51話 スケベ草、恐るるに足らず
さてどうしたものか。
セラフィンはスケベ草もといダンジョン植物のつるに絡めとられている。いや、あのうねうね具合、つると言うより触手か。そして触手を切るのに俺の槍は不向きで、ご存じの通り魔術はしょぼい。
小さな火を何個も出してファイヤーもいいけど、生きてる植物って燃えにくいよな。苔ムカデはよく燃えたけど、あれはたぶん特殊なケースだ。スケベ草にもその特殊性を賭けて火を放ってもいいかもしれないが、その場合はセラフィンも一緒に燃える。うん、よくない。やっぱりダンジョンで火はいかんな。
砂をぶつけたところでダメージを与えることはできないし、目つぶしなんてものにもならない。水とか打ったら逆に喜びそうだ。ふたつを合わせた泥団子弾はできそうだけど、あいつらに打撃はあんまり利かないんだよな。弾力性があるっていうか。根本の固いとこなら多少いけるかな。
ふと頭に浮かんだのは、少し前に対峙した兵長アリ。あいつは圧縮した風を飛ばしてとんでもない攻撃をしてきた。あれだったらあの植物もぶった切ることができそうだ。少し考えてから手の上に風を出してみる。一瞬ふわっとする風量だ。いくつか出してみてもふわふわふわっと心地いい風が吹くだけ。砂と同じように硬化してみようとしてもうまくいかない。
「うむむ」
斬撃のように飛ばすのは無理そうだと痛感する。砂ツバメたちみたいに自由には動かせない。練習すれば多少はいけそうな感じがするけど、今すぐどうこうできるものではなさそうだ。
「今の俺でできることと言えば……」
巨大スライムと対峙した時のように、ナイフ状にした砂をひたすら当てるのはどうか。悪くはないけど、ちぎれるまでの間に獲物としてロックオンされそうだ。せめてスライムの核みたいな弱点があればと思うが、残念ながらそのようなものは発見されていない。
改めてセラフィンが捕らえられている様子を観察する。
一本の太い茎が地面から生えていて、そこから枝分かれした複数のつるがセラフィンを拘束している。あられもない男の開脚姿など見ていて楽しくもないが、よく見ると合計5本のつるがセラフィンに巻き付いていた。
ダンジョン植物は基本的に動かない。つるを鞭のようにして攻撃してくることもあるけれど、本体は固定だ。だからそこを刃物で本体やつるを狙うのがセオリーで。
助力を乞いたいが周囲に人は見当たらない。
もちろんトムじいが助けに来てくれそうな気配もない。
そして大事なことは、あのスケベ草を倒しきる必要はなく、セラフィンを救出できればそれでいいということだ。拘束を解き、セラフィンを連れてスケベ草が届かないところまで逃げることができれば勝ち。
(槍で攻撃して、すぐ逃げる。これを繰り返す)
腹が決まれば自然と槍を構えていた。
「ファティマは周囲の警戒を頼む。異変があったらすぐに教えて」
「わかった」
返事と同時に一歩踏み出した。砂盾をひとつ出し、ふいの攻撃に備える。そのまま間合いを詰めてまずは突きで一撃。やはり硬い。しかし繊維の断ち切れる感触はある。俺はそのまま穂先を横にはらい傷口を広げた。その瞬間、巨大スケベ草が大きく震えるのが見えた。効いてる効いてる。そして攻撃されたことで俺を認識したのだろう。セラフィンを拘束していたうちの一本が俺に向かってつるを伸ばしてきた。思ったより動きが速い。
「なんの!」
当然のように叩き落とし、槍の柄を握り直す。トムじいとの稽古を思えばどうってことないぞ。攻撃速度は早いけど単純でひねりがない。距離をとってからもう一度攻撃を入れると、俺を捕まえようとするつるが2本に増えた。よしよし、いい感じだ。一本は槍で払い落とし、もう一本は砂盾をわざと貫通させ、直後に硬化して動きを封じてみた。その場でぴたりとかたまる触手。
例え植物でもぴんと張ったロープ状なら槍でも切断できるかもと、俺はすぐさま刃を振り下ろした。女の俺に力はない。だからこそ力まず、体のしなりを使って最大限のパワーを引き出す。正直できているかは分からないけどね。
直径2センチほどのつるがブチンと切れた。切れたけど、つるの先端近くを切っただけで、本体のダメージにはならないだろう。たんに嫌がらせだ。俺にヘイトが向かえば上々。その分意識がそれてセラフィンが自力で抜け出せる可能性が上がる。
「聞こえるかセラフィン! いけそうなら自分で逃げろよ!」
確実にセラフィンの拘束が弱まっている。あともう一本解くことができたら地面に足が着くだろう。
あいつはダンジョン連盟の調査員だ。無事に地上へ返してこのダンジョンの異常をきちんと報告してもらわないといけない。それにエリオたちと合流してほしい。一時的とは言えファティマやジョンたちが在籍するパーティーだ。知り合いが困っていたら手伝うってのが人情だろう。
距離をとって再び槍を構える。
スケベ草よ、切り刻まれたくなかったらさっさとセラフィンを離すことだな!




