お告げの雨
翌朝、小鳥のさえずりが聴こえて自然に目が覚めた。
驚くことに、昨日までの胃痛はすっかり消えていた。
王太子様にいただいたストールを羽織ってバルコニーに出ると、暖かな陽射しが降り注いでいた。
しかし、昨日までの不安な気持ちは小さくなっている。
わざわざ会いに来てくださった王太子様を信じると決めたのだ。
その時、ノックの音が部屋に響いた。
「フェリスティア様、失礼致します。ミリーでございます。お加減はいかがでしょうか?」
「おはようミリー。心配かけてごめんなさい。もう大丈夫!」
身なりを整えて軽めの朝食をいただくと、グレイソンとアメリアから今日の予定について説明があった。
「本日夜の降雨確認後、こちらの宮殿のエントランスガーデンにて、国王様から国民に新たな神託の巫女であるフェリスティア様を紹介致します。その際にフェリスティア様から国民に対し、一言お言葉を頂戴したいとのことです」
「スピーチの内容や予行練習については後程、グレイソンと私がお手伝いさせていただきます。」
お言葉を頂戴発言に、思わず紅茶を飲む手が固まった私にアメリアが助け船を出してくれた。
ううっ、一体何人の前で喋らされるのか…。
「本日のお支度ですが、神託の巫女の正装でご臨席ください。お召し物がこちらでございます。どうぞご覧ください。」
グレイソンから白木の箱を渡され、蓋を開けてみると、美しい空色のロングドレスが納められていた。
広げてみると、上等だけれでも、今までこのお城で触ったどんな布地とも違った印象だ。手に持っているはずなのに、触れていないような柔らかさと軽さがあった。
空色を基調としているものの、全体に銀の星が散りばめられていて、手首まである袖口とドレスの裾に向かって、空色から銀色へとグラデーションになっている。
そしてドレスの下には、フードのついた銀色のローブが入っていた。
こちらもしっかりと温かいのに驚くほど軽かった。
「ドレスの上からローブを羽織るのが正装でございます。神託の巫女専用のアクセサリーと靴もございますので、そちらはお支度の際にご覧ください」
グレイソンとアメリアは、スピーチ練習の用意をして戻ると言って一旦部屋を出ていった。
いよいよ運命の1日が始まるのだ。
~・~・~・~・~
1日緊張しながら雨を待たなければならないのかと憂鬱だったのだが、そんな場合では全くなかった。
グレイソンとアメリアによる、スピーチ内容のチェックに暗記、スピーチ中の立ち居振舞いの講習から始まり、身支度を整えるということで、湯浴み、マッサージ、化粧にお召替えと目も回る忙しさだった。
ようやく一段落ついて昼食代わりのサンドイッチをつまむ頃には夕暮れとなっていた。
「お食事がこんな時間になってしまって申し訳ございません」
「ミリーのせいじゃないわ。私の覚えが悪いせいだもの。スピーチ…大丈夫かしら…」
「グレイソンとアメリアのあの指導についていけたんです。きっと大丈夫です。」
ミリーも苦笑いの本当に恐ろしいご指導だった。
どうやら、本来スピーチ練習は予言の日までの3日間で少しずつやる予定だったらしく、指導は超スパルタ&急ピッチで進んだ。
2人の背後に青い炎をまとった魔物が見えた私に、もはや口を差し挟む余地などなかった。
お陰様でスピーチもなんとかなりそうだし、予言までの間、緊張する余裕もなかったので感謝しなければいけないのだろう。
「もうすぐ日の入の刻になります。お召替えとお化粧の最後の仕上げは雨が降り次第と致しますので、フェリスティア様はもうし少々お部屋でお待ちください」
ミリーが退出し、一人になると行儀悪くぼすんと、ソファに寝そべった。
今日は頑張ったし病気明けなので少しは許してほしい。
(フェリスティア~起きて起きて!!)
「ふぇっ!!えっどちら様…」
(ぼくだよ、ぼく!ふふっ、フェリスティア、よだれたれてる~)
急に頭の中に子どもの声が聴こえて飛び起きた。
「精霊さん!しっ失礼しました。」
(フェリスティア、お外!お外見て!)
どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
バルコニーの方を見るとすっかり暗くなっている。
速く速くと精霊さんが急かすのでそっとカーテンから外を覗いてみる。
「!!雨が降ってる!!!」
(ほら!ぼくの言ったとおり!すごいでしょ!)
「すごい…本当にすごいです!」
(ふふっ!もう時間みたい。またお話ししようね~)
「えっ時間って、ちょっと待って…」
その時ノックの音と共に、アメリアとミリーが入ってきた。
「フェリスティア様、ご神託の通り雨が降りました。最後のお支度にとりかからせていただきます。」
~・~・~・~・~
私は今、国王様から数歩下がった位置からなんとも圧巻の風景を見ている。
エントランスガーデンと呼ばれる広い庭を埋め尽くす人、人、人…
千を優に越える人々が降りしきる雨の中、レインコートを着て歓声をあげている。
雨音で詳細はわからないが、どうやら雨を喜び、国王様を称えているようだ。
それだけ皆が雨を待ち望み、そして国王様を信頼しているのだろう。
「皆この雨の中、集まってくれてありがとう。紹介しよう。新しい神託の巫女、フェリスティアだ」
国王様から紹介を受け、練習通り一礼し前に出る。
国民からの割れんばかりの拍手に圧倒され、腰が抜けそうになったがなんとか踏ん張った。
「ただいま国王陛下からご紹介に預かりましたフェリスティアと申します。我が魂と力が続く限り、精霊と共にこの国の実りと繁栄に我を捧げると誓います。豊穣の大地、グリンフィールドに精霊の祝福があらんことを!」
噛まずに言えた!と思ったその時、辺りの林の中から雨にも関わらず百を越える『流れ星鳥』達が一斉に飛び出し、城から町の方角へと飛び立っていったのだ。
「すごい!こんな数の流れ星一度に見るのは初めてだ!」
「今度の巫女様も精霊に愛されているぞ!」
先程以上の拍手に今度こそ腰を抜かした私は、バレないようにアメリアとミリーに後ろから支えられ、なんとかこっそり、奥に下がったのだった。
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つづきは明日の夜9時台投稿予定です!




