そもそも、まだ生まれてないよ
婆ちゃんちに泊まった日の夜。
なかなか寝付けなくて色々なことを考えていた俺。
なぜかふと弟のことを思い出し、気になったので
子供の名前をメールで聞いてみた。
とりあえず仕事を辞めないとな。仕事をしていては自由に動くこともできない。仕事しなくてもいいようにするにはまとまった金が必要だな。手っ取り早いのは博打か。心の声を読む能力を最大限に活用することのできる博打。
金を手に入れたあとは、人だな。人を手に入れるのは金の力と、あとは知恵を活用しよう。人を動かすのはソイツが何を求めているかわかるのが先決だ。
俺は……何を考えているんだろう。俺は、何をしたいんだろう。寝る前にひとつ、弟にメールを送った。
『お前の子供、なんて名前だっけ?』
滅多に送らない弟へのメールは、なぜかシンジも携帯をみていたのかすぐに返ってきた。
『シュウ兄久しぶり。子供の名前はまだ教えてもないし、そもそもまだ生まれてないよ。でも、名前はもう決めてる。心と書いて《シン》に決めたよ』
あ、まだ生まれてなかったのか。俺が無沈着過ぎるのか、そもそも兄弟であまりやり取りをしてないからか、いつごろとかもわかってなかった。まぁ結局そのあとも返事は返さなかった。たまたま気になったから聞いただけだしな。
心と書いて《シン》。なんだか俺に身についた力の事もあって、なんかザワザワするな。もちろんアイツの子供には全く関係はないんだけど。
出産祝いとかいるのかな……てか、アイツのことだから生まれても落ち着くまですぐは連絡してこなさそうだもんな。まぁいいや。そのうちデカい金は手に入ると思うから、高級ベビー服でもプレゼントしてやるか。
どうでもいいようなそんなことを考えていたら、眠気がきて、いつの間にか寝ていた。
◇ ◇ ◇
次の日、朝イチに会社に連絡をしようか迷ったが、ひとまず放置しておくことにした。どっちにしろ緊急の要件ではない。もう辞めるだけならメールでもいいだろう。
「シュウジ、どこか見に行きたいところとかはあるんか?」
「んー。いや、俺あんまり信心深くはないから、お寺周りとかも興味ねーし、観光名所とかも別に興味はないんだけど……なんか美味いもんあれば、てくらいかな?」
「美味いもんなら、どこにでもあるやろ。あ、じゃあたまにワシが行くんやけど、おもろい所があるから連れてってやるわ。胎内巡りができるところがあるんや」
はぁ? 胎内巡りてなんのオカルトだよ……婆ちゃんそっち系??
「ほんまの胎内ちゃうぞ。清水寺にな、随求堂いうて、中が真っ暗な胎内巡りができる建物があるんや。そこを通ったら、生まれ変われるて言われとる。ワシは五十回くらい行ったから、もう五十回生まれ変われとるわけや、ほ〜〜っほっほっほ!」
なんかもう冗談なんか、本気なのかわからん婆ちゃんが怖いわ。まぁなんかわからんけど、少し興味を覚えた俺は、今まで名前は良く聞くが、行ったこともない清水寺に婆ちゃんと二人で行くことにした。
婆ちゃんは例の通り歩くのも大変だから、家にタクシーを呼んで、清水寺まで直接タクシーで行ってもらう。出町柳から清水寺のある東山区というところはちょうど真っ直ぐ南の方らしく、鴨川という名前はよく聞く川沿いにまっすぐ三十分くらいかな? 車で行くと着いた。朝ごはんは何も食べてなかったので、清水寺に着く少し手前にあった喫茶店に入り、モーニングをいただいた。
婆ちゃんもあまり普段行かない喫茶店だったみたいだが、ホットドッグのモーニングセットで千五百円って、完全に観光料金だろう。普段なら絶対行かない。でも、いい具合に焼いてくれたホットドッグと、添えてあるサラダも美味かった。コーヒーは俺の好みのちょうどいいくらいの苦味だった。そして、タバコも吸えたのでなお良かった。
で、モーニングをいただいたあと、目当ての清水寺まで行く。
「前に来たのはちょうど一年くらい前だったんちゃうかな〜。やからワシは今一歳くらいっちゅうこっちゃ」
もうそのネタはいいよ、と。
「なんか行く前から詳しく聞くのもあれなんだけど、そんなに胎内巡りって凄いの?」
「ん〜、凄いっちゅうか……まぁその人次第やと思うで。何も感じんやつは何も感じんし。ただ……真っ暗闇のまるで胎内の中を漂っているような状態で手探りで歩いていくことで、自分の中で問いかけたり、穢れをはらったり、そういう意味合いもあるんやと思うわ」
そういうもんなのか。婆ちゃんは盲目的にそういうのを信じているというわけではなく、自分の中で気持ちの整理だとか、区切りみたいなために毎年行ってるのかもしれないな。
俺はなんとなく、そう思った。
どこに行く予定もなかった京都観光だが、
婆ちゃんの提案で、清水寺の胎内巡りというものを体験してみることになった。
クソ高いモーニングを食べて、いざ清水寺へ。




