№13. 王室晩餐会
『剣聖の聖剣』アマテラス。響きやらなんやらはカッコ良いと思うが。拭えない違和感もある。既存の九つの聖剣と違い、“剣聖の”というのは……。どこかパッとしないというか。いや、強そうではあるけども、聖剣持ってる時点で剣の王様みたいなもんだし。
加えてアマテラスときた。圧倒的な和名、どう考えても天照大神のことだろう。そもそもこの世界の言葉じゃないし。和名なのに西洋剣だし。せっかくなら日本刀の方がそれっぽいだろ。どこからツッコめばいいんだ。
「難しい顔して、どうした?」
「あ、いえ。不思議な銘と冠だなと」
「そうか? まぁ剣聖というと……確かに剣が強いというイメージしかないな」
教会を離れ、王宮への帰り際。そんな話をしていた。属性でもなければ超常的な言葉でもない。……剣聖というものが想像以上に超常の存在なのかもしれないが。とはいえホルネィ様のことだ。適当だって線もある。
「ま、何でも良いじゃないか。強くなるもならないも、与えられたものだけでは変わらない。帰ったら騎士団の特訓場で鍛えてやる」
「お、お願いします!」
しごかれるのは趣味でもないが、アルさんから直接の指導を受けられるのは喜ばしいところだ。……うん、しごかれなければ。しごかれるんだろうな。
「……何をさせられるんでしょうか」
「まぁ素振りかな。毎日一万本」
「一万……って言っても、素振りだけですか?」
「剣を振るには剣を知らなきゃいけないからな。ただ振るだけじゃないぞ。真っ直ぐ振れるか、無駄な力は入ってないか。私が矯正してやろう」
苦しそうだが、そう難しいほどでもなさそうだ。ボクも東の森で実戦は積んだわけだし、それなりに剣を振る能力はある。一万、その数を乗り切ることだけが試練かなと、そんな甘さは砕かれた。
「はっ、はっ……八千!いちィ、にィ——!」
聖剣は加護が反映されない距離に置かれ、ボクは真剣を振り続けた。腕には錘の腕輪を嵌められ、足にも鉄球を繋がれながら。あまりに古典的ではあるものの、とにかく筋力。持久力。基礎練という名の地獄の数時間だった。
「はひ、きゅ……一万!!」
最後の一振り、その勢いに汗の粒を垂らしながら。汗が滝のように、そして筋肉は涙を流して悲鳴を上げている。そんな気がする。立ち上がる力もなく、地面を濡らしながら背をついた。
「お、終わり……ました……っ!」
「はい、ご苦労様。錘を外すからな、そのまま寝転がってていいぞ」
「はひ……」
そのままでいいとは言われても、そもそも動くことすらできないわけで。ただ大人しくガチャガチャと鳴る音を聞いていた。しばらくすると手足はすっかり軽くなり、体重が半分になったような気分だった。
「加護を受けてないとは言っても、流石は聖剣持ちだな。強化術も無しに二倍の体重を振り回すとは」
「……強化術?」
「魔力を流すことによる身体能力を強化する術だよ。魔法の基礎だ。知らぬわけではあるまい?」
身体強化…‥知らないな。意識すらしてなかった。まさか今まで、それすら知らずに戦ってたのか? ……んなバカな。
「……その顔じゃ知らないらしいな。まぁ難しい話でもない。魔力を全身に流して、神経や筋力、血管なんかを補強・活性化するんだ。その魔力は魔法としては運用しないからな、どの属性でも何かが変わるわけでもないのだが……」
「純粋な魔力の方が強力な強化術になりやすい、ですか?」
「その通り。炎なら炎、氷なら氷。単一属性を引っ張り出す方が純度が高く流れがいいんだ」
つまり絡まった状態の魔力では大した効果は得られない。基本的には普通の魔法と似たようなものか。けど、魔力を引き出して魔法にするのではなく、魔力そのもので強化する——出力よりも循環が重要——から一般の魔法よりは単純で無属性に近い扱い、ってことだな。たぶん。
「メルナは魔法の才、魔力を引き出す力にも長けているから強化幅は大きいだろうな」
「まぁ……それもまた、学びますよ。今は限界です」
「そうだな。だが今日は君が養子になることを祝っての食事会だ。まずは身体を清めなければ」
「はい。……はい?」
身の危険。分かってるよ。国王様や王妃様、王子や王女様方にお会いするのに……いや、食事をするのに汗臭い格好はしてられないと。だが、ボクのこれまでの経験が正確に、そして大きく警告を発している。
「やめてください! ボクは一人で……っ! 許してー!」
「動けないのだから大人しくしろ。ちゃんと洗ってやるさ」
どうしてこうも、二日続けて浴場に連行されてしまうのか。隅々まで洗われて、それはもうサッパリしたさ。身も心も綺麗に、なんなら疲労も飛んだ気がする。もっと強くならないと、風呂からも逃げられないぞ。しっかりしろ、メルナ!
「さぁ、行くぞ。今日は豪華らしいからな。いっぱい楽しめ!」
「え、えぇ」
風呂を上がり、そして着替えて。あっという間に食堂まで連れて行かれた。ギィ、と。重い扉は軋むように開かれる。歴史を、そして偉大さを感じさせる音。そこにいたのは何人もの執事とメイド、給仕に……もちろん、それだけでなく。
「……よく来た、待っていたぞ。我が娘アルナリュート。そして十番目の聖剣保持者——」
「はいっ! メルナ・アマテラスと申します!」
中央に座る猛々しい姿はまさに王。国王陛下に笑顔が恐ろし……美しいお母様、もとい王妃様。大人のお姉さんな雰囲気の第一王女殿下にボクに近いか、あるいは少し幼いであろう第二王子殿下。
あまりに高貴で勇ましい姿に、ボクの下げた頭は上がらない。当然、数秒の後にアルさんの手によって無理やり持ち上げられたのだが。




