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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第五章 侯爵領の事件

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№22. 悪意の山

 屋敷の外壁、その門の前。数人の使用人らしき影と、その中に一人、高貴そうな者の姿があった。五〇か六〇の男性、ヴァルタリオ侯爵だ。披露目の儀で顔を合わせた覚えがある。そんな彼らの前で、馬車はピタリと止まり、扉を開くと同時にボク達は降りた。


「王室騎士団長・アルナリュート殿下、並びに国家特異武官・メルナご令嬢。わざわざ御足労いただきありがとうございます。本来であれば私共がご挨拶に赴かなくてはならないのに……」


「顔を上げてくれ、ヴァルタリオ侯爵。私もメルナもそんなことを気にするほど小さくないさ。困った民がいるなら力を貸す。侯爵もそうだろう?」


「ありがたいお言葉です。どうぞこちらに。お話はお聞きになっているでしょうが、改めて私の口からもご説明いたします」


 滞りなく、ボクとアルさんは屋敷の中に案内された。噴水の周りが甘い香りの庭園で、そこを蝶々が楽しそうに舞っている。ここだけ切り取ればまさに平和そのものだが、そうでもないんだもんな。


「さぁ、こちらへ。簡単な茶菓子なども用意させますので」


「あぁ、ありがたい」


 侯爵は使いの者に指示を出し、そのまま応接室へと足を進めた。その高級そうなソファにボク達は腰を下ろし、向かい合う。背後ではタロンが背筋を伸ばしたが、気にかける状況でもないか。……ご老体は休ませたい気持ちもあるが。


「そういえば、侯爵には息子がいたろう。彼は無事か?」


「ユルヴァですか。……えぇ。アイツは母を失ってからも一生懸命に働いてくれたのですが……。例の騎士同士の殺し合いで参ってしまったようで。申し訳ございません。挨拶くらいはさせたいのですが」


「いや、無理をさせるべきではないさ。気にするな」


 話はアルさんに任せながら、ボクは出されたクッキーをパクパクと食べていた。ヴァルタリオ家の息子というと……確か二〇歳かそこらだったか。歳も近いし、アルさんとも旧知の仲だったりするのだろうか。……アルさんはボクの女神様だからな。やらないぞ。


「さて、では本題に入るが……。例の悪魔、北の山の麓にいるという話で確かだな?」


「はい、その通りにございます。しかし……詳しい場所は分からず、もしかしたら少し離れてしまったかもしれませんが……」


「いや、結構。強力な悪魔なら魔力を感知できる。特にメルナは敏感だからな」


 敏感というか……度重なる訓練で知覚能力が鍛えられたというべきか。魔力増幅の加護もあり、ボクは魔力量も質も人並みながらそのエネルギーは大きい、という変わった状態にある。それだけに、細かい魔力や薄い魔力をも感知することができたり、できなかったり。だが——


「はい。ボクも頑張りましょう。悪魔の魔力なら痕跡くらいは残ってそうだ」


「ふふ、よし。というわけだ。わざわざ待つ必要もない。今から北の山に向かうぞ。タロン、いいな?」


「ご老体には優しくしてほしいところですが……。姫が望まれるのならば、今すぐにでも馬を出しましょう」


 おっと、やっぱり休みたい気持ちはあるのか。まぁ、年不相応にギラついたその瞳を見るに、アルさんの遠慮ない姿を見るのが好きなんだろうが。となればボクも、アルさんの期待に応えなければ。


「侯爵。このクッキー、美味しかったです。ご馳走様です」


「……はは、特異武官様に言われると、うちの使用人も喜びになりますよ。どうか……どうかお願いします」


 掠れた声に、切ない声色。下げた頭では確証もないが、涙は枯れてしまったらしい。領主というのも大変だな。そりゃ、民ばかりか、お抱えの騎士もやられては気が滅入るか。


「しばし吉報を待て。私達は悪魔を討ってくる」


「はい……っ、お待ちしております」


 部屋を出て、屋敷を出る。侯爵の顔を見ることはなかった。見なくても、ボク達のやるべきことは確かだからだ。彼のために、でもあるが。民が不安にならぬよう、騎士達の無念を晴らすよう。そこにいたのは、そんな志を背負った高潔な騎士団長の姿だった。


「……ユルヴァ、と言いましたか。侯爵の息子とは縁があるんですか?」


「ん? あぁ。身分の差があったからな、さほど親しい仲と言えるほどでもないが……。幼い頃はそれなりに言葉を交わすことがあったんだ。歳が近いのはアイツくらいだったからな」


 屋敷を後にし、馬車に乗り込んでそんな話をした。要は幼馴染だとか、昔の友達だとか、そういう相手だってことだ。そんな相手が悪魔のせいで引きこもり気味となれば……思うところもあるか。


「とにかく、悪魔を討つことに変わりない。やることやれば、アイツもまた愉快な仕事人に戻るさ」


「えぇ、そうですね。仇討ち、なんてのは柄じゃありませんが……ボク達もそれが仕事ですから」


 それからしばらく、揺られ続け。そろそろ酔い始めたな、というところで馬車が止まった。到着したんだ。……例の悪魔がいるという北の山に。


「お二方、到着いたしました。向かうとしましょう」


「えぇ、ご苦労様。タロンも着いてきなさいね」


「ふふ、労わってほしいものですが」


 なんだかんだと言いつつ、タロンも馬を木に繋ぎ、その細い身体を伸ばした。森の匂いは異様だ。確かに、他と変わらず爽やかな、そして軽い空気のようで。その裏では腐ったような悪臭も、悪意の塊のような匂いも、感じずにはいられない。

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