学院のダンスパーティー3
クロフォード様の手をとり、次のダンスに向けての音楽が流れ始める場内の中央へと進み出る。
ようやく夢うつつから抜け、この初見のカップルを見守る周囲のざわめきが聞こえてきて、ようやく自分がピンチに陥っていることに気がついた。
王太子様に恥をかかせないよう、こちらが恥を忍んで先手を打つことにする。
「あの、王太子殿下、申し訳ございません…」
「こういう場ですから名前で呼んでいただいて大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
「では、恐れながらクロフォード様と呼ばせていただきます。クロフォード様、大変申し上げにくいのですが、私、実はダンスが…恐ろしく下手なんです…」
「知ってますよ」
「えっ!?」
「グレイソンから聞きました」
途端に顔が熱くなるのを感じる。
まさか、そんなことまで一国の王太子様の耳に入っていたとは!
もしや、一応公爵家の一員になったのにダンスもまともに踊れないでは、お役御免にするしかないってことで探りが入っていて、これが最終試験…?
先程の汗が引いて、今度は顔から血の気が引くのを感じる。
とにかく王太子様の足だけは踏まないようにしなくては…!
「さぁ、始まりますよ」
クロフォード様は私の両手をとり、優雅な音楽に合わせてステップを踏み始める。
私も慌てて、必死で覚えたステップで合わせ始めた。
「先ほどから顔が赤くなったり青くなったり、忙しそうですが大丈夫ですか?」
「だっだっ大丈夫でっす…!」
「…フェリスティア嬢、こっちを見て」
絡めていた左手を一瞬離し、あごに指を添えられそのまま自分の方を向かされる。
目の前には、まばゆいばかりのイケメン…クロフォード様のお顔が思った以上に近いところにあって、また頬が熱くなってしまう。
「そう、そのままこっちを見ていてください」
「…はい」
「先日は母が無理矢理お茶会にお誘いしたようですみません」
「いえ、無理矢理なんてとんでもないです!女王陛下にも上皇后様にもお会いできて、本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「ならよかった。なにか変なこと言っていませんでしたか?」
「…いえ…」
私は女王様から、王子様に恋しちゃったら教えてね~と言われたことを思い出したが、ご本人に言うことではないので黙っておくことにした。
しかし、見透かされていたのか、クロフォード様は小さくため息をついた。
「その様子だと、やはりなにか言いましたね。息子が言うのもなんなんですが、母は恋愛話がとにかく大好きなんですよ」
「とてもお可愛らしくて素敵ではないですか」
「女性から見るとそうかもしれませんが、お茶会が開けなかったりして話し相手がいないと、父や僕にまで、『どこのご令嬢がどこの殿方に片想い中らしい!』とか、『あっちの家の息子さんとこっちの家の娘さんは気が合うと思う!』とか延々に聞かされるんで堪らないですよ。一体どこからそんな話聞いてくるんだか」
女王陛下がお茶会の時の調子で、国王様やクロフォード様をお相手に恋愛トークを語りまくっている姿を想像してみる。
にこやかに聞いてらっしゃる国王様とやや迷惑そうな表情で聞き流す王太子様のお姿が浮かんで思わずクスリとしてしまう。
「やっと慣れてくださいましたか?ダンス、十分にお上手ですよ」
「あっ!」
クロフォード様に言われて気がついた。
こんなに話をしているのに、意識しなくても足がもつれることなくステップを踏めている。
「本当です!足が絡まず踊れています!」
「グレイソンのレッスンはかなり厳しいですからね。彼に『なんとか大丈夫でしょう』と言わせれば合格点なんですよ」
「いえ、きっとクロフォード様のリードがとてもお上手だから、なにも考えないで踊れるんです」
「僕だって今のダンスをグレイソンに見られたら、『特訓し直しです』とか言われますよ」
「クロフォード様とグレイソンのダンスレッスンですか…拝見してみたい気もしますね」
「冗談よしてください。グレイソン、女性役でもあの仏頂面な上、男に対しては女性以上に厳しいんですよ」
クロフォード様は特訓に勤しんだ当時を思い出しているのか、苦い顔をしている。
それを見ていると自然にこちらも笑みがこぼれた。
ここに来るまでの心配や不安が嘘みたい、心から楽しい、そう思える一時だった。
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明日は2話投稿予定です




