演劇の裏側と観客
生徒会メンバーとグレイス視点の前話。
年下組はあんまり出ません。
─生徒会メンバーside─
舞台の幕が上がると1人の少年、ではなく、男装をした令嬢が声高らかに台詞を読み上げる。
少し前の型で、それなりに着られていたことが何となく察せられる衣装だった。
(おそらく、というか9割方フィリオスのものだろうね)
そう、シャラナーダが思いながらチラリと視線を移すと顔を覆いながら俯いて耳まで赤くしているフィリオスが肩を震わせて何かを堪えていた。
(か、か、可愛い……!というか姉様が僕の衣服を借りると言っていたのはこの事か……!)
(……うん、多分悶えてるね。あれは。フィリオスも難儀なものだね。私はガスティンと共にラスティーク嬢から色々と聞いているからまだしも多分彼は知らないだろうし。片恋っていうのは辛いものなんだろうな)
再び舞台へと視線を移す。遠い席だからこそよく見えないが、舞台上で美しく飾り立てられているヒロインの衣装の品質はそこそこの物だろうことが分かる。先程の『灰被り』とは大違いだった。
ラスティークが惹き込まれるような声で自身の身の上を語る。至って普通の物語だが、ここからどのように解釈されているのかが鍵だった。
なぜなら複数の解釈が存在するこの作品なら下手な解釈を入れずともそのままの脚本で良いからだった。けれど、ラスティークの提出書類には脚本家が存在した。それが、編入してきた特待生、ウィーナだった。
(さて、この先からが楽しみな所だね。……というより時間の都合で切られる部分が何処かを探すのが楽しみなんだけど)
くすりと口角を上げて舞台を見つめ、シャラナーダは少しだけ寛ぐ為に姿勢を崩した。
一方、ガスティンはと言うとハンカチを片手にいつでも泣けるスタンバイをしていた。
(令嬢しかいない童話ものは大抵魔法薬を利用して演劇を行うが……先程のクリュッセル嬢の男装と言い、ロゼール嬢扮する悪魔の男装……と言うより仮装はレベルが高いな……)
思わず演劇の内容よりも細部の作りへと完全に目がいきそうになる。それでも、耳に届く演技には叶わずに直ぐにストーリーへと引き戻された。
(何より演技力が凄い。ラスティーク嬢以外、演劇経験など無い様だったがそれだけ練習を重ねたのだろう。努力のあとが見える気がする)
(うわ〜っ、先輩凄いな。あんなに幸薄い白鳥を演じてたのに今度は小悪魔な黒鳥を……並大抵の努力とセンスじゃ彼処まではたどり着けないだろうな〜)
思わずそんな事をイメリードが思う。ゆっくりと、けれど確実に時が進んでいるのを感じる。そんな演技に飲み込まれる。
作中の甘い言葉に時折ときめきながら。
─グレイスside─
舞台裏では役を押し付けられた生徒たちがゆっくりとしたり、慌ただしくしたりしながら演劇の手助けをしていた。
グレイスがこっそりとその様子を見に来るが、誰一人として気付かない。
当たり前だろう。無理やり押し付けられた役をしながら働いてるのだから、今更1人加わったところで大して差が生まれる訳でもないのだから。
舞台は、物語は進んでゆく。舞台の真ん中でウィーナとクリュッセルが踊り、クリュッセルが愛を囁こうとしている。
(そろそろ……ね。あぁ、折角の舞台が台無しになったら、折角の玩具もとい、お友達とやらの身体が使い物にならないほどバカになっちゃったら、ラスティークはどんな表情をするのかしら?)
思わず口角が上がる。もうじき薬品によって舞台の照明が落ちることを知っているから。もうじき舞台が台無しになることを知っているから。
何も知らない3人はきちんと手順通りに動いている。
そして、照明が舞台上に大きな音を立てて落ちた。
笑いを堪えてそっと舞台を袖から覗き見る。けれど、舞台上に鮮血は舞っていなかった。滴ってすらいない。ただ、2人の真横に落ちて、舞台を壊しただけだった。
(なん、で……どうして怪我すらしていないの……?いえ、演劇を台無しにはできた。これでもう、ラスティークは演技なんて……!)
そう、信じ込んだグレイスはさっと舞台裏から出て行く。途中、すれ違った中性的な存在にすら気付かずに。
─生徒会メンバーside─
照明が、演者の真横に落ちた。あと少しズレていたら死んでいたかもしれない位置に。
(……いくらなんでもこれは)
シャラナーダが管理について問いただそうと思っていると舞台上でラスティークが演技を続行させる。彼女の試みに答えるようにクリュッセル達も演技を再開させる。
(こんな状況下でも続けようとするなんて……全く……)
普通はとれない行動に思わず手を叩きたいと思ってしまう己にシャラナーダは笑い、この物語の終幕を見たいと思ってしまった。
例え最悪の印象がついて、もう見る気が失せている人が殆どでも続けようと、諦めない姿勢を見せた彼女たちの演技はどれほどの物なのかを見届けるために。
舞台が暗転し、悲痛な言葉を叫ぶラスティークに思わずガスティンは涙する。大抵の場合、1人で諦めるヒロインと主人公のやり取りから始まるこの物語に置いて、ヒロインの心情をより深く描写した瞬間だったからだ。
(このように綴られる事も有るのか……それにしても、照明はあの少しの間に大きな音もなく運び出される……あぁ、そういうことか……)
涙を拭いながら照明が少しの間に運び出せれた真相に辿り着く。ガスティンは先程の照明についても説明がつくことを1人で納得して演劇を見届けようと思う。
幸せが2人を繋ぐその瞬間まで。
そして、物語は閉幕を遂げる。勿論、ヒロインも王子も幸せになって。照明が落ちてすぐの演技は見ていなかった人々も、最後には手を叩いて、幕が降り切るその時まで拍手の嵐を巻き起こしていた。
フィリオスくん 初恋実らぬ キャラだけど どうしても私 可愛く書きたくなる(字余り)
という事で照明の原因描写が出来て楽しかったです。エトワールにもこっそり活躍してもらいました。
↓↓↓最近の作者
最近妙に時間の流れが早いんですよね。気がついたらもう1週間。まぁ、元から早かったんですけどね。
さて、多分来週以降は連載が本当にゆっくりになるかもしれないので(n回目)キリがいいところまで書きたいなって思ってます。文化祭が短いのは許してクレメンス。




