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種蒔きの聖女 【第一部完結】  作者: 遠見じゅん


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新たな国民を迎える式典

残酷な表現が出てきます。

用法用量を守って正しくお楽しみください。

 少しの沈思の後、口を開いた。


「まず、約定は代官の偽の口約束に過ぎず王国の正式な物では無い。そして貴殿らが行った行為は盗賊のモノと大差無い。国が絡めば賠償となる場合もあるが、既に祖国は無く、残るは全員処刑と相場は決まっておる」


 誰も口を開かなかった。


「だが、王国の代官に誑かされての行為と鑑みると貴殿らに全ての咎があるとも思えない。しかし件の代官は既に亡く話の信ぴょう性も貴殿からだけのものである」


 騎士がゴクリと喉を鳴らした。


「ゆえに、代官邸の地下に徴収品が無ければ信用能わずという事で7村を滅ぼす。あった場合は信用能うと判断し武装解除の後、農民としてならば入植を許可する。

 がしかし、王国民殺害の咎は受けてもらう。犠牲者と同数の処刑を行い、それで貴殿らの集団としての罪を償った事とする。残された者は7村に根を下ろし王国民として暮らすことを許す」

「……陛下の慈悲に感謝いたします」

「償う者の人選はそちらに任せる。猶予は明日の昼までだ」


 相手騎士を陣に返し、我らも分かれ道まで一旦下がり野営を設営しその日を終えた。


◇


 翌朝、代官邸からアールタイクが戻り、騎士の言葉通り隠されていた麦を回収したと報告を受けた。 


「吾輩が先触れに行ってまいりましょうぞ」


 ベイ卿が2人の騎士を連れ、馬で一気に駆け上って行き1刻足らずで戻ってきた。


「徴収品が見つかった事を伝えました。村内で話はついており武装解除も出来ておりますが人選には今暫くかかるようですぞ」

「向かおう」


 王旗を掲げて村に入ると、既に村人が並んで跪いており、甲冑や剣が纏められていた。


「儂は、ヴィクター=ハドンソ、この国の国王である」


 村民が一斉に額を擦り付けた。


「聞き及んでおろうが、皆は我が国土を不法占拠しておる。以前それを許可した者は権限の無い者であり依然皆は不法占拠である。しかし我が国に救いを求め少なからず根を張りつつある皆を討伐するのも忍びない。だが知らずとはいえ村人殺害という罪を犯してしまっている。殺人が罪というのは其方らの故国でも同様であろう」


 誰も何も言わない。

 行ってしまった行為への代償は、本来なら皆殺しである事を騎士が皆に説明していたのだろう。


「命には命を以て償ってもらう。殺害した元村人分の命を償え。さすれば残された者は我が国に迎え入れ王国民として扱うことをここに誓おう」


 国王自らの宣誓である。大多数の者は間違いなく王国に受け入れられる事は確定した。しかし同時に、共に追われ苦楽を共にしてきた家族や仲間の命を捧げて罪を償わなければならない事も確定した。


 誰も動けない中、おずおずと老人が手を挙げ発言する。


「老人でも構いませんでしょうか?」

「構わない、同じ命だ」


 老人は目をつむりコクリと頷いた。

 次に、乳飲み子を抱いた母親が発言した。


「乳飲み子でも構わないのでしょうか?」

「構わない、同じ命だ」


 涙声で聞きたくもなかった質問をして、母親は子を抱いて声を殺して泣き始めた。

 何人かはもう覚悟を決めているようだが、13人にはまだ届いていない。


「1刻待つ。それまでに別れを済ませよ」


 待つ間、村を見て回った。


 山間の村にありがちな狭い耕地で、畑は段々になっている。あぜ道には種類は分からないがベリー系の低木が植わっており、丘の上には多実果樹が数多く見受けられる。

 畑には未だ残雪が積もっているが、小川にはシャラシャラと音を立て雪解け水が流れこみ、時折ギィーと軋みながらも水車が回り続けている。それらはきっと元の主を失う前から何一つ変わらないのだろう。


 痩せた土地での生活がここにあった。その者達はもう実りを得る事も生活の音も聞くこともできないが、この地に暮らしていた我が王国民達が確かに居たのだ。


――すまぬ



 ◇


 墓地の横で処刑を執り行った。

 一人ひとりに祈る時間を与え、跪き俯かせて衛士が後ろから頸椎を一突きにした。

 倒れた者は予め掘った穴に丁寧に安置し、埋めた後に次の刑を執り行った。


 自分を含め見届ける騎士達も最初から最後まで祈り手を組み、目を反らす事無く見送った。兵や残された村民達も黙ってそれに倣った。それが死を与えた者への礼儀だと思った。


 老人は黙って逝った。兵士も黙って逝った。小さい子供は泣き喚き、親に抱きしめられながら逝った。自分の腕の中で我が子が冷たくなっても母親達は泣き崩れたまま手放さなかった。厳しい生活が始まるのに自分が犠牲になり子供や赤子を残すという選択肢が取れないのだ。

 老人も赤子も男も女も見送った。


 最後は昨日の騎士であった。


「貴殿はまとめ役であろう」

「ええ」

「よいのか?」

「後の者が纏めましょう。完遂させる指示を出したのは私です。どうか、償わせて頂きたい」


 故郷で忠義を尽くしたが届かず、仲間と家族を纏めて王国に保護を求め、受け入れてくれた自称領主の命に従った。

 護る為に陣頭指揮を執り、単身で敵陣へ赴き話をつけ、村人に道理を説き、責任を取る。


 騎士としてのあるべき姿ではないか。


 何も間違っていないと思う。惜しいと思う。臣下に欲しいとも思う。出会い方さえ間違っていなければ、子狡い代官さえ居なければ。

 だが、それを言ってしまうと、この男の覚悟を、誇りを傷つけてしまう事を知っている。


「あい、分かった」


 剣を目の前に立て、柄を両手で持つ騎士葬送の礼を取ると皆もそれに倣う。

 騎士はこちらを見て深く頭を垂れてきたので目礼で返した。それを見て騎士は頷いた。


「感謝致します」


 ……そして、やはり黙って逝った。






「皆の者、その場にて聞くのである」


 ベイ卿が静かに、だがよく通る声で告げた。

 その一声で啜り泣きも小さくなり、場がしんと静まる。


「陛下、お言葉を賜れますかな」


「これにて約定は成った。13名の命により双方の禍根を流し一切を大赦する。託された皆は王国民と同じ義務を背負い、王国民と同じ権利を享受する。すなわち今この時より、其方らを新たな王国民として迎え入れた事をヴィクター=ハドンソの名により認める」


 歓声も何もない、静かな泣き声しか上がらない新たな王国民を迎える式典が終わった。



 ◇


 ……疲れた。


 戦や鎮圧とは違う種類の疲れで、酷い脱力感に襲われた。


 明日から隊に交代で休みを取らせ、2日後に王都に帰還する事にした。現場褒章として全員に金を渡し、更に処刑に携わった者達には余分に与えるよう指示した。


 邸に着き、ソファーに一度腰を落としてから立ち上がれない。アールタイクも同じようで、斜め前に座ったかと思うと俯いてピクリとも動かない。扉がノックされベイ卿が入室してくる。


「兵への差配は終わりましたぞ、進発は3日後の朝と通達しております」


 礼をした後、戸棚を勝手に漁りだすと、酒瓶とグラスを見つけてソファーへ近づく。


「伯、つまむ物はないのであるか?」

「あ、いえ、この部屋には……」


 姿勢はそのままに顔だけをベイ卿に向ける。


「ベイ卿、その酒瓶はどこから?」

「ああ、そこの戸棚の一番奥にあったぞ」

「隠していたでしょう?何でよりによって一番高い奴を!」

「すまんすまん」


 言いながら皆の前にコトリとグラスを置き、高い酒を注いだ。


「それでは今回の遠征の無事を祝って!」


 そういう気分でも無かったが、グラスを取る流れになってしまい互いにカチンと当てて煽った。ベイ卿は一息でグラスを空けるとスタスタと扉まで歩き、外の護衛騎士にツマミを持ってくるよう指示し、またスタスタと帰ってくると今度は自分のグラスだけになみなみと注ぎ入れた。


「あ、ああ、卿よ、そういう飲み方をする酒ではない!」

「すまんすまん」


 何ら悪びれる事無く心無い謝罪を言いながら、一滴すら零すものかというように口を窄めてグラスの縁に顔を近づけてズゾーっと吸いあげる。そのやりとりが可笑しくて、思わず鼻を鳴らしてしまう。


「陛下、此度の差配お見事でございました。吾輩感服いたしましたぞ」


 どうするのが本当の正解だったのか分かりようもないが、このように労ってくれるだけで随分と心が晴れる。この矍鑠とした老人には本当にいつも救われる。


「アールタイク、後は任せてよいか」

「あ、はい、いえ、私の処罰が残っております」

「あの代官の事なら気にするな。これからも尽くせ」

「ですが……」

「伯よ、陛下がこのように仰るっておられるのだ。返事は『ありがとうございます』で良いのである」

「アールタイク、新たな領民達を頼んだぞ。必要なら押収した麦からの供出も許可する」

「……はい、ありがとうございます」


 アールタイクは俯きながらグラスを持った両手を震わせ小さな声で答えた。

 その言葉を聞いたベイ卿は、グラスを片手にしたり顔で髭を整える。今は髭の先端がくるんと丸まり内向きになっていた。


 そこからはベイ卿の独壇場で、棚から勝手に酒瓶を持ってくる度にアールタイクが嘆き、今までにもう10回は聞かされたであろう武勇伝が始まり、聞かされる度に語り口調が上手になっていくなぁ等と考えている内に寝入ってしまっていた。




 遠くから馬の駆ける音が響いて目が覚めた。

お楽しみ頂けましたでしょうか。

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