この辛くない担々麺って、お子様メニューだよな……?
婆ちゃんと一緒に、朝から清水寺の胎内巡りを体験した俺。
なんだか俺の心の声なのか、なんなのかわからない声が聞こえてきたが……。
◯登場人物
松岡 修二 23歳
IT企業勤務、システムエンジニア
人付き合いが苦手
急に他人の心の声を聞くことができるようになった。ボリューム調整可能
松岡 真司 20歳
シュウジの弟。既婚。子供がもう少しで生まれる
松岡 京子 51歳
シュウジの母親
倉橋 キヨ 82歳
シュウジの母方の祖母
「シュウジ。どうしたんや?」
婆ちゃんが出口の方で、俺を気にして待ってくれていた。
「ん。何もねぇよ。婆ちゃんなんか独り言いっぱい言ってた?」
「あぁ? ワシはなんも喋っとらんで」
途中の、俺の声なのか、誰の声なのかわからない心の声は、なんだったんだろう。まぁいいか……なんだか日常ではない体験をすることができて、俺は楽しくなっていた。
清水寺の他のところは特に興味もなかったので、婆ちゃんちのほうに帰りながら、途中でお昼を食べることになった。
小さい頃からもしかしたら、俺はこんな感じだったのかもしれない。弟のシンジはおとなしくて気が弱かった。俺は割と知らないところでも探検するのが好きで、よく迷子になっていたが、結局最後にはちゃんと家に帰っていたような。
人によると思うが、自分が生まれ育った場所、地域が好きだったり、そこのほうが落ち着く、というのをよく聞く。まぁ見知った人間もいるし、親戚もいたりと、住みよいというイメージもあるのだろう。
俺の場合は、元々が仕事で関西から関東へ引っ越しをし、そこで生まれ育ったことも関係しているのか、そもそも俺の性格がそうなのかはわからんが、特に東京に愛着もないし、かといって今住んでいる大阪がいいかと言うと、それも特にない。もちろん、暮らしやすさとか、買い物のしやすさとか、そういうところは考えたりするけども、ここでないとダメ! ということはないな。
だから、友達の家とか、人の家に泊まらせてもらった時も熟睡できるし、逆に自分ちに誰かが来ても特に気にしないし、勝手にくつろいでくれ、という感じだ。
ただ……人間の考えていること、相手の感じること、そういうことは気になってしまう。あ、もちろん常に目を光らせて周りをキョロキョロしてるわけじゃねぇよ。なんていうか、自分がこうされたら嬉しいことってあるだろ? 逆に、こんなことされたら嫌だな、とか。
そういうことを考えることができない、その先を想像することができない人間が多すぎる気がするんだよな。結局、いくら科学や機械が発達したとしても、それを扱うのは人間だ。だから人間の能力や人格によって、めちゃくちゃ良い技術であっても、良くもなれば悪くもなる。
この……心の声を聞く力にしてもそうだ。
婆ちゃんは何もしないほうがいいと言ったが、それは俺のこの心が許さない。
そんなことを考えているうちに、タクシーが停まった。
「シュウジ、降りるで〜」
「ん、もう着いたの?」
なんか中華屋さん? みたいな店構えの店だった。担々麺が有名ぽい感じだな……俺、辛いの苦手なんだけど……
「婆ちゃん、俺辛いのあまり食べれないんだけど」
「あぁ、大丈夫やで。辛くないやつもあるわ。ここのはまぁまぁ美味いで」
まぁ……辛くないメニューもあるんならいいか。のれんをくぐり、店の中に入る。
「いらっしゃい! 婆ちゃんいつもの?」
「あぁ、なんでもええよ。こっちは辛くないやつな」
出たよ、なんでもええよ。まぁ近所なのか常連なのか、もう決まってるんだろうな。メニューを見ていると、お昼は担々麺が主なメニューみたいだけど、夜は居酒屋みたいな感じのアテメニューもあるみたいだ。おっ、ローストビーフもある!
「婆ちゃん、俺このローストビーフも食べたい。夜しかないのかな?」
「あぁ、聞いてみよか。なぁ、このローストビーフ出してくれ。孫が食べたい言うとるんや」
「はいはい。婆ちゃんやから特別やで」
聞いてみよか、じゃなくて強制だったよね。なんか俺が恥ずかしいわ。でも、ちょっとラッキー。ん、てかこのメニュー見たら……
「婆ちゃん、この辛くない担々麺って、お子様メニューだよな? なんかちょっと恥ずかしいんだけど……」
「あぁ、気にすんなそんなしょーもないこと。大人でも辛いの苦手なやつはそれ頼むわ。具のひき肉とネギがな、美味いんや」
あ、辛くないというくくりでお子様、って書いてるだけってことね。じゃあはじめからそういうメニュー名にしてくれよ〜。と、そうこうしてる間に注文の品が来た。
「はいっ、辛いのと……辛くないやつね。お孫さんのほうはセットにしといたで」
婆ちゃんは担々麺のみ。俺のは唐揚げが三つと白ご飯が付いていた。具のひき肉がいい感じに炒めてあって、ネギもいい香りだ。
「いただきまーす! ん……うまっ!」
婆ちゃんが言うだけあって……ホントに具のひき肉とネギが美味かった。味噌ベースでなんか色んなダシというか、味が混ざってる感じがしたが、とにかく美味かった。具にタケノコが混じってるのかシャキシャキした感じがしたな。唐揚げも普通に美味い。
「はい、ローストビーフな。夜のん置いとかなあかんから、ちょっぴりやけどな」
たぶん特別で出してくれたローストビーフは薄切りで五枚ほどお皿に載せられていた。レタスと合わせてあり、爽やかな香りのするソースがかけられていた。
「すみません、ワガママ言って。いただきます」
ローストビーフも美味い。これは間違いない。たぶん近所の常連さんをターゲットにしているお店なんだろうけど、場所がいきやすい場所ならめちゃくちゃ流行る気がする。
婆ちゃんはマイペースでずるずる担々麺を食べている。
「辛いやつって、めちゃくちゃ辛いの?」
「ん……あぁ、まぁまぁ普通の辛さやな。食べてみるか?」
「いや、それはやめておく」
やっぱ美味いもの食べたら幸せな気分になるな〜! なんだかもう、色々考えてたこともどうでもよくなるな。
「ごちそうさま〜!」




