04私まで欲しがる妹
うんうんと、頷く。犯人は、ユニメラを陥れることで、慈善舞踏会の代表の座を奪い、その混乱に乗じて何かを企んでいたのだろう。罪を姉の方になすりつけようとした、なんて都合のいいシナリオだろうか。仲良くないと有名な姉妹でやりやすかっただろうし。
「これも調べて」
「はっ。承知いたしました」
陥れることで、どんな利益を得ようとしたのかを調べさせると驚くべき事実が判明。
「男は、ユニメラが慈善舞踏会の代表から降りれば、自分がその座に収まることができると画策していた、と、ねぇ」
男もまた、慈善舞踏会の代表に立候補していたのだ。
「立候補者」
ユニメラの存在が邪魔。
(くだらなさすぎ……本当にくだらない理由。たったそれだけの理由で、他者を貶める。人間の欲望ってのは、本当に醜い)
深いため息をついたけれど、同時に、微かな高揚感を覚える。目の前で、人間関係が泥沼化していく様を見るのは、悪くない。証拠を揃え、父に報告すると父は、信じられないという顔で見ていたが差し出した証拠の数々に、顔色を変えた。
「まさか……本当に、そのような者がいるとは……信じられん」
父は怒りに震え、すぐにその男を捕らえるよう命じて翌日、男は逮捕された。
(行動力がいい。私の時も、その穴だらけの頭を回転させてくれればいいのに)
彼の家からは、魔力を強制的に引き出す魔導具と、陥れるための偽造文書が発見されたという。男はすべてを自白し、自身の罪を認めて、センセーショナルな事件は、瞬く間に貴族社会に広まった。ユニメラは、無実が証明されたことで、さらに聖女の評判を高めた。
「ユニメラ様は、やはり天使ですわ!あんな卑劣な罠にかけられても、揺るがない清らかなお心!」
「ティリエン様も、妹様の危機を救った!さすがはナデシュタエン家の令嬢だ!」
(は?なんで私が褒められてるの。私、別にユニメラを助けたわけじゃない。面倒なことに巻き込まれるのが嫌だっただけなのに。あと、やっぱりユニメラの座は揺るがないか。本当に、しぶとい。ねばねばした粘着物質みたい)
心底うんざり。結局、何も変わらないユニメラは相変わらず皆に愛され、相変わらず影の薄い存在。ちょっとだけ目立ったけど、一つだけ変わったことがある。
「ティリエン、この度はお前のおかげでユニメラが救われた。感謝する」
父が、深々と頭を下げたのだ。
(うわ、やめて。ゾワゾワする。気持ち悪い。そんなことされたら、かえって面倒)
「いえ、別に。犯人が誰か、知的好奇心を満たしたかっただけです」
そっけなく答える。父は苦笑し、見る目が、以前とは少しだけ変わったように見えた。
事件後、いくつかの変化が起こる。まず、父や母が、以前より干渉しなくなったのはおそらく、今回の事件で活躍したことで「放っておいても大丈夫な子」だと認識されたのだろう。
これほど嬉しいことはない。自由に魔導書を読んだり、誰にも邪魔されずに紅茶を飲んだりできる時間が増えた。最高の報酬。
ユニメラも、以前より遠慮するようになった。彼女を助けたという建前があるため、正面から文句を言ってくることはない。けれど、どこか恐れているような、そんな態度が見え隠れする。怯えるようなことをした覚えはないけど、今までの怯えは嘘で今から本当になっただけかな。
(まあ、いい。面倒な絡まれ方が減るなら、それが一番)
闇魔法を使えることが、貴族社会で公になったから当然、評判はさらに悪化した。上がって、下がる。これぞ、人間の無責任さ。
「やはり、闇魔法使いなど、恐ろしい」
「あの令嬢は、何か裏があるに違いない」
そんな噂が、あちこちで囁かれている。
(これでますます、近づく人間はいなくなる。むしろ好都合)
世間の評価などどうでもよかった。嫌われることで、自由な時間が増えるなら、これほど喜ばしいことはないし。
そんなある日、屋敷の庭園で、偶然にもユニメラと出くわした。彼女は、一人でベンチに座り、俯いていて、その姿は、華やかな彼女とはかけ離れている。
「……何をしているの?」
思わず声をかけると、ユニメラはビクッと体を震わせ、顔を上げたその目元はうっすらと赤くなっている。
「あ、お姉様……」
ユニメラは、見るなり、すぐに立ち上がって頭を下げた。
「あの、この前は、ありがとうございました。お姉様のおかげで、わたくしの無実が証明されました」
「別に、お礼なんていらない。私は暇つぶしをしただけ」
冷淡に答える。
「ですが、わたくし、本当に嬉しかったです。お姉様が、わたくしを信じてくださったことが」
ユニメラの瞳に、再び涙が滲む。
(ま〜た始まった、泣き演技。もういいから、さっさと立ち去ってくれないかな。面倒くさい。鬱陶しい)
内心で舌打ちをしたけれど、ユニメラは泣き止む様子もなく、語りかけてきた。
「お姉様は、わたくしのこと、嫌いですか?」
ピクリと眉を動かした。
「嫌いとか、好きとか、そういう感情、持ち合わせていないわ」
正直に答えた。本当に、ユニメラの行動にツッコミは入れるが、彼女に対する嫌悪感からくるものではない。偽善的な部分が、琴線に触れるからこそイヤなだけ。
「そうですか」
寂しそうに微笑む笑顔は、どこか諦めているようにも見えた。
「わたくし、ずっと、お姉様に認められたいと思っていました。けれど、何をしても、お姉様はわたくしを」
ユニメラは、言葉を詰まらせた。
(認められたい?私に?なんで?皆から愛されてる令嬢なのに。私みたいな無関心な人間に認められて、どうするの?トロフィーみたいに集めないと?)
理解できなかった。いや、理解しようとも思わなかった。逆に、したくない。
「別に、認められる必要なんてないでしょ。あなたは皆に愛されているんだから。それで我慢しなさい」




