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№17. 龍狩の聖卿

 あれから何があったか、特に語ることもない。いや、何かしら語るべきだとは思うんだけどね、特に何もなかったんだよ。


 確かに龍が現れたというだけあって、近隣国もしばらく荒れたようだが、アナスタシアさんがすぐに討ってくれたおかげで、そう大事にもならず。少なくとも国が弱ったところに侵略を、なんて事態にはなっていない。


「それにしても、お嬢様がご無事で何よりでございます。火傷痕がもし残りましたら、私めにお申しつけください。少々刺激の強いお薬を用意いたしますので」


「あ、うん。ありがとね、ナナ」


「恐縮です」


 腹に空いた穴はいくらか魔法や回復薬ポーションで治せたが、火傷は自然治癒に任せる方がいいのだとか。なんでも皮膚が少しだけ変異するかもしれないとかしないとか。確実に治す術もあるらしいけど、それは痛いって言うからな……うん。できればこのまま治ってほしい。


「いいですか、お嬢様。あなた様はもう少し、自分の身体を大切になさってください。立場もあるんです。怪我を負われるだけでも、本来なら一大事なんですよ?」


「うん、気をつけるよ。……でもそれならアルお姉様もでしょ?」


「もちろん、私達は気が気ではありませんよ。過激な文化なんですかねぇ……」


 あぁ……やっぱり。王族が前線に出るなんておかしいとは思ってたんだ。いざってとき、最終的に戦力に加わる、とかでもなく騎士団長だもんか。割とイカれた方達なのかもな。


「……あ、メルナちゃん。怪我の調子はどげんね? あんまり無理したらいかんばい」


「わっ、あ。急に入ってくるじゃないですか、アナスタシアさん。だいぶ良くなりましたよ、おかげさまで」


「そりゃあ良かった。ばってん、敬語はいらんばい。むず痒くて調子狂っちゃん。それにうちのことはシアって呼びんしゃい」


「え……うん。分かった」


 そんなことを言いながらボクの部屋に入ってきたのは、龍を討ってくれたシアこと、『龍狩』アナスタシア・ドラグメイデンだった。言わずもがな、第二の剣『龍狩の聖剣』ドラグメイデンの所有者。


 ボクを除いて九人いる聖剣保持者の中でも、とりわけ強力だと呼ばれる人……らしい。ただ、ボクとして気になるのはそれ以上に……。


「あの……シアの出身は?」


「あ、もしかして、うちの言葉よう分からんかった? ならこれからはできるだけ普通に話すよう頑張るけん。……えと、うちの出身はハカタ、西の国ばい」


「ハカタ……?」


 ハカタ……博多だよな? 九州っぽい言葉だとは思ったが……博多って異世界にもあったのか。意外だなぁ。……意外で済ませていい話ではなかろうが。でもなんか……うん。ここで驚いたら負けな気がする。


「それにしても……大変だったねぇ。白龍なんて、龍の中でも特に危険やけん、よく誰も死ななかったよ」


「いやいや、シアのおかげだよ。あと少しで死ぬところだったし。……なんてったって龍が出たんだか」


「えぇ? そんなん、理由なんかなかばい。地震に理屈はあっても理由はないっちゃろ? それと一緒ばい。ま、聖剣の様子見ってところやろな」


「へ、へぇ……」


 やっぱり災害みたいな扱いなのか。まぁ龍だもんな。それだけ異質……なはずなんだけど。実際ボク達からしたら強かったんだけど……うん。この人があっさり斬っちゃったからなぁ。


「……時にシア。あなたがここに来た理由って……」


「メルナー。お昼ご飯持ってきたぞー。あ、シアもどうだ?」


「よかと? なら遠慮なくもらうばい」


「アルナリュート殿下。申しつけていただけたら私が持ってきましたのに」


 ボクの質問のタイミング、ちょうどアルさんがやって来た。パンやら何やらの入ったカゴを抱えて……ナナの言う通り、とてもお姫様の姿には見えないが。でもその優しさは甘んじて受けよう。


「……で、うちがここに来た理由なんだけど、君に会いに来たっちゃけんね。十番目の聖剣を持った……メルナちゃんに、ね?」


「ボクに……?」


 女子会のほんわかした雰囲気だと思ったが、やっぱり真面目な話は免れないか。とはいっても、シアの軽さからするにそう厳しい話では……いや、この人が軽いのはたぶん常か。


「そりゃあ、十人目の聖剣持ちっちゃあ無視できんばい。万が一にも悪魔側の勢力に取り込まれちゃあ、困っちゃうけんね」


「あぁ……それもそっか。それならアルお姉様のおかげだね」


 アルさんがいなかったら、ボクはあのとき悪魔に殺されていたかもしれないし。だとしたら聖剣は向こうに渡ることにもなる。どこの国が拾うか、それだけでも勢力が変わるらしいし、人間サイドとしては悪魔側に渡っちゃいかんか。


「しかしメルナちゃん、随分と手こずっとったちゃね? 聖剣持ちやけん、もっと鍛えりゃあんなの敵やないばい」


「……そうは言っても、あんな怪物、そう斬れるものじゃないよ。ボクもアルお姉様も手一杯、そう簡単に言われると悲しむぞ」


「ははっ、ごめんごめん。まだ剣を持って数日やもんね。ま、見据えるべき先があるって話ばい。今のメルナちゃんはただの聖剣持ちってだけやけんね。それじゃあ力の一割も引き出せてないけん、聖卿せいきょうには遠いなぁ」


「聖卿……?」


 聖剣持ちではなく、その聖卿とやらになれと? 話からするに……要は聖剣の力を引き出せるようになれ、って話だよな。ボクも力を使いこなしてるとは思ってなかったが……。


「その、それはどういう……?」


「メルナちゃんにはまだ早い早い。鍛えりゃ分かるわ。とにかく、一生懸命な子は好きっちゃん。頑張りぃね。うちも応援しとるけん」


「う、うん……」


 好きって言われた、好きって言われたよ! しかも美少女に! まったく、ボクのことを可愛い女の子と思って……純情を揺るがす気か。アルさんがいなかったら危うかったぞ。と、まぁそんなことは置いておいて。結局アレか。鍛えろってことか。まぁそりゃあ当然なんだろうけど……なんとも世知辛いこった。

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