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Conclusion / 終わり

最終決戦!アルテサーノが核兵器を運ぶ貨物列車にCLAWは乗り込んだ!灰色の正義とヘドロのような悪……勝つのはどちらか……

エル・アルテサーノが起こしたテロ行為によってアニマルシティは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


テレビでは絶え間なくニュースの緊急速報が流れ続け、政府が声明を出すまでに至る。


あまりの混乱からアルテサーノの仕業であるという特定は遅れに遅れ続け、真相を知っているのは現時点ではCLAWのクルーとFBIの一部のみという極めて特殊な状況となっていた。


しかし、そんなCLAWのクルーの一人であるルフィナ・P・スノフスカヤはアルテサーノによる罠とニーナ・カルミアによる非情な裏切りに遭い、片足を撃たれて現在昏睡状態に陥っている。


そして......残酷なことに救助を行ったエマの健闘虚しく、足が繋がる見込みは無く、もし奇跡的に繋がったとしても関節が粉砕しているために〝繋がっているだけ〟の重りとなる上、感染症のリスクも考慮され彼女が病院に搬送された時点で即座に切断処置がなされた。


病室のベッドで目を覚まさないルフィナをCLAWのクルーたちはただひたすらに胸が張り裂ける思いで見る他なかった。


「ルフィナ、おい、ルフィナ!」と連絡を聞きつけた彼女の恋人であるカルラは大焦りで病室のドアを開け、即座に彼女の片足が切断されていることに気づくと涙を流しながら崩れ果てた。


「な、なにが、なにがあったんだよぅ......どうしてこんな、ルフィナはどうしてこんな目に!?」


「エル・アルテサーノの護送中にロス・クルティードの襲撃にあった。アルテサーノの監視をしていた彼女は最後までアルテサーノを逃がすまいと動いていたが、新入りのニーナが一千万ドルを得るために裏切って彼女の足を撃って寝返った。」


「そんな、そんなの嘘だろ、だってルフィナは昨日まで楽しそうにそのニーナってやつと写真を撮ってインスタにあげてた!週末一緒に食事をしたときも楽しそうにそのニーナってやつのことを話してた!子供みたいに可愛い新人なんだってずっと言ってた!」


「彼女は......最初からチームに馴染めるか怪しかった。ブルーが心底可愛がっていて、その意思を尊重してルフィナが育てようと親心を持って一生懸命になっていたんだが......今思えば最初に違和感を持った時点で彼女を外すべきだったんだ。忙しさに気を取られてちゃんと気を配れなかった。責任は私にある。」


「クソ、なんでこんな、なんでこんなひどいことになっちまったんだ。ルフィナが足を失う必要なんて無かった!私たちはクルティードの事件が終わったら結婚しようって誓ってたのに!なんでだよ、なんでだよ!?こんなの、理不尽だ!何故幸せを奪われなきゃならないんだ!」


カルラが涙を流しながら吠えていると、ブルーがかなりショックを受けたような表情をして病室のなかに入ってきた。


彼女は長期間の有給を取ってニーナをルフィナに任せ、新しく買ったバイクに乗ってアメリカ一周旅行に出ていた。


しかし、道中でアニマルシティのテロが起きたニュースを知って蜻蛉返りしていた最中にエマからニーナが裏切ってルフィナが重傷を負ったという知らせを聞いて急いで帰ってきたのだ。


ブルーもまた、ルフィナの切断された足を見ると放心状態になり、心の中の自己嫌悪が抑えられなくなって吐きそうな表情をしていた。


「ニ、ニーナが、ニーナがこんな事するなんて......」


「......ブルー、こういうことは言いたくないし残念だが......彼女は性根から警官ではなかった。一千万ドルに目を眩ませて簡単に私たちのことを裏切った。私は見た。ニーナの酷い傷口に削れたアスファルトの破片をかけて踏みつけていたあの表情を。しかも、お前のシェルビー・マスタングを盗んで使っていた。行方を追ったが彼女が裏切る前には既にどこかに持ち出されてた。もうアルテサーノとニーナを追う手立てはない……」


「元はと言えば、お前がニーナをルフィナに任せたからこうなったんだろうが!!!」とカルラは叫ぶと、ブルーの頬に思い切りストレートパンチを食らわせた。


ブルーはそれを回避することはなく、正面から受け止めるがカルラの力では彼女の鍛え上げられた肉体は微動だにしなかった。


「ご、ごめんなさい......ほんとにごめんなさい。私がちゃんとしてればルフィナはこんなことにならなかった、全部私のせい、私のせいなの......」とブルーは膝をついてカルラに謝り始めた。


ブルーは情けなくひたすら絞り出すようにカルラに謝罪しながらひたすらに自己嫌悪に陥り、ようやく幸せを掴み始めたと思えばそれを失った上に仲間に大怪我を負わせられ、自分の居場所まで失いそうになっているブルーはこの場でひたすらに自分の頭を拳銃で撃ち抜きたくてたまらなくなった。自分を産んだこの世界とこの運命に対して激しい殺意と憎しみを覚えた。


そしてさっきまで怒りで息があがっていたカルラはそんな憔悴しきったブルーを見て哀れであると感じると、段々と衝動的な怒りが収まっていった。


「……殴って悪かった。けど……しばらく顔を見せないでくれ……」とカルラは告げると、ブルーは病室を飛び出してトイレに入り、自分の頭を思い切り洗面台にあるガラスに叩きつけ、耳を裂くような大声を上げて吠えた。


「神とやら、お前は残酷だぞ!私から青春を奪い、人並みの快楽を奪い、子を育む能力を奪い、心を壊し、仲間と居場所まで奪った!ようやく、ようやく安心を手に入れて幸せになれると、思っていたのに!何故だ、何故私は生きているんだ!殺せ、殺せよ、殺してくれ、殺せ!!殺してくれ……殺して……殺してよ、殺して……殺せ……殺してください……殺して、殺して……お願いだから……」


吠えるブルーの声を聞くとアンジーはかつてブルーがテロ組織マズバハとの戦いで死のうとしたことを思い出して心配でたまらなくなった。


「クソ、ブルーの奴、ようやく鬱病が回復してきたのにあんなことになっちまって……」


そんな時だった。昏睡状態のルフィナの私物が入っている箱の中からバイブレーションによる振動音が聞こえた。


カルラは気になってそのスマートフォンを取ると、それはアップルのエアタグの通知だった。


「エアタグの通知……?なんでわざわざこんなものが鳴るようになって……」


「まさか、エアタグだって?ちょっと貸してくれ。」


タイラーは心当たりを感じるとそのスマホを操作してエアタグの名称を確認すると、そこには〝ブルーさんのシェルビー〟と書かれたGPSの座標が表示されていた。


「ブルーさんのシェルビー……エマ隊長、ブルーのシェルビーはニーナが盗んだんですよね?」


「……そうか!あいつはシェルビーをメキシコに持っていくつもりなんだ!つまりその座標を辿れば……」


「「アルテサーノを追える!」」


絶望していたCLAWのクルーたちはこの一言で瞳の中の輝きを取り戻した。


「タイラー、正確な位置は?」


「今は移動中のようです。そしてこのルートから考えると奴らが逃げるとしてもあのテロで空港の便は全て止まっている。ということは陸で行くしかない。だけど、今はテロの影響でメキシコとの国境を車で通ることができない。そして、アルテサーノは核兵器を持ち変えるために米国に来て、ニーナはシェルビーを持ち帰ろうとしている。ということは……」


「貨物列車か!」


「今すぐ鉄道警察に連絡して現在アニマルシティから国境間を移動する予定のある貨物列車を全て停止させます!」


「よし、みんな準備を始めるぞ。おそらくこれが最後のチャンスだ。これを逃せばアルテサーノの目論見が成就し、メキシコは狂った国家になってしまう!世界を救うぞ!」


とエマが号令をかけると皆は即座に旧署へと戻る準備を始めた。


そしてシバサンはトイレの洗面台の前で憔悴しきっているブルーに声をかけた。


「……落ち込んでるね。」


「……うん……娘みたいなものだと……思ってたから……私、子供が産めなくなってそのことを罵られて……ずっと母親に憧れてたのに……クロウが生きてる時は皆のお母さんみたいだったって話をしたけど、私もそうやってお母さんみたいになりたかったの……だけど、現実は違った。私の大切な物をたくさん奪ってそれでおしまいだった……私だって、私だって赤ちゃんを産んで育てて立派なお母さんになりたかった!ただ産んで私を見捨てた母親みたいになりたくなかった!だけど現実は産むことすら許してはくれなかった……私は子供の頃にグミベアのTシャツを着たかったし、いっぱいいっぱい甘やかされたかった!」


「……ニーナの居場所が見つかった。これから連中を確保しに行くことになったんだ。でも、ルフィナが眠っている今の状況はブルーがいないと手数が足りない。」


「……ニーナが……そっか……ちゃんと……責任を取らなきゃダメだ……私は……お姉ちゃんだから……」


シバサンがブルーに手を差し伸べると、それを掴んで立ち上がったが、ブルーの手の感触には違和感があった。硬い金属の棒のようなものが当たって感触からそれが車のキーであることがわかった。


「……車のキー?」


「……僕についてきて。」






数十分後、ブルドッグウェイにある旧署の駐車場にシバサンはブルーを連れてきた。


目の前には防水カバーが取り付けられた一台の車があった。


「……これは?」


「本当はブルーが休みが終わった後の復帰祝いにと思って用意してたんだけど、とんだサプライズになっちゃった。シェルビーが盗まれた今、ブルーにはこの車が絶対必要だ。僕からのプレゼント、ちゃんと受け取ってよね。」


シバサンが防水カバーを捲ると中から徐々に青く輝くサファイアのような美しいベイサイドブルーの塗装が姿を現し始めた。


そして何よりもフロントには何よりも重い価値のあるこの世で最も優れた車を表す〝GT-R〟のバッジが付いていた。


「こ……これは……?」


「僕お手製の……特製4ドアスカイライン・GT-Rさ!」


シバサンはブルーが旅に出ている間に事前に購入していたVINスワップされた4ドアのスカイラインを空き時間に密かに改造してGT-Rを作り上げていた。


「本当はGT-Rが欲しかったって言ってたでしょ?外装はニッポンのオオクボファクトリー製のFRP製キットで純正チックなルックス。ウイングを付けていないのは33型のオーテックバージョンを意識した。もちろん足回り一式はブレンボとレイズのTE37。アテーサは元がENRだったから最初から入ってた。内装も可能な限り手に入るGT-Rの純正部品を移植した。エンジン回りはHKS製のパーツで固めてある。そして何よりも大切な心臓は……」


シバサンがボンネットを開くとそこには日産の魂であり、世界で最も優れたエンジンの一つであるRB26DETTエンジンが鎮座していた。


「このエンジンは元々ヒトキリが乗ってた80スープラの中に入ってた。ビソンテスとの戦いが終わった後、ふとあのマシンがどうなったか気になって後から回収しに行った。ボディはもう既に潰れて見る影も無かったけど、エンジンだけは無事だった……まるでまだ動き出す意志があるかのように。それに、あいつとんでもないぐらい弄ってたみたい。八百馬力は容易く出る上に四駆で動くモンスターマシーン……まさにゴジラだよ。あのシェルビーじゃそもそも足元にも及ばないだろうね。ま、僕のブルーインパルスの方が速いけど。……それと、前に注文してた武装は全部トランクの中に入ってるから。」


ブルーは象徴的な丸目四灯のヘッドライトの前でトランクを開くと、中にはペリカンケースが入っており、開けると中からセリエントアームズ製のグレイライフルとキンバー製の2K11ピストル、そしてベロシティのスカラベプレートキャリアが現れた。


グレイライフルはブルーが好む十四・五インチのバレル長でフルカスタマイズがなされた高級品のAR-15ライフルの一種であり、ジェイルブレイクと呼ばれるリコイル緩和やマズルフラッシュを抑制する巨大なマズルデバイスが取り付けられている。


光学機器はイオテック製のホロサイトと拡大鏡が取り付けられており、近中を両方対応することができる。


2K11ピストルはキンバー社が発売した最新型のダブルスタック1911の一種であり、一般的な九ミリではなく四十五口径仕様というブルー好みの仕様であった。


ベロシティのスカラベは近年採用例が増えた最新型のプレートキャリアで細身且つフィット感のある小型のモデルである。中にはタランタクティカル・イノベーションズ製のベースパッドが取り付けられたP-MAGが三本が挿入されている。


ブルーはスカラベを着込んでアランが遺したジャケットを着ると、両方の銃に弾薬を装填してプレスチェックを行った。


「……このハンマーは?」


とブルーはトランクの四隅に置かれていたトンカチサイズのハンマーと取り出した。


「あっ、いっけね!作業用に入れてたのすっかり忘れてた……」


「使っていい?」


「え?……まあいいけど。」


ブルーはホルスターに2K11を挿入し、助手席にグレイライフルを置くと目の前のステアリングに埋め込まれているGT-Rのエンブレムで興奮が抑えきれなかった。


そして何よりもこの車は〝右ハンドル〟であった。ブルーは小さなころにリサイクルショップのテレビで画質試用に再生されていたファスト・アンド・フューリアスを夢中になって見てこの右ハンドルのインポートチューナー(注・英語圏で使われるコンパクトなスポーツ系の輸入車をチューンした物のこと)にあこがれ続けていたのだ。


さっきまで落ち込んでいたブルーのテンションは最高潮まで達した。


「ねえ、シバサン。」


「なに?」


「私の夢を一つかなえてくれてありがとう。」


ブルーはGT-Rのキーを捻ると、液晶にGT-Rのデジタルロゴが表示され、RB26の重厚感のあるエンジン音が辺りに響き、アクセルを軽く踏んで吹かすと激しいバックタービン音がこだました。


そしてブルーは目を瞑り、必ずニーナを捕まえて生皮を剥いで殺すと心の中で誓った。


「なんていうか、自分でも惚れ惚れする出来栄えだな。ブルー、作戦開始までまだ少し時間がある。十分ぐらいあたりを流してきなよ。」


「わかった。ホントにありがとう。この恩は一生忘れない。」


そういってブルーはGT-Rのギアを入れると旧署のガレージを後にし、それと入れ替わるようにフォード・F-150ピックアップトラックがガレージへと入ってきた。


「さっきすんげえカッコいい車が出ていったな!あれもシバサンが組んだのか!」


中から出てきたのはデビル・エンジェルスのリーダーであるクロスボーン・ギャリソンだった。


「クロスボーン?まあそうだけど、一体何しにこんなところに。」


「マジで激ヤバでビルとかいろいろ吹っ飛んだだろ?それで盗まれたりキズモノになる前に渡そうと思って。本当は結婚祝いのために用意してたんだがな!」


「結婚祝い?ってことはその荷台にあるバイクを僕にくれるってこと?」


「そうだ!」


「モデルは何?」


「コイツは驚くぞぉ~」


そうしてクロスボーンから荷台から下ろしたバイクはまるで高級リップのような美しさのある真紅のドゥカティ・パニガーレV4であった。


「ドゥ、ドゥカティじゃない!それもパニガーレV4!?まいったなあ、いいことしたらすぐにいいことが帰ってきちゃった!」


「完璧なドゥカティのフラッグシップスーパースポーツだぜ。完璧なエルゴノミクスで設計されたデザインは運転疲れも何のその。最先端の電子制御でプロでもアマでも乗りやすい!排気量千百三ccで二百十六馬力!ハンドリングに至るまで何から何まで文句のつけようがない!速すぎて怖いぐらいだ。この世界に存在するバイクの中で最高の物の一つと言っていい。市販車の中で最強中の最強!イタリアの赤き情熱が詰まった名車中の名車だ。」


シバサンは渡されたパニガーレV4に跨ると、目を瞑りながらその圧倒的なフィット感と操作性に胸を躍らせた。


「え、え、これホントに貰っていいの?」


「男に二言はねえって。あの連続テロ事件もどうせお前らが追ってるんだろ?街の中が平和にならなきゃ俺たちみたいなアウトローのバイカーも走り甲斐がないってもんだ。〝壊すんじゃねえ〟ぞ。」


「……ありがとう!もう僕も簡単に死んじゃいけない身だ……〝最後の爆走〟にしよう。」


すると、ブルーが一周を終えたのかガレージへと戻ってきた。


「シバサン、このGT-R、ホントに最高だよ……ってこれ、ドゥカティだ。」


「おお?あんたもバイク好きなのか?なんかずっと黙ってる奴だと思ってたが趣味が合いそうだな。」


「それなりにね……バイクで旅に出てたらとんでもないことになっちゃったけど……」


「車両を楽しむ時間は終わりだ!」とエマが三人に語り掛けると、上の階からCLAWのクルーたちが皆一斉に降りてきた。


「いいか、もうすぐ出発の準備に入る。目標はエル・アルテサーノの逮捕もしくは抹殺……おそらく簡単な任務じゃないだろう。周辺は鉄道警察と保安官たちに固めさせたが今のところ動きはない……おっと、連絡だ……マズいな、ユナイテッド・パシフィック(注・アニマルシティ内で運用される大陸間移動を行う貨物列車を運用する会社のこと)で派手な銃撃戦が起きているようだ!メキシコまで逃げられたら今度こそ奴らを追う手立てが無くなる!それからブルー、一応紹介しておこう。新入りのルース・サマーズとセンチュリオンだ。」


「よろしくお願いします。ブルーさん。」


「えっと、タイラーの教え子だったよね……よろしく。それからこっちの大きな人は……」


センチュリオンはフランクにブルーへと握手を求めると、ブルーは軽くその手を握り返した。


「ど、どうも……」


「さて、ここからはスピード勝負になるぞ。」


「スピード勝負なら、ここにある二台に任せてよ。」


「だが、お前がそのバイクを運転したらグルカの運転手が……」


「私がいる。」と手を挙げたのはアンジーだった。


「でもお前は免停になったはずだろ?」


「ふっふっふ……それがな……最近になってようやく免停が解除されたんだよ……半年間の運転禁止は長かった……マジで長かった……人間の足はこの広いアニマルシティの中では遅すぎるからよ……」


「完璧だな。よし、ブルーとシバサンはその新しいマシーンでニーナを追うんだ。アンジーはグルカを運転しつつ、タイラー・アミーナ・ルースを運べ。センチュリオンは上部ハッチからマシンガンを使って相手が抵抗するようなら撃つんだ。そして近づいて列車に乗り込み、アミーナを送り込んで核爆弾の解除を行わせる。一度解除してしまえば相当の専門技能が無い限り組み上げることはできないはずだ。よし、出発だ!」






数十分後、CLAWのクルーたちは大陸間移動貨物列車のあるユナイテッド・パシフィックがある場所へと急いでいた。


すると辺りからは途轍もない銃声がこだましており、負傷した保安官や鉄道警察たちが倒れる阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


「クソ、なんなんだアイツらはどっからどう見ても軍隊じゃないか!ピストルだけじゃ太刀打ちできない!」


「もう鉄道警察のスワットが何人も死んでる!特殊執行局の応援はまだなのか!」


そしてその様子をアルテサーノとニーナは笑いながら見つめていた。


「ねえ、アルテサーノおねえちゃん。力ってのは、いいもんだね。」とニーナはアルテサーノに抱き着いて甘える。


「ふふ、そうでしょ、子猫ちゃん。メキシコに帰ったら……一緒にいっぱいいっぱい人を殺そうね。それで死体を一緒に食べちゃおう。」とアルテサーノはニーナの頭を撫でる。


「おねえちゃんだーいすき!あはは!おねえちゃんになら……お母さんになってほしいかも……」とニーナはアルテサーノの胸の中に顔を埋めると、「いいよ、なってあげる。私もニーナのことだーいすき!」と言いながら頬にキスをした。


運転席のアンジーがグルカからゴールド・ネームライフルを構えて遠距離で確認すると、そこには明らかにメキシコの正規軍らしき人間たちが派手に銃撃戦を行っていた。


「ボス、ありゃあ……メキシコ軍の連中だ。それも何十人もいるぞ。FX-05に……M249まで持ってやがる。」


「クルティードはなりふり構わなくなったか!」


「ああ……マズいぞ、出発の汽笛が鳴り始めてる。貨物列車が動き始めてる!」


「センチュリオン!奴らを蹴散らせ!強引に突破するんだ!」


センチュリオンはPKMのボルトを引くと、そのまま指切りでバースト射撃を行い、メキシコ軍に対して銃撃を行い始めた。それと同時にアンジーもアクセルを踏んで周りに停まっているパトカーの間を掻い潜りながらパトランプを点灯させて列車を追い始める。


「な、なんだアイツらは!」


「ありゃあ、アニマル市警の連中だぜ、グルカにそう書いてある!」


「まあいい、助かった!この隙に負傷者を搬送するんだ!」


センチュリオンの正確無比な射撃はメキシコ軍の軍人たちを一方的に蹂躙していく。


そしてその銃声に気づいてグルカを知覚したニーナは焦り始める。


「おっ、おねえちゃん、奴らが来たよ!」


「うん?面白くなってきた!やっぱりあいつらは最高だよ!あ~各隊、こちらアルテサーノ……あの連中と戦って死ね!」とアルテサーノが命じると、貨物列車のコンテナに隠れていたメキシコ軍の兵たちがぞろぞろと現れ始める。


「一体何人いるんだ……まあいい、おい、ブルー、シバサン!アルテサーノとニーナは確認できるか?」


「今追ってる!」


ブルーとシバサンはギアを上げてアクセルを全開にするとすぐさま貨物列車の先頭車と並走した。そしてブルーとニーナの目が合った。


「ニイイイイイイイナァァァァァァァ!」


鬼の形相をしたブルーの睨む目にニーナは少し恐怖を感じた。これまで話してきた中であのような顔を見たことは一度も無かったのだ。


そしてブルーはパワーウインドウを開けると、躊躇なくキンバー・2K11でニーナに対して発砲するが余りのスピードで動く両者に銃弾は上手く当たらない。


「あ、あいつ躊躇なく撃ってきやがった……も~いい!ぶっ殺してやる!」


「お、子猫ちゃんやる気だね!がんばれ~応援してるよ!」


ニーナは後部にあるコンテナに移動すると中に入っていたシェルビー・マスタングに乗って貨物列車から降りるとブルーのGT-Rと並走した。


そして車をぶつけようとしてくるが、ブルーはニアミスでそれを回避していく。


心地よいバックタービン音をあたりに響かせながらブルーはアクセルを踏みっぱなしにして、助手席に置いているグレイライフルを構えてフルオートでニーナの乗っているシェルビーを射撃する。


「私のエレノアの窓ガラス割りやがって!クソ高いGT-Rに乗ってる如きで調子に乗るんじゃねえぞ!」


「それはお前のじゃない……ケイトがくれた私の宝物だ!」


「おお、凄いやってるやってる!あははは、憎み合ってるってのはいいもんだね……」


「よそ見してる場合じゃないよ!」


シバサンはパニガーレV4を運転しつつ、片手でH&KのMP7を持つとドライブバイ・スタイル(注・ギャング等が行う車両に乗りながら行う射撃のこと)でアルテサーノに対してフルオートで銃撃を行うが、アルテサーノは頭を下げて回避していく。


「ふおっ、あっぶねえ~あとちょっとで頭に当たるとこだった!シバケンちゃんもすっごいねえ、ゾクゾクしてきちゃった……うう~あ、そうだ、ねえ!シバケンちゃん!聞こえてるかわかんないけど、面白そうだからコレ、押しちゃうね!」


そういうとアルテサーノは持っていた始動スイッチを押して外へと放り投げた。


「クソ、何をしてるんだアイツ!」


「核爆弾に時限装置をセットしたの~!早く探さないとここいら一体ドッカーンってなっちゃうよ!」


「なんだって……!こちら、アンパサンド・フォー!核兵器に自爆装置がセットされてる!至急アミーナをコンテナに移動させて爆弾を解除させて!じゃないとココにいる全員が死ぬ!」


「了解アンパサンド・フォー!安全を確保次第、直ぐにアミーナたちを送り込む!アンジー、車をもっと寄せるんだ!」


「わかった!」


アンジーはグルカを貨物列車の近くへと寄せると、センチュリオンは上部ハッチをよじ登って下にいるアミーナ・タイラー・ルースを持ち上げて車の上へと昇らせた。


そしてタイラーとルースはそのまま貨物列車のコンテナへと飛び乗るが、アミーナ一人だけは足がすくんで動けなくなっていた。


「と、と、と、飛び乗れって言うんですか!このスピードで!落ちたら列車の下敷きですよぉぉぉぉぉ!?」


「早く飛んで!次いつまたメキシコ軍に撃たれるかわからないんですから!」


「センチュリオン!頼む!」とタイラーが言うと、センチュリオンはアミーナの首根っこを持って片手で持ち上げると、そのまま列車の方向へと投げた。


「い゛いいいいいいいい~!」


「よし、掴んだぞ、アミーナ!こんなところでビビってるんじゃない!もっと大事な仕事があるんだ!」


「わ、わ、わ、わ、わかりました、ですから早く、早く持ち上げてくださいいいい!」


タイラーがアミーナを引き上げようとすると、よじ登ってきたメキシコ軍が銃撃を始めた為、ルースは持っていたタクティカルシールドで二人の盾になりながら、MP5を構えて銃撃を返す。


「タイラーさんにケガは絶対させません!」


「よし、持ち上げたぞ!アミーナ、ガイガーカウンターはちゃんと持ってきてるよな!」


「もも、もも、持ってます!このまましらみつぶしに列車を探しましょう!」


ルースが盾を構えて前方を守りつつ、その後ろでタイラーとアミーナは核兵器の創作を開始した。


「ボスはどうする!」


「私はアルテサーノを追う!」とエマは助手席を開けると、そのまま電車に飛び乗ってコンテナの間を縫いながら動き始める。


「なあ、センチュリオン。グルカは私たち二人だけになっちまったなあ。引き続き火力支援を頼むぞ。」


一方その頃、ブルーはGT-Rを駆ってニーナの乗るシェルビーと激しいカーチェイスを繰り広げていた。


フルスピードで駆ける二台の車から放たれる銃弾は互いの車に中々ヒットせず、ただ無駄に弾薬を消耗するだけだった。そしてそんな中でブルーはある妙案を思いついた。


「なんであたんないのおおおおおお!うっとおしい、うっとおしい!さっさと死ねよ、お前!」


「お前の射撃能力じゃ無理。今まで優しく接してきたから言わなかったけど、オブラートに包まずに言うね。スワットでは合格点でも、軍じゃ通用しない!」


「言ったな……言ったなお前えええええええええええええええええええ!」


「……シバサンの作ったマシンについてこれるかな?」


ブルーはギアと六速へと入れると、そのままアクセルベタ踏みで列車を追い越していく。そしてそれに食らいつかんとニーナもギアを上げてアクセルを踏み続ける。


辺りにはシェルビー・マスタングの途轍もない重厚感のあるマフラー音と、GT-Rのバックタービン音が交互に響くと視界はスピードによって歪み、ブルーの気分はどんどんと高揚していく。


そして八百馬力のRB26と圧倒的な四駆によって容易くシェルビー・マスタングとの距離が離れていく。


「なんで……なんでもっと早く走れないの!エレノアァぁあああ!」


「……頃合いか。」


すると、前方のGT-Rのテールにある丸目四灯のブレーキランプが赤く光ると、そのまま徐々にスピードを落としていく。


「はーん……?さてはビビッて踏むのを辞めたな……今だエレノア!行け!」


ニーナがアクセルをベタ踏みにすると、そのまま減速しているGT-Rを追い抜いてブルーに対して中指を立てた。


「あははははははははははは!私の勝ち、私の勝ち──」


するとその時だった、ニーナが運転していたシェルビーは砂丘斜面に引っかかると、そのままコントロールを失ってスピンした上で横転した。


ブルーの狙いは後輪駆動で挙動が不安定になりやすいシェルビーを四輪駆動で追い上げてスピード勝負を煽り、限界までスピードを上げたところで勝負に降りて安定性を失わせることにあったのだ。


ブルーは途中でGT-Rから降りてライフルを構えると、そのまま横転したシェルビーへと急いだ。






「クソ、全然見つからない!もう十五分は経ってるっていうのに!」とタイラーは焦りながらスカー・ライフルを撃ってメキシコ兵を仕留めていく。


「ぜ、ぜ、ぜ、全然反応がありません……」


「盾もボコボコですよ!補給なしでここまでやり合うなんて!」


「何か策は……策は……」とタイラーが周りに視線をやると、シバサンがMP7を撃ちながら美しい紅色のパニガーレを運転している姿が目に入った。


「……そうか!時速百五十キロしか出ないグルカは無理でも、バイクなら高速で見て回れる……アンパサンド・フォー、こちらアンパサンド・ツー。徒歩じゃ貨物列車全体を探しきるのは無理だ。そこで、アンパサンド・ナインをそちらのバイクに乗せて捜索させたい。」


「オッケー、わかった。でも気を付けてね、この速度域じゃ落ちただけでワンチャン死ぬから!」


パニガーレV4の加速であっという間にシバサンはタイラーたちのもとへと追いつくと、貨物列車に近づいてアミーナにこちらに来るようにジェスチャーをした。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!コレ、落ちたら死んじゃうじゃないですか!無理、無理!」


「速く乗って!」とシバサンは叫ぶが風に遮られてアミーナに届かない。


「アミーナ、アミーナ!いいか、お前がいないとここにいる全員が吹っ飛ぶんだ。だから、勇気を出して飛ぶんだよ!」


「アミーナさん、貴女のチンクエチェントをぶっ壊したのは誰か知ってる?」


「だ、だ、だ、だれなんですか?」


「ルフィナさんの携帯に書いてあったけど、あのニーナだよ!あいつは寝返ってクルティードで万々歳しようとしてる!クルティードの思い通りにされてそれでほんとにいいの!貴女のチンクエチェントのリベンジをしないと!」


「わ、わ、わ、私のチンクエチェント……許さない、私のチンクエチェントを焼き殺しやがって、許さない……」


「飛べ!」


タイラーが背中を押すと、アミーナは目を瞑りながらジャンプをして、その落下地点にシバサンは上手くバイクを並走させると、後ろの座席にアミーナが飛び乗った。


着地の衝撃でパニガーレのバランスが崩れ、デスウォブル(注・バイク走行中に高速域で制御不能なほどハンドルや車体が左右に揺れる現象のこと)を起こしかけるが、焦らずにゆっくりと丁寧にカウンターステアをしつつ、しっかりとタンクをグリップして何とか安定させた。


「あ、危なかった……寿命縮んだ……こんなにビビったのはブルーインパルス以来だ……アミーナ、ノーヘルなんだからちゃんと僕に掴まっててよ!」


「は、は、はい!」


アミーナはシバサンに掴まりながらガイガーカウンターを握りしめながら針が動く場所をゆっくりと確かめていく。


「核兵器は完全に密閉されていますから、ある場所じゃないと強く反応しないはずです。とにかく降りたところから前方のコンテナをしらみつぶしに近づいてください。」


「オッケー!」シバサンがギアを上げてアクセルをフルスロットルにすると、アミーナの視界が歪んていく。


「ひっ、ひぇっ……は、は、は、早すぎませんか……」


「とんでもない危機なんだから、この程度でビビっちゃダメだって!ほら、ちゃんとガイガーカウンターを見てって!」


「は、はいぃぃ……」


そしてそんな二人を遠目から見てタイラーとルースは安心するが、弾倉の半分が無くなった状態でも敵の数は緩まることを知らない。


「マズい……弾倉交換!カバーを頼む!」


「任せてください!」


ルースはセレクターをフルオートにして盾に押し付けながら安定させた状態で引き金を引いてメキシコ兵たちに撃ちまくるが、九ミリの弾丸では軍用の防弾ベストを上手く貫くことができず、敵を仕留めるまでにかなりの時間を要してしまう。


故にタイラーの持っているスカーの七・六二ミリに頼りきりの状態であったが、スカーの弾倉容量は僅か二十発しかなく、数人仕留めるとそのまま弾切れを起こしてしまう。


そして弾切れを察知したメキシコ兵たちは隊列を組んで足早に近づいてくる。


「クソっ、最後の弾倉だ……ルース、すまない!この数分を凌げるかわからない……」


「いいんですよ、タイラーさんと一緒なら死ぬのなんて怖くありません。」




「湿っぽい雰囲気は無しッスよ。先輩。」




「!?」


タイラーが上空を見上げると、黒いシコルスキー・エアクラフト製のUH-60ブラックホークヘリが近くを飛び、搭乗員たちが援護射撃を行い始める。


そしてラぺリング用のロープを垂らして複数のFBIのスワット隊員たちと共に降りてきたのはエイヴァ・バットリー・キャンベル上級捜査官だった。


「久しぶりッスね、先輩!」


「エヴァ!?」


「え、誰ですかこの馴れ馴れしい女は……私とタイラーさんがイチャイチャしてる真っ最中だったのに……」


「上への報告が大変で来るまで時間が掛かったッスが……もう安心していいッスよ。スパイダー・ワン!タイラー・ナイトウッド二等巡査部長とルース・サマーズ一等巡査に予備の弾倉を!」


「ホントに助かった……ありがとうエヴァ。」


「こっちだって……ずっと会いたくてたまらなかったんスよ……上にずっと止められてて……」


「一体誰なんですか!この泥棒猫は!私の前で見せつけるようにイチャイチャするなんてッ!」


「エヴァ……」


「先輩……」


「私の、知らない、タイラーさんの女!」


タイラーとエヴァは涙ぐみながら互いの半年ぶりの再開を祝い、ハグをしようとした。そして一発の銃声が響いた。


「やっぱ脇が甘いッスよ、先輩。ちゃんと後ろを見ないと。」


「お前もな。」


タイラーが一発撃つと更に背後の敵を片付けた。


「ちゃ、ちゃんと気づいてたッスよ……!」


「嘘つけ!」


「なんなんですか、なんなんですかこの女は!タイラーさん説明、説明してください、私以外の女がいるなんて聞いてません!」


「お嬢ちゃん、ちょっと盾借りるッス。手本見せてあげるんで。」


「あ、ちょっと!泥棒猫!」


「スパイダー・チーム、私に続け!前進!」


エヴァはルースの防弾盾を片手に腰からマテバ・リボルバーを抜くと、FBIのスワット隊員と共にメキシコ兵へと果敢に突撃していった。


スワット隊員たちの援護射撃を受けつつ、エヴァは盾を構えながら正確に三五七マグナム弾で敵の頭を撃ち抜いていって距離を詰めると、盾を使って近接攻撃を仕掛けながら軽やかな回し蹴りで蹴落としていく。


「よし、ここは任せる!私は警部と合流してアルテサーノを捕まえる!ルース、エヴァがここの敵を倒してる間にアミーナたちと合流してカバーしてやるんだ!」


「えっ、ちょっとぉ......」


「さぁ、ここからが本領発揮!」


エヴァは攻撃をしのぎながら正確にマテバ・リボルバーから空薬莢を排出して、スピードローダーで六発の弾薬を込めると、スイングアクションで装填し、持っていた盾を敵に向かって投げつけて視界を塞ぐと、左側にあるホルスターからもう一丁のマテバ・リボルバーを抜き、二挺拳銃でメキシコ兵たちを仕留めていく。


「上級捜査官......今どきリボルバーなんてまだ使ってるんですか......?」


「もう〝失敗したくない〟から!一挺で不安なら二挺持つ!我ながらに天才的発想ッスよね〜!」


だが、部下のスワット隊員の指摘通り小銃やダブルスタックのピストルと比べて、リボルバーの弾切れは非常に速い。


すぐさまに弾切れを起こすとさらに後ろ腰のSOBホルスターに入ったR8リボルバーを撃って敵を薙ぎ払った。


「二挺で駄目なら三挺ッスよ!」






GT-Rを降りて走っているブルーを頭から血を流しながらタランタクティカル・イノベーションズのベネリM2を持ったニーナが構えて撃ち込むが、上手く当たらず、震えた手で八発撃ち切った後にプレートキャリアに付けていたショットシェルを掴んでクワッドロードをした後にボルトを引いて構えるが、その時には既にブルーの姿は消えていた。


「クソ、クソ、なんなんだ、お前なんなんだよ!」


「クワッドロードなんて浅いテクニックを実戦で使う物じゃない。」


「ル、ルフィナと同じこと言いやがって……死ねよ、死ねよ!」


ニーナは半狂乱になりながらあたりにベネリを撃ち込むがそれでもブルーの姿は見当たらない。そして一発……また一発と消費していき、気が付くと背後にブルーが立っていた。


「一回だけチャンスをあげる。ここで投降すれば命は助かる。カリフォルニア州で最後に死刑が執行されたのは二〇〇六年でそれ以降停止してる。例え死刑になっても実質的には終身刑で済む。命までは失わない。」


「なんだと……?ああ、一生塀の中で暮らせってか……?そんなのできるわけねえだろうがあああああ!」


ニーナは背後に立っていたブルーにショットガンを突きつけるとニヤリと笑うが、ブルーは涼しい顔をしていた。ニーナが引き金を引くとそこには虚しくカチンという音だけが響いた。


「あ゛……?」


「さっきクワッドロードをした時に焦って一発落としたことに気づいていなかったの?体格が小さいからそもそもクワッドロードに向いてない。だから浅いテクニックを使うなって言ったの。」


そういうとブルーはニーナが持っていたショットガンを取り上げて、片手間に分解して投げ捨てた後、ニーナの腕を掴んで右手の人差し指から小指までの関節を一気に反対に曲げてへし折った。


「ん゛ぐ゛っ゛!!!!」


「もう一度言う。最後のチャンス。このまま投降すれば命だけは助かる。これは私がお前にする最後の慈悲だ。」


「わ……わかった……わかりました……言うとおりに……言うとおりにします……」とニーナは怯えたフリを死ながら、後ろ髪の中に髪飾りとして隠し持っていた小型のカランビットナイフを左手に取った。


「だから……殺さないで……殺さないで……殺さないでね゛ぇ゛!」


カランビットナイフを持ってブルーに切りかかろうとしたものの、簡単に避けられるとニーナの右目の視界がブラックアウトした。


そしてじわじわと感じる痛みはブルーがハンマーの杭抜きを抜いて目玉が地面に飛散した途端に激痛へと変わった。


「ん゛んんん゛ああああ゛ああああ゛゛あああああああ゛゛目が、目が゛ああああ゛!!゛!!゛!!!」


「ミーハーじゃ駄目。カランビットナイフは刃が内向きだから素人が使うには向かない。」


ブルーは容赦なくニーナのカランビットナイフを持った手を踏みつけた後、髪の毛を引っ張り上げて再度ハンマーで追撃を行うと、ニーナの歯と唇の一部が完全に破壊された。


そして脳震盪を起こすまで何度も何度もハンマーで殴られると、頭の皮膚が破けてこれでもかと血が飛び散っていく。


そのまま近くにあった岩に顔面を叩きつけられると鼻の骨が折れた。


ニーナはこれまで感じたことない恐怖を味わい始めた。どれだけ自分が弱者であるのかということをわからされ、震えが止まらなくなった。そして無慈悲に殴り続けるブルーの視線はひたすらに冷ややかだった。


「私ね、ニーナが卑怯なことばっかりしてたのをルフィナにメールで教えてもらったの。でもね、お前甘いよ。〝殺し合いに卑怯なんてない〟の。お前はただスパーリングでルール違反をして悪いことしてた気になってただけのポーザーなんだから。」


ブルーは地面に落ちていたショットガンを拾い上げてニーナのプレートキャリアについていたショットシェルを数発分取ると、ゆっくりと薬室に装填してニーナの片足を吹き飛ばした。肉片が宙を舞ってニーナの足は完全に千切れた。


「う゛がががあああああああああああああああああああ゛!!!」


そしてブルーは横転したシェルビーの砕けた窓ガラスを掌いっぱいに拾い上げると、ニーナの傷口に擦り付けて踏みつけた。すると、多数のガラス片を傷口にねじ込まれたあまりの痛みにニーナは嘔吐する。


「これはルフィナの分。痛いよね?でも、同じことをお前はしたんだよ。ん?何か言うこと、あるんじゃないの?」


「ご……ごめんなさい……」


「もっと大きな声で。」


「ご゛めんなさい゛!ご゛めんなさい゛!私゛が悪゛かったです゛!私は゛許されないことをしました゛!」


「ダメ。」


ブルーは無慈悲に薬室にもう一発装填すると、もう片方の足もショットガンで吹き飛ばした。


「ん゛ぅぅぅ゛ぅぅ゛ぅ゛ううううううう゛うううう゛!!!」


「これは私を裏切った分。高い授業料だったね。」


そしてショットガンを床へ捨てると、首根っこを掴んで間髪入れずに全身をハンマーで急所を一心不乱に叩き続けていく。鈍くて重く、深い痛みがニーナの体を物理的に破壊していく。


恥骨を叩き割られると、失禁して漏らした尿が股から出た血液と混じり合っていく。


「ごめん゛な゛さ゛い゛!ごめん゛な゛さ゛い゛!ごめん゛な゛さ゛い゛ぃぃぃぃ゛!」


気が付くとブルーが持っていたハンマーは血だらけで、ニーナの体は全身が満遍なく紫色に腫れがあって、人の形がも怪しいボロ雑巾のようになっていた。


すると、徐々に後ろから先ほど車で追い越した貨物列車が近づいてくる。


「……来たか。」


ブルーは半殺し状態のニーナの髪の毛を持って引き摺ると、徐々に列車へと近づいていく。


「あの時素直に投降してれば、こんなに苦しまずに済んだんだよ?一生塀の中だけど、生きてくことだってできた。お姉ちゃんの言うことを聞かないからこうなったの。」


「な゛なに゛を゛、な゛に゛を゛ぉぉ゛!!!」


「ちゃんと、いい子にしてればこんなことにならなかったんだ。」


「ひ゛っ……ひ゛ぃ゛っ……!」


ニーナはブルーが何をしようとしているかを理解すると怖くてたまらなくなった。


産まれたことと、今生きていることを強く後悔した。


そして目の前を通っている最中の列車の動輪にニーナの顔面を近づけていく。ニーナはその瞬間にあまりの恐怖で自分がしてきた全ての所業を後悔した。


「や゛め゛て゛!ごめん゛な゛さ゛い゛!や゛め゛て゛!エ゛リ゛ー゛お゛姉゛ち゛ゃ゛──」




「死ね。」




ブルーはニーナの顔面を貨物列車の動輪にねじ込むと、高速で回転する動輪に顔面が巻き込まれてぐしゃぐしゃにひき潰され、そのままの勢いで体全身部分も動輪に巻き込まれて破断されてゆき、破裂した皮の間から雑巾を絞るかのように内容物を血液を溢れ出すと単なる粉々の肉片へと姿を変え、そのまま列車と共に見えなくなっていった。


ブルーは疲れてGT-Rの助手席に座り込んで少し休んでいると、頭を抱えながら幼少期のトラウマを思い出した。


どれだけ父親に虐待されても母親には助けてもらえないどころか、母親のサンドバッグになっていた子供の頃を。


結局のところ、自分はどこまで行ってもあの親と本質的に同じなのかと考えると、自己嫌悪に襲われて全てが嫌になりそうだった。


ブルーは上着に入っていたアランのタバコを咥えて火を付けて一口吸うが、やはり感想はマズいの一言だった。


そして、アンジーが運転しているグルカが目の前に停車する。


「おい、ブルー、大丈夫か?」


「大丈夫じゃないけど、大丈夫。」


「こっちも全然大丈夫じゃない。アルテサーノが核兵器に時限装置をセットしやがった。アミーナがさっき降りてシバサンが援護してるが、メキシコ兵が多すぎて苦戦中だ。手を貸してほしい。センチュリオンと貨物列車に飛び移ってアミーナたちを援護するんだ。」


「……オッケー。」


ブルーはライフルを手に取ると、国境地帯の砂ぼこりでボディのベイサイドブルーをくすませたGT-Rとクラッシュしたシェルビー・マスタングに視線を向けて「ちゃんと後で取りに来るからね。」と告げると、そのままグルカに乗って発進の合図をした。






「あ、あった!ここです、このコンテナです!」


「あぁ......アレね......って端っこに放射能マーク書いてあんじゃん!!!探すのにガイガーカウンターいらなかったじゃん!!!」


「も、も、もう少し右に寄ってください!!!」


シバサンがバイクを貨物列車へと寄せるとアミーナは座席を踏みながら立ち上がった。


するとタイミングよくルースが現れ、手を伸ばすとそれを掴んで核兵器が積まれたコンテナの車輌へと移った。


「い、い、い、今から核兵器の解除を行います!す、す、少して、手伝って!」


「わかった!」


ルースはアミーナの背中に積まれたボルトカッターを取ると、そのまま力を込めて勢いよくコンテナチェーンを破壊してドアを開けると、中には巨大なW62核爆弾が鎮座していた。


「これが......本物の核爆弾......今生で拝むことになるなんて思わなかった。」


「わ、わ、私が今から解除します!度合いによりますがかなり時間がかかるかもしれません!カバーをお願いします!」


「了解。警戒する。」


「……って……残り十分しかないじゃないですか!急がないと、急がないとぅ……!」


アミーナはバックパックに用意していた電動ドリルで再突入体のノーズコーンを解体すると、中にあった放射性物質の入った金属製のコンテナを開け、レンズの集合体を露出させた。


そして解除用のPALコードをデバイスを通して行おうとしたが、そこで問題が発生した。


「ゲッ……あの時と構造が全然違う……PALコードを解析するための接続部が物理的にシャットアウトされてる……マニュアルに沿って手動でやるしかない……」


アミーナはスクリュードライバーを手に取ると、ゆっくりとボルトを外して蓋を外そうとするが、ゆっくりと持ち上げた瞬間に小さな抵抗を感じてゆっくりと隙間をのぞき込むと、そこには大量のワイヤーが接続されていた。


焦って引き抜かなかったことにそっと胸を撫でおろしながら、マイクロファイバーカメラを取り出して挿入して画像をチェックすると、大量に密集した色々なカラーのワイヤーが映像へと映った。


「意図的に解除を困難にしている……ちゃんと法則に則って取り付けられたものをデタラメにはんだ付けしたもので覆い隠してる……全体像を掴まないと解除のためのコードが特定できない……基盤はどこのモデルだ……?」


すると、集中しているアミーナの体を外から飛んできた跳弾が掠めた。


「ひっ!ビビらせないでくださいよ……!今、集中しているんですから!」


「こっちだってヤバイの!九ミリのサブマシンガンであれだけの数を相手にするのは無理!」


「ルーーーーーース!」と外から声が聞こえて目をやると、そこには並走するグルカの姿があった。


「ブルー、センチュリオン、ルースとアミーナの援護を!」


「わかった。」


ブルーとセンチュリオンは貨物列車へと飛び乗ると、ライフルを構えながらルースの援護を始めた。


「助かりました!二人がいれば百人力です!」


「センチュリオン、頼む!」


センチュリオンはPKM機関銃のボルトを引くと、腰だめ撃ちでフルオート掃射を行ってあたりのメキシコ兵を一網打尽にしていく。


そしてそれに続くようにブルーとルースもフルオートで援護射撃を行っていく。


しかし、数分するとメキシコ側の空から一台のヘリが見えた。


「ブ、ブラックホーク!あの塗装はメキシコ軍の!」


ヘリガンナーがM134ミニガンを発射し始めると、全員はコンテナを盾にしながら隠れた。


「あんなの当たったらひとたまりもないじゃないですか!」


「アミーナ、アミーナ、まだ!?」


「待ってください……配線が多すぎて見えない……」


すると、FBI側のブラックホークが囮を買って出たことで射撃が止んだ。


「た、助かった……」


「……ね、アンパサンド・スリー、あのヘリ撃ち落とせない?」とブルーが無線で連絡をすると、アンジーの困惑した返答が帰ってくる。


「そ、それ正気で言ってんのか。対物ライフルは持ってきてないんだぞ。」


「ローターの基部を狙って。」


「風の抵抗で反れちまうし、今運転中なんだぞ!どっちにしろ外したらミニガンで蜂の巣だ!」


「じゃ、僕が奴らの目を潰すよ。」


「ハァ!?そんなことできるわけ……」


「近くに高めの砂丘がある。あそこからジャンプしてフラッシュバンを投げつける。怯んだ隙にアンジーが撃ち落として。外さないでよ、一番精密射撃が得意なんだから。」


「お前オフロードでもないバイクでやるとかマジでイカれてんのかよ!クソ、わかった。やるよ、やってやるよ!」


「それでこそ!」


シバサンはプレートキャリアに付けたフラッシュバンからピンだけ取り外すと、アクセルをフルスロットルにしてスピードを上げていき、傾斜のある砂丘へと走るとそのままの勢いで宙を舞った。


そしてそのコンマ数秒の間にピンを抜いたフラッシュバンをメキシコ軍へのブラックホークへと投げ込むと、あたりは凄まじい閃光に包まれた。


アンジーはアクセルを踏みながら片手で修正舵を取りながら、左手でゴールドネーム・ライフルを構えるとスコープを覗いて態勢が崩れているヘリを狙った。


砂塵と車の振動、そして標的の揺れと風……全てを脳内で綿密に補正しながらアンジーは引き金を引くと、ゴールドネーム・ライフルから放たれた弾丸は見事にブラックホークのローターの基部を貫くと、そのまま撃沈させた。


「フォオオオオオ!やった!やっぱり私は最強のスナイパーだ!」


「助かった、アンパサンド・スリー、フォー!」


しかし、ブラックホークに気を取られていたその時だった。アミーナが爆弾解除をしている途中にメキシコ兵の一人がグレネードを投げ込んでいたのだ。


「グ、グレネード!」とルースが叫ぶと、センチュリオンは率先してグレネードへと覆いかぶさると、皆に爆片が当たらない様に覆いかぶさった。


少しの間があった後にグレネードは炸裂すると、小規模な振動と煙を起こし、センチュリオンは沈黙した。


「センチュリ……オン……?センチュリオン!センチュリオーーーーン!」


ブルーは心配しながら動かなくなったセンチュリオンに駆け寄ると、うつ伏せの体を仰向けにして傷跡の確認をした。


前進を大きく包み込んだ対爆スーツは一部が裂けて焦げた酷い有様であった。


「センチュリオン、センチュリオンしっかりして!センチュリオン!」


だが、どれだけ問いかけてもセンチュリオンはピクりとも動かず、あきらめかけていたその時だった。




「……あぁ、あかんだわ。ほんたげ、このスーツまじであかんだども。あっつぐて、かゆぐて、むれで、あせくせぇし……そいでよ、ずーっとだまってろっつーのはおら、もーむりだんだわ!」



センチュリオンはかなり強いアクセントのグラスゴー訛りで話しながら、むくりと立ち上がると、着込んでいた対爆スーツをべりべりと剥がし始めた。そして最後に防弾ヘルメットを外すと、筋骨隆々のイギリス人女性が姿を露にした。


「お、女だったんだ、中身……」


「ほんだば、まじできつがったんだわ。こった一週間ば、会社さ呼び出されたが思ったら、警察の特殊部隊さ出向させられてよ、顔だすな、喋るなっつーて、わけわがんねぇ無茶ぶりされて、そいでこんな大仕事やらされる羽目になったんだども。迫力出すためにシークレットブーツまで履がされて、かかとゃ靴ずれでめっちゃ痛ぇし……おら、これでも民間人だべや?人使いが荒すぎるべさ〜。なんかヤバイ奴おるし……あの紅茶くれだ子はおらの教え子だったのに、あんなになってしもうて、もう泣ぎだしそうだんず、ってかホテルさ帰ってずっと泣いで、メンタルめっちゃやられだわ。あ、それから心配してくれてありがとさ。でも、これ、C4の爆薬にも耐えられる軍用の対爆スーツだがら、フラグ一発ごときじゃ死なねぇべ。あーー、あっつ……早ぐシャワー浴びでぇわ、ほんとに……」


ブルーはセンチュリオンのその顔に見覚えがあった。


「え、えーと、もしかしてあの時のパーティでOdin.incでリッキー・マイト社長の護衛をしてたコントラクター……?というか、何言ってるかわかんない……」


センチュリオンはハッとした顔になって咳払いをすると、聞き取りやすいようにグラスゴー訛りを抑えたイギリス英語で話し始めた。


「そやで。エイニス・ホマーって言うねん。気軽にエイちゃんとかエイニスとかエイニーとか呼び捨てにしてくれて構わんで。改めてよろしゅう、エリリン。」


「エ、エリリン……?」


「で、アミナンは爆弾解除上手く行ってる?」


「ちょ、ちょっとヤバイかもしれないです……解除用のコードを二人で一度に切らないと、爆発します……でも、もう一分しかありません……一人でやるには手数が……この蓋重いし……」


「ウチも力貸すわ。これでも一応特殊舟艇部隊で一般的な爆弾の構造と解除の方法は習っとるし。核兵器は知らんけど……」


エイニスはズタボロになった防弾アーマーから治療用の鋏を取り出すと、蓋を片手で軽く持ち上げた。そして負担が軽くなったアミーナはX線装置で時限装置へとつながる配線の特定を行った。


「助かります……えーと、左から十二番目の緑!」


「一、二、三……えっと、どっちから見て左?」


「ああ、すいません、こっちから見て左なのでそちらから見ると右です。」


「オッケー……」


手間取っている間に刻一刻とカウンターは進んでいき、徐々に零へと近づいていく。


「ええーと、二十六番目の白……二十六番目の白……」


「落ち着いて!深呼吸やでアミナン!」


「ひっ、ひっ、ふぅ……」


「なんでラマーズ法やねん!腹式呼吸や!」


「すぅーーーーーーはぁーーーーーーー」


「言ってる場合ですか!もうカウントが四秒しかありませんよ!三……ニ……一……」


「切って!」






数十分前、貨物列車の先頭車両にてエマ・カストロ・マルチネスは遂にエル・アルテサーノと再び対面を果たした。


「数時間ぶりだな……」


「おはよ、ジャガーちゃん。」


「お前を数千件の殺人の関与の疑いと不正入国、警官に対する拷問と強姦!そして核物質に関する禁止取引、数十件のテロ行為に関与した容疑で逮捕する!」


「おお、いいねえ。そういう口上大好き。警察モノってそういうところが一番カッコいいんだ!」


「一人前の警察官として恥ずべき感情だが……私はお前は強く恨んでいる。故に、容赦はしない。場合によっては……貴様を殺すことも辞さない!」


「最ッ高!そういうセリフ、言われてみたかったあ~!じゃあさ、私のコト捕まえるっていうなら……素手で来てよ。素手で、私を殺してジャガーちゃん。」


アルテサーノは躊躇なくショルダーホルスターに入れた四四マグナムを外へと投げ捨てると、首を回してから指を使って挑発した。


エマもまた、持っているナイツのライフルとスタッカート・ピストルを置いてアニマル市警で教練されているボクシングの構えを取ると、容赦なくジャブを放つ。


するとアルテサーノはあろうことかノーガードでそのジャブをモロに受けると、大きく後ろへと仰け反り、鼻から垂れた血液を舌で舐め取った。


「鋭いキレ、鈍い痛み、ジンジン来る後味……最高だよ、ジャガーちゃん。もっと。」


「……望みどおりにしてやる!」


エマはワンツーから入ってボディに揺さぶりをかけてからフックに発展させ、そこからストレートを放つとモロに急所へと直撃し、アルテサーノは地面へと倒れ込み痙攣する。


「あ゛は゛は゛は……ホントに最高……脳が揺れて、股が疼く……この痛み、この痛みが最高なのぉ!」


「……本当にお前は戦う気があるのか。」


「あるよぉ!」アルテサーノはバックフリップで立ち上がると、ふざけたようにブルース・リーのカンフーのポーズを真似しながら挑発を行った。


そしてエマがそれに乗ってコンビネーションで再度殴り掛かると、アルテサーノはそれを全て素手で軽く払いのけ、脛・股間・顎の順で蹴りを食らわせると、エマは脛と股間こそガードで対応できたが、最後の上段蹴りを喰らうと大きくエマを吹き飛ばした。


「かはっ゛……な、なんだあのスピードは……それにその防御方法……クラヴ・マガか!」


「大正解!教えてもらったんだよね。すごいでしょ。」


「一撃の切れ味も鋭い……ただのサイコパスってわけじゃなさそうだな……」


「うーん、どっちかっていうと、ソシオパスかな。」


「どっちでもいい!」


エマは足を回転させながら起き上がると、今度はキックボクシングの蹴り技のコンビネーションで攻めていくが、それをアルテサーノは軽々と片手で受け流す。


「カンフーのガードまで覚えてるのか!」


「そ。一歩引けばただジャガーちゃんは暴れてるだけ。」


エマの最後の回し蹴りをアルテサーノは片手で受け止めると、そのまま回転させて自重で地面へと叩きつけた。


「やるな……私の思う中じゃ、全体で二番目に強い。」


「褒めてくれてありがとう!ジャガーちゃんも凄い強いよ。単に技だけじゃなくて筋力も申し分ない……汗が迸ってて美しいよ!……ちなみに、一番強い人って?」


「この、私だ!」


アルテサーノはエマに組み付かれてそのまま柔道の大外刈りを喰らって倒れるが、エマの自重の肘打ちを間一髪で回避して距離を取った。


「すっごい、そこの鉄板凹んでる!喰らったらひとたまりも無かったなあ。」


「……流石に、鉄板に肘をぶつけると痛いな……」


「余裕あるね!」


「そっちもな……」


両者とも態勢を立て直すと再びファイティングポーズを取って睨み合った。


辺りには二人の汗が迸り、静かな時間だけが流れていた。


そして再び組み合うとアルテサーノの肘打ちをエマはガードしていき、掌底で顔を重点的に攻めてノックアウトを狙うが、腕に関節技を掛けられ体を回転させて拘束を無理矢理解く。


そのままの勢いで再度倒そうとするが外れると、もう一度エマは組み付いてアルテサーノをクッションにしながら地面へと押し倒すが、逆に押し負けて地面と押し付けられると、追い打ちのパンチを三発ほど喰らうと鼻血が出た。


アルテサーノはそのままエマの首根っこを掴むと首を折ろうとし、命の危機を感じたエマは腰から手錠を取るとメリケンサック代わりにしてアルテサーノの頭に重い一撃を浴びせ、呼吸を荒げながら再び立ち上がった。


「ハァ……ハァ……卑怯、だね……」


「そっちだって金的や脛を狙っただろ……おあいこだ。」


「じゃあこっちも……卑怯で行くとしますか!」


腰からナイフを抜いたアルテサーノは舌なめずりをしながら、ナイフファイトのポーズを取ると、エマは腰から警棒を引き抜いた。


「警棒vsナイフ……鈍さが勝つか、鋭さが勝つか……余裕なくなってなりふり構わなくなっちゃったねえ……楽しみィ!」


ナイフによる刺突を警棒で腕ごと叩いてブロックしていき、エマは容赦なく回し蹴りを浴びせるが、怯まずアルテサーノは飛びかかって突き刺そうとしてくる。


しかし、エマは肩に一発重い一撃を食らわせてから肩を持ってアルテサーノの体を自分の前へと持ってくると、そのままみぞおちに膝蹴りを浴びせて意識が遠のかせ、腕を鉄板に叩きつけてナイフを強引に外へと落とさせると、そのまま警棒で頭を叩いて完全に沈黙させようとしたが、逆にエマの腕を掴んで関節技をかけると、足を引っかけて横転させ、そのまま地面へと押し付けて髪の毛を引っ張りながら視線を強引に誘導した。


「あと……ちょっとで……核兵器が爆発するからさ、このまま一緒に……ここで死のうよ。」


「……なんだと?」


「一緒にあっちあちになって砂漠でチリになって朽ち果てようよ……ジャガーちゃん……ああ、考えるだけでゾクゾクしてきた。貴女と天国でまた何十回だって殺し合いがしたい……ジャガーちゃん、貴女が強くてすごく好き。私をレイプしてほしいくらい。ぐっちゃぐちゃに殴ってから……私を犯すの……」


「……悪いが、そんな趣味はない……!私が愛するのは……アレハンドロ・エストラーダ・ロペスと……リタ・エストラーダ・カストロだけだ。」


「ふぅん、残念。フラれちゃった。でも、私は添い遂げることを諦めないから……!あと、3……2……1……0……」


アルテサーノはカウントを追えるが、何故か爆発しない。


「……アレ?おっかしいなあ……湿気てたのかな。」


すると、エマの耳元に無線が聴こえてくる。


「こちらアンパサンド・ナイン。爆弾は解除しました。繰り返します、爆弾の解除に成功しました。」


「……こちらアンパサンド・ワン……ナイン、よくやった……」


エマの言動からアルテサーノは爆弾を解除されたことを知ると、エマの首根っこを絞めあげると、窒息させようと力を強めていく。


「ざーんねん。花火は結局湿気ちゃったんだ……でも、ジャガーちゃんは私が愛すから……私の胸元で逝って……ね……?」


「かはっ……あっ……あ゛……」


エマの意識が朦朧として視界がブラックアウトしそうになると、脳裏にアレックスやリタの顔が浮かんでいく。そして諦めかけていたその時……




「警部ぅうううううううううううううううううううううううう!」




タイラーはスカー・ライフルから七・六二×五一ミリ弾を放つと、その弾丸はアルテサーノのアキレス腱へとあたり、怯んで拘束が弱まると、エマは先ほど置いたスタッカート・ピストルを拾い上げて九ミリの弾丸を至近距離で数発撃つと、そのままの勢いでアルテサーノと共に対向車線側の線路へと放り出されて数秒間転がった。


そしてタイラーもまたエマを助けるために貨物列車を飛び降りた。






「ハァ……ハァ……もう、もう終わりだアルテサーノ……」


「ク……クククク……アッはっはっはっは!やるね……ジャガーちゃん……流石にもう体が血ドバドバで動かない……あつくて……すんごく……きもちがいい……」


アルテサーノは線路を這いずりながら仰向けになると、息を荒げた。


「エル・アルテサーノ……お前を逮捕する……」


「待ってください警部!こいつはあれだけのテロ行為を行って罪のない人々を大量に殺して回った!こんなやつを生かしておく理由が本当にあるんでしょうか?」


「我々はあくまでも警察官だ……私刑ではなく、法廷で奴を裁かなければならない……」


「ク、ククククク……あっはっはっはっはっは!本当に私を捕まえて法の裁きが下るとでも思っているのか?お前たちはまだあんな国の司法を信じているのか!」


「……なんだと?」


「いんやぁ、おもろしくってさ。法だのなんだの……語ってさ……そうだ!私がなんで核兵器をメキシコに持ち込もうとした理由……わかる?」


「……国家転覆のためだろう?」


「あー、あー、そこまでは読めたんだねえ、偉いよ。あったまいい。じゃあ、その奥にある真相を教えてあげるよ!根底がひっくり返る本当の真実ってやつ!……私はね!〝ただのCIAのアセット〟なんだよ!」


アルテサーノがその言葉を口にした瞬間、エマとタイラーは動揺した。


「なんだと……CIA?虚言だ、何を言っている。」


「そもそもおかしいと思わなかった?人っ子一人でメキシコの荒くれ者だらけのカルテルを一つに纏める?無理無理!そんなことできるわけがないじゃん。なんでクラヴ・マガを覚えてるのか?なんで私が好きなものはメキシコにないものばかりか?そもそも私生まれも育ちもアメリカ。実際のところは私がアイコンとしてアルテサーノを演じていただけで、他に仕事をしていたアセットのアルテサーノは何十人もいるんだよ!代わりに殺されたり代わりに命令を出したりしてさ!」


「バカな、そんなことをして一体何になるっていうんだ!」


「私というかアルテサーノの仕事……それは、大量に存在するカルテルを一つに纏めて核兵器を用いて国家を転覆させた後、アメリカ国民のメキシコに対する反感感情を煽って戦争を行うための口実を作った末にメキシコを丸ごとアメリカに明け渡すこと……つまりは〝メキシコ侵略のための偽旗作戦〟だったんだよ!考えてみればおかしくなかった?なんで、麻薬カルテルがとっくの昔に完全に解体された核兵器の取引ができるか?答えは簡単。アメリカ政府が私たちに核兵器を渡したから!なんでニュースでSADMがさく裂したことの真相が報道されなかった上に尻尾も掴まれず、大規模テロの犯人の尻尾が一切掴まれないのか?答えは簡単!政府が情報を統制したから!なんでCIAが直接私を消さずに軍も動かさないのか?答えは簡単!私と政府はずぶずぶだから!ロス・ビソンテスもFBI副長官も!全ては工作から目を反らすために掲げられたアイコンとしての駒の一つに過ぎなかった!お前たちは〝意味のない標的の尻尾を追い続けた上でアメリカ合衆国の邪魔をしていただけ〟なんだよ!」


「そんな……そんなバカな話があるか!何故そんなことをする必要があるんだ、理解できない!領土を広げる口実を作るためだけに自国民を虐殺するなんて……!何のためにCLAWを抜けた者たちが殺された!何のためにオライオンたちはあんな目に遭わなきゃいけなかった!なんで私の娘が怪我をしてルフィナが足を喪わなければいけなかったんだ!」


「残念ながら全部真実です!おつかれさまぁ!私もこんな仕事を押し付けられて参っちゃったよ……そしたらさ、全部がどーーーーーーでもよくなっちゃったんだよね!だから人生楽しまないとと思ってさ!いろんな悪いことしちゃったなあ!あっはっはぁ!私が途中で核爆弾の時限装置をつけたのも〝ここで爆破できれば例え殺されてもアメリカが侵攻できる理由が作れるから〟!」


「……殺す……」タイラーは人生で一番人に対して殺意が沸くと、クロウの遺したキンバー・TLEIIをアルテサーノの顔面に向けるとハンマーを起こして引き金に指をかけた。


「私たちはこんなやつを逮捕するためにここまで遥々来たんじゃない!」


「辞めろタイラー──」


タイラーは引き金を引くが、銃を持った腕をエマは抑えつけて銃弾は明後日の方向へと飛んでいった。


「何故止めるんです!こんなやつはこの世に生きてちゃいけない!」


「タイラー、やめるんだ。ここで怒りに身を任せて奴を殺したらお前は後戻りできなくなる!怒りを鎮めろ……冷静になれ……」


「だけど……だけど……!」


「この問題は政治が絡む……私たちではどうすることもできない……くやしいが私たちがこの真相を語っても誰も信じちゃくれないだろう。世間には陰謀論として切り捨てられてそれでおしまいだ。辛い気持ちはわかるが……口を噤む以外に道はない。そしてもし万が一この真相が明るみに出れば……アメリカは世間の非難の的になってもっと不毛な戦争が起きることになる!そうすればどうなる?お前の家族も隣人も全員危険に晒すことになる!この世界が狂っているのはわかる!だが、妥協しなければ皆が生きていける道なんて作れないんだ!だがな……」


「……?」


振り返るとそこにはメキシコから運行されていたアメリカ行きの貨物列車が徐々に近づき始めていた。




「私たちは政治をどうすることもできない。だが、〝中指を立てること〟はできる。」




貨物列車は徐々に徐々にスピードを緩めることなく進行していき、遂に知覚できる距離まで近づき始める。


「クククク……来た、来たぁ、ようやく私はゲームオーバーになるんだぁ……はは、濡れてきちゃった……お前たちは一生アメリカ合衆国に対する不信感を感じながら生き続ける羽目になるんだ……私が死んでも、どうせまたアルテサーノに相当する存在が現れる……私の勝ち、私の勝ちだ!お前たちはただのルーザー!私の……勝ち♡」


その瞬間アルテサーノはやってきた貨物列車に轢かれると、体は下敷きになってザックリと切断され、バラバラになった肉体は列車の勢いであたりへと散らばっていくと、醜い血肉の塊となってこの地上から完全に消え失せた。


その光景を脇目に見ながらエマはタイラーを連れて元の道をとぼとぼと歩き始めた。


「……タイラー、この話は私たちの胸の中だけに仕舞っておこう。他の仲間たちには伝えない方がいい。この不幸は私たちだけで終わらせるべきだ。不幸を広めることになんのメリットも存在しない。」


「……警部、私はもう何を信じていいのかわからなくなりました……これまでの戦いは全て無駄……だったんでしょうか……私は、何のために警察官になって、何のために犯罪を憎んできたのか……国そのものが犯罪を犯していただなんて……」


「なあタイラー、私たちはこれまでいくつもの凶悪犯罪を阻止して人々の命を救った。そして曲がりなりにも国家間の戦争を止めた。だから、誰に何と言われようと、この勝負は〝私たちの勝ち〟だ!」






アルテサーノの死から数週間後、ブルーはルフィナが負傷した責任を取るために退職しようとエマのデスクの前に来ていた。


「本当に......辞めるのか?」


「......元はと言えば私の預けたニーナのせいでルフィナは足を失った。私にはもう、CLAWの一員でいる資格はない。」


「だが、ルフィナは目覚めて容態も安定したじゃないか。別にお前のことも怒ったりしちゃいない。彼女は警官として、教官としてできることをしたまでだ。」


「だとしてもです。彼女に許されないことをしてしまった。だから、この決意は揺るがない。」そういうとエマのデスクにブルーはアニマル市警のバッジを置くと、そのまま無言で部屋を出た。


そしてGT-Rに乗って、かつてCLAWの本部があった山まで移動して車を停めた。


「もう、終わりにしよう。」


ブルーはホルスターからパラオーディナンスのブラックオプスピストルを抜くと、銃口を口に咥えてハンマーを起こし、引き金に指をかけた。


これまで散々辛い思いをしてきた彼女にとって、大切に思っていた人間に裏切られ、その人間を殺したことはこの上ないほどのストレスとなっていた。


この数日間、ずっと吐き気が止まずにえずき続け、また視界にモヤが掛かってきたような感覚があった。


ブルーにとってはクロウの敵であるアルテサーノを倒し終わり、未だに借金の残るこの世界に未練はなかった。


そして、引き金を引こうとした次の瞬間だった。どこかで聴いたことのある犬の鳴き声が聴こえた。


ブルーは外に目をやるとそこには愛犬のノスフェラトゥ・ザ・ブラッドシーカーと、ケイト・ウィーバー、それにエイニス・ホマーがいた。


「あれ、ノスフェラトゥ......」


ブルーがGT-Rのドアを開けると、ノスフェラトゥはブルーに飛びついて顔をたくさん舐めて甘えた。


「エリー、お前バカかよ。私にノスフェラトゥ預けたまんま死ぬ気だったのか?こんなバカ犬を?」


「ごめんごめんって、あっ、くすぐったい......」


「コイツな、餌は美味いモンしか食わねぇし、すぐにそっぽ向くしでなーんにも可愛くねぇの。しかも量を食うから餌代もバカにならん!」


「ノスフェラトゥは人の血が大好物だから、味が似てる豚の血を買ってきてあげればすぐに満足するって言ったのに......」


「いちいち売ってるとこが滅多にない豚の血を買いに行かなきゃならないのか!?意味わからん!というか、飼ったんだから最後まで責任取って面倒見るのはお前の役目だろうが。」


「そうだね......たしかに、ゴメン。」


「......ところで、アニマル市警辞めたんやって?」


「うん。辞めた。もう戻らない。ルフィナに顔向けできないから。」


「仕事はどうするんだよ。お前、どこにも雇ってもらえなかったから警官になることを選んだんだろ?」


「うん......」


「そこで提案やねんけど......ウチで働かへんか?Odinで。最近ベテランさんが定年退職してもうてな、経験のあるプロを社長が欲しがってんねん。早い話がヘッドハンティングや!」


「民間軍事会社で......?でも、私借金あるし、そうそう雇ってもらえるとは......」


「じゃ、エリリンの借金ウチが払うわ。」


「へ?」


ブルーは困惑した。目の前にいるこのイギリス人女性は自身の何万とある借金を自ら払うと申し出たのだ。


「そ、そんな。裁判に負けた費用とか慰謝料とかで、到底普通の人じゃ払える金額じゃないよ。というか、そこまで私にする必要ないでしょ?」


「それがな〜実はウチ、日給千六百ドル貰っとるんよ。なんならCLAWにいた時は二千ドル貰っとった。だから財産が腐るぐらいあんねん。」


「せ、千六百ドル?」


ブルーは困惑した。彼女が4日も働けば自身の月給より多い額を貰えるというのだから当然である。


「そうだ。Odinは特殊な専門技能が必要な場所だから給料が途轍もなく良い。三十人ぐらい集まった軍事オタク相手にかるーく銃の使い方を講習すれば普通にそれだけの額が貰える。スワットの経歴があるなら尚更だ。だからエリー、一緒に来いよ。」


「専門技能活かせるし、金にも困らん。家がないならウチに泊まり!無駄にだだっ広いから部屋の一つ二つくらい余裕で貸したるわ!」


「なんで......」ブルーは涙ぐんで一瞬間を置くと、「なんで私にそこまでしてくれるの?」と呟いた。


「簡単なことや。エリリンはウチがグレネードに覆いかぶさったときに真っ先に心配してくれたやろ?それまで木偶の坊だのなんだの言われて、気味悪がられてたからウチ、なんか嬉しかってん。人にいいコトするのに理由は要らんやろ?」


「それに、〝海兵隊は仲間を見捨てない〟だろ?」


「......ありがとう!」


「そんでな......ここまでバスで来たからウチら帰れへんのよ。送ってくれへんか?」


「頼むよエリー。この辺の地理は詳しくないんだ。」


「わかった。じゃあ、後ろに座って。」


ブルーはGT-Rの後部のドアを開けて二人を座らせると、ノスフェラトゥを助手席に座らせてシートベルトを着けた。


そしてスターターを回してRB26エンジンを始動させると、静かに車を走らせ始めた。


「おお、いい音するな!流石GT-R。全アメリカ人の憧れの一つだ。というか、エンジン相当弄ってあるな。ちょっとふかすだけでバックタービン音が……」


「正確にはENR-34改だけどね。」


「ウチにはやっぱり日本車は狭いわぁ。見た目は好きやねんけど、大体乗れへんねん。窮屈やわぁ。」


「お前がデカすぎるだけだろ。ランドローバーがお似合いさ。」


「なんか傷つくわぁ、その言い方。こんな可愛いエイニスちゃんにそないなこと言わんといてぇやシグちゃん。アウディやってウチ乗れんのに。」


「ケイト、アウディ買ったの?」


「え?ケイトって誰?」


「あっ」


うっかりとブルーがシグニファ・トレントとして名乗っているケイトのことを忘れて本名を口にしてしまい、ケイトは大焦りの表情をする。


「あ、あ~実はな、私一回名前を改名してるんだ。だからエリーは私のことを旧名のケイトって呼ぶんだよ。」


「へぇ、知らんかったわ。一年ぐらい仕事一緒にしてるけど初耳やで。」


「と・も・か・く!いやぁ、エリー、アウディはいいぞ。アウディ・R8は本当に心底惚れ惚れするスーパーカーだ。」


「いいね、そういうの。今度乗せてよ。」


「ああ、いいとも。いい車だぞ、でもあげないからな。私があげたシェルビーぶっ壊れたって聞いたしな?」


「ごめん……」


「まあいいさ。あの車は私も思い入れがある……ゆっくり直していこう。」



「はぁ、今回の事件……大変だったなあ。」

アミーナはため息を吐きながら上層部に提出するクルティード事件の文章を書いていた。

すると、家の前に突然巨大なカーキャリアがやってきて家のインターホンを押した。

「はい?」

「すいません、チャーリーズ・ビッグ・エギゾーストです。お届け物です。サインを。」

「サ、サ、サイン……?私、何も頼んでませんけど。」

「イブキ・シバミネさんからの荷物です。」

「シ、シ、シ、シバサンの……?いったいなんだろう……」

アミーナは部屋から出て外を見ると、カーキャリアの荷台に一台の車が見えた。

それは見覚えのあるフォルムだった。

「あ、あ、わ、私の、私のチンクエチェント……!」

アミーナは駆け寄って笑顔で再開を果たそうとしたが、その車は何かがおかしかった。

ホットロットのようにフレイムペイントが施され、後ろには化け物のような形をしたガソリン式の巨大なV8エンジンが設けられていたのだ。




車屋の店主はそのまま車両を置いてキーを渡して立ち去ると、アミーナはおそるおそる運転席へと座った。

すると、そこには一枚の手紙が入っていた。

〝アミーナへ。なんか可哀そうだからフィアット治しといたよ。エンジンはね、なんとグルカの六・七リッターのV8ターボ・ディーゼルだよ!〟

「は……はぁ……?」

アミーナがエンジンをかけると耳を裂くような物凄い爆音とともにマフラーが火を噴いた。

「わ、私のチンクエチェント……私のチンクエチェントォォォォォォォ!!!!こんなのイヤぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




そして更に三ヶ月後のこと。傷口が塞がって容体が回復し、リハビリをしつつ車椅子での日常生活が送れるようになったルフィナはやっとの思いで念願のカルラとの結婚式を開くこととなった。


その結婚式はちょうどタイミングよく籍を入れようとしていたシバサンとナギサの結婚式とダブルウェディングで執り行われることとなった。


ルフィナが大金を使って用意した結婚式会場でパーティは盛大に行われた。


「病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も。パートナーとして愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」と神父が告げると、二人とも「誓います。」と囁いた。


もう一度復唱されると、もう二人もまた「誓います。」と囁いた。


「それでは誓いのキスを。」と神父が言うと、二つのカップルはキスをして結ばれ、あたりには大歓声の声と拍手が響き、披露宴が開始された。


「ルフィナ、カルラ、本当におめでとう。」


「エマさん、ありがとうですの!」


「本当に大変だった……お前たちには感謝してもし切れない。」


「リタちゃんも助かってよかったですわ。」


「あの後、付きっ切りでアレックスが面倒を見てくれてな……」


そして皆が正装をして過ごしている中で一つ異様な光景があった。


顔にタトゥーを入れてバイカーファッションをしたむさ苦しいどう見ても堅気ではない男たちが、ひたすらに男泣きをしていた。


「シバサンおめでとううううぅぅ……俺は、俺はこんなに嬉しいことはないぞぉぉ……」


「クロスボーン、この中で一番泣いててどうすんのさ。」


「いやあ、友達の結婚式なんて初めてだからな……俺たちみたいな連中はそもそも女に恵まれずに結婚しないもんだから……幸せでなあ……!」


すると、外から大きな声が響く。


「とっとと入れよ!」


「入ったらええねんって、招待状届いたんやろ!」


「い、いやだ……やっぱりルフィナに顔向けできない……私もう帰るから……」


「いいから行け!」


ケイトが尻を蹴って式場の中に無理矢理ブルーを入れると、そんなブルーにルフィナは車椅子を漕ぎながら近づいてくる。思わずブルーは視線をそらして顔を下へと向けた。


「……顔を上げてくださいまし。」


「……でも、やっぱり……私は……」


「この三ヶ月ずーっと心配していたんですのよ?別に怒ってなんかいないですわ……この代償は私の罪でもある……それに、リハビリして直ぐにでも動けるようになりますわ。だから、ブルーさん。気に病まないで。ずっと心を曇らせ続けてきたんですから、今日くらい笑顔でいてくださいまし。」


「カルラは……」


「……いいんだ。ルフィナはお前のために一生懸命になっただけ。殴って悪かった。もう、怒っちゃいないよ。それに、私たちの仲じゃないか。これからもちゃんと友達さ。」


「……ありがとう。」


ブルーの顔に笑顔が戻ると、すぐさまケイトとエイニスが首根っこを掴んでCLAWのメンバーたちがいる席へと移った。


「さあ、湿っぽいのはもうやめだ。そうだな……それじゃあ今から面白い話をしよう。エリーが海兵隊に入って間もなかったころの話だ。」


「なにそれ、気になるわぁ!」


「それ、面白いですわね。ぜひ聞かせてくださいまし。」


「ちょっと、ケイトやめてよ、恥ずかしいから……」


「海兵隊に入ったばかりのエリーはな……めちゃくちゃに尖ってた。そりゃあもう尖ってた!剃刀みたいにな!目付きは悪いわ、言葉遣いは悪いわ、いつもイライラしてるわ……それでな、私と出会ったばかりの頃は直ぐに意見が対立して殴り合いの喧嘩をしてたさ!ある時だ。理不尽な指導ばかりするクソッたれの教官がいた。その教官に腹を立てたエリーは顔面を一発殴って昏倒させた!結果、一週間営倉に入る羽目になった!だが、その後も恐れることなくその教官と鉢合わせるたびに中指を立て続けたんだ。」


「えぇ、そんなイメージ全然なかった!」


「そうだろ?で、またこの後の話がおもしろくって……」


すると会場内でアナウンスが入り、ブーケトスの時間がやってきた。


参加者たちは外へと集まると、エマはタイラーに小声で話しかけた。


「なあ、タイラー。未だにあの話、引きずってるのか?」


「……はい。何を信じていいかわからなくて……」


「タイラー、あの四人の笑顔を見ろ。私たちはあの笑顔を守ったんだ。確かに真実は残酷だった。けど、私たちは皆の笑顔を守れただけでも価値があると思え。なっ!」


エマはタイラーの背中を押すと、タイラーのもとにちょうどよくルフィナの投げたブーケが渡った。


「あっ……ブーケ。」


すると、猛スピードで走りながらシバサンが投げたブーケを掴んだルースが全速力で近づいてきた。


「あ!やっぱり……やっぱり私とタイラーさんは運命の赤い糸で結ばれてる……!ハァ、私の愛しいタイラーさん……結婚……結婚……」


「ちょ、ちょっと、ルース!力強いぃい……」


二人が乳繰り合っている姿を見ながらエマは微笑んだ。






そしてそんなエマを狙撃銃の照準器越しから覗く影があった。


「ふむ……エマ・カストロ・マルチネス……正しい判断だ。」


「特務員六二七号、何故引き金を引かない。」


「連中の処遇はこちらで決める。」


「奴は秘密を知っている。早く消すんだ。」


「受理できない。奴らには利用価値がある。」


「……というと?」


「奴らはたった八人でメキシコ軍とやりあい、誰一人死なずに生き残り任務を達成した……これだけの戦闘技術を持つ連中、利用することこそがアメリカの利だ。」


「なるほど……確かに金塊のような人材ではあるな。」


「そうだろう?我々は奴らを甘く見ていた……ここからはこちらで判断させてもらう。アウト。」


特務員六二七号は照準を外すと、そのままプリムス・ロードランナーのエンジンをかけたのだった……

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