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干物系チャラ男男装令嬢の双子騎士は、今日も騒動を満喫中  作者: 織村蜜柑


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3/7

双子が初めてレティシアの秘密の男装ごっこに付き合わされる日

レティシアが「へんなお嬢様」から「たぶん放っておけないへんなお嬢様」に変わってから、双子は何度かいっしょに遊ぶようになっていた。

木の多い庭の奥へ行ったり、花壇の裏にしゃがんで虫を見たり、誰にも言わずに“ひみつのばしょ”を増やしたり。

だいたい、最初に何かを思いつくのはレティシアだった。

オスカーは「やる!」と言う。

エルマーは「だめだろ」と言う。

でも、最終的には三人でやる。

そういう形が、もうできはじめていた。


そしてその日もまた、レティシアが最初だった。

「ねえ、こっちきて」

庭のすみで呼ばれて、双子はそろって振り向いた。

レティシアがいた。

いつもみたいなふわふわしたお嬢さまの服ではなく、今日は動きやすそうな服を着ている。といっても、まだちゃんと女の子の服ではある。

でも、妙だった。

レティシアは声をひそめて、きょろきょろしていた。

「なに?」

オスカーが聞く。

「ひみつ」

レティシアが言う。

「ひみつ?」

「そう。とくべつの」

そう言って、レティシアはふたりの手を引っぱった。

「ちょ、まって」

「どこいくの?」

「いいから、きて」


連れていかれたのは、アルヴェール家の屋敷のはしにある、小さな空き部屋みたいなところだった。使っていないのか、家具には白い布がかかっていて、窓から細い光が入っている。

部屋に入るなり、レティシアはくるっと振り向いた。

「ここなら、だいじょうぶ」

「なにが?」

エルマーが聞く。

「だれもこないの」

「なんで、こんなとこにきたんだよ」

「みせたいものがあるの」

レティシアは得意そうだった。

それから部屋のすみの箱を、ごそごそとさぐりはじめる。中から出てきたのは、つばのある小さな帽子、男の子用みたいな上着、古い革のベルト、それから短い布。

双子はならんで、それを見た。

「……なに、それ」

「へんそう」

レティシアが言った。

「へんそう?」

「そう。おとこのこになるの」

「は?」

エルマーが言う。

「えっ、すごい」

オスカーが言う。

レティシアは帽子をかぶって、胸を張った。

「どう?」

「どうって」

エルマーは言葉につまる。

「まだ、おじょうさまだろ」

「いまからなるの!」

そう言って、レティシアは上着をばさっと羽織った。少し大きい。たぶん使用人の子か、誰かの古着なのだろう。袖が長くて、手が半分隠れている。

でも、本人はとても満足そうだった。

「ほら」

「……ほらっていわれても」

「まだ、よくわかんない」

オスカーが正直に言う。

レティシアはむっとした。

「じゃあ、これも」

今度は短い布を取り出して、長い髪をぎゅっぎゅっとまとめはじめる。結ぶのはまだ下手で、途中で何度かほどけた。

「いた」

「おい、ひっぱりすぎだろ」

エルマーが言う。

「へいき」

「へいきじゃなさそう」

「これくらい、だいじょうぶ」

オスカーが近づいた。

「やってあげようか?」

「できるの?」

「わかんない」

「わかんないのかよ」

エルマーが言う。

「でも、やってみる」

「やる!」

なぜ嬉しそうなんだ。

けれど、オスカーは案外器用だった。レティシアの髪を後ろでまとめて、布でくるっとしばる。少しぐしゃっとしていたけれど、さっきよりはずっとましだ。

「できた」

「ほんと?」

レティシアが聞く。

「たぶん」

「おまえまでたぶんっていうな」

レティシアは部屋のすみにあった小さな鏡の前へ走った。

鏡をのぞきこんで、ぱちっと目を見開く。

「……いい!」

「いいの?」

「いいわ!」

「よかったな」

オスカーが言う。

「よくないだろ」

エルマーが言う。

レティシアはくるっと振り返った。

帽子をかぶって、髪をまとめて、大きめの上着を羽織っている。たしかに、さっきよりちょっとだけ雰囲気がちがった。


きれいなお嬢さま、というより、いたずらをたくらんでる子ども、という感じだ。

「おとこのこにみえる?」

レティシアが聞いた。

「ちょっと」

オスカーが言う。

「ちょっとだけ」

エルマーも言う。

「ちょっとかあ」

「でも、ちがう」

オスカーが言う。

「なにが?」

「おじょうさまのかおしてる」

「えー」

「だって、きれいだし」

「それは、どうしようもないだろ」

エルマーが言う。

「そうなの?」

レティシアが聞く。

「そうだろ」

「でも、もっと、おとこのこっぽくしたい」

レティシアは考えこんだ。

それから、すっと顎を上げた。

「こう?」

低い声を出そうとしているらしい。

「へん」

エルマーが言う。

「へんだね」

オスカーも言う。

「へんじゃない!」

「へん」

「ぜんぜんへん」

「なんでよ!」

レティシアはふくれた。

でも、すぐにまた鏡を見て、自分でちょっと笑う。

「……ちょっと、へん」

「だろ」

「もうちょっと、かっこよくしたいの」

オスカーが目をきらきらさせた。

「じゃあ、あるきかた!」

「あるきかた?」

「うん。こう、どんどんって」

オスカーが肩をいからせて歩いてみせる。

「へん」

今度はレティシアが言った。

「えー」

「それ、おおきすぎる」

「そう?」

「くまみたい」

エルマーが言う。

「くま!?」

レティシアは笑った。

「じゃあ、エルマーは?」

「なんでおれ」

「いちばん、ちゃんとしてるから」

「ちゃんとしてる?」

「うん。おとこのこっぽい」

「いや、おとこだけど」

「そうじゃなくて!」

レティシアは両手をぱたぱたさせた。

「ちゃんとしてるかんじ。しゅっとしてるかんじ」

「しゅっとってなんだよ」

「しゅっとは、しゅっとよ」

「せつめいになってない」

でも、エルマーは少しだけ考えてから、部屋のはしまで歩いてみせた。背筋をのばして、足音をあまり立てずに。

レティシアは目を丸くする。

「それ!」

「え?」

「それがいい」

「これ?」

「うん。なんか、できるひとっぽい」

「できるひと」

「それ、いいな」

オスカーが言う。

「なんでおまえまできに入ってるんだ」

レティシアは鏡の前に戻って、今度はエルマーのまねをして歩きはじめた。帽子が少しずれて、上着の裾がひらひらしたけれど、さっきの“お嬢さま”感は少しだけ薄れた。

「どう?」

「さっきよりいい!」

オスカーが言う。

「……まあ、さっきよりは」

エルマーも言う。

レティシアは満足そうに笑った。

「やった」

「で、なんでそんなことしてるんだ?」

エルマーが聞いた。

レティシアは鏡を見ながら答える。

「だって、おんなのこのふく、うごきにくいんだもの」

「それは、まあ」

「はしると、つかまるし」

「つかまる?」

「みんな、レティシアさま、っていうでしょ」

「いうだろ」

「それが、ちょっと、じゃま」

「じゃまっていうなよ」

「でも、ほんとだもん」

レティシアは帽子のつばを指でつまんだ。

「おとこのこなら、もっと、すきにいけるかも」

「どこに?」

オスカーが聞く。

「いろんなとこ」

「ろくでもないかおしてるぞ」

エルマーが言う。

「してない」

「してる」

「してない」

「してるって」

「……ちょっとだけ」

その“ちょっとだけ”が一番だめなのだ。

けれど、レティシアはすごく楽しそうだった。


「ねえ」

「なに?」

オスカーが聞く。

「ひみつにしてね」

「ひみつ?」

「うん。だれにもいっちゃだめ」

「なんで?」

「まだ、れんしゅうちゅうだから」

「れんしゅうちゅう……」

オスカーはすぐうなずく。

「いいよ」

「おまえ、すぐこたえるな」

「だって、ひみつって、いいじゃん」

「よくはない」

レティシアはエルマーの前まで来た。

「エルマーも」

「……」

「だめ?」

「だめっていうと、どうせやるだろ」

「やる」

「ほらな」

「でも、ひみつにはしてほしい」

「……」

「エルマー」

「……わかった」

「ほんと?」

「だれにもいわない。でも——」

「でも?」

「ひとりでやるな」

「え?」

「そのへんそう。ひとりでかってにやるなよ」

「なんで?」

「なんでって……なんか、あぶないから」

「またそれ」

「またそれでいい」

レティシアはちょっとだけ首をかしげて、それからにっこりした。

「じゃあ、いっしょにやる」

「いや、そうじゃなくて」

「ほんと?」

オスカーが言う。

「おれも?」

「うん!」

「やった!」

「やったじゃない」

レティシアはうれしそうに、ふたりの手をつかんだ。

「じゃあ、これは、わたしたちだけのひみつね」

「ひみつ」

オスカーが笑う。

「ひみつ、な」

エルマーが言う。


その時、部屋の外から足音がした。

「レティシアさま?」

「っ」

「やばい」

オスカーが言う。

「きた」

エルマーが言う。

「しずかに!」

レティシアはあわてて帽子を押さえた。

三人は白い布のかかった大きな家具のうしろに、ぎゅっと集まってしゃがみこんだ。

足音が近づく。

扉の前で止まる。

でも、入ってこない。

「こちらではないのかしら……」

という声がして、また足音が遠ざかった。

三人はしばらくそのまま動かなかった。

やがて、オスカーが小さく言う。

「いった?」

「たぶん」

「たぶんじゃわかんない」

エルマーが言う。

「じゃあ、ちょっとみてくる」

「だめ」

「なんで」

「あぶない」

「またそれ」

「またそれだ」

レティシアがくすくす笑った。

「エルマー、ほんとに、ちゃんとしてる」

「それ、ほめてるのか?」

「ほめてる」

「じゃあ、いいか」

「いいんだ」

オスカーが言う。

「いいだろ、べつに」

「うん。エルマー、ちゃんとしてる。オスカー、たのしい」

「やった」

「その分け方、ずるいだろ」

「じゃあ、エルマーは、ちゃんとしてて、やさしい」

「……」

「オスカーは、たのしくて、すぐのる」

「それはそう」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」

レティシアは、帽子のつばを少し上げてふたりを見た。

「じゃあ、きまり」

「なにが?」

「わたしが、へんそうする」

「うん」

「オスカーは、てつだう」

「うん!」

「エルマーは、とめる」

「なんで?」

「でも、さいごは、てつだう」

「……」

「ちがう?」

「……たぶん、ちがわない」

「でしょ」

その笑い方は、すでに勝った顔だった。

たぶんこの時から、三人の形はできていた。

レティシアが思いつく。

オスカーが乗る。

エルマーが止める。

でも、最後にはみんなで秘密を抱える。

それが、この先ずっと続くのだと、まだ小さい三人は知らない。

でもひとつだけは、もう決まっていた。

レティシアの“男装ごっこ”は、ここで終わらない。

そしてそれを、最初に知ってしまったのが双子だった。

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