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05あれこれも渡せない

 その場を立ち去ろうとしたけれど、ユニメラは腕を掴んだ。


「待ってください、お姉様!」


「何?」


 振り返ると、ユニメラは真っ直ぐに見つめていた。瞳には、強い意志が。


「わたくし、知っています。お姉様が、本当は優しい方だということを」


(は?優しくないでしょ。悪趣味な方。人の不幸を見るのが好きだし)


「お姉様は、わたくしが困っていると、いつも助けてくださいました。ティーカップの時も、今回も、いつも影から見守ってくださっている」


(いや、ティーカップの時は、ただ高みの見物だっただけだし、今回は、面倒が増えるのが嫌だったし)


 呆れて言葉も出なかった。ユニメラの解釈は、あまりにも都合が良すぎる。いや、彼女の頭の中では、それが真実なのだろう。ご都合主義。


「だから、わたくし、お姉様のようになりたいです。強く、優しく」


 ユニメラは、キラキラした瞳で見つめる。


(冗談きつい。私のようになりたい?私みたいに嫌われて?それは冗談でも勘弁して)


 これ以上、ユニメラと話しても無駄だと悟った。この手のタイプは、何を言っても自分の都合の良いように解釈する。つまりは自分勝手なのだ。


「勝手にすれば」


 手を振り払い、その場を去った背後から、ユニメラの「お姉様!」という声が聞こえた気がしたが、振り返らなかったけどそれからも、日常は変わらず、淡々と過ぎていく。


 魔導書を読み、紅茶を飲み、使用人たちが持ってくる世間話を聞いてはたまに妹が、何かにつけて相談を持ちかけてくるようになった。


「お姉様、この慈善事業の企画、どう思いますか?」

「お姉様、わたくし、この社交ダンスの練習がうまくいかなくて」


 お姉様、お姉様とうるさい。


(なんで私に聞く?慈善事業なんて適当にやればいいし、社交ダンスなんて適当に踊ればいい。そんなの、自分で考えて)


 心の中で毒づきながらも、適当なアドバイスをしてやると、ユニメラは「やはりお姉様はすごい!」と感動し、さらに心酔していくことは彼女の指針になったかのよう。胸がざわつく。


(ああ、面倒くさい。なんでこうなった)


 深い溜息をついた。

 日常に、再び変化の兆しが見え始めたのは、夜のこと。自室で、いつものように魔導書を読んでいた窓の外は、満月が煌々と輝いていると急に魔力の高まりを感じ、それも、尋常ではない規模の魔力を。


「何事?」


 窓辺に駆け寄ったると、遠くの森の方向から、漆黒の光が空へと昇っていくのが見えた。光は、闇魔法のそれ。しかも、今まで見たこともない、強大な闇魔法の気配。


(まさか……)


 胸に、嫌な予感がよぎった。

 この世界のどこかに、強い闇魔法の使い手がいるの?

 それとも、魔王でも復活したの?

 すぐに身支度を整え、屋敷を抜け出した。この強大な魔力の波動は、放っておけばいずれ厄介なことになる。何より、好奇心が疼いていた。


(これは、もしかしたら、世界規模で起こる前兆かもしれない)


 闇の光が昇る森の奥へと向かって、足を進めた。森の奥から立ち上る強大な闇の魔力に惹かれ、夜の闇の中を突き進んだ。


「やっと、楽しくなってきた」


 淡々と、光の源へと向かう。普段なら面倒だと避けるような行動だが、未知の魔力は、好奇心を刺激している。森の深部へと足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。巨大な魔法陣が地面に描かれ、その中心から漆黒の魔力が噴き出している。

 魔法陣の周りには、意識を失って倒れている人々が何人かとその中に、見覚えのある金色の髪が混じっていることに、舌打ちをした。


「……よりによって、なぜいるかなあ」


 倒れていたのは、元婚約者である隣国の王子、ジースルだった。彼の顔は青ざめ、苦悶に歪んでいるからして魔力暴走を起こしているのは彼だろうか。強大な闇の魔力は、ジースルの魔力とは質が違う。


(これは……召喚魔法?それも、相当な規模の)


 冷静に状況を分析し、魔力の流れからして、おそらくは何かを召喚しようとしたのだろうと結論。制御しきれずに暴走した、と。


「本当に、馬鹿なことばかりする」


 ジースルに近づき、彼の魔力の状態を確認したらやはり、彼の魔力は闇魔法によって無理やり引き出され、暴走しかけている。だが、闇魔法の元を辿ると、どうにも違和感が。

 どこかで感じたことのあるような、ないような。

 その時、地面に倒れていた別の人物が、呻き声を上げて身じろぐ。見ると、それはジースルの側近の一人。


(王族が誘拐されてる?)


 男はかろうじて意識を保っているようで、気づくと、震える指で魔法陣の奥を指差した。


「あ、あれを……禁断の……書……王子が……おねが」


 男はそこまで言いかけて、再び意識を失った。


(禁断の書、ねぇ)


 男が指差した方向を見た。そこには、古びていて、禍々しいオーラを放つ一冊の書物が転がっている。ごく一部の人間しか知らない、いわゆる禁断の魔導書、だろうな。


(つまり、ジースルは、禁断の魔導書を使って、何かを召喚しようとした。過程で闇魔法に手を出した、と。しかも、ろくに制御もできずに、こんな大惨事を引き起こしたわけか。誘拐事件じゃなくて、自爆)


 呆れてものが言えなかった。

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