ホントにめんどくせぇなぁ
知人に教えてもらった、小規模な賭博場で、ついに博打に参加しはじめる俺。
なんとなく雰囲気は楽勝。
さてさて、どうなるかな?
◯登場人物
松岡 修二 23歳
IT企業勤務、システムエンジニア
人付き合いが苦手
急に他人の心の声を聞くことができるようになった。ボリューム調整可能
ゲームマスター
博打の親のことな
盛り上げ役
両隣にいる強面のやつ、合力というらしい。ゲームの司会進行みたいなこともする
見張り
場の見張り役、雑用みたいなこともするらしい
まぁまぁみんなやられている中、一人だけ当たったようだ。あ、スイチでの配当が4.5倍らしいが、十万かけて、それでも配当は四十五万。んで、他のみんなが外れたら、もちろん親の総取りだから、まぁまぁたいがい親が勝ちそうだな。
それにしても……当たったな。俺はドキドキというか、楽勝過ぎて呆れてしまったくらいだ。あとは度胸と、張り方だな。目立たないように目立たないように。
「次から参加しまーす」
一応ひと言いっておいた。ゲームマスターと、両側の盛り上げ役の二人がちらりと俺の方を見た。客も一瞬は俺の方をみたが、それよりも次のゲームのほうが気になるようだ。
さっきは三、そしてその前も三だったようだ。こういう単純な博打は心理戦というか、親にしたら多少当てられても、その分他の外れた客からの分でプラスであれば結局は問題ない。ということは、大勝ちしそうなやつを外すことに専念すれば、結局は小さな勝ちがいくら集まろうが、そんなの関係ねぇ、という感じなのだろう。
「では、入ります……」
ゲームマスターが神妙な顔をしながら、まぁそれも演技なのかもだが、どの数字にするかを選んでいる。
‐次もまた三いったるか……んー、いや次は六やな
ちょっと、もう完全にダダ漏れだな。俺は笑いを必死にこらえる。こらえるために、眉間にシワを寄せ、真剣な眼差しを作ってみた。
ゲームマスターは選んだ札を先ほどと同じ布に包み、場に置いた。それ以外の札もきちんとしまう。
「はいりました」
‐今度は三の倍数の六やで……
思い思いの額を皆かけているようだが、だいたいひと口ずつのようだ。十万だな。んー……もたもた稼ぐのもあれだしとりあえず五十で行ってみるか。行ってみるというか、計算ができん。俺は五つのズクの束と六の数字の札を裏にして、場に置いた。俺は全く緊張もせず、なんというか逆に拍子抜けしている感じ。
「さぁ、大丈夫ですか……では、勝負っ!!」
盛り上げ役のひとりが大きな声で盛り上げる。さっき気づいたが、この二人の盛り上げ役は、客の張り札を見たり、負けた客の金の回収や、勝った客への払い戻しなど、ゲームマスターの補助みたいなこともしているようだ。
ゲームマスターが……札をゆっくりと布から出し、場に出す。
「ろく!!」
来た……
「今度は六かいな〜!! もう全然当たらんやないか」
さっきも外れたおっさんがごねている。俺はこれを見せればいいのかな。
「当たったよ〜」
俺は出していた張り札の六を返し見せた。んーと、五十万の4.5倍ということは……?
「!!!」
ゲームマスターが俺の方を見てびっくりした顔をしている。え、イカサマはしてねぇよ。
「えーと、いくら貰えるのかな?」
盛り上げ役のひとりが俺を見ながらも、配当を数えて俺の前に無造作に出す。えーと、いちにぃさんしぃ……全部で二十二個と五枚はバラか……
「おぉっ、凄いやんか。兄ちゃんスイチでなかなか思い切った賭け方するねぇ!」
割と身なりの良い、おっさんが俺に話しかけてきた。てか、4.5倍の配当って、元金は引かれずなのか。ということは実際はプラス1だから、5.5倍のオッズということだな。いきなり二百七十五万になったぞ……。
「あ……たまたまっす……すんませ〜ん」
俺はあえて控えめに言っておいた。あまり目立ちすぎると良くないからな。とりあえず、一千万くらい今晩はいっとくかな。
◇ ◇ ◇
それから何回か参加して、俺はわざと外したりもした。まぁ外す時はひと口(十万)だけなんだが。というか、このゲームマスターだいぶ下手くそだな。俺が大口当ててからかわからんが、どんどん他の客にも当てられてるし、あまり負けられ過ぎると、俺の取り分が無くなってしまうぞ。
二回目は外して、三回目は三十万で勝ち、四回目は外して、五回目は四十万で勝ち、六回目は外して、七回目は五十万で勝ち。チマチマすんのもダルくなってきたな……。てかこれ今いくらだ。札がまあまあ散らばっているが、一応ある程度カバンに詰めながらやってるから、何束かこぼれてもわからなくなっている。
確かマンガでも三百万とか一気に賭けたりしてたよな……ん〜……百万くらいならいいか。
「はいり……ました!」
ゲームマスターもちょっと疲れてるのか。なんかセリフがぎこちなくなってきてる気がする。
‐この兄ちゃん次はまきあげたるで……次は……次は……ピンや!
ん? ピンてなに? なんかわからんから参加したくないけど、とりあえず適当にひと口だけしとくか……出てない数字の二にしておくかな。
「さぁ、さぁさぁ……勝負っ!!」
ゲームマスターが札を出す。ん? 一かよ……
「ぴんっ!!」
あ、一のことをピンって言うんだね。オッケー、もう大丈夫。俺は外れた札をさっさと回収して、置いたズクを回収させた。ゲームマスターが明らかにニヤニヤしている。お前顔にめちゃくちゃ出てるぞ。まぁいいや、次くらいでデカく勝って帰るか。
‐次も同じピンや……あの兄ちゃんはピンに弱いと見たでぇ〜
「入りました……!」
ピンに弱いてなんなの。まぁいいか、俺は全部でもいいんだけど、控えめに十束をまとめて一の札を裏にして、場に置いた。
‐おいおい……あいつスイチで百万賭けよったで……何もんやあいつ??
「ではでは……勝負っ!!」
ピンちゃん(ゲームマスターのこと)は札を出して置いた。
「ぴんっ!!」
なんとなく盛り上げ役の背筋もピンとしている。俺は手札を裏返し、宣言した。
「当たったぞ!!」
百万の5.5倍だと五百五十万だな。これは計算しやすい。もういいか、そろそろかーえろっと。
「ありがとうございました。そろそろ帰りますね〜」
俺は礼儀正しく、帰る旨を伝えた。何やらゲームマスターが盛り上げ役に耳打ちをしている。
他の客は俺の方をジロジロ見ながらも、あまり騒いではいない感じだ。さっきの身なりのいいおっさんが、俺の方をちらっと見ていた。
「おつかれさまです」
俺は一声だけかけておいた。
‐大丈夫か……
え、何が大丈夫? 誰のつぶやきかもわからなかったが、そんな心の声が聞こえた。まぁいいや、たぶん一千万は超えたはず。目標の一億までは少し遠いけど、まぁすぐいけるだろう。
俺は玄関で靴を履いて、外に出て階段をゆっくり降りた。
すると、来たときにもいたやつか、交代したのかはよくわからないが、団地の入り口辺りにいたやつが、声をかけてきた。
「すみません。最後に身体検査だけあるんで、少し待ってもらえますか」
え、そうなの。そんなのって初めにやるんじゃないのか、あるとしても。
「あ、わかりました……タバコ吸ってていいですか?」
聞きながら、返事を待たず俺はタバコに火を付けた。
二口ほど吸い煙を吐いていた時……
‐めんどくせぇなぁ……
え。俺がその心の声に振り返ろうとした時。
——ゴッ!!
頭に物凄い衝撃と痛みがきて……俺はタバコを落とし、その場にたぶん倒れた……というか感覚がなくなった……
‐ホントにめんどくせぇなぁ……
俺が意識のある時に聞いた最後の心の声だった。
楽勝ムードで稼げたのは良かったんだが……
出る時に身体検査って、なんか怪しいと思ったんだよ……
俺、これからどうなる?




