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多面世界の迷い子。〜私はCUBEに救われる〜  作者: 今日の朝食
第2章 多面界 土神族編
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第2章 第7話 『旅路』


「……で、塔まで、どれくらいかかるんだよ。」

 水晶が、遠くにそびえる塔を見上げながら尋ねた。

「歩きなら、最低でも1ヶ月ってとこだな。」


「――は? 1ヶ月?」

「文句あるのか。」

「あるに決まってんだろ! なんか乗り物とかねぇのかよ!」


 アシュは、呆れたように水晶を見た。

「この世界に、車も電車もねぇよ。あったとしても、ここまで来れば分かるだろ。」


 周囲を見渡すと、確かに、道らしい道はあっても、舗装されたものではなく、荷を引く動物や、手押しの荷車がぽつぽつと行き交っているだけだった。


 外側の世界の技術は、ほとんど見当たらない。


「……でも、俺は早くこいつを元の世界に返さなきゃいけねぇ。」

 水晶は、大きくため息をついた。


「これが最速だ。文句言う暇があったら、足を動かせ。」

「うるせぇな……。」


 アシュを先頭に、三人は歩き出す。


……


 それから、三人の旅が始まった。


 アシュの案内で、いくつもの村や町を、転々としながら進んでいく。


 この一帯――CUBEの一族、土神族(どしんぞく)の治める土地は、五つの国の中でも、最も穏やかで、住みやすい場所だとアシュは言った。


 CUBEは大地の力で、質の良い土を生成している。

 それにより、畑には作物が実り、森には果実がなり、川にはおいしい魚がいる。


 道行く人々は、旅人にも親切で、時折、食べ物を分けてくれることもあった。



……


 最初にたどり着いた町は、木造の家々が斜面に沿って建ち並ぶ、小さな宿場町だった。


 石畳の道には、露店がいくつも並び、干した果物や、見たこともない色をした野菜が、山のように積まれている。


 子供たちが、道の端で、縄のようなもので跳んで遊んでいた。


 その様子は、どこか、ミオが元いた町の、駄菓子屋の前の光景と重なった。


「……なんか、懐かしい感じがする。」

 ミオが、ぽつりと呟く。


「懐かしい? ここ、初めて来た場所だろ。」

 水晶が、首を傾げた。


「うん。でも……なんか、こういう感じの町、知ってる気がして。」

 アシュは、それを聞いて、少しだけ、目を細めた。


「……人が暮らしてる場所は、どこも、似たような温かさがあるもんだ。」

 珍しく、感傷めいた言い方だった。


 水晶が、からかうように、アシュの肩を小突く。

「お前でも、そういうこと言うんだな。」

「うるさい、殴るぞ。」



……



 宿場町を抜けると、道はさらに山あいへと続いていった。


 二つ目に立ち寄った町は、川沿いに広がる、水車の音が絶えない場所だった。


 水路が町中に張り巡らされ、家々の軒先には、色とりどりの布が、洗濯物のように干されている。


「ここは、機織りが盛んな町だ。」

 アシュが、案内するように言う。

「詳しいな、ほんとに。」

 水晶が、少し訝しげに言った。


「服屋が並んでいるだろう。そこで服を買いなおしとけ。そんな格好で街を歩くと、変なやつらとして注目される。」


 アシュの格好は灰色のパーカーと杖のような細い剣を腰に据えた冒険者みたいな格好だった。

 …この格好は普通なのだろうか。


 小さな金色の宝石をいくつか渡されて、服屋に促される。

「それは土神石だ。この土地ではそれを通過としている。その大きさだと、外だと1000円くらいの価値だ。」 

 この世界にも硬化てきな物はあるらしい。


 これらの宝石の値段は入手難易度や大きさにより決まる。


水神石 1円〜1000円 

川や湖で取れる。(深さで大きさは変わる)

土神石 1000円〜10000円 

崖や岩の中にある。

火神石 10000円〜50000円 

炎やマグマの中にある。

空神石 50000円〜100000円

雲の中から取れる。

天隣石 10000円〜1000000円

入手経路不特定。 各地方で稀に発見される。


―といった感じらしい。


「ちなみに、この村の服には水神界の動物の毛がよく使われていることで有名だ。

 やつらの毛はふわふわとしており、冬には最適なものだ。それから…」

 というように、アシュはこの世界の服についても詳しく話してくれた。


「そうなのか、服とか興味なさそうなのによく知ってるな。」

水晶は特になにも考えずに言った。


…アシュは、何も答えず、ただ先を歩き続けた。


……


 ミオはクリーム色のフードつきローブを、 

 水晶は黒や濃紺の長いコートを買った。


 ミオのフードは柔らかい素材で、ちょっと子どもっぽい。

 水晶のコートには、昔の制服を思わせる肩章や金属ボタンが付いている。

 学ランみたい。


 水晶さんは、

「すげぇ!!かっこよくねぇか!?」と興奮気味に話していたけど……ちょっとダサい。


 ちなみに、アシュに見せたら店に戻せと言われた。この世界でもダサい方らしい。


 水晶は肩を落として、剣士用の服を買い直した。


……



 三つ目の町では、市場で、見知らぬ果実が売られていた。

 鮮やかな紫色をした、握りこぶし大の果実。


「これ、美味しいの?」

 ミオが、興味津々で覗き込む。

「ああ。皮を剥くと、中は甘い蜜みたいになってる。」

 アシュは、店主に何かを渡すと、その果実をいくつか受け取り、皮を剥いてミオに手渡した。


「……。」


 一口かじったミオは、目を丸くした。

「甘い……! すごく甘い!」

「だろ?」

 水晶も、一つ手に取って齧りつく。


「うおっ、んだこれ!?…クセになる甘さだな。」

 三人で、道端に座り込んで、その果実を頬張った。


「……なあ、アシュ。」

 水晶が、果実の汁で汚れた口元を拭いながら、ふと尋ねた。


「お前、なんでこの世界のこと、そんなに詳しいんだよ。」


 町の名物も、名産の果実も、当たり前のように知っている。


 まるで、この世界を、隅から隅まで、歩き尽くしたことがあるような口ぶりだった。

 アシュの手が、一瞬、止まった。


「……悪いか。」

 短く、そう返される。

「悪くはねぇけど……。」

「なら、いいだろ。」


 それ以上、話を続けさせない、拒絶するような響きがあった。


 水晶は、肩をすくめて、それ以上は聞かなかった。だが、ミオは、その様子を、少し気にかけていた。


 ――アシュは、いつも、自分のことになると、言葉を濁す。


 まるで、大事な何かを、隠しているみたいに。でも、聞いても、答えてはくれないだろう。


ミオは、そっと、残りの果実に口をつけた。



……


 旅の途中、アシュは、水晶に、簡単な戦い方を教えるようになった。


 きっかけは、四つ目の町へ向かう道中、獣道で、小さな野生動物に襲われかけたことだった。


「うわっ、うわっ!」


 水晶が、情けない声を上げながら、木の枝を振り回して逃げ惑う。

 アシュが、一撃で、その動物を追い払った。


「……お前、それでよく警察やってられたな。」


 呆れたように、アシュが言う。

「うるせぇ! こっちの世界の生き物なんて、知らねぇんだよ!」


「知ってようが知ってまいが、丸腰で突っ立ってりゃ、同じことだ。」


 アシュは、腰の得物に、軽く手をかけた。


「これから先、もっと危ねぇのが出る。お前が、いちいち逃げ惑ってたら、俺だって守りきれねぇ。」

「……つまり?」

「戦い方くらい、覚えとけ。」

 水晶は、少し驚いたように、アシュを見た。


「……お前、それ。」

「なんだよ。」

「俺のこと、心配してくれてんのか。」

 アシュの目が、僅かに泳いだ。


「勘違いすんな。俺が、いちいち守ってやる手間が省けるだけだ。」


「はいはい、そういうことにしといてやるよ。」

 ニヤニヤと笑う水晶に、アシュは、心底うんざりしたような顔をした。



……


 アシュから渡されたのは、片手で扱える、短めの剣だった。剣の自体は普通だが、水晶が振り回せないこともない重さだ。


「型なんて、気にしなくていい。とにかく、急所を守れ。相手の力を、まっすぐ受け止めるな。」

「おう。」


 水晶は、素直に、構えを真似た。


「……なあ、アシュ。お前が使ってるそれ、結局なんなんだよ。」


 水晶は、アシュの得物を、じっと見つめた。

 剣にしては、刀身が細すぎる。杖にしては、先端が鋭く尖っている。


「これか。」

 アシュは、その武器を軽く持ち上げて見せた。


「……名前は、特にねぇ。強いて言うなら、ただの"得物"だ。」

「いや、そういうことじゃなくて。」

 水晶が、身を乗り出す。


「お前、モンスター、あれ一撃で消し飛ばしてただろ。俺のこの剣と、何が違うんだよ。」

 アシュは、少し考えるように、視線を宙に泳がせた。


「……お前らの使う武器は、外側の技術で作られたもんだ。ただの鉄の塊。」

「それで?」

「これは、違う。」

 アシュは、得物の柄の部分を、指でなぞった。


「この世界の力そのものを、削り出して作られてる。だから、"歪み"にも効く。」

「この世界の力……。」

 水晶が、繰り返す。


「……お前は、まだ持てねぇよ。」

 アシュは、水晶の視線を遮るように、話を切り上げた。


「持てねぇって、どういう――」

「今は、その剣で十分だ。動け。」

 それ以上、聞かせる気はないようだった。


 水晶は、不服そうな顔をしながらも、渋々、剣を構え直した。


……


「くそっ……なんだよ、それ。」

 水晶は、ぶつぶつ言いながらも、素振りを続けた。


「もったいぶりやがって。」

「聞こえてるぞ。」

「聞こえるように言ってんだよ。」

 アシュが、ため息をつく。


「……お前、口だけは達者だな。」

「褒め言葉として受け取っとくわ。」


 二人のやり取りを、ミオは、少し離れた場所で、くすくすと笑いながら眺めていた。


「……なんだよ、ミオまで。」

 水晶が、拗ねたように言う。


「ふふ、二人とも、仲良しみたい。」

「仲良くねぇよ!」

「仲良くねぇ。」


 水晶とアシュの声が、綺麗に重なった。

 その息の合い方に、ミオは、また笑ってしまった。



……


 最初は、まるで様にならなかった水晶の動きも、日を追うごとに、少しずつ、様になっていった。


「筋はいいな。」

 アシュが、珍しく、素直に褒めた。


「……お前に褒められても、嬉しくねぇよ。」

 そう言いながらも、水晶の口元は、微かに緩んでいた。


「なあ、アシュ。」

 剣を鞘に収めながら、水晶が、ふと真面目な声で尋ねた。


「お前、なんで俺に、こんなことまで教えてくれるんだよ。」

 アシュは、少しの間、黙っていた。

「……ミオを守るなら、お前も強くなる必要がある。それだけだ。」

「それだけ、って言うわりには、丁寧に教えてくれるよな。」

「うるせぇ。教えるからには、ちゃんと教える。それだけの話だ。」

 ぶっきらぼうな言い方だったが、そこに嘘はないように、水晶には感じられた。

……

 ミオも、ただ二人を眺めているだけではなかった。

「わたしも、なにか、できないかな。」

 ある日の野営で、ミオが、そう切り出した。

「ミオが……?」

 水晶が、驚いたように言う。


「戦うのは、無理だと思うけど……。でも、何かの役に立ちたい。」

 アシュは、しばらくミオを見つめたあと、小さく頷いた。


「なら、この辺りの薬草の見分け方を、教えてやる。」

「薬草……?」

「怪我したとき、この世界の薬草があれば、傷の治りが早くなる。覚えとけ。」


 その日から、ミオは、道すがら、アシュに教わりながら、薬草を摘むようになった。


「これは?」

「それは、ただの雑草だ。」

「じゃあ、これは?」

「……それは、当たりだ。よく見つけたな。」

 小さな成功に、ミオは、嬉しそうに笑った。

「わたしにも、役に立てることがあるんだ。」

 その笑顔を見て、水晶も、アシュも、少しだけ、表情を緩めていた。



……


 夜、野営の焚き火を囲みながら、三人は、その日にあったことを、ぽつぽつと話した。


「今日の町、パン、美味かったな。」

「ミオ、三つも食ってただろ。」

「……二つだもん。」

「三つだったろ、絶対。」


 そんな他愛のないやり取りが、いつしか、旅の日常になっていた。


……


 その夜も、いつものように、焚き火のそばで、ミオがCUBEを抱いたまま、うとうとし始めたときだった。


 ――ふわり。


 腕の中で、光が、ゆっくりと強くなっていく。


「……あ。」

 ミオは、驚いて目を開けた。


『……ミオ。』


 はっきりとした、CUBEの声だった。

 前のような、途切れ途切れの、弱々しい声ではない。


「CUBE……! 元気になったの……!?」

『うん。……だいぶ、力が戻ってきた。』

 その声を聞いて、水晶とアシュも、焚き火の向こうから、こちらを見た。


「おい、本当に治ったのか。」

 水晶が、身を乗り出す。


『完全に、とは言えないけど……ちゃんと、話せるくらいには。』

 CUBEの光が、焚き火に照らされて、優しく揺れていた。


「……なんで、急に。」

 アシュが、目を細めて、CUBEを見つめた。

 その視線には、単なる興味以上の、何かがあるように見えた。


 CUBEの光が、一瞬、揺らぐ。


『……塔に、着いたら話すよ。今は、まだ。』

 どこか、言葉を選ぶような、慎重な間があった。

「……まあ、いい。」

 アシュは、それ以上、追及しなかった。

 だが、その目は、まだ、CUBEをじっと見つめたままだった。


 何かを、確かめるように。


……


 ミオは、CUBEを、そっと両手で包み込んだ。


「おかえり、CUBE。」

『……うん。ただいま。』

 その声には、確かな温かさがあった。


「なあ、CUBE。」

 水晶が、腕を組みながら尋ねる。


「お前が元気になったら、俺らも少しは楽になんのか。」


『……たぶん、ね。』

「たぶんって、頼りねぇな。」

「水晶、贅沢言わない。」

 ミオが、たしなめるように言った。


「はいはい。」

 その掛け合いに、焚き火のパチパチという音が、静かに重なる。


 焚き火の炎が、揺れる。


 夜空には、見たこともない配置の星々が、瞬いていた。

 塔までの道のりは、まだ長い。


 それでも、ミオの心は、来たときよりも、少しだけ、軽くなっていた。


 ――アシュと水晶の、賑やかなやり取り。

 ――少しずつ、役に立てることが増えていく実感。

 ――そして、目を覚ましたCUBEの、温かい声。


 この旅が、いつまでも、続けばいいのに。

 ミオは、そんなことを思いながら、静かに、目を閉じた。



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― 新着の感想 ―
投稿お疲れ様です!第7話まで読ませていただきました。重いテーマを扱いながらも、CUBEや水晶、アシュとの温かいやり取りに心が和みます。キャラクターそれぞれの個性が生きていて、掛け合いを読むのが楽しみで…
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