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機能美から始まる江東区政ラブ・マッチング ~私を『女神』と呼ぶ最強エリートは、重度の筋肉フェチでした~  作者: あおきつばさ


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第23章:筋肉令嬢vs伝統の壁

第23章:筋肉令嬢vs伝統の壁

「……大丈夫よ、美緒。貴方は今、人生で最高のコンディションなんだから」


豊洲、ららぽーと豊洲のさらに先。東京湾を1望できる超高層タワーの最上階にあるフレンチレストラン。

私はロビーに鎮座する金縁の鏡の前で、自分自身にそう言い聞かせた。


今日の勝負服は、慎治さんと一緒に選んだ「13号・改」のタイトスカート。

ネイビーの重厚な生地は、私の発達した大臀筋を否定することなく、むしろその力強いカーブを「美徳」として包み込んでくれている。ウエストにはもう、安全ピンの入る隙間すらない。ただ、鍛え抜かれた肉体が放つ、圧倒的な「安定感」があるだけだ。


「……斉藤さん。心拍数が1分間に110まで上がっているぞ。深呼吸して、横隔膜を安定させろ。俺が補助スポットに入っていることを忘れるな」


隣に立つ慎治さんは、完璧なタキシード姿。

その肩幅は、どんな高級な布地をもってしても隠しきれない野生を放っている。彼は私の震える手を取り、その大きな手のひらで包み込んだ。


「……瀬戸さん。お母様、やっぱり怖い方なのかしら」


「……母は、合理性の塊だ。だが、その合理性は『伝統』や『格式』という名の、古いデータに基づいている。……俺たちが今日見せるのは、肉体という名の『不変の真理』だ。行こう」


レストランの重厚な扉が開く。

通された個室。そこに座っていたのは、まるで一枚の宗教画から抜け出してきたような、凛とした和服姿の女性だった。


瀬戸美智子、慎治さんの母親であり、瀬戸グループを影で支える「伝統の番人」。

彼女は、私たちが部屋に入った瞬間、その鋭い瞳で私を……正確には、私のつま先から頭のてっぺんまでを、1秒間に1万文字の速さで査定するように眺めた。


「……お待たせいたしました、母さん。……僕の婚約者、斉藤美緒さんだ」


慎治さんの言葉に、私は深く、江東区役所の新人研修で叩き込まれた最高角度の礼を捧げた。


「……初めまして、斉藤美緒と申します。……江東区役所の、恋愛成就課に勤務しております」


美智子様は、手に持っていた扇子をパサリと閉じた。

その音一つで、部屋の空気が一気にマイナス1℃まで下がった気がした。


「……江東区役所。……公務員というのは、堅実なご職業ですわね。……ですが、斉藤さん。……失礼ながら、貴方のその……」


美智子様の視線が、私の腰回りに止まった。

その瞳には、侮蔑というよりは、もはや「理解不能な未確認生物」を見るような、困惑の色が混ざっている。


「……随分と、……たくましいというか。……活動的なお姿ですこと。……瀬戸家の妻となる方に求められるのは、柳のようなしなやかさと、静謐せいひつさ。……貴方のその、……岩のような下半身からは、伝統の重みというものが微塵も感じられませんわ」


グサリ、と。

それは、11号のホックを爆散させた時よりも深い衝撃だった。

私の「筋肉」が、伝統の名の下に否定されたのだ。


「……母さん」


慎治さんの声が、低く響いた。

彼はゆっくりと立ち上がった。その瞬間、彼の背中から放たれる圧倒的な圧力が、部屋全体の空気を震わせた。


「……何が言いたい。……美緒のこの身体の、どこに不服があるというんだ」


「……慎治、貴方も貴方ですわ。……こんな、……歩く大理石のような女性を連れてきて。……瀬戸家の門をくぐるには、もっと華奢で、……守ってあげたくなるような……」


「……守る? ……母さん、貴方は何も分かっていない!」


慎治さんが、ついに「スパダリ」から「筋肉伝道師」へと変貌した。

 彼は、レストランのスタッフが驚いて足を止めるのも構わず、私の隣に立ち、私の腰に手を置いた。


「……母さん! 見てくれ、この美緒の重心の安定感を! ……彼女の大臀筋は、日々の過酷な職務と、俺との地獄のようなスクワットによって鍛え抜かれた、いわば『精神の礎だ!」


「……し、慎治!? 何を言い出すの、こんな席で!」


「……柳のようなしなやかさ? ……そんなものは、風が吹けば折れるだけの脆弱な構造だ! ……美緒のこの、……大地を掴んで離さない大腿四頭筋! ……これこそが、何事にも動じない、瀬戸家の次代を担う妻としての『機能美』そのものではないか!」


慎治さんのプレゼンテーションは、もはや誰にも止められなかった。

彼は、フレンチのフルコースを前にして、私の解剖学的な優位性を熱弁し始めた。


「……母さんは、家柄や血筋という名の『過去のスペック』に固執している。……だが、美緒は違う。……彼女は、自らの努力で、自らの細胞を組み替え、13号という新たな地平へと到達した『進化する個体』なんだ! ……この筋肉の収縮率を見ろ! ……これほどまでに自分を律せられる女性が、家庭を守れないはずがないだろう!」


個室の中に、慎治さんの熱い吐息が充満する。

私は、恥ずかしさで顔から火が出そうになりながらも、自分をこれほどまでに(変態的なまでに)肯定してくれる彼の横顔から、目が離せなかった。


美智子様は、呆然としていた。

手に持っていた扇子が、力なく膝の上に落ちる。


「…………貴方。……本気なのね」


「……ああ。……俺は、美緒の隣で、一生この『安定感』を支えていくと決めている」


美智子様は、長く、重いため息を吐いた。

そして、再び私をじっと見つめた。

今度は、スペックの査定ではない。一人の「狂気」を抱えた息子の母親としての、諦めと、わずかな敬意が混ざった瞳。


「…………もう、勝手になさい。……慎治がここまで『筋肉』という言葉を熱心に語るのを聞いたのは、反抗期の懸垂大会以来ですわ」


「……母さん」


「……ただし、斉藤さん。……結婚式では、その『たくましい背中』に見合うドレスを用意すること。……瀬戸家の伝統を、貴方の広背筋でねじ伏せてみせなさい」


それは、不器用な、けれど確かな「許可」だった。


「……っ、ありがとうございます! ……私、精一杯、背筋を鍛えます!」


「……これ以上鍛えてどうするのよ……。……全く、変な子を選んだものだわ」


美智子様は、ようやくわずかに微笑んだ。



レストランを出ると、豊洲の夜景が最高に輝いて見えた。

慎治さんのジャケットの袖を握りしめ、私は深く息を吐いた。


「……瀬戸さん。……私、一瞬、本当にどうなることかと……」


「……フン。俺の計算通りだ。……母さんも、本物の美しさの前には屈するしかなかったということだ」


「……絶対違うと思うけど、まあ、いいわ」


私たちが夜風に吹かれながら歩き出した、その時。


「……ハイ、オッケーでーす! ……最高の映像、撮れましたよ、先輩!」


植え込みの陰から、ビデオカメラを構えた青山愛が、野生のハンターのような動きで飛び出してきた。


「……あ、青山さん!? なんでここに!」


「江頭課長からの特命ですよ! 『RAJの実績第1号として、最高のプロポーズと家族の承諾を記録せよ』って! ……瀬戸様のあの『筋肉プレゼン』、役所のアーカイブに永久保存確定ですね!」


「……ちょっと、消しなさいよ! 恥ずかしいわよ!」


「ダメですよー! これは江東区の、いや、人類の財産なんですから!」


逃げる青山、追う私。

その後ろを、満足げに腕を組んで歩く慎治さん。


伝統の壁は、私たちの「バルクアップ」した愛の前に、音を立てて崩れ去った。

次は、いよいよ大団円。

江東区中が祝福する、前代未聞の「マッスル・ウェディング」の幕が開こうとしていた。


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