№14. 国家特異武官
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聖あるところに魔出づる、魔あるところに聖出づる。聖の溢るることあれば、魔の這い寄ることもあり。魔は虚なり、風に漂い障りを運ぶ。真も偽もありはしない。ただ一つ、事実を述べるとするならば、斬れば斬れる。ただそれだけ。
「……あーぁ。これはちかっぱ大ごとになりそうばい。うちが出ることになるかなぁ」
◇◇◇
王宮の食堂は流石の広さだが、この窮屈さを紛らわすほどじゃない。王家が五人、そこに放り込まれ、そりゃあ落ち着いてなどいられないさ。いくら美味しい食事といえど、喉を通るわけがない。綺麗に並んだカトラリーもどう握ったらいいのやら。
「メルナちゃん、ですか。可愛らしい子ですね。私はミリアと申します。ミリアお姉様と、そう呼んでください」
「あ、えと……はい」
第一王女のミリア殿下。雰囲気に違わぬ淑やかな口調だが、どこか……王妃様に似た恐ろしさがある。遺伝なのか? アルさん含め、ここの人達はみんなこうなのか?
「僕はルークだ。聖剣持ちだと言うからもっと大きいのかと思ってたが……ちっちゃいな。いくつだ、アンタ」
「十六です。……一応」
「僕より歳上なのか! なんてことだ……また姉が増えた……っ! くそぉ……」
第二王子のルーク殿下。今年で十五になるんだったか。歳が近いというのもあるが、この子はボクと似たような匂いがする。二人の姉に参っているのだろう。安心しろ、ボクはそんなグイグイ行くタイプじゃないからな。むしろ味方だ。
「まぁまぁ、お二人とも。あまり質問ばかりしてはメルナちゃんが困ってしまいます。それに、あなた達がはしゃいではこの人との話に移れないわ」
「し、失礼しました」
思いの外マジメに、というよりは私に構わずに、王妃様はその場を治めた。この人、つまり国王様との話のためだ。
「メルナ・アマテラスと言ったな。それが聖剣の銘か?」
「はい。ホルネィ様から聞きました」
「ふむ。まぁ食事の場だ。細かい話は後にする……いや、リーネ……妻にするとして。私からまず伝えなければならないことがある」
「……な、なんでしょうか?」
流石の圧、確か元騎士団長という話だったか。雰囲気ばかりでなく、魔力も相当なものだ。その巨躯も見掛け倒しではない。国の頭領というだけあって、その威圧感はなかなか……。
「我をお父様と呼んでみろ」
「え……へ?」
「父上ではなくお父様とな。妻の娘となったなら我の娘でもあろう。ほら、お父様と」
全ては国王が始まりだったか。いや、思えばそうだ。娘達の雰囲気から国王様と王妃様の仲が睦まじいことは分かっていた。王妃様があんなタイプなんだから、結ばれている国王様もそれに近しい気質があると……そりゃそうか。
「えと……はい。お父、様?」
「ぐはぁっ!」
「え……」
一瞬のことだった。ボクがお父様と言った瞬間、血を吐いて倒れた。いや、血は吐いてないんだけど。ボクの上目遣いと首を傾げる動作はそこまでの破壊力があったのか。……一番ヤベーのは国王様かもな。
「さて、ここからは少し真面目な話なんだけれどね」
「あっ、はい! おう……お母様」
倒れてしまった国王様を置いて、王妃様がその口を開いた。今日のこの方はいつになく真面目だ。怖がる必要もないのかもしれない。食事中だから、頬をムニムニされることもないだろうし。
「三週間後、あなたのお披露目の儀をします。聖剣持ちとして、そして私の養子として。そこで各地の貴族や、他国の家も来ることでしょう。あなたにしてもらうことと言えば挨拶に来た方達と簡単な顔合わせくらいですが」
「そうですか……。礼儀作法とか、学ばなくてはなりませんね。ボクは雑なもので」
「その必要はありませんよ。この前、戦力としての地位も用意すると言ったでしょう? あなたを国家特異武官に任命しますので」
国家特異……武官? 何それ? 武官って言うくらいだから……まぁ騎士とか魔導師とか、そういう戦力なんだろうが。どこか物騒というか大袈裟というか。国家で特異ってなんだ?
「よく分からないって顔ですね。難しい話ではありませんよ。国家特異武官、それは特定の軍には属さない自由戦力。指揮官も部下もいない、独立した我が国の単一武力と思ってください。要は求められるものは戦闘能力のみ。面倒な作法も規則も、我々は求めはしない。そういうものです」
「それはまた……都合の良い」
「武力として扱われるので、それが都合が良いかは分かりませんが……少なくともその地位、そして私の娘だということも踏まえれば、誰も余計な手は出しません。とはいえ、いきなり一人で、と言われても大変でしょうから。変わらずアルと、騎士団長の相棒として立っているといいわ」
「はい! なんとなく分かりました!」
つまるところ、一人軍隊とでも思っておけばいいのか。そこに特権として礼儀や形式からの脱却、のようなものが与えられていると。無駄に無礼を働こうとは思わないが、元一般高校生であるボクからしたらあまりに都合が良い。
「それからお披露目の儀ではうちの長兄……つまり王太子も来るでしょうから、挨拶をしましょうね」
「ベルアルド殿下、でしたっけ」
「そう、ベルアルドです」
確か今は遠い国に行ってるんだったか。王太子というだけあって、やっぱり忙しいんだろうな。……きっと王太子殿下も、ここの方達とさほど変わらないのかな。ただ男というだけマシだ。お姉様方よりは遠慮もあろう。
それから一時間ほどか。最初よりはずっと気楽になっていた。ミリア殿下とルーク殿下からの質問や話は盛り上がったが、それもいくらか慣れたものだ。……慣れたとは言っても、やっぱり一番落ち着くというか、委ねられるのはアルさんだが。
「ふぅ、美味しかったです。とっても」
「そう言っていただけると、シェフも喜びます」
食器を下げる給仕の方にさりげなくそう伝えた。いやぁ、最初はどうなることかと思ったが、食事は楽しめたな。特にデザート。プリンみたいだったが、味は牛乳が強かった……と思う。ミルクプリンみたいなものかな。とにかくマジに美味かった。
それから後は部屋に向かい。各々のプライベートの時間になった。夜は更け、街も静かに。ちなみに国王様……お父様はといえば、未だノックダウンしたままだ。




