シンか……いい名前だけど、お前と間違えそうだよな
サチから、唐突なカミングアウトを受ける俺。
父親に殺されそうになる。母親は?
そして、今その父親は?
◯登場人物
松岡 修二 23歳
無職。人付き合いが苦手。
急に他人の心の声を聞くことができるようになる。ボリューム調整可能
新能力、心の声に返事できるようになった
幸 17歳
博打帰りの夜中に彷徨っていたのを拾った。
謎の女の子。ひょんなことから、家にかくまうことになった。父親に狙われている?
松岡 真司 20歳
シュウジの弟。既婚。最近男の子が生まれた。
松岡 京子 51歳
シュウジの母親
倉橋 キヨ 82歳
シュウジの母方の祖母
‐私は、シュウジのこと好きだよ
なんだよ、素直じゃねぇな〜、心の声でしか言えないなんて。
『はいはい、ありがとな。俺も、好きだよ』
サチのことをどうするか。父親のことを聞いた以上、このままフラフラしていたのでは、危険が伴う。何か手を打たねば……
朝から出かけていたからか、サチは布団に入ってすぐ寝てしまった。気楽なもんだな。いや、気楽ではないか。
きっと、サチは極限の状態の中で必死で逃げてきたんだろう。そして自分ではどうすることもできない状況にいる。普通なら狂ってしまってもおかしくないはずだ。俺は……俺には何ができるだろうか。
その時、俺の携帯電話が震えた。常に音は消していてサイレントにしている。弟のシンジだった。
「おぉ、どうした? お前が電話かけてくるの珍しいよな」
『シュウ兄、ごめんね前にメール貰ってて返せてなかったよ』
「あ、そうだったかな……なんだったっけ。最近忙しかったからよ」
メールってなんだっけ。
『子供産まれたってメールしたでしょ。それで何かいるものあるか、って返してくれてて、僕も色々と大変でさぁ〜』
あ、そうだった。子供産まれたんだった。
「あぁ! そうだったな。おめでとうな。赤ちゃん元気か? 女の子だっけ?」
『ありがとう。あ、男の子だよちなみに。名前は心と書いてシンだよ』
「男の子か、すまんすまん。シンか……いい名前だけどお前と間違えそうだよな」
そういえば名前は決めてるって言ってたよな、たまたまかもしれないけど、俺が心の声を聞けるようになったタイミングだったからザワザワするとか思ってたような。
「あ、そういえばなんかいるもんある? 出産祝いってことだけど」
『えー、いるもの、っていうか……赤ちゃん用品は母さんがほとんど買ってくれたり、揃えてくれたんだよね。だから必要なものっていうのは逆にないかもなんだよ』
あ、なるほどね。まぁ近くに住んでるし、そりゃ初孫だから可愛いわな。んじゃまぁそのうち時期をずらしてその時いるものでもいいか。
「母さん初孫だからめちゃくちゃかわいがってるんじゃないのか」
『まぁそうだね。ヨウちゃんがなかなか上手く世話できなかったりするのを助けてくれたりはしてるね』
ヨウちゃんとは、シンジの奥さんの名前だ。陽子だったかな……? あまり詳しくは聞いてないんだが、統合失調症を患っているらしく、この病気は様々な症状があるらしいが、このヨウちゃんは、まれに幻覚が見えたり、感情を上手く出せなかったり、逆に感情過多になってしまったりと、常にというわけではないが、大変な時もあるらしい。
「そうか、まぁなんかあったらいつでも言ってくれ。もしかしたらそのうちそっちに遊びにいくかもだわ。あ、そういえば母さんから俺のことって聞いてる?」
『ん、シュウ兄のこと? 特に何も聞いてないけど……なんかあったの?』
母さんはシンジに俺の電話のことは言ってないな。それに京都の婆ちゃんも母さんには何も言ってないに違いない。これはあえて言うことではないな。なんとなくだがそう思った。
「あっ、いや。なんもないならいいや。そっちに行くかも、って前に電話で話してたからな。そんだけ。まぁまた連絡するわ、じゃあな」
電話を切った。まぁ、俺のこの力のことは、ぺらぺら喋るものではないよな。母さんもなんとなくは聞いているかもしれないけど、もしかしたら昔とかに婆ちゃんからそのことを聞いていたら、良いイメージは持っていないかもしれないな。
「かんばれ……サチ〜……むにゃむにゃ」
サチが寝言をいっている。まだ競馬場にいるのかよ。俺はベッドから離れたとこに敷いたサチの布団の方に行った。そういえばサチと出会って少ししてから、タバコは吸っていない。サチが嫌がるからだ。
十七歳には見えないくらい、幼い顔で寝ているサチの頭を撫でる。なんだか、大きい子供が出来たみたいな気分だな。というか俺も男だから一応そういう欲はあるんだけども、コイツはそういう対象とはちょっと違うんだよな。妹みたいな感じというか。でも……たまにドキッとするような顔というか、表情をする時があるにはあるんだよな。俺も一応男だからな。
「シュウジ、ジロジロみんなキモイ……むにゃむにゃ」
夢の中でも毒舌かよ。勘弁してくれ……あ、そういえば。寝ている時って、心の声って聞こえるんだろうか。
前にも話したかもだが、この力は発現当初はとにかく無茶苦茶に聞こえてきた。近くにいる人間が考えている声がとにかく全部聞こえてきた。
数日したら、俺がそう思ったからか、その声が少し小さくなった。ボソボソ小声で話してる程度には聞こえるが、そこまでうるさくはない。なので電車移動の間も普通に寝れたのだ。あと、聞きたい心の声をピックアップするようなこともできた。今ではサチの声という感じな。
あとは、強く思っていることとかは大きく聞こえ、隠したいようなこととかは小さく聞こえ、思いの大きさでそのボリュームも多少変わっている気はする。これはなんとなくだから、わからないけどな。
俺は少しサチの心に照準を合わせ、心の耳をすましてみた。心の耳という表現が合っているかはわからん。
‐がんばれのキーホルダー、すごく嬉しい
これはサチが強く思っている声、なのかな。
「そうか、よかったな」
俺はサチを起こさないように小さな声でつぶやき、俺も少し仮眠をとることにした。
サチ。きっとお前を守ってやる。
サチが寝ている間、弟からかかってきた電話で
産まれた子供の話をする俺。
産まれた赤ちゃんをとても可愛がるシンジと母さん。
サチの状況は完全にはわかってはいないが、俺は改めてサチをしっかり守るとこの心に誓った。




