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その6 奪還作戦に向かう三人のメイド


「確認出来ました。ビアベルム城の秘密の通路、今でも出入り可能ですよ」


 と、偵察活動から戻ってきたアレクトは報告した。相変わらずメイド姿のまま。


「シュジェールさんの情報は正確でしたよ。離れの馬小屋の奥に目立たない落とし戸があって、そこから城外に脱出できます。あれは使えますよ」

「結構。よくやってくれた」


 エクスムアはお褒めの言葉をアレクトに与えた。

 エクスムアの居城のとある一室にて、作戦会議が開かれていた。作戦参加予定のレーデルたちも会議に呼ばれ、アレクトの報告を聞いている。


「その秘密通路って、ビアベルム側にはばれてないのか?」


 レーデルが問いかけると、アレクトは慎重に頷いた。


「知らないと思いますねえ。城内では今、秘密の通路を必死になって探していますから。シュジェールさんをこちらで保護したことを受けて、秘密の通路情報がこちらに伝わったと判断したみたいです」

「ってことは、向こうの連中がその秘密通路を自力で見つけ出す可能性も……?」

「なきにしもあらず、ですねえ。私が色々箱やら藁やらのっけて隠してはきましたけれど。時間が経つほどに発見される可能性は高くなりますから、あの通路を利用するのであれば、早々にことを起こすことを推奨しますねえ」


 アレクトはそうエクスムアに提言する。


「そうなるか。メイル、明日にビアベルム城を襲撃するとして、何人出せる?」


 エクスムアはそばにいる女性秘書に問うた。

 メイルと呼ばれた女性は、いかにもやり手風の雰囲気を放っていた。着衣は一糸乱れず、姿勢は直立不動。エクスムアのそばに一歩退く位置に立っていながら、その厳しそうな態度ゆえに妙な存在感を発揮している。


「二十人といったところでしょうか」


 感情を感じさせない声で、メイルは答えた。


「ビアベルム城を落とすにはあまりにも心許ない人数ですが……」

「城を落とすなんて言ってない。城門あたりで大騒ぎして敵の気を引いて、その隙にペルシス奪還チームを潜入させればいいのさ」

「そういうことでしたら、問題なさそうですね」


 エクスムアの説明に、メイルは納得した。


「問題は奪還チームだ。アレクト、君の判断を聞きたい」


 水を向けられ、アレクトは考えを口にする。


「私一人では心許ないですねえ。戦える人を一人か二人つけてくれるとありがたいんですけど」

「俺が行ってもいいぞ」


 レーデルは名乗り出たが、


「いえ、レーデルさんは適任ではないです」


 アレクトは拒否した。


「メイドに変装できる女性を希望します。というのもあの城、メイドはやたら多いけど、男の使用人がほとんどいないんですよ。ビアベルムの趣味みたいですけど。なのでレーデルさんは目立つ可能性があるのでダメです。もっとも、レーデルさんがメイドに変装なさるというならまた別ですが……」

「野郎がメイドになったらもっと目立つだろ」

「たしかにその通り。となると……」


 アレクトの視線は、セレナとアルケナルに向いた。

 セレナは敏感に反応した。


「あたしにメイド服を着ろってのか!」

「セレナさんに一緒に来ていただけると、とても助かるんですけどねえ」

「冗談やめろ! あんな服着られるかよ!」

「お願いしますよ。ねえセレナさん」


 アレクトはセレナに一気に顔を寄せ、ハートマークの瞳孔でセレナの瞳を見つめた。

 セレナは一気に真っ赤になった。


「だからその目はやめろつってんだよ! おめー、そんなエロい目をして恥ずかしくねーのか!」

「あらまあ。親からもらった瞳をそんな風に言うなんて失礼ですねえ。きれいな瞳だと思いませんか?」

「とにかくその目であたしを見るな! あとメイド服も勘弁!」

「あら……私は似合うと思うけど……セレナのメイド姿……」


 アルケナルがセレナの肩を捕まえて、メイルに呼びかけた。


「メイド服に着替えてみたいのだけど……用意あるかしら……」

「もちろんあります。ついて来て下さい」


 メイルはさらりと言った。


「やめろ! ふざけんな!」


 セレナは抵抗したが、アルケナルがセレナの片腕を、アレクトがもう一方の腕を持ち、強制連行する。


「私も奪還チームに加わっていいかしら……?」

「大歓迎ですよ! アルケナルさんにも来ていただけるなんて、心強いですねえ!」


 アルケナルとアレクトは、暴れるセレナの頭越しに話を進めつつ、そのまま部屋から出て行った。


「我々もついて行こう」


 エクスムアはレーデルに言った。


「潜入用コスチュームを選定するわけだからな。我々男性の視点による意見を述べるのも、重大だとは思わないかね」

「同感です」


 レーデルは即答し、席を立った。




「マジで、こんな格好で外歩けってのかよ!」


 セレナは顔を真っ赤にしてブチ切れていた。

 やや変則的なメイド服に、セレナは身を包んでいた。簡単に言うと、スカートが短いのである。

 もっとも、アレクトが着用しているのと同型ではあった。


「この格好だと、特に男性への聞き込みが捗るんですよ。ちょっと話しかけるだけで、こっちが聞いていないことまでベラベラ勝手にしゃべってくれるんですよねえ」

「男の使用人は少ねーんじゃねーのかよ! それにあたしの任務は情報収集じゃねーだろ! 人質の奪還だ!」

「ならばなおさら、スカートが短い方が動きやすいのではありませんかね?」

「パンツ見えるだろーが! 気になってまともに動けねーよ! せめてスパッツはかせろ!」

「何を馬鹿なことを。ミニスカにスパッツなんて、あなた何も分かってませんねえ」

「何が分かってねーのかが分かんねーよ! とにかくこんなのアウトだアウト!」

「いいえ、完全にセーフです。レーデルさんもそう思うでしょ?」


 意見を求められて、レーデルは大きく頷いた。


「とてもいい。案外こういう衣装も似合うもんだなあ」

「これは意外だね。素直に褒めたいよ」


 ルーティも絶賛だった。が、セレナは収まらない。


「ダメだつってんだろ! もっと地味な服を着させろ!」


 アレクトの手を振り払い、更衣室へと戻っていった。

 入れ替わりにアルケナルが姿を現した。


「私はどうかしら……?」


 アルケナルもまた、ミニスカートのメイド服を身にまとっていた。

 加えてコルセットでウェストをきつく引き締め、胸のサイズを強調している。

 もとよりアルケナルが美女であることも相まって、控えめに言うならば、破壊的なビジュアルだった。


「これはダメだ!」


 レーデルは思わず大声を出した。


「いや、ダメじゃないんだけど、こんな潜入員がいてたまるか! 目立って仕方ないだろこんなエロメイド!」

「非常に心苦しいが、ダメ出しをしなければならないようだな」


 エクスムアも断腸の思いを表情に出す。


「君をビアベルム城のケダモノどもの中に放り込んだらとんでもないことになる。これは許可を出せない」

「そう……気に入っているのに、残念ねえ……」


 アルケナルは真剣に悲しげだった。


「すねまで隠れるドレスを着て、もっとイモくさい髪型にするんだ。ちょっとでも色気が出るような格好は止めた方がいい」

「出したくて出してるわけじゃないんだけど……」


 肩をすくめながら、アルケナルも更衣室に戻っていった。


「そういやレーデルさん。私の格好どう思います?」


 アレクトはレーデルに正対し、両手でスカートの裾をつまんで持ち上げてみせた。

 しばし、レーデルはアレクトを観察してから、感想を述べた。


「いいと思う。君はスキュラの上半身のように美しい」

「それって褒め言葉なんですかね……?」


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