№03. 十番目の聖剣保持者
「んん〜! 可愛いなぁ、メルナは! 本当に、一体どこから来た妖精なんだ!」
「ぶっ……。い、いやぁ……」
アルさんにこぢんまりと抱き抱えられたまま、ボクは馬に揺られていた。絢爛とした鎧を纏った馬の姿は、確かに誇り高い騎士団のものだと思い知らされる。
「しかし意外でしたな。そんな可愛らしいお嬢ちゃんが聖剣を持ってるとは」
「えぇ、本当に。妹にしたいくらいだ」
「は、はは……」
神様が与えてくださった容姿だ。鏡がないから分からないが、とびきりの美少女なのかもしれない。それをすぐに確認できないのが悔やまれる。……が、それ以上に。気まずいなんてものじゃない。ボクは男だぞ。……中身は。
「しかも素直だもんな! 王国中を探しても、こんな子はそういないぞ」
「ありがとう……ございます」
まぁ……アレだな。身体は女の子だもんな。それにこの世界のことは何も分からないし、大人しく従うしかないよ。うん。不可抗力ってやつだ。
「……あの、聖剣のこと。聞いてもいいですか?」
「ん、あぁ。そうだったな。……うん、魔物の気配もないし、ちょうどいい」
アルさんは周囲を見渡してにっこりと笑顔を向けた。気配というのはそう簡単に分かるものなのだろうか。音とか匂いとか……そういうものなのか。でも確かに『見て』た気がする。
「つい先日のことだ。主神ホルネィからの啓示があってな。『天魔の樹海に聖剣を持った者が現れるからね〜』と」
「そりゃまた、随分とフランクな……」
フランクな神様……? あの人か! いや、人じゃなくて神様か。異世界に転生させてくれるくらいだからある程度はそうだろうと思ってたけど……そっか。偉い神様だったんだな、あんな感じで。……? あの人、こっちの世界と向こうの世界、どっちの神様なんだろうか?
「我々も聖剣と聞いては無視もできまい。しばらく世界も騒がしくなっていたんだが、どうやら我々が一番乗りだったようだ。国境も近いしな」
「聖剣っていうのは……そんなに大変なものなんですか?」
「当然だろう。聖なる剣、つまり神の御加護を受けしものだ。加えて特定の所有者がいるとなれば……」
なるほど……。要は神に選ばれし存在ってことか。それが誰の味方になるか敵になるか。警戒するのも確かに当然だ。
「でもボク、剣なんてまともに振ったこともないですから。誰の役にも、敵にもなれませんよ」
「そうかもな。だがそうじゃないかもしれん。少なくともメルナ、君には資格があるという話だ」
「資格……」
ボクには無縁だった言葉だ。前世のボクは、どこにでもいるような脇役Aだったから。特別なんて、そんな言葉に触れることはなかったのに。……最初はただ、神様の憐れみで転生したのだと思ってたんだけどな。
「その……ボクは何を求められているんでしょうか」
「そんなことは考えなくても良い。神様が何を思って聖剣を与えられたのか、なんて。救世かもしれないし、あるいは破滅かもしれない。神の思惑なんて人間の想像できることばかりではないんだ」
あらやだ、なんてカッコいいのでしょう。まるで王子様じゃないか。……そうだな。神なんてお偉い様の考えることなんて分かるはずがない。……いや、あの人……もとい神様のことだ。なんとなくだろ。
「ただ事実だけを語るとすれば、その聖剣は十本目だ」
「へ?」
「今までに九本、聖剣は確認されている。そしてその全てにおいて、元から用意されていた主はいなかった。もちろん、記録にないだけの可能性もあるが」
世界に十本、か。ということは、コレはとんでもないアイテムなのか? いや、間違いなくそうだよな。そしてボクはその主として……いや、どちらかと言えば逆だ。ボクが最初にいて。そのボクの武器として、聖剣を付けられたんだ。
「何はともあれ、私達は君を探しにきたんだ。その道中であの悪魔達に遭遇した。先に言っておくが、君を保護するのか、あるいは戦力として育てるのか。その判断は全て君に任せるよ」
「……分かりました」
正しいのはどっちだろうか。国に連れてってもらって、守ってもらいながら過ごせるならこの上なく幸せだろう。だがここは……日本と違って平和じゃない。魔物も悪魔もいる世界だ。戦う力がなかったら……いつどんな風に死ぬか……。
「まぁ極端じゃなくてもいいがな。日が暮れ始めた。今日はここらで野営にするか。お前達! キャンプを張れ!」
「はっ、すぐに!」
騎士の方達は素早く準備をして。あっという間にテントと焚き火が完成した。そして何か……いわゆる結界のような。そんな不思議なものに包まれた。
「コレは?」
「断臭の結界だよ。ほら、この魔石に術式が刻まれていてね。魔力を流すと発動する仕方だ。これで魔物も寄ってこない」
「へぇ〜」
アルさんは透明な石を拾い上げ、ボクに説明してくれた。何が何だかさっぱりではあるが。やっぱり、魔力っていうエネルギーがあるんだな。神様……ホルネィ様が言ってたもんな。ここは剣と魔法の世界だって。
「さて」
「……?」
ポン、と。ボクの肩に手が置かれた。優しい温かさを帯びてはいるが、決して離さないというような、そんな力加減で。
「君を着替えさせないとな。そんな際どい恰好では危ない」
「へっ……?」
改めて、自身の身体を見下ろす。柔らかな身体の曲線に、それを覆う一枚の布。確かにとても衣服と呼べるようなものではなく……。まるで原始人のようなそんな恰好だ。
「ボ、ボク! 自分で着替えられるから……!」
「いいや、そんな恰好の者を信じられるか。私が一から着させてやろう」
「うわぁー!!」
そのまま抵抗も虚しく大きなテント……アルさんのテントに引き摺り込まれた。引っ剥がされて、測られて。彼女が予備に持っていた服を、丈を合わせて着せられた。確かに動きやすく、肌の露出も少なくなったが。何か……ボクの中の何かが今、失われたような気がする。




