湖のほとり
祝、100話目です。文字数が改行とか空白抜きだと3000文字ぴったりだそうで驚きです。
舞台上に男装をしたクリュッセルが立ち、しっかりと前を見据えて声を張る。
「あぁ、もうひと月しか時間が無いなんて!私は、婚約者は好いた相手に決めたい!けれど、王族としての責務がある。一体どうすればいいのだ!」
ぐっと胸の前で拳を作り、視線を逸らす。そうして、書割りの湖の前まで歩みを進める。
すると、ラスティークにパッと光が当たり、銀糸のような髪とふんわりとした白いドレスが光を孕み、キラキラと輝く。
「あ、貴女は……?」
驚いた表情の王子がラスティークに問いかけるとゆっくりと瞼を開けた彼女は透き通るような声で答えた。
「……私は、白鳥。白鳥にされた姫。悪魔に呪われた存在。名前は……名前は……もう、忘れてしまいました。覚えているのは呪われた事と月明かりが照らす夜にのみ人の姿に戻れるということ」
「そうか……君の呪いを解く方法は何かわかるかい?……失礼、名乗りがまだでしたね。私はトリスタン」
「呪いを解く方法……」
少し考える素振りを見せて彼女は顔を上げた。
「あの悪魔は“真実の愛を誓う男性だけが私の呪いを解ける”と告げました。そして、それまでの期間も」
「それはいつ頃までだい?」
「次の満月の夜までです」
「そうか……それなら、丁度数日後のその日に開かれる舞踏会に君を招待しよう」
トリスタンが微笑み提案すると、彼女は驚いた。
「そんな!どうしてそこまで!!それに私は姫を名乗るだけの不審者。そんな私を招待したとなれば貴方は……!」
問いかける彼女にトリスタンは答えた。優しくて心地良い声色で。
「貴女に一目惚れをしてしまったから。どうか、その晩に婚約して欲しい。もし私の誘いを断りたいなら来てくれなくて構わない。だが、もし貴女が許すのであれば私と共に踊って欲しい。貴女のその美しい髪を靡かせる権利をどうか、私に」
そう言い、トリスタンは1枚の紙切れを手渡した。
「そうだ、仮ではあるが貴女に名前をつけても?」
「えぇ、もちろんです」
少し頬を赤らめて幸せそうに答えると、トリスタンは少し考えて声にした。
「リュンヌ……なんでどうだろうか?」
「リュンヌ、ありがとうございます。私がこの姿の時はリュンヌ。名前を思い出すことが出来たその時には、私の名前を教えます。だから、どうかその時には、リュンヌだけではなく、本当の名前でも呼んでくださりませんか?」
「あぁ、勿論だ。それでは、次の満月の夜……もといもうじきある舞踏会の日まで」
そうクリュッセルが言うと舞台が暗転する。そして、少しの後、舞台にはロゼールがたっていた。ロゼールは見えないところで少しばかり足が震えていた。それでも、いつもよりも凛とした表情で台詞を読み上げる。
「……おや、あの娘が人に戻ろうとしているな。戻られるのは気に食わない。……そうだ、あの男を騙してしまえば良いのか。ルネ」
「はい、お父様」
悪魔の呼びかけにルネと呼ばれた女性にスポットライトが当たる。それは、先の純白のドレスが真っ黒に染ったリュンヌと瓜二つな女性だった。
彼女はまるで悪いことを思い付いたかのような表情で父親の悪魔に問いかけた。
「なぁに?お父様。もしかして、あの娘が呪いを解こうとしているの?だったら本当に可哀想で面白い」
「その通りだ。だからお前にはあの娘の邪魔をしてもらう。お前のその瓜二つな姿ならあの相手の男は気付くまい。どうせ、1度きりの逢瀬。幾度も言葉を重ねた相手ですら気付かないのだ」
「へぇ、あの娘はまだ諦めていなかったんだ。まるで愚者のよう。カードの運命なんて決まっているのに」
くすくすと人を馬鹿にする笑い声が響く。そして、再び舞台が暗転し、照らされるとそこはもう舞踏会だった。
トリスタンがグラスを片手に入口へと視線をチラチラ向ける。すると下手から純黒のドレスを身にまとった女性が姿を現した。
トリスタンが待ちわびていたと喜び、駆け寄ると彼女は差し出された手を取り、微笑んだ。
「今日は、あの純白のドレスでは無いのだね。けれど、その姿も美しいよ」
踊りながらトリスタンが彼女の美しさを賞賛する。そして、舞台の真ん中で愛を囁いた。
「どうか、僕と生涯を……」
しかし、その言葉は遮られた。舞台の上から1つ、照明が降ってきたのだ。
騒然とする会場を横目に、わずか数歩ズレていたら直撃していたクリュッセルが震える。しかし、そんな彼女をリードしたのはラスティークだった。
「嘘……どうして、あの時の言葉は……っ!」
苦しげに聞こえたその言葉に視線をやると、純白のドレスを着た彼女が目に入る。驚きのあまり純黒のドレスを身にまとったルネを突き放して急いで下手へと姿を消した。
そうして再び舞台が暗転するとわずかに会場が騒めく。
『呪われている?』『イタズラ?』『もうこんなものを見る気にはならない』『庶民が居るから』『嫌われ者の癖に目立とうなんて』
その言葉を無視して演目は進む。照明が付いた時にはもう、舞台上に壊れたライトも凹んだ跡も何一つ残ってはいなかった。
書割りは最初と同じ、湖のほとりになっていた。
「あぁ、もう私は元には戻れない……!どうして?こんな事なら夢見て、憧れて、浮かれる事なんてしなければよかった!期待なんてしなければよかった!」
リュンヌの悲痛な叫びが会場に響く。そこに、上手からトリスタンが追いかけて来た。
「待ってくれ、リュンヌ!」
「来ないで!どうせ、貴方はあの方の事を好いているのでしょう?それなら、私の呪いは解けることがない!それなら、私を期待させるような言葉を囁かないで!もう貴方に夢を見させてもらいたくないの!」
涙を流してトリスタンを拒絶する。すると、後ろから追いかけてきたルネが誘惑する。
「トリスタン様、どうされましたか?私を愛して、呪いを解いては下さらないのですか?」
「お前は何者だ?私が愛しているのはそこにいる純白のドレスを身にまとったリュンヌだけだ!」
「まぁ、酷い話。一時は夢を見させてくださったのに?それに……そこの方は貴方のことを拒絶しているようですけれど?さぁ、トリスタン様、私と契りを」
「何があってもしてたまるものか。私の心は彼女に囚われている。お前を愛すことなどない!」
はっきりとした拒絶にルネが闇に姿を消すと悪魔が姿を現し、リュンヌを奪おうとする。
「お前が悪魔か。彼女の呪いは解いてみせる!」
「残念だが、もう時間は無い。諦める事だ」
笑いながら悪魔がトリスタンに襲いかかるとリュンヌは絹を裂くような悲鳴をあげる。
「トリスタン!」
彼女の悲鳴を聞き、トリスタンは悪魔を叩き切ろうと力を入れる。そんな彼を嘲笑うかのようにして悪魔は力を入れ強め、魔法を放つ。リュンヌの隣へと飛ばされた王子へ彼女が駆け寄り、そっと抱き寄せると彼女は頬をそっと撫でた。
額を合わせて祈る彼女の隙をついて、王子は彼女に口付けをする。
すっかり顔が赤くなった彼女に王子は愛を囁いた。
「愛してる。君のことを、永遠に。だから、私の傍で共に笑い続けて欲しい」
そう言うと共に悪魔は消え去り、彼女は幸せそうに微笑んだ。
「えぇ、勿論です。トリスタン様。そして、私の事はスィニングとお呼び下さい」
「あぁ、スィニング。君のことを本当に、本当に愛している」
そう言うとどこからとも無く拍手が始まり、『灰被り』ほどでは無いけれど多くの拍手が送られた。舞台には4人が並び、それぞれの衣装を着て礼をする。
幕が下がりきるまで彼女たちは礼を続けた。
全体を通して100話目となりました。ここまで続けられるとは連載当初は思いもしませんでした。
次回は公演中の他キャラの様子を書けたらな。って思います。
↓↓↓作者から
ここまで続けることが出来てめちゃくちゃハッピーです。ちなみに今回の話ですが、著作権とか大丈夫だよね……!???って思いながら10回ほど調べました。
著作権は怖いからね。みんなも書く時気をつけようね!(IQ3)




