02 元婚約者である王子を奪われたことで社交界の笑い者になっていた
元婚約者である王子をユニメラに奪われたことで、社交界の笑い者になっていた。自虐ネタにすることで、この手の面倒事から逃れるのが常套手段となっている。楽々お手軽が今回ばかりは父も引かない。
「何を言うか。お前はまだ若い。これからいくらでも挽回できる。それに、ユニメラ一人では不安だろう」
「そうですよ、お姉様。ご一緒してくださると嬉しいですわ」
潤んだ瞳で見つめる。よくやる。
(出たよ、この目に弱い父と母。分かっててやってる)
「はぁ。分かりましたわ。ですが、最低限の参加でお願いします」
渋々承諾するのは、面倒事が増えるのは嫌だけどこれ以上ごねても無駄だと悟るとどうせなら、何かしら面白いことが起きればいいと薄っすら期待する自分がいるのも、事実。
慈善舞踏会当日、最低限の化粧と地味なドレスで会場に赴くとユニメラは純白のドレスに身を包み、絵画から抜け出たかのような美しさで会場の貴族たちは皆彼女に釘付けでバカを見る目に思わず、な る。
(あーあ、まぶしすぎて目が潰れそう。なんでこう、妹はいつもいつも完璧なの。もう少しドジとか、失敗とかすればいいのに。そうすれば、少しは人間味があるのにな)
黒いことを考えていると、ユニメラが挨拶のために壇上に上がった優雅な物腰と、心に染み渡るような声に、会場からは惜しみない拍手が送られる。
「皆様、本日はお忙しい中、慈善舞踏会にお越しいただき、誠にありがとうございます。わたくし、ユニメラ・ナデシュタエンは、この度、皆様の温かいご支援を賜り、微力ながらも貧しい人々のために尽力させて頂きたく存じます」
(はいはい、わたくしは天使ですアピール、ご苦労様。で、次はどんな美談を披露するつもりですかね?バカらしい)
予想通り、ユニメラは過去の慈善活動におけるエピソードを語り始め、貧しい子供たちとの交流。病に苦しむ人への支援、自身の無力さに対する葛藤の言葉は、聴衆の心に深く響いているようだ。
「はぁ、最悪……耳が汚れる」
耳を塞ぎたい。
「先日、わたくしは一人の少女に出会いました。彼女は、親を亡くし、病に倒れておりました。その姿を見た時、自分の無力さに打ちひしがれました。同時に、できることは何か、と深く考えさせられました。皆様のご協力があれば、少女を救うことができるのだと、強く心に誓ったのです」
慈悲深き妹様は、涙を浮かべながら訴えかけると会場のあちこちで、すすり泣く声が聞こえてきた。
(ま、まさか。あの時のあの子の話?ユニメラがティーカップ壊された時の?あれ、たしかに親はいないって言ってたけど、病気なんて言ってなくない?何の対応もしてなかったし、あの子。あれ?もしかして……これ盛ってる?)
思わず眉をひそめた。ユニメラの慈善活動が、実は裏でどれだけ父の資金とコネを使っているかを知っていたから、彼女の言葉はあまりにも綺麗事すぎて、反吐が出る思いだ。色々思案していた時、会場の隅で異変が起きた。一人の貴族が、急に苦しみ始めたので周りが騒ぐ。
「ぐっ……うぅ……!」
男は胸を押さえ、その場に崩れ落ちた。周囲の貴族たちが慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「医者を呼べ!」
会場は一瞬にして騒然となった。
ユニメラも壇上からその様子を見て、顔色を変える。
(お、なんか始まった。これはまさか、毒?それとも病気?どっちにしても、面白い展開になりそう)
顔には、自然とニヤリとした笑みが浮ぶのは、普段の愛され令嬢の完璧なイメージがこれで少しでも崩れてくれれば、機嫌も良くなるというものだとワクワクする。医者が駆けつけ、男の容態を診て重々しい声で告げた。
「これは……重度の魔力暴走です」
魔力暴走とは、魔法使いが魔力を制御できなくなり、体内で暴走させる現象。最悪の場合、命に関わることもある。
「ま、魔力暴走!?」
会場に動揺が広がる。貴族たちの中には、魔法使いの血を引く者も多く、魔力暴走は決して他人事ではない。起こり得ることなのだ。
「このような場で魔力暴走が起こるなど……一体何が……っ」
ざわめく中、医者が男の周囲の魔力の流れを調べ、驚いたように声を上げた。
「これは……闇魔法の痕跡が……!それも、かなり強力な闇魔法が、意識的に放たれた形跡があります!」
会場の視線がこちらに集まった。なぜなら、ナデシュタエン家で闇魔法を研究しているのは、自分だけ。
(は?よりによって、このタイミングで闇魔法の暴走?しかも、意識的に放たれた形跡って、疑ってるってこと?ふざけん。面倒くさい)
冷静を装い、視線を返すが、内心では舌打ちをしていた。どうしてこう、面倒なことに巻き込まれるのだろう。
「ティリエン様……まさか、お姉様が……?」
信じられないという目で見つめる。瞳には、疑念がはっきりと宿っていた。よく言えたものだ。
(あーあ、あの子、チャンスだと思って。悪評をさらに広めて、自分は純粋無垢な愛され令嬢の座を盤石にするつもりか。分かりやすすぎて吐き気がする。覚えておけ、許さん)
ため息をつき、一歩前に出た。不幸の兆しが這い寄ってきたのを、どう処理しようか。取り敢えず無実を晴らそう。
「なぜ、このようなことをする必要があるのですか?」
冷めた声で問いかけたら会場の貴族たちは、固唾を飲む。
「貴方は闇魔法を研究されていると聞きます。以前から社交界を嫌い、度々問題を起こしてきたのも事実でしょう?」
貴族が、糾弾するように言った。
「その問題とやらが、具体的に何を指しているのか知りませんが、魔力暴走を引き起こすような愚かな真似はしません」
きっぱりと言い放つが、言葉を信じる者は少なかった姉妹の立場は、あまりにも対照的。
「闇魔法の痕跡が……」
医者が困惑したように言う。
「闇魔法の痕跡があるからといって、犯人だと断定できるのですか?闇魔法使いは私だけではありません。それに、魔力暴走は魔力の特性や使用者の精神状態によっても引き起こされます」
冷静に反論するのは闇魔法に精通しているからこそ、それがどれほど危険でかつ繊細な魔法であるかを知っている上に、意図的に他者を魔力暴走させることは簡単なことではない。
「それに、もし私がこのようなことをしたとして、何のメリットがあるというのですか?慈善舞踏会を台無しにして皆様の反感を買って、得をするものは何もありません」
会場は静まり返った。




