか」


「実際、あなたから見たら近未来なんですよ。車が空を飛ぶのも近いとかなんとか」


「まぁ我も飛べるがな」


「そこ競ってどうするんですか」


 そんな雑談に花を咲かせていたが、どれくらい経っただろうか。流石に一時間は経っていないだろうが、それなりに長話をしていた気がする。ナナ達を待たせてるんだし、そろそろお暇しようかな。


「ゼノヴィオさん、お話ありがとうございました。ボク、そろそろ帰らないと」


「おぉ、そういやぁそうだの。用があれば我のところに来るといい。同郷のよしみだ」


「うん、ありがとうございます。じゃ、また」


 爽やかにそんな声を残して、ボクは翻した。森……あぁ、いや、違うんだった。世界樹の枝の隙間を歩きながら、そこを離れ、ナナ達の元へと戻る。スゥと風が通ったかと思えば、肩が急に軽くなった。


「……ぶはッ、はァ。なんなんだ、竜王ッてのは、化け物じャねェか」


「あ、なんだ。起きてたんだ」


 肩に乗っていた黒猫、ゼルはその小さな顔を上げながら呼吸を繰り返した。てっきりボクの髪を毛布にすやすや寝てるのだとばかり思ってたが、ビビって息を潜めてただけか。


「やっぱり、元魔王のお前からしても化け物なのか」


「当たりめェだろ。ありャ大魔公と並ぶか、あるいはそれ以上の存在だぞ。俺様でも息が詰まるぜ。……で、お前。転生者なのか?」


「……まぁな。内緒だぞ」


 知られたからと問題があるわけでもないのだが。それはそうと素直に話すのも得策とは思えない。アルさん達はいいにしても、そこから外に漏れる可能性を考慮すれば。何に巻き込まれるかも分からない。


「まぁ『アマテラス』って時点で半分アウトだろうけどさ。できるだけ波風立たせたくないんだよ」


「まァ俺様はキョーミもねェしいいがよ。とッとと歩け。ここは居心地が悪い、俺様はまた寝る」


「てめぇで歩けや」


 のそのそと首元を歩いたかと思えば、ポスッと頭に顎を乗せて。爪を立てていないからいいものの、ボクはタクシーじゃないんだ。脚があるなら歩いてほしいものだよ、まったく。


「……っ! お帰りなさいませ、メルナ様。お怪我はございませんか?」


「うん、平気だよ、ナナ。ルヴァルクさんも、待たせました」


「構わないよ。竜王様はどうだった?」


「デカかったです」


 それだけか、と笑いながら、彼は樹を降り始めた。改めて見るとあまりに高いな。雲は目と鼻の先、カーペットのように広がる樹海に、その奥には薄っすらと海のようなものも見える。やっぱり山にいる気分だな。


「それで、お嬢様。どのような話をされていたので?」


「あ、うーん……。まぁちょっと、難しい話でもあるんだけどね。結論から言うと、旅に出ようかなと」


「旅、ですか?」


 世界樹を下へと、つまり街へと下りる道中、ボクは例の話をしていた。彼が転生者ということは伏せつつも、魔剣のことや予言のことを、覚えてる範囲でザックリと。要はその混沌の時代——厄災に備えて、力が必要だという話だ。


「ふむ、魔剣ツクヨミか。僕は名前だけは知ってるがね。魔剣とは本来、悪魔の保有する武器だ。まぁ決まりがあるというわけでもないんだけど。聖剣と魔剣、その二つを統べるというのはどうもね」


「逆に尋ねますが、悪魔側が聖剣を持ってたことはないんですか?」


「それも少なくとも、僕の記憶にはないな。つまりこの三〇〇年ほどは最低でも。それ以前も話には聞かないからなぁ」


 甘く見積もって五〇〇年は記録にないと見ていいのかもな。ただ聖剣の歴史は六五〇〇年、魔剣がどうかは分からないが、そのうちの五〇〇なんて当てになるか……。いや、ゼノヴィオが話題にしなかったから前例はないのかな。


「しかし、動くなら早くした方がいい。その厄災がいつ始まるのかは知らないが、出遅れては命に関わりそうだ。それに、一部では嫌な噂も聞く」


「嫌な噂?」


「あぁ。悪魔達が一部の人間と通じてるだの、堕天の聖剣を持つロード・アルスメード、彼が悪魔に与しているだのとね。もっとも、根拠はないのだが、ここ最近になって何か大きな力が働いているのは確かだ」


 アルスメード……第一の剣だったか。聞くところによると人類で最も強いとされる男だとか、あるいは不老不死だとか。それこそ噂の絶えない人物ではあるが、以前聞いたゼルシアスの話からするに何かしらの意思があるのは明らかだが……。


「従者としては城を出るような危険、許容し難いところですが……。そのせいで命をお守りできなくなっても困ります。まずは国に戻って陛下に判断を委ねましょう」


「うん。しばらくはボクもそのつもりだよ。でもたぶん、あの人が行けというんだから。……行った方がいいのは確かだもん」


 今はボクも王妃様の養子だし、国家特異武官という立場もある。何かと言い訳は通用するかもしれないが、長期的に国を空けるとなるとなぁ。ある程度自由な立場と言えど、筋が通らないことはできないだろうし。


 と、そんなときだった。やっと街に立って、休めるだろうかと思ったとき。その街から駆け上がって、何か報せを届ける姿があった。


「おぉ、トリュネルか。どうした、息を切らして」


「や、奴らが来たんだ! ダークエルフの奴らが!」


「何?」


 ルヴァルクの歪んだ顔をよそに、ボクの心臓は不謹慎にも高鳴っていた。ダークエルフ、そんな種族も存在したのか。イメージは『なんか悪いヤツ』だが、果たしてこの世界ではどうなのか。そんな考えしかボクにはなかった。


「奴らが来たのか。どうせロクなことにはならないな。僕が相手に——」


「そうじゃなくて! アイツら魔物に追われててさ! そしたら大変なことに……!」


「……?」


 トリュネルはどうにも混乱しており、冷静さを欠いていた。これでは得られる情報も得られない。そんなわけで、ボク達は揃って樹の下へと駆け下りた。登って、登って、下りて下りて。


 なんでこのデカいものをこうも登り下りしなければならないのかと。思うところはあるにはあるが。ダークエルフという未知のロマンと、彼らに起こっている非常事態。その二つでボクの心臓は不正脈を起こさんばかりに揺れていた。

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