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魔王討伐後に追放された元勇者、辺境教師になったら教え子全員がラスボス候補でした 〜災厄になる前に、まずは給食を食べような〜  作者: 早野 茂
第8章 王国上層部編

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第74話「元災厄候補、王都を守る」

「……僕が、証言します」


ユリウスの決意の言葉が、王都郊外の荒野に静かに響き渡った。

泥と汚れにまみれた純白の鎧を着た彼が、己の意志で王国の闇と決別した瞬間だった。


王都教育局の地下深く、厳重な魔法陣で封じられた特別機密保管庫。

そこを辺境学院の隔離クラスの生徒たちによる見事な連携で突破し、追撃してきた百人規模の王都騎士団の包囲網を下水道の隠し通路から潜り抜けてきた一行は、冷たい冬の夜風に吹かれながら息を整えていた。


これまでは王国の命じるままに剣を振るうだけの空っぽの偶像だったユリウスが、自らの目で真実を見極め、自らの足で歩き出すことを選んだのだ。


レオン・グランヴァルトは短く頷き、セレス・ヴァーミリオンがしっかりと抱えている機密記録の束へと視線を移す。


「よし。決定的な証拠は揃い、それを裏付ける証人もいる。あとはこれをどうやって王都の民衆の目に届く場所で突きつけるかだが……」


レオンが気だるげに首の後ろを掻きながら、反撃の糸口を思考しようとした、その時だった。


ズゴォォォォォンッ!!


背後の王都の方角から、空気を激しく震わせる巨大な爆発音が立て続けに鳴り響いた。

大地が揺れ、一行がハッとして振り返ると、美しい石造りの街並みが広がる王都の市街地から、禍々しい色の魔力の火柱が何本も夜空へと立ち上っているのが見えた。


赤、青、黒。相反する属性の魔力が無秩序に混ざり合い、平和だったはずの王都の空を不気味な色に染め上げている。


「な、何事ですか!?王都の街の中で、あんな大規模な爆発が……!」


エリス・アークライトが青ざめた顔で叫び、メルディアが険しい表情で王都の空を見つめる。

セレスは扇子を強く握りしめ、赤い瞳を鋭く細めた。


「……やりましたわね、あの愚か者ども。私たちが機密保管庫を破り証拠を奪ったことで焦り、ルミナス村の時と同じ手に出たのですわ」

「ルミナス村と同じ手って……まさか!」


ミリア・フロストレインが両手で口を覆う。


「ええ。王都の市街地に仕掛けておいた魔導具を意図的に暴走させ、それを私たち隔離クラスによる反逆のテロ行為として仕立て上げるつもりですわ。証拠を公表される前に、私たちを凶悪なテロリストとして断定し、口封じの討伐命令を正当化するために」


先ほど地下の機密保管庫で暴いた『新勇者運用規定』。

人為的に災厄を作り出し、それを勇者に討伐させることで権力を盤石にするというその計画を、王国上層部は自分たちの足元である王都そのもので強行したのだ。

肝心の新勇者がすでに操り人形ではないという現実に目を向けず、未だにその制御権が自分たちの手元にあると妄信しているらしい。

セレスの冷徹な分析に、ガルド・バルガがギリッと奥歯を鳴らした。


「ふざけんな!自分たちの都合で、何の関係もねえ街の奴らを巻き込む気かよ!」

「ですが、様子がおかしいです」


ノア・レイスが淡々とした声で、しかし微かな緊張を滲ませて王都の空を指差した。


「魔力の柱がどんどん増えている。それに、魔力の流れが完全にめちゃくちゃだ。あれは、意図的な暴走の範囲を超えている。……制御に失敗しているんだ」

「なんですって!?」


エリスが絶句する。

王都の教育局は隔離クラスの魔力を模倣した魔導具を複数起動させたのだろう。

だが彼らは、隔離クラスの生徒たちの魔力の本質を何一つ理解していなかったのだ。

強引に引き出された魔導具の出力は互いに干渉し合い、王都の魔術師たちの想定を遥かに超える連鎖的な大暴走を引き起こしてしまったのだ。

このままでは王都の市街地は完全に崩壊し、数え切れないほどの民衆の命が犠牲になる。


「……クソったれが」


レオンは低く吐き捨て腰の剣の柄を握り直した。

かつて魔王討伐の旅で救えなかった命がいくつもあった。

権力者たちの盤上のゲームのせいで無力な民衆が理不尽に命を落としていく。

そんな光景をレオンはもう二度と見過ごすつもりはなかった。


「王都の腐った上層部や、王国そのものを守る必要はねえ。だがそこにいる人間は守れ」


レオンの静かだが力強い言葉に、隔離クラスの生徒たちは迷うことなく力強く頷いた。


「当然だぜ!俺たちの偽物の炎で街が燃えるなんて、我慢できねえからな!」

「はいっ!王都の人たちを守ります!」


ガルドが両手に黒炎を灯して闘志を剥き出しにし、ミリアが冷気を纏って手袋の奥の素手をぎゅっと握りしめる。


「死者をむやみに増やすような真似は、絶対にさせない」

「リュカ、群れを守る。嘘つきの火、全部消す!」


ノアが魔導書を開いて強い決意を瞳に宿し、リュカ・ウォルフが低い姿勢で牙を剥いて銀色の尻尾を揺らす。


「ええ。王都の盤面を、私たちの手で完璧に立て直して差し上げますわ!」


セレスが扇子を広げ気高く微笑んだ。

そしてユリウスもまた聖剣の柄を固く握りしめた。


「僕も行きます。王国の光としてではなく……一人の人間として、彼らを守るために」

「よし、行くぞ!」


レオンの号令と共に、彼らは自分たちを迫害した王都へと、ただ目の前の命を救うために駆け出していった。


王都の市街地は、阿鼻叫喚の地獄のような惨状と化していた。

至る所で美しい石造りの家屋が崩壊し、異常な熱波と冷気が入り交じる魔力の嵐が吹き荒れている。

夜着のまま逃げ惑う民衆の悲鳴、泣き叫ぶ子供の声が街中に響き渡る。

王都騎士団の姿もあったが彼らもまた制御不能となった魔導具が引き起こす未知の大暴走を前にパニックに陥り、必死に避難誘導を続ける者もいれば中には民衆を見捨てて自分たちだけが後退する者もいた。


「助けて!誰か、助けてくれぇっ!」

「家が、家が燃えている!」


誰もが絶望し、ただ崩れゆく街の中で恐怖に震えていた。

だがその絶望のどん底に、黒いコートの男とかつて災厄候補と呼ばれた子供たちが飛び込んだ。


ミリアが崩れかけた家屋の前に立ちはだかり、素早く氷壁を立てて逃げ遅れた親子を容赦なく降り注ぐ炎の塊から守る。


ガルドが的確にコントロールされた黒炎の拳で道を塞ぐ巨大な瓦礫を粉々に砕き、民衆の避難路を一瞬にして開く。


ノアが死霊術の力で瓦礫の下に残るかすかな生存者の声を聞き取り、リュカが驚異的な腕力と速度でその隙間へ飛び込んで怪我人を救い出す。


セレスは高台から街全体を見渡し、混乱する人々の波を冷静に分析して最も安全な避難経路を組み替えていく。


ユリウスは聖剣を翳し、覚えたばかりの守りの形を必死に試みた。

かつての彼なら、ただ前方の敵を斬ることしか考えなかっただろう。

だが今は守るべきものがある。


光の魔力が彼の意志に応じて輝く盾の形を取って広がった。

逃げ遅れた子供たちに降り注ぐ破壊の光線をその盾が真っ向から受け止めて弾き返す。


その一つひとつはまだ小さな救助に過ぎなかった。

だが王都の民衆にとっては、十分すぎる衝撃だった。


「あの子たちは……災厄候補じゃなかったのか?」

「大闘技場で戦っていた、あの恐ろしい子たちだろう!?」

「今、私たちを助けてくれているのか……?」


自分たちを危険な化け物だと蔑み迫害してきた人間たち。

恐怖と偏見に染まっていた視線が少しずつ戸惑いと感謝へ変わり始めていた。


「最初の混乱は粗方凌いだな」


街を駆け巡りながら、暴走の核となっている魔導具の一部を次々と物理的に斬り伏せていたレオンが周囲を見渡して叫んだ。


「だがこれで終わりじゃない。本格的な暴走の核はまだ街の奥にある。それを叩くまで、目の前の人間を一人でも欠かさず助け続けるぞ!」


「エリス先生、メルディア!避難してきた人間の誘導と救護を頼む!」

「はい、任せてください!」

「怪我人はこちらへ。動ける方は負傷者を運ぶのを手伝ってください」


エリスとメルディアも覚悟を決め、避難してきた怪我人の手当てと誘導に奔走し始めた。

ガルドたちは即座に反応し、さらなる救助を求めて市街地の奥へと駆け出していく。


王都の人間が作り出した破滅の炎。

それを止めるのはかつて王都から追放された子供たちだ。

夜空を焦がす炎の真下でかつて災厄候補と呼ばれた子供たちによる、王都救援戦が本格的に始まろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
王都の人間が作り出した破滅の炎を止めるのはかつて王都から追放された子供たち。それを目の当たりにする王都の市民。恐怖と偏見に染まっていた市民の視線が少しずつ戸惑いと感謝へ変わり始める。かつて災厄候補と呼…
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