06王命で結んだ婚約を最近破棄したあなたたちが王命で従えられる理由なんてあるとは思えません
王子ともあろう者が、禁断の魔導書に手を出すとは。かなり杜撰なやり方で。彼の行動は、自業自得という他ない。
(婚約破棄したときも、アホとは思ってたけど、犯罪者にまで落ち切るなんて)
状況を放っておけば、さらに大きな問題に発展しかねない。召喚されかけているものが何なのかは不明だが、それがもし危険な存在であれば、国に甚大な被害をもたらす。
(面倒。本当に面倒。巻き込まれたくない)
心の中で暴れていく本音。ここから、引き起こされるであろう不幸を予感する。魔導書を手に取り、内容をざっと確認。案の定、危険な存在を召喚するための儀式について書かれていた。
儀式の失敗が、今目の前で起きている魔力暴走と、召喚体の不完全な顕現を引き起こしている、ということ。魔力暴走を、起こしかけているジースルに近づき。彼に、かろうじて意識を保つための応急処置を施した。もちろん、完全に治すわけではない。せいぜい、意識を朦朧とさせて、苦しみを長引かせる程度の魔法。
「ぐっ……ティリエン……なぜ、ここに……」
ジースルは苦しげに目を開け、認識すると驚いたような顔をした。
「貴方がこんな馬鹿な真似をしたから、でしょう?なにを言うかと思えば」
冷たい視線を向けるとジースルは顔を歪ませ、何かを言おうとしたが、再び魔力に蝕まれる苦しみに襲われた。
(いい気味。私との婚約を一方的に破棄し、ユニメラに夢中になった愚か者。自業自得)
魔法陣の魔力を調べた。召喚されかけているのは、下級の魔物で制御を失っているため、このままでは暴走し周囲を破壊し尽くすだろう。
「このままでは、手がつけられなくなる」
この状況を収拾するための術を考えた。魔力を完全に鎮めるには、かなりの魔力を必要とする。自分にはそれだけの力があるが、問題は、この件が公になった際のことを考えることだ。
(闇魔法を使ってこの状況を収拾すれば、また疑われる。面倒かな)
ジースルと倒れている側近、禁断の魔導書をちらりと見た。
(状況を収拾しつつ、手は汚さずに、かつジースルが盛大に自業自得になるような方法……は)
脳裏に、一つの計画が浮かんだ。
にんまりと口元が月を描く。
翌朝、王宮に激震が走った。王子が、禁断の魔導書を使って危険な召喚魔法を行おうとし、失敗して魔力暴走を起こし、瀕死の重体であるという報が飛び交ったのだ。
てんやわんやになっている時、何食わぬ顔で屋敷に戻り、朝食を優雅に摂っていた。昨夜の騒ぎは、魔法で痕跡を消し、ジースルが自ら禁断の魔導書に手を出した現場だけが残る。誰もこちらの関与を疑う者はいなかった。
召喚されかけていた魔物も、巧妙に魔力を操作して、ジースルの魔力暴走が原因で消滅したかのように見せかける。
「ジースル殿下が、禁断の魔導書に手を出すとは……信じられませんわ」
ユニメラが悲しげに呟く隣で、父と母は顔を青ざめさせている。
(ああ、まさか、ユニメラの婚約者がこんなことをしでかすとは。これからどうなることやら、楽しみ)
心の中でほくそ笑んだ。ジースルが禁断の魔導書に手を出し、国を危機に陥れかけたという事実は、彼の王位継承権に大きな影響を与えるだろう。失脚は、ユニメラにも少なからず影響を与えるはず。
もう、こちらの婚約者ではないから、気楽に構える。所有者が妹に移動していたのは僭越であった。
数日後には王宮からナデシュタエン家に、緊急の呼び出しがあり、王が、自分と父、ユニメラを呼び出されて王宮に到着すると、王は疲れた顔で迎える。
ジースルは一命を取り留めたものの、魔力の暴走によって魔力が枯渇し、魔法使いとしては再起不能となったという。さらに、彼の王位継承権も剥奪。代わりに別の王子が後継者となることが決定したそうだ。
然もありなん。
「ティリエン・ナデシュタエン」
王は真っ直ぐに見据えた。
なに?
「そなたは、闇魔法に精通しておると聞く。以前、ユニメラの事件でも、知識が解決の糸口となった」
(まさか、ジースルを救えとか言うつもり?それだけは勘弁してほしい。どの口で言うつもり?)
嫌な予感がよぎった。王族のイメージってそんなもの。
「そなたに、一つ頼みがある。ジースルの魔力を、回復させてはくれまいか。闇魔法ならば、何か手立てがあるやもしれぬ」
(うわ、信じられないこの王)
王は、縋るような目で見つめた。
(本気で言ってるの?私が、あの自業自得な男を助けろと?冗談じゃない)
即座に首を横に振った。
「お断りいたします」
返事に、王は驚き、父と母は顔を真っ青にした。ユニメラも、信じられないという顔で見ている。
「な、何を言っておる!王命であるぞ!」
父が慌てて咎める。何を言うかと思えば。鼻で笑う。
「王命であろうと、お断りいたします。わたくしに、その様な義務はありませんよ。王命で結んだ婚約を最近破棄したあなたたちが、王命で従えられる理由なんてあるとは思えません」
毅然と言い放つ。
「ティリエン姉様!ジースル様を助けてあげてくださいませ!お姉様なら、きっとできます!」
涙目で懇願する。
(何を言ってるの。私から公然とジースルを奪ったくせに、本当に今さら、何を。取られた私は笑い物にされたのに?バカにしてる)
「他者の魔力を回復させる術など知りません。それに、たとえ知っていたとしても、この様な面倒なことは、御免被ります」
冷淡に言い放った。




