№20. 建前口上
「アルお姉様は軍服なんですね。……ミリアお姉様はドレスなのに」
「私はいいんだよ。こっちの方が慣れてるからな」
ボクだって制服の方が慣れてるんだけど、
というのは今更か。もう着替えは済ませてあるわけだし、あとは始まるのを待つだけ。……ボクだって制服の方が慣れてるんだけどな。
「それよりメルナ、多少は挨拶もしなければならないんだ。お前は慣れてないだろう? 簡単に台本を作っておいたぞ」
「わぁ! ありがとうございます!」
渡された紙、そこに書かれていたのは確かに簡単な文章だったが、この上なく参考に、そして頼りになるものだった。つまりはこれを言えばいいわけだ。いざというときに何を言えばいいのか、多少は考えていたがこれで心配ない。
「ねぇメルナちゃん。そんなことは気にしなくていいんですよ。言葉に詰まっても私達が助け舟を出しますから」
「は……はは。いやぁ、頼もしい限りです」
鼻先が触れるほど近く、ミリア殿下が顔を寄せた。この人はアルさんとはまた違う距離感なんだよな。一線引いてるようで、その実、ボクの方にその線を越えさせようとする……いわゆる誘惑タイプだ。恐ろしい!
「いやしかし……本当にな、意外だよ。新しい聖剣持ちだと聞くから、身構えていたんだがな」
「あ、ベルアルトお兄様。お気づきになられたんですね」
「ぐっ……! はぁ、はぁ……あぁ。なんとかな」
今度は倒れなかったか。いや、舌を噛んで理性を保ったんだ。身を削ってまで……なんなんだこの人。オモロいな。
「俺の立場上、幾人かの聖剣持ちと会う機会も多くてな。今の君とは違って聖卿と呼ばれる高みらしいが……まぁなんだ。そいつらと来たらイカれててな。頭が」
「頭が!?」
「癖が強いのなんの。ここにゃあアナスタシアがいるらしいな。アイツなんかマシな方だ。そして、それ以上にマトモなのが君ってわけ。安心したよ」
イカれ……まぁそうか。強いなら一癖も二癖もあるもんだろう。ボクだってもしかしたらそこに仲間入りするかもしれないし……。いや、ボクは根本がマトモな日本人だからな。
「でも兄上、メルナも大概だぞ? 薬が欲しいからと一人で魔女の森に入って死にかけるくらいだ」
「何っ!? ……他人ではなく自身を削るタイプのイカれ人間だったか」
「はは……お戯れを」
イカれてんのはアンタらだろ、というのは一旦置いておいて。というかそんな不敬を口にする度胸もなく。
「で、やはり筋は良いのか?」
「良いも何も、右肩上がりだよ。剣を握って三週間と少し、確かに私達と比べると少し見劣りはするし、魔力の扱いもお粗末。けど成長は明らかに右肩上がり。これじゃあ私が抜かされるのも時間の問題だ」
「そんなことありませんよ。いくら力をつけても、実践経験は埋まりませんから」
確かなことは剣聖の加護が成長を早めている、ということ。剣を振れば振るほどに磨きがかかり、魔力も練れば練るほどに質が高まり、同時に全身の巡りが良くなる。質より量、量が質に直結する。……成長は早いのは確かではあるが、やはりもっと決定的なところで、ボクとアルさんとではまだ遠い。
「何にせよ、三週間でコレは化け物だよ。私はその聖卿ってのが何か、詳しくは知らないがさ。そう遠くないんじゃないかな」
「間違いないと思うよ。聞いた情報からするに、剣聖の加護……それは恐らく天井無し、強化系の加護なんだろうね」
「まぁ……体感、しばらくはそうですね。流石に限界はあるでしょうが」
それから、時間が過ぎるのはあっという間だった。と言ってもほんの数時間なんだ。こんな刺激的な空間を退屈に思う暇なんかない。
そしてその一瞬の後、いよいよ披露目の儀が開催された。場所は王宮の大舞踏の間、その壇上。いつからか意識を取り戻した国王様を先頭に、ボク達は連なった。客の視線は、見慣れないボクに集中しているのが分かる。
「ゴホン。まず我が国内の貴族を始め、各地を牽引するような皆の者よ、遠路はるばる赴いてくれたことに感謝する。必要などなかろうが、我が名はバルテッド・バラムランデ、我が国の国王である。堅苦しいのは好まない質だがな、形式を崩し過ぎると誰かがうるさいかもしれん。まずは——」
そこから始まった話は、言うなれば校長先生の話だった。いつになく王の威厳は発揮されていたものの。良いことは言ってるだろうし、大事なのだとは思うが、どこかで退屈。そんな話。幸いなのは、それが決して長くなかったことか。
「——と、まぁつまらぬ話はここまでにして。紹介しよう。我が妃、リアネスムーンの新しい娘にして、我らの新たな家族でもある。十番目の聖剣保持者、バラムランデ王国国家特異武官。メルナ・アマテラスだ」
その宣言と同時に、全ての視線が今一度集まる。品定めするような目か、疑いや嫌悪の目か……あるいは敬いか。それらは一言で言い表せないものだった。……それがどうした、関係ない。ボクは鞘からアマテラスを抜き、それを掲げた。
「ボクの名はメルナ! メルナ・アマテラス! アルナリュート殿下に名前を頂いた恩、リアネスムーン王妃に拾って頂いた恩! 深くは語らない。ただ一つ。第十の剣『剣聖の聖剣』アマテラス、ただこの一つで我らがバラムランデ王国、並びに偉大なる王家に受けた恩義を返す所存! ……よろしくね?」
「おぉー! 可愛いですぞー!」
「美しゅうございます!」
清々しいほどの茶番だ。彼らには聖剣が、あるいはボクの顔が輝いて見えるだろうか。別にボクはそんな深いことは考えてないし、国王様方もそんなものを求めているわけじゃない。
ただ使えるものは使おう。顔と声の良さも、それっぽさも。持ち上げられ、歓声を浴びるのも悪い気はしないしな。聖剣を鞘に収めてからも、しばしその熱は引かなかった。




