鍋パしたい!買い物いこ〜
サチが寝てしまったあと、シンジから電話がかかってきて、少し話した俺。
東京に一緒に行くのもいいのかな。
それとも……。
◯登場人物
松岡 修二 23歳
無職。人付き合いが苦手。
急に他人の心の声を聞くことができるようになる。ボリューム調整可能
新能力、心の声に返事できるようになった
幸 17歳
博打帰りの夜中に彷徨っていたのを拾った。
謎の女の子。ひょんなことから、家にかくまうことになった。
俺は少しサチの心に照準を合わせ、心の耳をすましてみた。心の耳という表現が合っているかはわからん。
‐がんばれのキーホルダー、すごく嬉しい
これはサチが強く思っている声、なのかな。
「そうか、よかったな」
俺はサチを起こさないように小さな声でつぶやき、俺も少し仮眠をとることにした。
サチ。きっとお前を守ってやる。
◇ ◇ ◇
少しだけ仮眠するつもりだったが、いつの間にか寝入ってしまっていた。
「お腹すいた〜」
横を見ると、サチが起きて座っていた。
「今何時だ……夜の19時か。変な時間に寿司食ったからなぁ。あそこの牛丼屋でも行くか?」
「なんか家でご飯作りたいかも」
そんなこと言われても、ガスコンロとオーブンレンジと電気ケトルがあるだけで、ちゃんとした調理器具もない。冷蔵庫はあるが、もちろん食材はほとんど入ってない。自炊をほとんどしないからだ。
「え、この家にあるもので作れるのって、何があるんだ逆に。フライパンと鍋はあるけど……あ、ホームセンターで鍋とカセットコンロ買って、鍋パーティーでもするか?」
「あっ、鍋パしたい〜! 買い物いこ〜」
「野菜とかたまに食べとかないと、なんか栄養偏りそうだしな。よし、そうと決まったら買い物だ」
サチの父親のことが少し気がかりだったが、それは明日でもいいだろう。すぐに大阪を離れないと、ということはないはず。すでにあれから二週間くらいは過ぎているからな。俺とサチは22時まで営業している家の近所のホームセンターに出かけることにした。
「何鍋がいいかなぁ〜。私はお豆腐が好きだから、シンプルな味付けがいいな」
「俺、ホントに料理は全然できないからよ。もうそのあたりはサチに任すわ。まぁなんとかなるだろ」
あともう少しでホームセンターに着くかなというところだった。
‐サチ……見つけたぞ
「!!!」
ものすごくドス黒い声。怨念というか、なんというか。激しい憎悪が入り混じったような心の声が。
‐アイツの娘……
ホームセンターの周辺は人が賑わっていて、どこからの声かがはっきりとわからなかった。
「サチ!! 俺のそばにくっついていろ!」
サチはなんだかわからない困った顔をしている。どこだ? どこだ? こんな時にこの力は上手く働かない。いつもなら、激しい感情で放たれている声はすぐに分かるはずなのに。
‐殺す……
「シュウジ……?」
「もしかしたら危ないかもしれない。俺にくっついておけ。暗くて周りの人間がよく見えない」
無言で頷くサチ。
右か……左か……こんな時こそ、俺の力を最大限に働かせるんだ。このドス黒い声の持ち主の場所…
‐死んで償え
「サチ!!!」
見えていなかった。後ろの暗がりから近づいていた、黒ずくめの男。その手にはナイフが握られていて。その先端は、俺の側にいるサチに……
「シュウ……ジ……」
その時。何故か全てがスローモーションで……
『オムライスとチョコレートパフェがたべたい』
あぁ……はじめて会った帰りに、一緒に行って食べたよな……
『ジロジロみるな、気持ち悪い』
お前の心の声はいつも毒舌だったよな……
『わたしのこと、助けてくれるって言った』
そうだ、俺はお前を助けると言ったんだ……
『お出かけだから、スカート履いていく』
スカート姿、似合ってた……
『私はこのシュウジにもらったやつのほうが、嬉しいよ』
がんばれ馬券、喜んでくれたよな……
『私、遠くに行きたいかも。私のことを誰も知らない遠く』
そうだ、お前がこう言った瞬間にすぐに遠くへ行っていれば……俺のせいだ。全部俺の……
「サチーーーーーっ!!!」
ふいに現れた黒ずくめの男に、
サチは刺された。
俺のせいだ。完全に、俺のせいだ……。




