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多面世界の迷い子 〜私はCUBEに救われる〜  作者: 今日の朝食
第3章 多面界 火神界編
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第3章 第16話 『冒険者ども』


 朝日が、隠れ家の窓から差し込んでくる。


 ミオは、屋根裏で目を覚ました。隣には、まだ眠るCUBEの光が、穏やかに揺れている。


 「……おはよう、CUBE。」

 『うん……おはよう。』

 CUBEが、ぼんやりとした声で答える。

 階下から、いつもの二人の声が聞こえてきた。


 「……おい、まだ起きねぇのか。」

 「ガキだ。寝坊ぐらい許せ。」

 「お前が甘ぇんだよ。」

 ミオはくすっと笑いながら階段を降りた。


 「おはようございます。」

 「おう、やっと起きたか。」

水晶が、パンを齧りながら手を振る。


 「朝飯、あるぞ。」

 「ありがとうございます。」

 テーブルの向こうで、レオンが足を組んで座っていた。


 ………


 「……そういえば、俺、まともに名乗ってなかったな。」


 レオンが、パンの欠片を口に放り込みながら言った。


 「改めて、レオン・バレット。冒険者だ。階級は……まあ、中の上ってところかな。」


 「バレット……?」

 「ああ。銃って意味だ。親父が拳銃職人でな。……ま、俺は武器より足の方が性に合ってるが。」

 レオンは、自分のブーツをトンと指で叩いた。黒い鉄板が、鈍く光る。


 「こいつが俺の武器だ。鉄のブーツ。重い分、威力は抜群だぜ。」

 「……脚で戦うの?」

 ミオが、目を丸くする。


 「ああ。蹴り一本。腕は、落とした金貨を拾うためにある。」

 「……変なやつだな。」

 水晶が、呆れたように言うと、レオンは肩をすくめた。


 「言ってろ。……んで、今日の予定だが。」

 レオンは、指を一本立てた。


 「まず、冒険者の溜まり場に行く。酒場『焔亭』ってところだ。ルール・フォーカスの噂を探るには、あそこが一番早い。」


 「……その後は?」

 「依頼を受ける。」

 「依頼?」

 突然のことに驚く水晶。


 「ああ。お前ら、金がねぇだろ。火神界じゃ、物も宿も高い。……幸い、祭りの時期は歪みの討伐依頼が多い。火神石が取れるからな。」


 『火神石……。』

 CUBEが、小さく呟いた。


 『火神界の歪みを倒すと、体の核が結晶化して残るんだ。高級品だよ。一つで、一万から十万の価値がある。』


 「じゅ、十万……!?」

 ミオが、声を上げる。


 「おう。だから腕のいい冒険者は、この時期に火神界へ集まる。……荒稼ぎの季節ってわけだ。」

 レオンは、立ち上がった。


 「さ、行くぞ。まずは『焔亭(ほむらてい)だ。」


………


 『焔亭(ほむらてい)』は、街の中心から少し外れた、石造りの大きな酒場だった。


 扉を開けると、朝っぱらから酒の匂いと人声が飛び込んでくる。

 鎧を着た男たち、杖を抱えた女たち。


 店内の壁には、依頼の書かれた紙が何十枚も貼られていた。


 「……これが、冒険者の集まる場所。」

 ミオは、目を見開いた。


 こんなにたくさんの人が、剣を持ち、魔物と戦っている。

 この世界には、自分の知らない「仕事」があった。


 「よう、レオン!生きてたのか!」

 「おう、バルガ!相変わらずデケェ声だな!」


 レオンは、何人もの冒険者と言葉を交わしていく。

 ミオは、その後ろを、水晶とアシュに挟まれるようにして歩いた。


 「……人気者なんだな、あいつ。」

 水晶が、半分呆れた顔で言う。


 「……悪くない。」

 アシュが、短く答えた。


 奥のテーブルに座ると、レオンは早速、隣の席の冒険者に声をかけた。


 「なあ、少し聞きてぇんだが。……ルール・フォーカスって名前、覚えてるか?」

 その瞬間、周囲の空気が、微かに凍った。


 「……おいおい、レオン。お前、その名前をここで出すのか。」

 「悪ぃ。こいつらがどうしても知りてぇんだとよ。」

 年配の冒険者が、ジョッキを置いて、声を潜めた。


 「……あの人は英雄だった。十年前、俺らの何人もが、あの人に助けられた。……だが、消えた日から、火神族はあの名前を禁じた。な。」

 「どうしてだと思う?」

 「……知らん。ただ、一つだけ変な話がある。」

 冒険者は、顔を近づけた。


 「あの人が消えた夜、王宮の方角に、空まで届くほどの大きな火柱が上がったらしい。……そして翌日、族長さまは『ルール・フォーカスは魔物に殺された』と発表した。だが、遺体は誰も見ていない。」


 「……殺された、と発表だけ。」

 「ああ。それ以来、火神族の上層部は、あの件を一切語らねぇ。」

 ミオは、CUBEをそっと握りしめた。


 『……火柱。』

 CUBEの声が、震えた。


 『ボクの中に、何か……引っかかる。でも、まだ、思い出せない。』

 「……無理しなくていいよ。」

 ミオは、小さく撫でた。


 ………


 情報収集の後、レオンは壁の依頼紙を一枚剥がしてきた。


 「これだ。火山の森の歪み討伐。報酬は討伐数で変動。……火神石は、取ったもん勝ちだ。」

 「火山の、森……?」


 「ああ。街の西にある、荒廃した森だ。昔の噴火で、木がみんな黒く炭化してな。……そこに、炎を纏った歪みが巣食ってる。」


 「炎を纏う、だと?」

 水晶が、眉を寄せる。


 「通常の歪みより厄介だぞ。」

 「だから報酬が高いんだよ。」

 レオンは、にやりと笑った。


 「どうだ。本気の初仕事、してみるか?」

 ミオは、水晶を見た。水晶は、アシュを見た。アシュは、無言で頷いた。


 「……行こう。」

 ミオが、小さく。でも、はっきりと言った。


 ………


 火山の森は、言葉通り、死んだ森だった。


 黒く炭化した木々が、骨のように立ち並び、足元は灰と黒い岩で覆われている。空気は乾き、どこか硫黄の匂いがした。


 「……すごいところだな。」

 水晶が、辺りを見回す。


 「静かすぎる。」

 アシュが、警戒するように目を細めた。


 ――その瞬間だった。


 「――ッ!!」

 炭化した木の影から、火の塊が飛び出してきた。


 灰色の体に、燃え盛る炎。火神界の歪みだった。これまでの歪みより一回り大きく、全身が赤く光っている。


 「来るぞ!」

 レオンが叫ぶ。

 水晶が真っ先に剣を構え、飛び込んだ。


 「――でりゃあ!」

 剣が、炎の体に叩き込まれる。火花が散り、歪みがのけぞった。


 「アシュ!援護!」

 「ああ。」

 アシュが、凪刀を振る。風の刃が、歪みへと走った。


 ――だが。

 風に乗って、炎が、ボッと大きく膨れ上がった。


 「――っ!?」

 燃え盛った歪みが、より勢いを増して突進してくる。


 「ちょっと待て、アシュ!お前の風、火を強くしてるぞ!」

 水晶が叫ぶ。


 「……む。」

 アシュが、僅かに眉を寄せた。


 「む、じゃねぇよ!風が火を煽ってんだよ、お前は役立たずか!」

 「……言ったな。」

 アシュの目が、細くなる。


 次の瞬間、突風が水晶を直撃した。


 「うわっ!?」

 水晶の体が、ふわりと浮いて、数メートル後ろの黒い岩に背中から激突する。


 「――お、おい、アシュ!!何しやがる!!」

 「……手加減した。」

 「してねぇだろ!!」

 その間にも、歪みが迫る。


 「はいはい、喧嘩は後だ!」

 レオンが、地面を蹴った。

 鉄のブーツが、風を切る。


 「――おりゃあ!」

 鋭い回し蹴りが、歪みの側頭部に炸裂した。

 ドゴッ、という鈍い音。歪みの体が、大きく横に跳ぶ。


 「す、すごい……。」

 ミオが、息を呑む。


 レオンの動きは、剣とは違う。踏み込み、軸足を回し、蹴り上げる。体重ごと乗せた蹴りが、炎の体を容赦なく削っていく。


 「――火は怖いか?残念。俺のブーツは、鉄でできてんだよ!」


 レオンが、空中で体を一回転させ、かかと落としを歪みの頭部に叩き込んだ。

 炎が、大きく散る。


 「水晶!起きろ!追撃だ!」

 「……ちっ、わかってるよ!」


 岩から起き上がった水晶が、剣を構え直す。


 「火は水が――ねぇんだからよ、力づくで潰すしかねぇ!」


 水晶の剣と、レオンの蹴りが、交互に歪みへ叩き込まれる。

 炎が、少しずつ、小さくなっていく。


 「――今だ!」


 水晶の渾身の一撃が、歪みの中心を貫いた。

 炎が、パチパチと音を立てて消えていく。

 残ったのは、赤く輝く結晶だった。


 「……おおっと。」

 レオンが、それを拾い上げる。


 「火神石。……しかも上物だ。これ、五万はいくぞ。」

 「ご、ごまん……。」

 ミオは、目を見開いた。


 「よっし、調子出てきたな。次い――」

 レオンの言葉が、途中で止まった。

 ――地面が、震えていた。


 「……おい。」

 水晶の顔色が、変わる。


 炭化した木々の間から、ゆっくりと、巨大な影が立ち上がった。


 これまでの歪みとは、比べものにならない。


 身の丈は大人の三倍以上。全身に燃え盛る炎は、黒ずんだ赤色をしていて、近づくだけで肌が焼けるような熱を放っている。


 「……げ。番い(ツガイ)じゃねぇか。」

 レオンが、舌打ちした。


 「番い……?」

 「強い歪みが巣を作ると、たまに現れるんだ。親玉だ。……俺ら四人で、どうにかなる相手じゃねぇ。」


 「逃げるか?」

 アシュが、静かに尋ねる。

 レオンは、一瞬考え、首を横に振った。


 「……いや。こいつを放置したら、祭りの街に流れ込む。……やるぞ。」


 「了解。」「おう!」

 アシュと水晶が、左右に散る。


 巨大な歪みが、咆哮を上げた。炎の腕が、振り下ろされる。


 「――伏せろ!」


 地面が、焼けた。熱波が、一行の上を薙いでいく。

 「アシュ!風は使うな!火がデカくなる!」

 「……わかってる。」


 アシュは、風を纏わせず、凪刀そのものの切れ味で、歪みの足元を攻め始めた。


 「水晶!お前は左だ!」

 「ああ!」

 水晶が、左側面から剣を叩き込む。レオンが、右から回し蹴りを放つ。


 「ミオは下がって――」

 「……だめ。」


 ミオが、CUBEを抱きしめて、前に出た。


 「わたしも、戦う。」

 『……うん。行こう、ミオ。』

 CUBEの光が、ミオの両手に集まる。


 「――はっ!」


 光の刃が、巨大な歪みの胸に飛んだ。


 炎に阻まれて、威力は小さい。それでも、歪みの注意が、一瞬、ミオへ向いた。


 ――その隙だった。


 「――隙あり!」

 レオンが、全力で跳躍した。


 鉄のブーツが、炎の中を突き抜け、歪みの顔面に、渾身の回し蹴りを叩き込んだ。


 「――ミオ!もう一発だ!」

 「うん!」


 ミオの放った光と、アシュの凪刀の一閃が、同時に歪みの胸を貫く。


 「――とどめだぁぁ!!」


 水晶が、大きく跳び上がり、両手で握った剣を、歪みの頭頂へと叩き下ろした。


 ドォォン、という重い音。

 巨大な歪みの体が、ゆっくりと崩れていく。


 炎が消え、大きな火神石が、ゴロリと地面に転がった。


 ………


 「……や、やった……。」

 ミオが、膝をつきながら、息を吐いた。


「……やったな。」

 水晶が、隣に座り込む。顔は汗と灰で真っ黒だった。


 「おい、俺の活躍見たかよ。最後の蹴り、決まってたろ。」

 レオンが、火神石を拾い上げながら言う。


 「うるせぇ。とどめは俺だ。」

 『はいはい、二人ともかっこよかったよー。』

 言い合う2人をCUBEがなだめる。


 アシュは、凪刀を納めながら、珍しく口角を上げている。

 四人は、顔を見合わせて、小さく笑った。


 ――その背後。


 炭化した巨木の影に、一つの人影が立っていた。

 誰も、気づいていない。

 人影は、四人の姿をじっと見つめていた。

 やがて、その口元が、吊り上がった。 


 「……ふふ。」

 小さな、小さな笑い声。

 それは、風に紛れて、誰の耳にも届かなかった。



 ………


 夜。


 火神族の街は、祭りの最高潮を迎えていた。


 太鼓の音。笛の音色。

 空に上がる、大きな花火。


 討伐の報酬を受け取った四人は、祭りの屋台を冷やかしながら歩いていた。


 「ほら、ミオ。焼きリンゴだ。うめぇぞ。」

 水晶が、串に刺さった焼きリンゴを差し出す。



 「……ありがとう!」

 ミオが、大きく一口かじる。甘酸っぱい果汁が、口いっぱいに広がった。


 「うん、美味しい……!」

 「だろ!」


 レオンは、射的の屋台で見事に景品を落とし、子供たちに得意げに配っていた。

 アシュは、少し離れた場所で、たこ焼きのようなものを無言で頬張っている。


 『……ミオ。』

 CUBEが、静かに声をかけた。


 『なんだか……いいね。こういうの。』

 「うん。」

 ミオは、笑った。


 花火が、ドンと大きく上がる。

 空一面に、赤や金の光が広がった。


 「……おおー。」

 「デケェな!」


 「……きれい。」

 四人と一つは、並んで、夜空を見上げていた。


 ミオは、ふと思った。


 今日はたくさんのことがあった。

 ルール・フォーカスの、不穏な噂。強くて怖い、炎の歪み。

 ミオにとって初めてで、怖いことなどはたくさんあった。


 ――でも。

 今、この瞬間は。


 「……みんながいるから、大丈夫。」

 ミオは、小さく呟いた。


 花火の光が、四人の顔を、明るく照らしていた。


どうもこんにちは、今日の朝食です。


今回は、新キャラも登場させて、バトルに力を入れて描いてみました!

やっぱり結構難しいです…。


今回の話しが面白いと思ったら、感想をぜひ送ってください!

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