俺は、すべてが知りたい
婆ちゃんと一緒に来た清水寺の手前で朝ごはんを食べ
いざ胎内巡りへ。
さて、どんな体験ができるのやら……
◯登場人物
松岡 修二 23歳
IT企業勤務、システムエンジニア
人付き合いが苦手
急に他人の心の声を聞くことができるようになった。ボリューム調整可能
松岡 真司 20歳
シュウジの弟。既婚。子供がもう少しで生まれる
松岡 京子 51歳
シュウジの母親
倉橋 キヨ 82歳
シュウジの母方の祖母
「なんか行く前から詳しく聞くのもあれなんだけど、そんなに胎内巡りって凄いの?」
「ん〜、凄いっちゅうか……まぁその人次第やと思うで。何も感じんやつは何も感じんし。ただ……真っ暗闇のまるで胎内の中を漂っているような状態で手探りで歩いていくことで、自分の中で問いかけたり、穢れをはらったり、そういう意味合いもあるんやと思うわ」
そういうもんなのか。婆ちゃんは盲目的にそういうのを信じているというわけではなく、自分の中で気持ちの整理だとか、区切りみたいなために毎年行ってるのかもしれないな。
俺はなんとなく、そう思った。
例の随求堂は清水寺の手前にあって、横に立派な三重塔が建っていた。入り口で婆ちゃんがお金を払っていて(一人百円らしい。安っ!)、一緒に中に入る。
胎内巡りは階段を降りて地下に行くような感じなのだが、奥はホントに真っ暗だ。暗闇の中に入る前に婆ちゃんにもらった入場チケットを見たら、チケットの裏にこう書いてあった。
『暗闇の中であなた自身の光を感じてください』
どういうことだ。俺自身の光?
なんだかそれは……普通に考えると一般的に暗闇の胎内になぞらえた状態の中で、良いことというか、色々なことを考えたりしながら、現世での余分なことや、穢れを落とし、生まれ変わるということなのだろうが。
ただ、俺にとっては、俺自身が暗闇の中に閉ざされていて、何かしら光を探さないことには、どうしようもなくなってしまうような、そんな風な気にさせる言葉だった。
「はよいくで。ついてこな道わからんくなるで〜」
慣れてるのかさっさと婆ちゃんが降りるので、俺も仕方なくついて行く。入り口で教えられたように、数珠と言われた、手すりのようなロープのようなのを持ちながら、真っ暗闇の中を少しずつ進む。
なんか途中に石があるらしいので、それに触って願いをするという寸法だ。朝イチだからか、人はほかには誰もいない。
「婆ちゃん、ゆっくり行ってくれよ……俺、鳥目だから暗いところ全然見えないからさ〜」
「見えなくていいんや。そういうものなんやから。黙ってゆっくり歩きや」
少しずつ、少しずつ歩いた。
俺の、俺自身の光。
‐タダシ兄ちゃん、もう帰ってこんのかな……
ん、婆ちゃんの心の声かな。普段思ったことすぐ言う婆ちゃんだから、あまり心の声出てなかったもんな。
‐きっと、私のことなんか、忘れてしもたんやろな……
タダシ兄ちゃんとは、従兄弟のお兄ちゃんのことかな。好き……だったんだろうか。
‐私にも、兄ちゃんみたいな力があったらよかったのにな……
そりゃそう思うよな。もし同じ力があったら、分かり合えたろうに。ただ、従兄弟同士では力を持つことはないはずだ。聞いている限りは。
‐私は……無力だ……
婆ちゃんも、落ち込むことがあったんだな。
‐俺は……結局何もできない……
誰の声だ? 俺って……
‐いくら口では、表向きでは良いことを言っていたとしても。結局、誰もが自分さえ良ければいい人間ばかりだ。誰も信用できない。
これは誰の声だ? 俺の声なのか?
‐平気で嘘がつける。それが人間だ。結局正直者が馬鹿をみる。愚直な者が騙されて、虐げられる。
随分長く歩いてる気がする。もう婆ちゃんの声も聞こえてこない。ふと冷たい感触が手に触れる。
‐俺は。何がしたい? 俺は。何が知りたい?
誰の声なのか、自分の声なのか、もうそれさえもわからなくなってきている。実際に聞こえている音なのか。頭の中に響く声なのかもわからない。
‐俺は、全てが知りたい。人間の汚いところの全てを。
誰だ。この声は、俺じゃない。でも、もしかしたら俺もそう思っているんだろうか。
ふと、遠くの方で、白い光が見えた。
「シュウジ。どうしたんや?」
婆ちゃんが出口の方で、俺を気にして待ってくれていた。
「ん。何もねぇよ。婆ちゃんなんか独り言いっぱい言ってた?」
「あぁ? ワシはなんも喋っとらんで」
途中の、俺の声なのか、誰の声なのかわからない心の声は、なんだったんだろう。
初、胎内巡りは、なかなかの体験だった。
胎内(堂内)で聞こえてきた声はいったい。
俺の声か? それとも……




