№18. 四つの加護
「ところで君達。これからどげんするか、予定はあるん?」
「えと……三週間後、ボクの披露目の儀があるんだけど。それまでは大した予定もない……ですよね?」
「あぁ。逆にそれまでは下手に外に出ることもできないが、それ以降は比較的自由……になるはずだ」
ただ別に……どこかの国に興味があるわけでも、任務を渡されるわけでもない。ボクもこの国の戦力なわけだし、いずれにしても基本的にはこの城で過ごすことになるよな。
「うーん。じゃあうちもそれまではここにいることにするばい。よろしくね。部屋はメルナちゃんのを借りてもよか?」
「え……あ、あぁ。……来賓用の部屋があるんじゃ……」
「メルナちゃんのを借りてもよか?」
「あ、はい。いいです、それで」
圧という圧でもないが、その遠慮のない物言いには敵わないな。……しかし、かなり王宮内を自由に使ってるんだな。ここは城だろ、一応。……まぁ、相手が相手だもんな。下手な対応はできないか。
「そったらね、も一つ聞いてほしいんやけど。最近悪魔が活発になっとるけん、気をつけてほしいっちゃん。特に大魔公なんかの情報があったら、うちか聖議会の方に知らせんしゃい」
「大魔公……と聖議会?」
「大魔公いうんはちかっぱ強い悪魔のことばい。それこそ龍の本体とかは大魔公やけん、あんなのとは比にならんくらい恐ろしいっちゃん」
「……え、白龍は本体じゃないの?」
「ありゃあ分体、木の枝みたいなもんや。本体は悪魔の森で寝とるんじゃなか?」
悪魔の森……って言われてもピンと来ないんだけど。ボクはこの世界の地理には詳しくないっていうのに……。まぁたぶん、悪魔の住む大陸とか国とか、そういう類だよな。いわゆる魔界みたいなもんどと思ってればいいだろ。
「そんで聖議会は人類の最高戦力が所属してる集まりとでも思っとってくれたらいいっちゃん。中にはもちろん、聖剣持ちもそうじゃない人もいるばい。みんながみんな同じ志ってわけでもないけど。ひとまず悪魔には負けないよって、そういう話やんね」
「へぇ……なるほど?」
「ちなみに兄上……ベルアルド王太子もその聖議会に所属しているぞ。だからコンタクトは取りやすいだろうな」
「そうなんですか……」
情報が多いが……つまり世界の中心のような戦力があると。ざっくりとそんなところかな。王太子殿下も属してるとなると……いや、よく分からんや。とにかくめちゃめちゃ強いヤツらがいるってことだな。
「メルナちゃんも、いつかはそれに入るかもしれんけんね。君の聖剣を教えとくれん?」
「あ……えっと、『剣聖の聖剣』アマテラスってものだよ。たぶん、披露目の儀で正式に公表されると思う」
「剣聖の……。なんか地味っちゃんね。加護はどんなもんと?」
「えーっと……」
地味とは言われるとは思ったけど。思ったよりグイグイくるな。まぁこの人には晒すも隠すもなかろうが……というより意味もないだろうけど。そう思っていると、ハッとしたのか、へにゃりと笑って言葉を続けた。
「ごめんごめん。いきなり聞かれても不安やんね。まずはうちのから教えちゃるばい。えっと……うちの龍狩の聖剣はね、みんな共通の対魔の加護と、貫通の加護、絶対者の加護に龍狩の加護やんね。分かりやすく言えばどんな相手も斬れるって力ばい」
「なんか……ズルいな」
「へへ、そうっちゃろ? そこにうち自身の循環の加護もあるけん、うちったらちかっぱスゴいんよ?」
まるで……というかまさに剣聖じゃないか。聞くところによると、恐らくどんな相手、能力でも太刀打ちはできる、ってところだとは思うが。なんでも斬れるなんて言われたらボクの聖剣がまるで……悲しくなるよ。原初の聖剣と、それ以降の森羅の聖剣との格差なのかな。
「えっと……ボクのは対魔の加護に筋力増強の加護、魔力増幅の加護、それから剣術を扱える加護……たぶんそれが剣聖の加護ってことだと思うけど、その四つだね。分かってるのは。……ボク自身には加護はたぶんないよ」
「そっかぁ。……その……うん。いいことあるけん、めげちゃいかんばい」
「慰めないでよ。悲しくなるでしょ」
名前だけでなく、加護もなかなか地味というか……。強力ではあるんだけど、シアのそれと比べるとあまりにシンプルで……。とはいえ、繰り返すようだがボクは剣を握って数日だ。より強くなればなるほど、この加護によって出力は鰻上りになる……はずだ。うん、きっと。
「まぁいいばい、いいばい! とにかく、しばらくはこの国にいるけんね、メルナちゃんのお世話はしちゃるよ!」
「ありがたいが、シア。妹の世話は私に任せて構わない」
「お二方とも忙しいでしょう。お嬢様には私がついておりますので、ご心配なく」
……おぉ、これはアレだ。『私のために争わないで!』ってヤツだ。ハーレムだなぁ。どうしようか……なんか気分良いしこのまましばらく言い争ってもらうか。
「……あ、そうだ、お嬢様! ミリア殿下より、お洋服を預かっております。ちょうどお怪我で退屈でしょうから、合わせてみましょう!」
「へ……? いや、ナナ。ありがたいけど……」
「おぉ! それはいいっちゃんね!」
「遠慮するな、メルナ。女子たるもの、たまには可愛い格好もしなくては」
ナナがそう言いながら取り出したのは、フリフリとしたドレスのような……ボクから見ても確かに可愛らしい衣装だった。しかし……この三人、なんか急に団結したぞ……? なんでだ。そこに服があったからか? ボクは着ないぞ……逃げるぞ!
「あ、おい! 逃げ出すな、メルナ!」
「勘弁してください! ボクの趣味じゃないんです!」
「バカを言うな! 姉上からの贈り物だぞ!」
「ボクは着せ替え人形じゃないですから……っ!」
叫び声を上げながら、ベッドを跳ね起き、駆け出した。部屋の扉をこじ開け、寝巻きにも近い服で。逃げなきゃダメだ、捕まったら最後、どれだけ遊ばれるか……! 無我夢中でひた走り、ポス、と。ボクの小さな身体は何かに衝突した。
「……あ、メルナ姉さん。廊下で走って……どうしたんだよ」
「ルーク殿下!」
ぶつかったのは王家の末息子、ルーク殿下の背中だった。……いや、走ってたのにポスて。聖剣がなかったらボクってこんなに弱くて軽いのか。……いやいや、今はそうじゃない。
「よかった、ボクを助けてください! 追われてて」
「追われてるって……。ちょっ! ち、近いよ! 背中に当た、当たってるし!」
「当たってる? 何がですか」
「何って……ナニだよ!」
ルーク殿下の背中にピタリとくっつき、ボクを追う刺客と対峙した。女子三人が、こうも恐ろしく見えるのか。前世では感じることのなかった恐怖だ。ただこっちにはルーク殿下がいるんだ!
「ま、まぁ三人とも。メルナ姉さんも何か……ビビってるし……」
「ルーク。メルナと仲良くなるのはいいが、今は一大事なんだ」
「お、お姉様。ボクは服は飾り気のない方が……っ!」
ゾクリ、と背筋が粟立った。前方は確かに塞がれているが、ルーク殿下が壁になってくれている。だが、後方は無防備だ。背中はガラ空き、そこを捕まえられたら……。
「あら、ふふ。メルナちゃん、私のお洋服、お気に召さなかったかしら?」
「そ……そんなわけないじゃないですか。ミリアお姉様……」
「そう、なら行きましょうね」
「あっ、わーっ!」
そのまま脇に手を入れられ、ひょいと持ち上げられた。足は地面から引き剥がされ、そのまま連行されてしまう。この光景を、一体どれだけ見たことか。再放送じゃないんだから……そろそろボクも抗う力を……。
そう思いながらもただ連れ去られる様に、ルーク殿下は哀れみの目を向けていた。それからどう、着せ替えられたのか。……語るまでもない。




