表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機能美から始まる江東区政ラブ・マッチング ~私を『女神』と呼ぶ最強エリートは、重度の筋肉フェチでした~  作者: あおきつばさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/32

第18章:鎧(11号)を脱ぐ覚悟

第18章:鎧(11号)を脱ぐ覚悟

「……もう、ごまかせないわね」


火曜日の深夜。私は自宅のワンルームマンションで、姿見の前に立ち、無残な姿を晒しているチャコールグレーの布地を見つめていた。


江東区役所の制服。11号のタイトスカート。


それは、四年間の私のプライドそのものだった。「これを履きこなせているうちは、私はまだ『ちゃんとした』公務員であり、凛とした女でいられる」――そんな強迫観念に近い執着が、私をこのパツパツの檻に縛り付けていた。


けれど今、鏡の中のそれは、もはや限界を超えた「悲鳴」の塊だった。

ウエストを留める四本の安全ピン。引っ張られすぎて白く変色した縫い目。

そして、何より慎治さんの熱い思いを受け止め、彼と共にトレーニングを重ね、アーチェリーで背中の筋肉を覚醒させた私の肉体は、この11号という定義には収まりきらないほど、豊かに、たくましく「進化」してしまっていた。


「……これが、鎧を脱ぐってことなのね」


私は、震える指で安全ピンを一本ずつ外した。

カチッ、カチッ、カチッ。

最後の一本を外した瞬間、11号のスカートは自らの重みに耐えかねるように、スルリと床に落ちた。


開放感。

それと同時に、今まで自分を支えてきた「規律」という名の呪縛が、霧散していくような感覚。


私は、クローゼットの奥から大きな紙袋を取り出した。

先日、青山愛に無理やり連れて行かれた、清澄白河のオーダーメイド・ブティック。そこで私は、慎治さんとの「未来」を予感してか、あるいは自分への「ケジメ」としてか、一着の特別な服を仕立てていたのだ。


「……斉藤美緒、新しい私に脱皮するのよ」


私は、その新しい布地に足を通した。



「……ちょっと、美緒さん!? その格好……!」


翌朝のRAJの執務室。

出勤した私を見るなり、青山愛が持っていたスムージーを床に落としそうになった。

園田さんは眼鏡をずらし、江頭課長はデスクで書類をめくる手を止めた。


今日の私は、いつもの制服を着ていない。

ストレッチ素材を極限まで高めた、特注の「ネイビーのセットアップ」。

シルエットはあくまで公務員らしく知的。けれど、私の発達した大臀筋を優しく、かつ美しく包み込み、アーチェリーの捻転運動にも耐えられる可動域を確保した、いわば『斉藤美緒専用・決戦礼装』。


サイズ表記はない。あるのは、今の私の肉体に最適化された「適合フィット」という名の真実だけだ。


「……11号のスカートは、昨日、名誉除隊(引退)させました。……課長、今日から私は、数字に囚われない『新しい自分』で、職務を全ういたします」


私は、1ミリの迷いもない声で宣言した。

江頭課長は、しばらく私を無言で見つめていたが、やがてふっと鼻で笑い、ペンを置いた。


「……いいわ。その方が、今の貴方にはお似合いよ。……数字を捨てて、本質を掴んだ顔ね。……さあ、仕事に戻りなさい。次のイベントの準備、まだ山積みなのよ?」


「……はい!」


私は、初めて「布地の悲鳴」を気にせずに、大きく力強い歩幅で自席へ向かった。

鎧を脱いだ私の心は、かつてないほど軽く、そして強固な意志で満たされていた。



その日の夜、BumBのアーチェリー場で、慎治さんは一人で射場に立っていた。

私が渡したプロテイン弁当の効果か、彼の広背筋はかつてないほどの輝きを放ち、一本の矢を放つたびに「静寂」という名の衝撃波が周囲を支配している。


「……瀬戸さん」


私が声をかけると、慎治さんはゆっくりと弓を納め、振り返った。

月明かりの下、彼は私の新しい装いを見るなり、その瞳を驚きとともに大きく見開いた。


「…………斉藤さん。君、……その姿は」


「11号の鎧は、捨ててきました。……今の私は、ただの公務員でも、ただの相談員でもありません。……貴方の勝利を、一人の……その、美緒として信じている、ただの女です」


恥ずかしさで顔が熱くなる。

けれど、私は目を逸らさなかった。

慎治さんは、無言で私に近づいた。

一歩、二歩。

私たちの間にあるのは、もう「相談員と顧客」という不自然な距離感ではない。

共通の「バーベル」と「弓」と「真心」で結ばれた、魂の至近距離。


「…………素晴らしいな」


慎治さんが、低い声で囁いた。

彼の大きな手が、私の新しいセットアップの肩に触れる。

布地越しに伝わる、彼の指の熱。


「数字という檻を壊し、己の真実を受け入れた君の美しさは……。どんなアーチェリーのゴールドよりも、俺の魂を真っ直ぐに射抜いているぞ」


「……瀬戸さん。週末、絶対に勝ってくださいね。……私の、この新しい覚悟に応えてちょうだい」


「……ああ。約束しよう。……俺の広背筋の全てをかけて、君の真心に応えてみせる」


慎治さんは、私の額にそっと、自分の額を合わせた。

プロテインの匂いと、夜風の匂い。

そして、明日という未来への予感。


私たちは、11号のスカートを脱ぐことで、ようやく本当の「スタートライン」に立ったのだ。

明日、夢の島で放たれる一本の矢。

それは、江東区の空を越え、私たちの新しい人生のど真ん中を貫くことになる。


「……さあ、帰って寝なさい。……成長ホルモンの分泌ゴールデンタイムは、もうすぐだ」


「……最後まで、デリカシーがないわね、貴方は」


私は笑いながら、彼に背を向けた。


歩き出す私の足取りには、もう安全ピンの不安はない。

鎧を脱いだ背中は、どこまでも誇らしく、夜の夢の島にそのシルエットを刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ