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その8 石柱vs知恵の輪


「おっと! 敵さん、おいでなすったようだ!」


 迫り来る集団を見やって、エクスムアは声を張り上げた。

 もう一方の門から押し寄せてきた、ビアベルムの軍勢だった。真っ先に突っ込んできたのは十人かそこらといったところだが、後から更なる人員が押し寄せてきている。


「魔法使いを守って、この場でしばらく粘るぞ!」

「おうさ――っ!」


 小隊の剣士班が一斉に叫ぶ。レーデルもその一員として叫ぶ。

 闇夜の中、激突が始まった。


「せやぁぁ――っ!」


 裂帛の気合いとともに、レーデルは見えた敵に斬りつけた。

 敵はレーデルの斬撃を剣で受け止めたはいいが、大きく弾かれ、両腕が持ち上がる。

 レーデルは隙だらけの胴に横薙ぎを叩き込む。深い手応えが伝わってきた。

 敵が倒れるのを見守らず、レーデルは次の敵へ視線を投げる。

 ビアベルム麾下の魔族たちはおおむね軽装だった。夜襲でまともに武装する暇もなかったのだろう。

 その上、剣技に優れている風でもなかった。レーデルの敵ではない。


(とはいえ、油断は禁物……!)


 しっかりと己を戒めながら、敵と対決し、折を見てはエクスムア小隊全体の戦況を確認する。

 闇の向こうから、次々とビアベルムの部下達が押し寄せてくる。しかしリーダーとして軍団を率いる者が見当たらず、襲撃は三々五々。戦力の逐次投入という愚を犯しているように見えた。


「魔法使いをしっかり囲って守れ! 指一本触れさせるなよ!」


 一方、エクスムア小隊は数的には不利なものの、エクスムアの指揮の下、機能的に動いていた。士気も高く、互いに協力し合いながら敵を一人一人倒していく。


「ひ、ひいいい――っ!」


 敵の中には、軽く傷を受けただけで戦意を喪失し、逃げ出す者も出てきた。


(こっちは問題なさそうだ。あとはアレクトたちがペルシスを救い出してくれれば……)


 などとレーデルが思った、その時。

 死角からの鋭い斬撃が、レーデルの側頭部を襲った。


「!?」


 咄嗟にレーデルは剣を掲げて受け止める。


(これまでの敵とは明らかに腕が違う……!)


 ほんの一瞬でも受けが遅れたら、致命傷を食らっていた。血の気が引くのを覚えながら、交差した剣の向こうに敵を見いだして――


「……サドワ!?」


 またもやレーデルは驚愕した。


「今のを受けたか……さすがだな!」


 狂気すら感じる視線をぶつけながら、サドワは飛びすさり、構え直した。


「なんでおまえがこんなところにいるんだよ!」


 レーデルの叫びに、サドワはにやりと笑ってみせる。


「おまえが魔王エクスムアについたと聞いたからな! おまえと戦えそうな勢力についたのよ!」

「勇者の分際で魔王の部下になったのか!?」

「目的のためには手段を選ばん!」


 はっきりと言い切って、サドワは再びレーデルに斬りかかった。




 三人のメイドとペルシスの前に姿を現した男は、とても大きかった。

 身長は二メートルを超え、何故かむき出しになっている上半身は筋肉ムキムキ。さらに頭に生えた二本の牛のような角が、見る者に威圧感を与える。

 さしものセレナとて、ついじりりと引き下がりたくなるようなプレッシャーを、その男――魔王ビアベルムは放っていた。


「……そこにいるのはペルシス先生じゃねえか……」


 ぎょろり、とビアベルムは眼球を動かし、まずペルシスを、それからアレクトを見た。


「外が騒がしい時に、先生をどこに連れていこうってんだ……?」

「ええと! 牢屋に入れたままだと危険そうだったので、別の場所に匿おうと思いまして!」


 出任せの言い訳を、アレクトは即座に口にした。

 が、ビアベルムは見逃してはくれなかった。


「はーん……だいたい察した。表の騒ぎに乗じて、先生を逃がそうってえんだな? そうはいかねえぞこのクソッタレども!」


 一人で納得して一人でブチ切れると、ビアベルムはそばにあった樽を片手でわしづかみにし、放り投げた。

 狙いは正確、かつ一瞬後には樽はアレクトたちの眼前に迫っていた。


「ぬわぁ!?」


 アレクトとペルシスは左へ、セレナとアルケナルは右へ、咄嗟に身を投げて逃れる。

 それぞれが体勢を立て直した時には、ビアベルムはその辺に転がっていたと思われる、石柱の破片を担いでいた。

 破片といっても、長さは二メートルほど、直径は三十センチ近く。鈍器としてはあまりにも大きすぎた。

 重量もかなりのものだろうに、ビアベルムは軽々と振り回してみせた。


「馬鹿力すぎんだろ!」


 セレナの叫びに、アレクトが声を投げ返す。


「この方はタウルステリオノイドですので! 牛並みの馬鹿力ですよ!」

「クソッ! しゃーねー、アレクトはペルシスを守れ! あたしらがこいつをぶっ潰す!」

「お願いします! さ、こちらへ……!」


 アレクトはペルシスの手を引いて馬小屋へ突っ込もうとしたが、


「先生はウチにとって大事な客人なんだ。さっさと手ぇ離しな……」


 ビアベルムは、アレクトとペルシスの行く手に立ち塞がった。


「さもないと、先生ごとペチャンコにしちまいそうだからよおお!」


 石柱を高く掲げ、アレクトの頭上に振り下ろす。ペルシスを巻き込むのも構わず。


「待って下さいよ!?」


 半ばペルシスに体当たりを仕掛ける格好で、アレクトは横に思い切り飛んだ。

 直後、石柱は地面を叩き、地震のごとき衝撃を放った。


「ペルシスさんも殺すつもりですか!? 何考えてるんですか!」

「あいつには何かを考えるだけの脳みそはないぞ」


 身を起こすアレクトに、ペルシスが言った。


「それより、私も戦うぞ。女性ばかりに危険な目に遭わせるわけにはいかない」

「配慮して戴けるのはありがたいですがねえ! 武器も持ってないのにどうやって戦うんです!」

「武器ならあるさ」


 ペルシスは右手の拳を見せつけた。

 その指には、一方の先端を鋭く磨いた知恵の輪が、指輪のようにはまっていた。六本目の銀色の細い指が生えているかのように見えた。


「そういうのは武器とは言わないです!」

「そんなことはない。ものは使いようで――」

「ぬうううううん!!」


 ペルシスが説明するより早く、ビアベルムが再び石柱を振り下ろした。

 ペルシスはアレクトを思い切り突き飛ばしつつ、反動で自らも石柱の下敷きになるのを逃れた。

 再び石柱が地面を打ち、大きな音を立てる。

 その音に隠れてペルシスは地を駆け、ビアベルムの背後に回り込んで、


「はああ――っ!!」


 その背に拳を叩きつけた。

 知恵の輪の突端が、ビアベルムの背筋に潜り込んだが、


「……んんん? 蚊に刺されたかな?」


 あっさりとした声で呟いて、ビアベルムは尻から生えている尻尾を走らせた。

 細い尻尾がペルシスの足に巻き付いて、一気に引きずり倒す。


「邪魔だから、先生はあっちに行ってくれ!」


 身体を大きく振って、ビアベルムはペルシスをあらぬ方向へと放り出した。


「ひえええぇぇぇっ……」


 ペルシスの悲鳴があっという間に遠ざかっていく。


「ペルシスさん!?」


 ペルシスのあとを追おうとするアレクトに、ビアベルムは石柱を叩きつけようとする。


「させないわよ……!」


 その間に、氷の精霊が飛び込んだ。

 アルケナルの召喚した精霊が、ビアベルムの石柱をがっちりと抱き留めた。

 しばし力比べとなった――が、


「こんな人形で! 俺を止められると思ってんのかぁぁ――ッ!!」


 ビアベルムは前蹴りを放ち、氷の精霊を突き放した。

 精霊は体勢を崩し、石柱を手放してしまう。


「んだらぁぁぁ――ッ!!」


 ビアベルムは、石柱を氷の精霊に振り下ろす。

 石柱は氷の精霊の脳天を砕き、凄まじい音を立てながら胴を裂いた。

 まともな抵抗もできず、氷の精霊はその場に崩れ去った――


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