表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢の双子騎士は、今日も騒動を満喫中  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

放っておけないと感じた日

木の上で見つけた、へんなお嬢様。

それが、オスカーとエルマーのレティシアへの印象だった。

そしてもうひとつ、すぐにわかったことがある。

あのお嬢様は、一度「このひとたち、おもしろい」と思った相手を、そのまま放っておくような子ではない。

それを、双子は次に会った日に知ることになる。


その日も、両家の大人たちは屋敷の中で話をしていた。

双子は庭の隅の石畳のあたりにしゃがみこんで、ありを見ていた。

「こっちいった」

「ほんとだ」

「なんかはこんでる」

「ちっちゃいのに、がんばるな」

オスカーが地面すれすれまで顔を近づける。

エルマーはその隣で、膝を抱えたままぼんやりしていた。

「おまえ、ありすきだな」

「きらいじゃない」

「おれ、かまれるのやだ」

「さわるからだろ」

「でも、さわりたくなる」

「わかるけど」


その時だった。

「みつけた!」

ぱっと明るい声がして、双子はそろって顔を上げた。

そこにいた。

銀灰の髪。きらきらした目。今日はちゃんときれいなお嬢様の服を着ているのに、立ち方だけがぜんぜんお嬢様っぽくない。

レティシアだった。

「あ」

と、オスカーが言う。

「……いた」

と、エルマーが言う。

レティシアは、なぜかとても嬉しそうだった。

「いたじゃない」

「いるだろ」

「なんで、かくれるの」

「かくれてない」

「かくれてたわ」

「ありみてただけだよ」

「おなじよ」

「ちがうだろ」


レティシアはそんなことはどうでもいいみたいに、ずんずん近づいてきた。

「ねえ、あそびましょう」

「いきなりだな」

オスカーが言う。

「いきなりだよ」

エルマーも言う。

レティシアはふたりの前でしゃがんだ。

「きょう、なにしてるの?」

「あり、みてる」

「それ、おもしろい?」

「ちょっと」

「じゃあ、もっとおもしろいことしない?」

「もっとおもしろいこと?」

「うん!」

目がきらきらしている。

エルマーはちょっといやな予感がした。


「……なにするの?」

「たんけん」

「たんけん?」

「そう。こっちのほう、まだいったことないの」

レティシアが指さしたのは、庭のはしの、木がたくさんあるほうだった。使用人たちがあまり近づくなと言うあたりだ。危ないというほどではないけれど、子どもだけで入る場所ではない。

エルマーはすぐに言った。

「だめだろ」

「なんで?」

「そっちは、いっちゃだめっていわれてる」

「だめっていわれるところ、おもしろそうじゃない?」

「そのかんがえは、よくない」

「でも、きになる」

「きになるな」

オスカーが言った。

エルマーがすぐに振り向く。

「おまえ、のるな」

「だって、きになる」

「だめ」

「エルマー、すぐだめっていう」

「だめなものはだめ」

「でも、ちょっとだけなら?」

「ちょっとだけでもだめ」

「すぐだめっていう」

「うるさい」


レティシアはふたりを見て、ふふっと笑った。

「だいじょうぶ」

「だいじょうぶじゃない」

「だいじょうぶだって」

「そのことば、しんじられない」

「しつれいね」

そう言った次の瞬間、レティシアはくるっと立ち上がって、もう走り出していた。

「いこ!」

「ちょっ」

「おい!」

「レティシア!」

止まらない。

銀灰の髪がひるがえって、庭の奥へぴゅうっと走っていく。


双子は顔を見合わせた。

「……どうする?」

オスカーが聞く。

「どうするもなにも」

エルマーは顔をしかめる。

「いくしかないだろ」

「だよな!」

なぜ嬉しそうなんだ、と言う暇もなく、ふたりもそのあとを追った。


庭の奥は、手入れされた花壇や噴水のある場所と違って、木が多くて少し暗い。葉っぱが重なって、ひんやりしている。小さい道みたいなものはあるけれど、ちょっとわかりにくい。

レティシアはその中を、まるで最初から知っていたみたいに進んでいく。

「まって!」

「やだ!」

「やだじゃない!」

「つかまえてみて!」

レティシアが笑いながら振り返る。

オスカーが声を上げた。

「それなら、つかまえる!」

「おまえまでのるな!」

けれど、オスカーはもう走っていた。

レティシアも走る。

エルマーも、結局は追いかけるしかない。

道を曲がって、木のあいだをぬけて、三人はどんどん奥へ入っていく。


レティシアが急に立ち止まったのは、小さな石の囲いみたいなものの前だった。

「みて!」

「なに?」

「これ」

そこには、古い井戸みたいなものがあった。もう使っていないのか、ふたが半分しまっていて、まわりには草が生えている。

「いど?」

「たぶん」

「へえ……」

オスカーがのぞきこむ。

「ちかづくな!」

エルマーがすぐに引っぱった。

「なんで?」

「あぶないから!」

「エルマー、またそれ」

「またそれでいいんだよ」


レティシアは井戸を見たり、木を見たり、きょろきょろしている。

「ここ、いいわね」

「よくない」

「ひみつのばしょみたい」

「ひみつにしないで」

「でも、いいでしょ?」

「……ちょっとは」

オスカーが言う。

「おまえは、ほんとに」

「だって、いいじゃん」

レティシアは満足そうにうなずいた。

「じゃあ、ここ、わたしたちのひみつのばしょ」

「わたしたち?」

「そう」

「なんで、もうおれたちもはいるんだよ」

「だって、きたもの」

「それは、おまえをおいかけてきただけ」

「おなじよ」

「おなじじゃない」

でも、レティシアにはたぶん違いがわからないのだろう。


彼女はくるっとふり向いて、木の下に落ちていた長い枝を一本ひろった。

「ねえ、これ、けんね」

「またはじまった」

「おもしろそう」

「オスカー」

「なんで?」

「なんでじゃない」

レティシアは枝をオスカーに一本、エルマーに一本わたした。

「はい」

「いらない」

「いる」

「いらない」

「いるってば」

「なんでだよ」

「だって、たんけんには、けんがいるでしょ」

「……いるかなあ」

オスカーが嬉しそうに枝を受け取る。

「おまえはもういい」

レティシアは自分でも枝を持って、ふんす、と胸を張った。


「わたしがたいちょうね」

「たいちょう?」

「そう」

「なんで?」

「いちばんさいしょに、ここみつけたから」

「それだけ?」

「それだけ」

「それでいいんだ」

「いいの」

オスカーがにこにこしながら聞いた。

「じゃあ、おれは?」

「おすかーは……たのしいひと」

「やった」

「やくじゃないだろ」

「いいじゃん」

「よくない」

「じゃあ、エルマーは」

「……なんだよ」

「おこるひと」

「なんだそれ」

「だって、すぐおこる」

「おこってない」

「おこってる」

「おこってない」

「おこってる」

「……ちょっとだけ」

オスカーが笑う。

「ほら」

「だから、わらうなって」

レティシアは満足そうに言った。

「じゃあ、きまりね」

「なにが」

「たいちょうと、たのしいひとと、おこるひと」

「いやだ」

「だめ?」

「だめ」

「じゃあ、おこるけどたすけてくれるひと」

「……」

「それは、ちょっといい」

「よくないのかよ」

エルマーは思わず黙った。


レティシアは枝をぶんっと振った。

「しゅっぱつ!」

「どこに」

「ひみつのばしょの、もっとおく!」

「まだおくがあるの?」

「あるかもしれない」

「ないかもしれない」

「じゃあ、たしかめるの!」

そう言って、また走り出す。

「まって!」

「また!?」

「いくぞ、エルマー!」

「だから、なんでおまえはそんなにたのしそうなんだよ!」

そのあと三人は、木の根っこを飛びこえたり、変な形の石を見つけたり、小さな虫を追いかけたりして、たっぷり汚れた。


途中でレティシアがしゃがみこんで、赤い実を見つけて、

「これ、きれい」

と言ったと思ったら、

「たべるなよ」

「たべないわよ」

「ほんと?」

「たぶん」

「たぶんっていった!」

「またそれだ」

と、双子に言われたりもした。

木の間を通りぬけるたびに、レティシアはなにか見つける。

それをオスカーが面白がる。

エルマーが止める。

でも、結局いっしょに見る。

そのくり返しだった。


そして——案の定、見つかった。

「レティシアさまー!!」

「オスカーさま、エルマーさま!!」

侍女と使用人の声が森みたいな庭の奥まで響いてきた時、三人はそろって止まった。


「……みつかった」

レティシアが言う。

「みつかるだろ」

エルマーが言う。

「でも、たのしかった」

オスカーが言う。

レティシアはにっこり笑った。

「うん。たのしかった」

その顔を見て、エルマーはちょっとだけ言い返せなくなった。

たしかに、たのしくなかったわけじゃない。

でも、それを言うと負けた気がする。


「つぎもやる?」

レティシアが聞く。

「やる!」

オスカーがすぐ答える。

「おまえは、もうすこしかんがえてからへんじしろ」

「エルマーは?」

「……」

「エルマー」

「……あぶなくないやつなら」

「ほんと?」

「ほんと」

「やった!」

レティシアはぱっと笑って、ふたりの手を片方ずつつかんだ。

右にオスカー。左にエルマー。

「じゃあ、つぎもいっしょね」

「え」

オスカーが言う。

「は?」

エルマーが言う。

でも、レティシアはもう決めた顔をしていた。

「だって、あなたたち、わたしのだから」

「なにが?」

「たんけんのなかま」

「びっくりした」

オスカーが言う。

「びっくりするいいかたするな」

エルマーが言う。

レティシアはきょとんとしている。

「へん?」

「へん」

「でも、もうきまったもの」

「いつ?」

「いま」

「いまかよ」


侍女たちの声が近づいてくる。

三人は手をつないだまま、そっちを見た。

たぶん、この時にはもう決まっていたのだ。

レティシアが前を走る。

オスカーが楽しそうについていく。

エルマーが止めながら、でも結局いっしょに行く。

この形が、これからずっと続くのだと。

幼い日の双子は、まだそこまでちゃんとはわかっていなかったけれど。

でも、ひとつだけはもう知っていた。

このお嬢様は、一度つかまえた相手を、簡単には離さない。

そしてたぶん、自分たちも、もうこの子を放っておけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ