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魔王討伐後に追放された元勇者、辺境教師になったら教え子全員がラスボス候補でした 〜災厄になる前に、まずは給食を食べような〜  作者: 早野 茂
第6章 王都学院交流戦編

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第59話「大ざまぁ、辺境の勝利」

特別総力戦の終了を告げる歓声と拍手は、いつまでも大闘技場を揺るがしていた。


表向きは教育交流、実態は辺境の落ちこぼれたちの公開処刑となるはずだったこの舞台は、誰も予想しなかった結末を迎えた。


王国立第一魔術学院、通称・王都学院の五種目全敗。


それだけではない。最後に投入された『首席チーム』との特別総力戦に至るまで、辺境学院の隔離クラスは完膚なきまでに王都のエリートたちを打ち砕いたのだ。


観客席にズラリと並んでいた王都の特権貴族や教育局の重鎮たちは、ワイングラスを取り落とし、顔を真っ青にして沈黙していた。

彼らが「野蛮な化け物」と見下していた子供たちが、圧倒的な力と完璧な連携で王都の常識を覆してしまった。

自分たちの優位性が根底から崩れ去った事実を前に、彼らは屈辱に唇を噛むことしかできなかった。


「行くぞ、お前ら。大観衆の前でこれ以上突っ立ってても腹が減るだけだ」


アリーナの中央で、レオン・グランヴァルトが気だるげに首の後ろを掻きながら生徒たちに声をかけた。

ガルド、ミリア、ノア、セレス、リュカの五人は、倒れ伏す王都の首席チームを一瞥すると、歓声を背に受けながら堂々とした足取りで選手退場口へと向かっていった。

エリス・アークライトもまた、誇らしげに胸を張って彼らに続く。


だが薄暗い退場通路へ足を踏み入れた瞬間、彼らの行く手を塞ぐように二つの影が飛び出してきた。

王都学院の学院長と、王国教育局の査察官ロベルト・グライスだった。

二人とも髪を振り乱し、血走った目でレオンたちを睨みつけている。


「ま、待て!こんな結果は認めんぞ!」


ロベルトが唾を飛ばしながら金切り声を上げた。


「王都の最高峰である首席チームが、辺境の掃き溜め風情に負けるなど絶対にあり得ない!貴様らのような危険因子の化け物どもが、まともな勝負で勝てるはずがないのだ!」


あまりの見苦しさに、ガルドが「あぁ?」と眉をひそめて右手に黒炎を灯しかけた。

だがガルドが前に出るよりも早く、カツンと硬いヒールの音を響かせてエリスが一歩前に進み出た。


彼女はいつも王都の顔色を窺っていた気弱な学院長代理ではない。

生徒たちを守るため、王都の理不尽と真っ向から戦う覚悟を決めた一人の教育者だった。


「不正など一切ありません。あるとすれば、それはあなた方の致命的な見当違いです」


エリスは凛とした、よく通る声でロベルトと学院長を冷たく見据えた。


「あなた方の敗因は、生徒をただの『部品』としてしか見ていなかったことです。魔力を極限まで高めるために心を封じ、互いをカバーするのではなく消費するだけの歪な陣形。そんな冷たい戦術が、互いの傷を知り補い合う彼らの本物の絆に勝てるはずがありません」

「き、貴様……辺境の小役人が、教育局の私に向かって……!」

「小役人で結構です。ですが私は、王都の不正を許すつもりはありません」


エリスは腕に抱えたバインダーから、数枚の書類を引き抜いてロベルトの胸に叩きつけた。


「王都へ発つ前から、私とセレスさんで独自に調査を始め、王都到着後も証拠を集めて整理していたものです。先日の獣人狩りの傭兵たちが、王都の特権階級と繋がっていた証拠。そしてこの交流戦を利用して、隔離クラスの生徒たちを不当に危険指定しようとしていた偽装工作の記録。必要な証拠は、すべて揃っています」

「なっ……!?」


セレスが扇子を優雅に広げ、冷ややかに微笑んだ。


「裏切りや工作への備えは、得意分野ですの。お忘れかしら?」

「さらに、第三試合で使用された修練迷宮の管理記録も調べました」


エリスはバインダーから別の書類を取り出し、王都学院長とロベルトの前に突きつけた。


「本来、安全のため停止されていた最終区画の崩落罠が、試合開始直前に何者かによって再起動されています」


「なっ……」


王都学院長の顔から血の気が引いた。


セレスが冷静に言葉を引き継ぐ。


「再起動の時刻と管理区画への入室記録から考えれば、すでに二敗していた王都学院側は、第三試合の勝敗よりも、ノアさんを排除することを優先したのでしょう。ノアさんだけが巻き込まれれば、そのまま事故として処理できる。エルリックさんまで巻き込まれた場合は、死霊術によって罠を暴走させたと、ノアさんに罪を着せるつもりだった」


「そんな……俺は、何も聞かされていない!」


少し離れた場所でやり取りを聞いていたエルリックが、青ざめた顔で声を上げた。

ロベルトの顔から完全に血の気が引いた。


「これらの資料は、交流戦の公平性を担保するために招かれていた中立監査官にも、すでに提出済みです。王都の威信を失墜させ、さらには非人道的な工作に手を染めた責任。たっぷりと追及される覚悟をしておきなさい」

「あ……あぁ……っ」


ロベルトは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。

王都学院長もまた、絶望に顔を歪めて壁に寄りかかる。

彼らが隔離クラスの生徒たちに仕掛けた悪意と罠は、すべて彼ら自身を破滅させる刃となって返ってきたのだ。

完全な、そしてどうしようもない敗北だった。


「よく言った、エリス先生。最高にいい顔だったぞ」


レオンが横を通り過ぎざまに笑って声をかけると、エリスは少しだけ頬を染めながら「当然の義務を果たしたまでです」と早口で返した。

生徒たちもロベルトたちを憐れむように一瞥し、光の差し込む外の世界へと歩み去っていった。


***


その日の夜。

王都の中心部にある高級肉料理店は、食欲をそそる香ばしい匂いと熱気に包まれていた。

本来なら予約なしでは入れない貴族御用達の名店だが、エリスがかつて王都にいた頃の人脈を駆使し、奥の広い個室をなんとか確保していた。


「さあ、約束通り王都で一番うまい肉だ。遠慮はいらん、好きなだけ食え」


レオンが腕を組んで宣言すると、テーブルに並べられた分厚いステーキやローストビーフの山に、生徒たちの歓声が上がった。


「うおおおっ!見たこともねえくらいデカい肉だ!」


リュカは肉の匂いに興奮し、いつもより幼い口調で尻尾を激しく振った。


「肉!お肉の匂い!リュカ、これ全部食べる!」


ガルドとリュカが真っ先にフォークを手に取り、ステーキに食らいつく。

ガルドは肉を噛み切りながらも、少し不満そうに鼻を鳴らした。


「チッ、焼き加減が少し甘えな。俺の黒炎なら表面をもっとカリッと香ばしく焼き上げられるのに。まあ、味は悪くねえけどな」

「文句を言いながら三枚目を平らげている方が、よくおっしゃいますわね。」


セレスが呆れたように言いながら、優雅な手つきで自分の分の肉を一口大に切り分ける。


「ミリアさん、こちらの温野菜も美味しいですわよ。ガルド君とリュカさんがすべて平らげる前に取っておきなさい」

「あ、ありがとうございます、セレスさん。……ふふっ、なんだか不思議です」


ミリアは手袋を外した素手でフォークを持っていた。かつては凍らせることが怖くて握れなかった食器を、今はためらいなく持てる。

そして、心から楽しそうに微笑んだ。


「私、王都のご飯が美味しいって思ったの、生まれて初めてかもしれません。昔は、食事の時間がいつも怖くて、冷たくて……」

「なら、これからはもっと美味しい食事を食べればいいよ。生きている人の食事は、温かいから」


隣に座るノアが静かに言い、自分の皿にあった肉の端っこを、足元にいる骨の鳥にポイッと投げてやった。

個室でなければ間違いなく店員が悲鳴を上げていたであろう骨の鳥は、肉片を嘴でつつくと、そこに残った熱と魔力だけを吸い取るように淡く光らせ、満足げにカタカタと嘴を鳴らした。


かつては他者を拒絶し、恐れ、あるいは利用する対象としてしか見ていなかった彼らが、今はただの年相応の子供として、同じテーブルで笑い合いながら食事をしている。

レオンはその光景を眺めながら、自分の前に置かれた果実水を一気に飲み干した。


「レオン先生、本当によろしいのですか?このお店、相当お値段が張りますよ……?」


隣の席でエリスが、メニューの金額を見て冷や汗を流しながら耳打ちしてきた。

レオンは運ばれてきた追加の肉の皿と、信じられない速度で積み上がっていく空の皿を見て、ピクリと頬を引きつらせた。


「……勇者の退職金が、今夜で半分くらい吹っ飛びそうだな」

「ええっ!?」

「まあいい。こいつらがこれだけ美味そうに飯を食ってるんだ。安いもんだろ」


レオンは気だるげに笑い、自分も分厚い肉にナイフを入れた。

王都の真ん中で、彼らはかつての災厄候補ではなく、ただの最強の仲間として勝利の味を噛み締めていた。


***


しかし、王都の闇が完全に晴れたわけではなかった。

同じ日の深夜。

王城の地下深くにある、厳重な結界が張られた円卓の会議室。

そこには王国教育局のトップである教育局長や、国政を裏で牛耳る数人の特権貴族たちが集まっていた。

円卓の空気は、大闘技場での敗北を受けて氷のように冷え切っていた。


「……ロベルトの奴め、見事に大失態を犯してくれたな」


教育局長が忌々しげに葉巻の煙を吐き出す。


「王都学院の首席チームまで敗れるとは。あの元勇者が赴任してから、隔離クラスの化け物どもは我々の予想を超えて厄介な力をつけている」

「武力だけではない。今日の試合で、奴らは確実に観客の一部を魅了した。このままあのような落ちこぼれの危険分子どもが民衆の支持を集め英雄視されるようなことになれば、我々の計画に重大な支障をきたすぞ」


一人の貴族が、焦燥感を滲ませて机を叩いた。

王国上層部にとって、隔離クラスの生徒たちは、危険分子として管理し、必要とあれば処分するための都合のいい存在であり続けるはずだった。

だがレオンの手によって彼らが正しい力を身につけ、民衆に受け入れられてしまえば、王国が彼らを処分する大義名分が失われてしまうのだ。


「ならば、目線を逸らさせればいいだけのこと」


教育局長が冷酷な笑みを浮かべた。


「民衆は常に分かりやすい『光』を求める。辺境の野蛮人ではなく、王都が用意した正統なる英雄の姿をな。……計画を前倒しする。新勇者計画の切り札を、世にお披露目する時が来た」

「しかし、まだ精神調整が完璧では……」

「構わん。実戦に投入し、実績を作らせろ。辺境のガキどもがかすむほどの、圧倒的な光の偶像としてな」


教育局長が合図をすると、会議室の重い扉が静かに開いた。

部屋に入ってきたのは、純白と黄金の煌びやかな鎧に身を包んだ、一人の若者だった。

燃えるような金糸の髪。誰もが見惚れるような整った顔立ち。

だが彼の瞳には、人間らしい感情の色が一切宿っていなかった。

ただ命令に従うだけの、空虚で冷たいガラス玉のような目。


「お呼びでしょうか、皆様方」


若者は円卓の前に進み出ると、機械のように正確で隙のない動作で片膝をつき、恭しく頭を下げた。

教育局長は満足そうに頷き、その名を呼んだ。


「王国の新たな英雄、ユリウス・クラウン。お前に初陣の任務を与える」

「ご命令とあらば、どこへでも。私は王国を導く、勇者なのですから」


ユリウスと呼ばれた若者は、抑揚のない声で答えた。

かつて魔王を倒した本物の勇者が辺境で子供たちに飯を食わせている頃。

王都の暗闇の中では、民衆を欺き権力を盤石にするための、作られた偽物の英雄が産声を上げていた。


辺境の教室で絆を得た、かつての災厄候補たち。

王都の地下で生み出された、心を持たない新たな勇者。

本物の絆と、作られた英雄。

その二つがぶつかる時、王国を揺るがす本当の戦いが始まる。

だがその夜、まだ誰もその足音には気づいていなかった。


第6章「王都学院交流戦編」はここで一区切りです。

辺境学院の生徒たちが、王都の舞台で自分たちの力を示す章でした。

ここまで楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。

次章では、新勇者ユリウスの物語に入ります。

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