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種蒔きの聖女 【第一部完結】  作者: 遠見じゅん


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プレートアーマーの騎士

 アールタイク伯は齢60を過ぎているが、次代が頼りないとの事でまだまだ現役だ。髪は総白髪で毛髪は頭の半分程まで後退し、顔には産まれて1度も笑ったことがないというような不機嫌な皺が刻まれており一目で堅物だと分かる。無事を喜ぶ挨拶をした後、護衛騎士とベイ卿を伴い迎賓室へと通された。


「陛下御自ら御出馬頂き、忝なく存じます」

「アールタイク伯、間に合ってよかった。早速だが、これまでの経緯を教えて貰えぬか」

「はい、初日陳情書を持って数名が邸を訪れました。言い分を聞いている内に邸の外を覆いつくす程の人数に膨れ上がり、雪崩れ込まれたら邸の戦力では抑えきれないと判断、最悪邸が封鎖される前にと早馬を出しました。原因究明の前に救援要請を出した事をお詫び致します。この3日間暴徒化させないように相手代表と対話を重ねております」

「ふむ、群集は火が付けば一気に広がる。最悪の事態を想定しての対応は妥当だ。して相手の言い分は?」


 アールタイクは代々この地を守ってきた家系だ、積極的に領民を害することはしたくなかったのだろう。落ち着いた対応で助かった。


「冬季明けに2度目の税徴収があり、このままでは種もみに手を付けるしかないので何とか話を聞いてもらいにきた。というのが言い分です」

「そのような事をしたのか?」

「まさか、当地の代官を呼んで調べましたがそのような事実はないとの事でした。念のため台帳と蔵も調べましたが不正も見当たらず。代官を疑おうにも彼は代々我が家に仕える家系で誠実な男です。該当地域は秋に麦を例年通り徴収した限りです」

「ふむ、あまり時間を掛けるのもよくあるまい。表の代表を招いてくれぬか」


 暫くすると、痩せた老人が二人連れられてきた。1村と2村の村長だと言う。


「陛下が話を聞いて下さる。私に話してくれた事をもう一度話してくれ、もし新たに思い出せた事があったならばそれも一緒にな、くれぐれも粗相のないように」


「へい、先月2回目の税徴収がありましたです。急遽必要となったので強制徴収するという事で、備蓄麦が徴収されたです。それでは足りぬと仰いまして、家の中にまで入って来たのですが春植えの種もみしか無いと分かりそれには手を付けずに戻って行かれました」

「何度も言うがそのような指示はしておらぬし、配下にもその「アールタイク伯、最後まで聞こうぞ」


 立ち上がって青筋を浮かべる伯を諫め、続きを促す。


「麦を徴収されたので、保存用の酢漬けや畑に埋めた野菜を掘り出したり家畜を潰したりしながら凌いでおったです。だけども本当にもう食べる物が無くなっちまいまして、最初は代官様に陳情へ行ったのですが、そんな事実はないと仰られて、その間にも年寄りや乳飲み子はどんどん死んで行くし、最後の望みで領主様に話を聞いてもらおうと思って村から来たです」

「埋めた野菜というのは何だ?」

「はい、根菜類は冬場土中に埋めて保存させるのですがその事かと」


 アールタイク自ら説明してくれた。領民のしかも農民の暮らしを即座に答えられる領主がこのような無体な事をするだろうか。


「村長よ、領主も代官もそのような事をしておらぬと言っておるのだが、2回目に来たのはどんな者達か覚えておるか?」

「騎士様方でございました。戦の準備なら仕方ないと思っておったですよ」

「なっ!貴様何を!」


 アールタイクの後ろに控える領騎士が思わず声を荒げて前に出かけたので、アールタイクが右手を上げ制した。


「件の騎士は何人で来たのだ?」

「3人で来られましたです」


 思いもよらず告発されそうになっている領騎士を筆頭に、急に部屋がガヤガヤし出した。


「村長は何をみて騎士だと思ったのだ?」

「後ろにお控えの騎士様みたいな格好でしたです」

「貴様!返す返す戯言を!そこへなおれ!」


 激昂した領騎士が剣の柄に手を添え村長に一歩近づいた瞬間、護衛騎士により床に組み伏せられた。


「貴様、陛下の御前で抜剣しようとしたのか」

「しかし此奴らが……」


 領騎士は何をしでかしてしまったのかを悟って、抵抗を止めた。


「陛下、この者如何なさいますか?」


「黙って聞くならば最後まで居らせよう、剣は預かっておけ」

「申し訳ございません。この剣は護衛騎士殿に預けます。もう途中で声を荒げる事は致しません」


「村長、話を中断させてしまったな。では、私が着ているような鎧では無いという事だな?」


 言いながら、鎧の胸に手を当てる。


「はい、国王様が着てらっしゃるような、たくさん板が付いた鎧ではありませんで、つるりとした鎧でしたです」

「我が領騎士は3名で全員プレートアーマーですが彼らでは無いと確約いたします。騎士は必ず1名が私の傍に侍っておりますし、徴収時も集積地に2名立つ事はありますが、徴収には徴収官と衛士で行い、騎士が領民に接する事はありません。何より道理に反した事をする者達ではないのです。とはいえ衛士の鎧は全て王国内で統一されたクロースですので見間違えるという事はありますまい」


 指示のない強制徴収、プレートアーマーの騎士


「不味いな」

「不味いですな」

「村民が我慢している間に初動が遅れてしまいました」


 どうやら、伯もベイ卿も私と同じ答えに行き着いたようだ。


「今日の所はもうよい。ところで伯、蔵を開けてはもらえぬだろうか」

「は、いや、しかし」

「表の村民に炊き出しを行って欲しい。蔵の補填は後日王都から届けさせる」

「承知致しました」

「国王陛下様、それは……」

「ああ、表の皆にも待つよう伝えて来るがよい。おぬし達は誰にも怪我をさせてはおらぬようだし略奪も確認できなんだ。よって咎めはなしだ」

「あ……、ありがとうございます。ありがとうございますです」


 村長は泣きながら退出していった。自然発生的ではあるが、結果的に領主邸を包囲するような事になってしまった。騎士に圧を向けられても言い切ってしまった。恐らく殺されるくらいの覚悟はしていただろう。


 とり急ぎ軽装で駆け付けたが、案外長期戦になりそうな気配が漂っている。だが、飢えた王国民を討伐するような事態を今回は避けられそうな流れであり救いであった。



 ◇


 翌朝、大通りの群集へは当面の麦を渡し王都から物資を届ける約束をして解散命令を出したが、数名が路上で冷たくなっていた。昨晩の炊き出しには間に合わなかったらしい。


 会議を開いた結果、我々は賊の侵入と目星をつけた。奪われた麦は2村合計約300袋、割れている容疑者は騎士3名だが、それで300は不自然ということで20名以上の武装集団と想定した。内部犯行の線も残ってはいるがそれは領主が行えばよい。とりあえず近隣村への聞き込みと調査に兵を散らした。


 数日が経過し情報が集まってくるも、騎士の目撃例も麦袋の情報もない。逃走するにせよ麦を運ぶ荷馬車が必要なはずだが、街道沿いの村々に目撃情報はない。となると、近隣に潜伏しており域外には出ていないという事になる。


 裏を返せば、賊を封じ込める事が出来ており、それはある意味幸運かもしれない。


 国境を護る領地は戦力保有義務があるが、アールタイク領のように内側の領にはその義務がなく治安維持の衛士も少なめに配備する傾向にある。近隣も同じようなものだから本物の戦闘力を持った賊がでると王都の騎士団を派遣するしかない。なので、周辺を食い散らかされる前に封じ込められている今の状態は何としても保持しなくてはならない。


 目撃情報集めが不発に終わり、今度は潜伏箇所になりそうな林や廃屋など、領都の空き家なども虱潰しで行くことに決まった。騎士3名以上と戦闘に入る可能性があるので、対抗として騎士3名と衛士5名を1つの組として調査に出さざるを得ない。さらに戦力が居る可能性もあるので危険度は高い。衛士は槍での牽制は出来るが、防具はクロースアーマー、所謂厚手の布なので、騎士の斬撃、刺突には少々弱い。従って、今回は衛士だけの組は拠点になりそうな箇所への索敵には繰り出せないのだ。しかも領都を防衛しつつ発見の報を受けた場合は即座に応援に駆け付けられるよう遊軍を作らないとならない為、半数は陣借りしているアールタイク伯の邸での待機に回さねばならない。つまり、索敵の為の人手が足りない。


 時間ばかりが経過していく事となった。

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