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ダンジョンの奥底、女になった俺  作者: 猫の玉三郎


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50/52

50話 これはフラグじゃないぞ!

 起きたファティマにことの顛末を説明し、トムじいがいなくなったことも伝えた。そして待っていてくれたこと、回復の術を施してくれたことへ感謝を伝える。


「ファティマのおかげですっかり元気になったよ。本当にありがとう」

「いいの。これが私の役割だから」


 それから少しだけ話をした。

 ファティマはやはり野良の回復術師で、今はあちこちのパーティーを渡り歩いているらしい。


「ひとつの所に腰を落ち着けようとは思わない?」

「……私のことは誰も必要としていないわ。ろくでもない人間だもの。回復師としてあちこち手伝うことができればそれでいい」

「俺はみんながファティマを仲間に欲しがってると思うけどね」

「そうかしら」

「そうだよ」


 なんていうか、ファティマは自分をひどく罰している感じがある。きっと過去に色々あったんだろう。人間だれしも背負ってるものがあるんだ。どれだけ他人から見たら普通でも、悩みとは無縁そうでも、その人が背負っている重さやしんどさはその人にしか分からない。だから全部を理解するなんてできないけど……ほんのちょっとでもファティマに寄り添うことができればいいなと思う。


「あんまりうまく言えないけど……もし昔になんかやらかしたとしてもさ。それをダメなことだったって自覚して、いちから頑張ってるんだったらそれはすごいことだよ」


 きついと思うんだ。今をどんなに頑張っていても、ふとした時に過去の所業を思い出してしまう。大なり小なりみんな同じ経験はあるよね。ファティマの過去はわからないけど、それをのみ込んで前を向くって簡単なことじゃないと思う。それが嫌で、ふてくされて不真面目に生きることも、自分のせいじゃないって開き直ることもできた。俺は根がお気楽だから開き直ることもあるよ。あれは仕方なかったんだって言って忘れようとするんだ。でもファティマはそうじゃなさそう。


「ファティマはよく頑張ってるよ」

「……うん」


 それに、自分が悪いって思う子は、その子が思う以上に環境が悪かったりする。あまり自分を責めすぎないでほしいな。


 すると突然、ファティマが俺の頭をなでなでし始めた。表情乏しいグラマラスお姉さんがペットを可愛がるかのように熱心になでなでしている。んん、もしかして照れ隠しか。そうだったら甘んじて受け入れてやらねばいけないな。俺がにへらと笑うと、ファティマの撫でる手がいっそう早く動いた。


「シュルスはこれからどうするの?」

「とりあえず仲間のとこに戻るよ。そんで腕試ししてもらって、合格ならパーティー残留、不合格なら……まあその時に考える」


 実際そうなったらショックで半日は放心状態になる自信がある。泣いちゃうかも。そしてなぜかファティマは「放逐されたら私と一緒にいましょう」と真顔で言ってくる。冗談だろうけど悪くない気もした。


「シュルスって不思議だわ。私、こんなふうだから同性ってちょっと苦手だったんだけど……あなたはそんなこと全然ない」


 そりゃあ元男だからね。

 なんてこと言えるわけもなく、ふへへと笑ってごまかした。せめてなんか気の利いたことを言いたかったけれど。


「お、俺もきれいな女の人とは縁がなくて一緒にいたら緊張するんだけどさ、ファティマはなんていうか、その…………ごめんやっぱり緊張するかも」

「ふふ」


 無表情がデフォの人間がたまに見せる笑顔って、ずるいと思うの。

 熱くなった頬をぬぐいながら、俺は天を見上げた。今はごつごつとした厚い岩しか見えないけれど、この何層も上に人々が生活する場所がある。


 死に直面して、自分の未練に改めて気づくことできた。

 やっぱり俺はアベルたちと一緒にいたい。前と同じようにとはいかなくても役に立ちたい。そんでもってまたみんなでいろんな所を冒険したい。俺のポジションに別の男なんて入れてほしくないってのは単なるワガママで、俺も口には出さないけど、それはそれとして自分の本心を知った。


「帰ろうか」

「そうね」


 そんな時に聞こえてきたのは「にょええええええっ!」というなんともマヌケな悲鳴だった。




 ◇




 マヌケでも悲鳴には違いないので、ファティマと一緒に辺りを捜索することにした。

 このダンジョンはもともと地下7階まで。しかし7階地面の一部が崩落し、新たに地下8階エリアが出現した。フロアボスはゴーレムで、トムじいとふたりでちょっかいを出して死にかけた。現在また地下7階にとどまっている。7階はもともとごつごつした岩場からなる迷路状のエリアだったが、状況が変わったのか一部6階にいるはずの巨大植物がちらほら見受けられた。そのだいたいが人を殺せるダンジョン植物だ。植物と言えど、最悪の場合つるで拘束されて圧死、分泌液で溺死、謎の花粉成分で精神錯乱。虫や動物型の魔物とはまた違った厄介さがある。


「さっきの声、もしかしたらセラフィンかもしれない」

「セラフィン?」


 それはダンジョン連盟から派遣された調査員セラフィン・ヴァルム。ファティマたちとともにダンジョンを調査していたが、地下7階の崩落が原因で現在絶賛行方不明中。ファティマが言うにはいかにも研究職っぽい線の細い男らしいが、まさか連盟の人が魔物に襲われているなんてことは――


「だ、だれかあ……助けてくれええ……!」


 しっかり襲われていた。


 その男は巨大なつる植物に体をぎちぎちに絞められ宙に浮いていた。腕で首を守っているので窒息は免れているが、消化液のせいなのか服があちらこちら溶けて肌が露出している。これは、あれだ。冒険者の間でスケベ草と呼ばれているやつだ。これには数々の男たちがあられもない姿にさせられたと聞いている。もしや女性が被害にあっているかもしれないと見に行って捕まるパターンがほとんどだそうだ。ただここまで大きいものは久しぶりに見た。死人が出るレベルだろう。このダンジョンにこの規模のスケベ草はなかったと記憶しているが。


 いやそんなことより!!


「んああああ絶対斧だろこれ! 斧でぶった切るやつだろ!! くっそなんで斧が使えないんだ俺は……!!」


 こんな斧が活きるシチュエーションなかなかないのに。ああ悔しい。

 しかしどうやって助けようか。槍は切断するのに向いてないし、ナイフでちまちまやってたらこちらがスケベ草の餌食になりそうだ。というかなんでそんな事になってるんだ。


「ちょっとだけサンプルとろうと思ったら、なんかこうなっててえ……!」


 いわく、ファティマたちと分断されてしばらくはセオリー通りに単独での帰還はせず、救助を待って大人しく過ごしていたんだとか。しかし崩落後の地形や出現する魔物の変化に好奇心と調査の手が止められず、結果今に至ると。


「あんた調査員なんだからそれが危ないって知ってんだろ!」

「申し訳ない!」


 即座に謝ったセラフィンだが、すでにあられもない恰好で面子も尊厳もあったものではない。なんだそのポーズは。なんだそのはだけ具合は。俺だったら恥かしくて泣いちゃうよ。


「あ、痛い痛い痛い! 苦しいって! ちょ、誰か、助けてええっ!!」


 セラフィンを締め上げるスケベ草。

 周囲に他の人間はおらず、応援は期待できないだろう。

 そして様子を見る限りあまり悠長に構えている時間はなさそうだ。


 くそ、俺にできるのか。

 スケベ草の餌食にならずセラフィンを助けだすなんてことが。


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