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IF story / The Blue Nightmare

──これはブルーの見た悪夢。もしもクロウ・S・マローンが生きていたらCLAWはどうなってしまうのか?全て最悪の方向に導かれる……

ある日ブルーは鳥のさえずりを聞きながらいつものように目を覚ましたが、何かがおかしいと感じていた。


明らかに自分の人生ではない何かに入り込んでいるかのような違和感があった。


体が妙に軽く活力に満ちており、いつものように悪い思考が頭の中を巡らない……何より周りを見渡すと自分の部屋ではなかった。


──だが、知らないわけではない。この部屋は何よりも彼女にとって印象深い部屋であった。


耳を澄ますと辺りにはジューサーの回転音が響き、誰かが近くにいることが分かった。


ブルーはそれを怪しく思いながら近づいていくと、明らかに見覚えのある顔がそこにはあった。


「ブルー、おはよう。」


その声が聞こえた瞬間ブルーの背筋が凍った。


小柄な体格と健康的な肌に清潔で整った黒髪、あたりに漂う香水の香り……


ブルーが忘れるわけもない、それは紛れもなくクロウ・S・マローンだった。


「クロウ……?死んだはずじゃ……」とブルーが呆気に取られていると、クロウはキョトンとした顔をしていた。


「死んだって……そんな縁起悪いこと言うもんじゃないぞ?」


「だけど、4年前にロス・クルティードに殺されたはず……」


「4年前?何言ってるんだよ。私はこの通りピンピンしてるって。」


ブルーは近くにあった時計を手に取って日付を見ると、そこには2025年と記されていた。


確かなブルーの記憶では現在と呼べる西暦は2028年のはずである。


「何寝ぼけてるんだよブルー、そんなタイムスリップモノの映画みたいなセリフ言っちゃってさ。それより、朝ごはん作ったから冷めないうちに。今日は一緒に銀行にお金を借りに行くんだし。」


ブルーは自分の記憶と現実の違いに困惑しながら席へと着くと、テレビを付けてクロウが作ったアサイースムージーにアボカドトーストといった健康的な料理を口へと運んだ。


なんだか懐かしい気持ちが止まらなくなったブルーは感極まってその料理を口に運ぶたびに涙を流しそうになった。


「おいおい、どうしたんだブルー、私の料理がそんなに美味しかったの?」


「いや、なんでもない、なんでもないの……美味しかったよ。このベーコンエッグ……」


『〝続いてのニュースです。きょう未明、北京タウンにある天宝来々で3人の遺体が発見されました。アニマル市警によりますと1人はアニマルシティのオットーランドに住む17歳の女子高生ルース・サマーズであると確認が取れましたが、それ以外の遺体は腐敗しており損壊状態が激しく身元不明とのことです。昨今北京タウンに進出している韓国のマフィア組織ダブル・タイガーが関与している疑いが高いとして警察は捜査を続けています。〟』


「……馬鹿な!」


ブルーはルースが死んでいるという現実に驚くと思わずテーブルを叩いて困惑した。


「どうしたんだブルー、あんなニュースはアニマルシティじゃ毎日流れてるじゃないか。何を怒ってる?」


「ルース・サマーズはタイラーとアンジーが助けたはずだ!なのになんで死んだって……理解できない……!」


「待て、待て、アンジーはわかるがタイラーって誰だ?そんな奴は知らない!」


ブルーは大いに困惑した。自分の頭の中にある記憶と現実があまりにも違い過ぎているからだ。まるで〝別世界〟に迷い込んだかのような感覚だった。


「悪夢でも見て寝ぼけてるんじゃないか?昨日だってずっとうなされてた。……ああ、もうこんな時間だ。早く銀行に向かわないと。ほら、ブルー早く来て。」


ブルーはクロウに手を引かれてガレージへと向かうと、あの白いダットサン・240Zがガレージで待っていた。


「ほら、早く座って!遅刻しちゃうって。」


「え?ああ……うん。」


240Zの助手席に座ったブルーが懐かしい香水の匂いを感じているのを横目にクロウは少々手こずりながらL20型エンジンを始動させると、ギアを入れて車をガレージから出発させた。


車で銀行まで移動している道中、ブルーは自分が思った疑問をクロウに投げかけることにした。


「……ねぇ、2024年に一度ロス・クルティードの構成員に襲撃されたことがあったでしょ?皆でバーで呑んだ時に……」


「あったよ。間一髪で回避してそいつを撃ち殺してバーに逃げ帰った。そこで派手に銃撃戦をしたじゃん。覚えてないの?死屍累々で後処理は散々だった。」


「そっか……それじゃあ、あのUSBは?」


「各新聞社にコピーを送り届けたが全くとり合っちゃくれなかった。ゴシップ系や陰謀論を掲載している新聞に掲載されてそれで終わり……FBIなんて組織、もう信用するのに値しないね。」


ブルーは記憶と現実のギャップに困惑しながら、いつもと変わらないアニマルシティの街を見て半ば放心状態になっていた。


すると、視界に大きなアニマル市警の募集広告が映った。


──〝アニマル市警に入って君も立派な警察官になろう!〟という煽り文句が掛かれた広告で敬礼を取っているSWAT隊員の被写体は何処からどう見てもルフィナ・P・スノフスカヤに他ならなかった。


「あれ?ルフィナが広告に映ってる……」


「ああ、最近出た新しい広告だよ。あの子、SWATの選抜試験に受かったらしいけど、今は広告係に回されてるってカルラが言ってた。SWATになったのに上が有名人に怪我させることを恐れて、結局ドアを蹴破るどころか訓練も満足にさせちゃくれないって愚痴ってるらしい。」


「そっか……」


「ほら、そろそろ銀行に付くよ。シャキッとして。」


そういってクロウはブルーの着ているスーツの襟を正した。


ブルーの着ているスーツは首に黄ばみがあってサイズの合っていないよれたものではなく、きちんとしたテーラーで誂えた高級品だった。


ブルーはクロウと共に二階の相談部屋へと連れていかれると、髪を七三分けできちんと整えてホワイトニングを欠かしていないような銀行員がそこで待っていた。


「あなたがエリス・アンフォーチュンさんとクロウ・S・マローンさんですね?よろしくお願いします。」


銀行員は丁寧に応対をすると記憶とは違い、かなり二人に対してフレンドリー且つ丁寧な対応をしていた。


「なるほど、負債による生活苦で生活費がほとんどないと……そこでクロウ様が保証人になって返済に充てる金額を借りたいというわけですね──」


すると、外から大きく叫ぶ聞き覚えのある声が響いた。


ブルーはその声の主を忘れるわけもない。キャサリン・〝ケイト〟・ウィーバーだ。


「紳士淑女諸君ごきげんよう。我々は強盗だ。大人しくしていれば危害を加えることはないと約束しよう!銀行員の皆様方も盗られた金は政府が保証してくれるだろう!何も心配することはない。姿勢が辛ければ座ったり横になっても構わない。抵抗の意思は見せない方が身のためだ。通報用のボタンは全て電力をカットして封じてあるから押しても無駄だ。あなた方はバットマンやスパイダーマンではないのだから。落ち着いて目を閉じていてほしい。そうでなければアメリカが誇る最強の殺人兵器M4ライフルの5.56ミリの弾薬があなた方の体を引き裂くことになる。」


ブルーは今日がデリンジャー強盗団が街中で銃撃戦を繰り広げた〝あの日〟であるということを思い出した。


「デリンジャー強盗団……我々銀行員がどれだけ死に物狂いでこの金をため込んだと……」


「シーッ。頭を下げて。私たちは警官ですから。」


クロウは腰のホルスターからキンバー・TLE Ⅱを引き抜き、ブルーもそれに呼応して腰からM45A1を取り出した。


「ブルー、いい?私とあなたで隙を突いてあの連中を排除する。」


「待って!あいつらを撃っちゃ……」


クロウは金庫に装置をセットしようとしている強盗犯に向かって引き金を引くと、その放たれた弾丸は無慈悲にも防弾マスクの後ろ側から脳を貫いた。


「ジャァァァァァァァァック!」


ケイトはクロウたちがいた方向にM4ライフルで銃撃を加えながら、ジャックことジャスティン・エルドリッジの死体の傍へと駆け寄り、首に指を添えて脈をチェックするが既に息絶えていること確認し地面を殴った。


「キング!どうするんだ!外に銃声を響いた!もう金庫を開けるヒマなんてないぞ!」


「撤退だ……撤退だ!」


ケイトたちは連携を取りながらクロウたちに向けて威嚇射撃をしつつ、全力疾走しながらアウディ・RS6アバントまで向かうが、その道中で外にいるCVPIに乗った警官とクイーンことアーリンが撃ち合った結果、互いに急所を撃ち抜かれて相討ちとなった。


「クソ、クソ、クソ、クソ!なんで、なんでこんなミスをしでかした!なんでだ!」


「キング、早く逃げるぞ、追手が迫ってる!」


「……プランBのルートだ……!」


ブルーはそんな光景を見てひたすら焦りの感情に襲われていた。


クロウが生きている……そんな少しのズレで現実が大きく違ってきてしまう。


ケイトはブルーの人生において最も失いたくない親友の一人であったが、無慈悲にそれを現実が打ち砕く。


「残念だが車を軽くしたいんでな。」


車に乗ろうとした瞬間、エースと呼ばれていた男は隙を見てケイトの頭を撃ち抜くと、そのまま車を奪って逃走した。


「ケイト……!ケイト、そんな、ケイト……!」


倒れた遺体からマスクを剥がすと、瞳孔が開いて眼球が明後日の方向を向き、額に風穴が空いたケイトの顔が露になった。


「うあ゛……ああ……ああああああああああああああああああああああ゛ーーーーっ!」


心臓が強く脈動し、嗚咽が止まらなくなって呼吸できなくなっているブルーの背中をクロウは困惑しながらも優しくさすった。


「なんで、なんでケイトが死ななきゃ……なんでケイトが死ななきゃいけないんだ!なんで、どうして……」


「……ブルー、この強盗犯は知り合いか?」


「……私の……わたしの……わたしのっ……わたしの゛……」


嗚咽で言葉が上手く出ないブルーだったが、直ぐに通報から駆け付けた他の警官隊が現場を取り囲むと遺体は直ぐに回収されてしまい、数時間関係者から取り調べを受けるために拘束されたのだった。






取り調べを受けた後に2人は解放されるが、ブルーはクロウの240Zの中でショックを抑えきれずに半分放心状態となっていた。


「……なんであの強盗が戦友だってわかったんだ?」と聞かれると、「噂で聞いたんだ。」と言って適当に誤魔化した。


数10分ほど車を転がしてようやく本部へと着くと、自分の記憶とはやや違う見てくれになっていた。


グルカが無ければCBR500Rもシビックも止まっておらず、見慣れない車が並んでいる。


それどころか自分が経験していた〝CLAWの〟本部と比べても異様な空気と臭いがした。


「CLAWって、こんな感じだったっけ……」


「CLAW?私を呼んでるのか?」


CLAWという名前に疑問を感じているクロウを見て、そもそもこの組織名は彼女の死後に付けられた名前であるということをブルーは思い出した。


「ごめん、ちょっと昨日強めに頭ぶつけちゃって記憶が飛び飛びなんだ。今はなんて名前の組織だっけ……私、バカだから。」


「えー?大丈夫……?今は〝ブラックライン〟って名前。普通の警察官が守るべきブルーラインだけじゃできないことをやる組織って意味だよ。特殊捜査任務懲罰部署じゃ長ったらしくてしょうがない。」


「……そっか。ブラックラインか。覚えた……」


「おーい、デイヴ!ポール!アンジー!ニーナ!戻ったぞ!」


ブルーは今まで死んで来た仲間や自分が殺したニーナの名前を発するクロウを見てギョッとした気持ちになった。


プレハブ小屋の中に入ると派手なヘロインの悪臭と水タバコの煙が混じり合って、10分いるだけでも頭痛を引き起こしそうな空間が広がっていた。


ゴミはあたりに散らかりっぱなしで皮脂や汗でべたべたになったソファーからは酸っぱい臭いがしていた。


「あ、クロウお姉ちゃんお帰り!それとお前も。」


「え?ああ……うん……ええと、クロウ、ニーナはどこで?」


「ニーナも覚えてないのか?3ヶ月前にスニッド・ロウで拾ったのを忘れたのか。ウチの車を盗もうとしたガッツを私が気に入ったんだ。」


「は、はぁ……」


ブルーはニーナの本性を知っていた為、思わず身構えてしまったが本人の態度を見るに本気でクロウに懐いているという感じがした。


少なくとも自分がニーナに世話を焼いていた時と比べて明らかに機嫌が良さそうで、クロウにべたべたとくっついてしきりに頭を撫でるように求めていた。


「なんらぁ~頭でもぼけたのかあ……クカカ……スゥーッ!あ゛あ゛ッ!」


アンジーは明らかにブルーの記憶と比べて薬物中毒が侵攻しているといった感じであった。肌の皺が増してる上に頬骨の位置がかなりやつれて老けて見え、手が常に震えてる上に目の焦点もあっておらず、口を開くと歯が数本抜けて体の筋肉もかなりやせ細り、まるで生きた骸骨のようになっていた。


「アンジー!クスリを吸うのはやめて!それ以上吸ったら……!」


ブルーはアンジーを心配して胸倉を掴み正気に戻そうとするが、その体は羽のように軽い上に呂律が回らずまるで会話ができるような状態でもなかった上におそらく内臓がやられているのか口からはドブのようなアンモニア臭が漂っていた。


仮にこの状態で気つけとしてフルスイングで頬を殴れば確実に首が折れてしまうと確信が持てるほど〝脆い〟感覚があった。


「なんだブルー、お前今日は様子がおかしいんじゃねえか?アンジーはいつもこんな感じじゃねえか。なのにいきなりクスリを辞めろだなんて道徳の教科書でも読んだのかよ?こいつはな、人身売買されそうになった子供を救えなくてクスリに逃げちまったのさ。」と、デイヴは水タバコをポコポコと吸いながらぼやいた。


「昨日頭をぶつけて記憶が飛び飛びなんだってさ。それより諸君。今から〝切符を切りに〟いかないか?」


「おお、いいねえ最近ストレスが溜まってたんだ。ノスフェラトゥも最近マズい餌しか食ってなくて血に飢えてる。」


ポールは手に持っていたウイスキーを飲み干すと瓶を地面に投げつけて割り、壁に掛けてあった車のキーを3個ほど取って皆に投げ渡した。


「よーし、かっぱらったばかりのエレノアを試すぞ!助手席に乗れよ!アンジェルダスト!」


「あい。」


デイヴとポールは嬉々としてダッジ・チャレンジャーR/Tの覆面パトカーに、アンジーとニーナは5代目フォード・マスタングにエレノアボディキットを組み込んだモデルに搭乗した。


「ね、ねえクロウ!一体切符を切るって何なの!」


「いいから。きっと楽しくて気に入るはず。」とクロウは手に持っていたリモートキーのボタンを押すと、〝ACPD・インターセプトクルーザー〟というラッピングがされインターセプター仕様になったシボレー・コルベットC8型のヘッドライトとテールランプが光った。


寂れた山に乱立したプレハブ小屋のど真ん中でマッスルカーのV8エンジンの派手な鼓動音が辺りに響き渡ると、3台は列を組みながら走行を開始した。


数時間後、アニマルシティの工業地帯であるサウスアニマルにまで到着すると、3台は血眼になってバイクを探し始めた。


「……おい、ヤバいぞ!ブラックラインどもだ!逃げろ、逃げろ!」


〝切符を切る〟とは轢殺の隠語であり、ブラックラインのメンバーはストレス解消と称してバイカーギャングであるデビル・エンジェルスを蹂躙するという遊びだった。


「あははははははははッ!内臓ぶちまけろッ!」


「ボス!あいつら死ぬまで追いかけてきやがるッ!無理だ、無理ッ──」


ニーナが乗ったマスタングはデビル・エンジェルスのタンジェリンが乗ったハーレーを追突すると、そのままバイクごとタイヤでひき潰した。


「クソ、クソ、クロウ、辞めさせろ!こんなことして何になるんだ!」


「何になる?悪を成敗してるだけだ!結局、この世の中は腐ってる。FBIの闇を暴いたところで何にもなりはしなかった!それどころか世間は私たちを村八分にしようとした!大きな悪も潰せない私たちは地道に小さな悪を潰していくしか無いのさ!真面目に!コツコツとぉっ!」


コルベットは大きな振動を起こしながらバイカーをひき潰していき、死体から漏れた血液が窓ガラスに飛び散った。


「クソ……これでデビル・エンジェルスも終わりか……」


ブラックラインが定期的にストリートレーサー狩りを行った結果、現時点でデビル・エンジェルスは構成員の多くを失ったことで大幅に弱体化していたため、この攻撃は最期の決定打となる攻撃に他ならなかった。


「なあ、イブキ。あんたがサツをクビになってココに入ってから、今の今までバレないルートを教えてくれて助かったよ……あんたは逃げるんだ。ここは俺が引き付ける。」


「待ってクロスボーン。死ぬなら僕も一緒だ。今までどれだけ2人で走り抜いてきたと思ってんの?1人だけにカッコいい真似なんてさせるもんか。」


「ダメだ。お前を死にに行かせる真似なんてできないね……」と、クロスボーンはイブキ・シバミネのバイクのキーを抜き取ると、そのままアクセル全開にしてコルベットへと突撃していった。


「あばよ!好きだったぜ、イブキ!お前は隠れて逃げのびろ!」


「クロウ、やめろっ!」


ブルーはコルベットの電動パーキングブレーキを押すと、徐々にスピードが減速していったが猛スピードでハーレーに激突すると、クロスボーンは数メートル宙を舞って地面に叩きつけられ血を吐いた。


「ブルー、なんで止めた!」


「こんなの間違ってる!楽しんで人を殺すなんて間違ってる!どうしてそんなにひどいことができるんだ!」


ブルーは血塗れになったクロスボーンに駆け寄って介抱するが、既に意識を失っているようで早く病院に連れて行かなければ命が危うい状態だった。


「クソ、しっかりして……しっかり……しっかり!起きて!シバサンを置いて死んじゃダメ──」


その瞬間、意識を失ったクロスボーンの額は無慈悲にもクロウの放った45ACP弾によって貫かれた。


「……」


「これでデビル・エンジェルスは終わりだ。〝切符を切った。〟あの逃げた日本人もそのうち始末しないとな。」


「……もうついていけない……」


「なんだと?」


「私、クロウの気持ちわかんないよ……!貴女はそんな人じゃなかったはず!」


「いいか、ブルー。ボケたのか知らないが私は〝そういう人間〟だ。悪人を殺した感触を思い出しながらオナニーして寝たら熟睡できるんだよ。」


「……クロウがそんな人間だったなんて知らなかった……もういい、私はこんなところには居られない。ほっておいて。」


「待てよブルー。やっぱりお前はおかしいぞ。昨日まで私たちと同じことを〝愉しんで〟いたのに、いきなり辞めるだなんてな。まるで別人みたいだ。」


「……そうかもしれない。けど、もう私は何も失いたくない。当たり前の光景を。」


ブルーはとぼとぼと歩きながらクロウと距離を取ると、デビル・エンジェルスの構成員の断末魔を背にその場を去った。


そして頭を落ち着かせるために近くにあった廃工場の中でへたり込むと、ブルーは自分の馬鹿な頭なりに必死になって考えた。


少なくとも今クロウが生きていることによって自分が認識していた世界が大きくズレているということを実感し、エマ、タイラー、ルフィナ、シバサンの4人がCLAWという組織を構成する上でどれだけ大きな役割を果たしていたかを再認識した。


エマの指導が無ければムードメーカーであったアンジーがあれだけ落ちぶれてしまうことからもそれは想像ができた。


ブルーは腕時計を見るとハッとした気持ちになった。


バタフライエフェクトで現実世界がズレているということは、今後起きる事件の全ての結果がズレるということになる。


面識がない可能性があるにしろ、ケイトと同じように彼女たちの命が失われてはならないと思った。


ブルーは廃工場から立ち上がってふと周りを見渡すと、そこには見覚えのある車があった。


「……コレ、ケイトの……」


そこには見覚えのあるBMW・M3のE46型だった。しかし、まだオーバーフェンダーのGTRボディキットを取り付けている最中のようで外側もマトモに塗装が施されていないような状態だった。


ブルーはM3のボンネットを撫でると静かに目を閉じた。


──この世界の皆を救わなくてはいけない。とブルーは心の中で決意すると未完成のM3に乗り込んだ。






1週間後にブルーはM3でパンダモニカにあるメディカルセンターへと向かうと、もう既に事件が起こっていたのか周りは警官隊だらけの状態だった。


何故だか分からないがこの1週間がまるで1秒で到達したかのように感じた。


人の波をかき分けながら突入準備をしているSWAT隊員の元へと走った。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「部外者は立ち入り禁止です!」とブルーを静止したのはタイラー・ナイトウッドだった。


「タ、タイラー……エ、エリス・アンフォーチュン一等巡査です!ただ突入するだけでは危険です。適切なポイントにスナイパー班を配置しないと多くの犠牲者が出る!60チームを呼ぶべきです!でないとエマ・カストロ・マルチネス巡査部長が危険なんです!」


「エマ元巡査部長を知ってるのか?」


「ええ……!そうです、そうです!訓練の時に一緒に……」


「その部外者は誰だ?」


「ヘイデン巡査部長!コイツ変なんですよ。いきなり割り込んできて60チームを自分が指定する位置に配置しろだとか……」


「そうでないとボスが……エマが危険で!」


ヘイデンはブルーの胸倉を掴むと、イライラとした態度で睨みつけた。


「ふざけるなよ部外者。こっちはテロリストのせいで突入に大いに手こずってるんだ。今更どこの馬の骨かもわからん奴の指示が聞けるか!」


「ヘイデン巡査部長!本部から突入の指示が出ました。」


「よし、突入するぞ。お前は来るんじゃないぞ、いいな。」


──ACPD SWATの40チームは隊列を組むと静かに裏口から突入を開始した。最初の数分が静かに進行した後にやがてあたりにはAR-15とAKのけたたましい轟音が響き渡り、周りにいた警官や野次馬は皆一様に頭を下げた。


「クリア!」


「クソ、時間が掛かり過ぎだ!エマ巡査部長は無事か!」


「へへへ、この男の命が惜しかったなら、指導者の1人を解放をするように刑務所に進言するんだ。近づいたらこの男の首を切り裂いてやる……銃を捨てろ……捨てるんだ!」


「よし……わかった……わかった……アレックスを放してくれ……」


エマは銃を下げると、小さく屈んでグロックを地面に置きそのまま手を挙げようとした。


「アニマル市警のSWATだ!両腕を頭の後ろに回して腹這いに──」


SWATが突入した瞬間、テロリストはアレックスの首に突き付けていたナイフを無慈悲に引くと、切断された動脈から赤黒い血液が辺りに噴き出した。


その直後、タイラーが放った弾丸でテロリストはハチの巣にされたが、時すでに遅く、地面に倒れたアレックスは目を見開いて痙攣しながら首を抑えた。


「ああ……嘘だ、嘘だ!アレーーーーーーックス!」


「かはっ……あっ゛……う゛あ……」


「アレックス、嘘だ、こんなの嘘だ、しっかりしてくれ目を開けて……ああ、そんな、そんな、そんな……早く、早く医者を、医者を呼んで──」


エマは周りの医者を見渡すが皆テロリストによって射殺されている大惨事となっていた。


「こちら43D!レスキュー・アンビュランスユニットを早く、早く寄越してくれ!」


アレックスの泣きながら必死に抑えるエマだったが、やがてアレックスの目から光が失われて力尽き、床には血だまりが出来ていた。


「アレックス……アレックス……!」


エマは力尽きたアレックスの体を抱き締めながら涙を流し続け、そんな様子をタイラーは膝から崩れ落ちながら見守るしかなかった。


「じゅ、巡査部長……本当に……本当に……」


「……今は話しかけないでくれ……!」


作戦が終了し、ブルーが病院の中に入ったころには暗い表情で血塗れのアレックスを抱き上げるエマがとぼとぼと歩いていた。


「……守れなかった……」とブルーは自分の力不足を悔やみ、M3に乗ってその場を後にした。


デビル・エンジェルスが壊滅し、エマの夫まで失った今、次に死の危険が高いのはルフィナであると感じたブルーは、その足でアニマル市警の広報部がある署まで移動することにした。


「す、すいません……ル、ルフィナ・P・スノフスカヤ2等巡査に会いたいのですが……」


「うん?何君ルフィナの追っかけ?困るんだよね~有名人なのはわかるんだけどさ、警官全員がサインを求めてウチの署に来たらメイワクなわけよ。」


「違います!私はルフィナの知り合いで彼女に話があるんですよ。エリス・アンフォーチュンって言えば伝わります!」


「ええ?まあいいか……〝あ~ルフィナ巡査ルフィナ巡査~エリス・アンフォーチュン一等巡査って知り合いが来てるらしいが……はいはい。〟よし、通っていいぞ。」


「ありがとう……ルフィナ、ルフィナ!」


「ど、どうしたんですの?えーと、確かカルラの友達でしたわよね?」


「そうだ。なあルフィナ、2週間後にアニマルシティでプライドパレードがあるだろ?そこには絶対に行っちゃいけない。カルラにもそう伝えてほしいんだ。」


「……カルラとはもう別れましたわ。」


「……なんで!?」


ルフィナとカルラがどれだけ相思相愛であったかを知っていたブルーは別れたという事実に驚くほか無かった。


「アニマル市警の広報活動が忙しくなって……プライベートの時間が無い上に常にパパラッチに見張られて……それで別れを切り出したんですわ。お父様とお母様に迷惑をかけないためにも……」


「マズい──」


次の瞬間ブルーの視界が歪み、気が付くとプライドパレードの会場まで到着していた。


「……何故ここに……?」


ブルーが少し歩くとプライドパレードに参加している人間全てが止まっているようにも思えた次の瞬間、目の前で即席のIEDが大爆発を起こし、ブルーはその衝撃から身を守るために対爆姿勢を取って凌いだ。


周りは阿鼻叫喚に包まれ、白人至上主義者が銃を乱射する。


「ツーマンセルのピストルだけでやりきれるか…?ブラックラインを呼ぶのは?」


と、いつの間にか隣にいたカルラがブルーに話しかけるがブルーの意識がビデオの早送りのような状態に陥った後、膝立ちの状態から倒れて動かなくなったカルラが見えた。


「カルラ、カルラ!」とブルーは撃たれたカルラに手を差し伸べるが、気が付くとカルラの遺体は棺へと入り、目の前で葬儀が始まっていた。


「主よ、あなたの僕であるカルラ・スターリング・ロメロの魂を御許に召し入れ、永遠の安息をお与えください。」


ルフィナは墓の間で泣き崩れながら喪服が泥だらけになっていることも気にせず、雨の中で泣き続けた。


ブルーはこの時に確信した。自分には何もできないと。


この世界の運命が自分を阻んで他のCLAWのメンバーを幸せから遠ざけようとしていると確信した。


何故なら今ブルーの目の前にアンジーとグレイシーが額を撃ち抜かれた遺体があるからだ。


すると後ろから突然クロウが現れ、アンジーの遺体に駆け寄る。


「アンジー、アンジー!なんでこんなことに……許さない……許さないぞ、ロス・クルティード……FBI!皆殺してやる……殺してやる!」


「ニーナのエレノアって赤だったっか?」


「いや、私のはグレーペッパーメタリック。あれはボス302。」


「誰もいない…まさか正義のオートボット…ってわけじゃないもんな。」


「いや、わからんぞデイヴ。地球侵略にきたディセプティコンかもな。」


「テラーコンかもしんない──」


その瞬間、クロウは突然現れたエイヴァ・バットリー・キャンベルの後頭部を鉄パイプで殴りつけると、全裸にして縛りプレハブ小屋の中に監禁すると拷問した。


「お前は何処から来た!FBIからだろう……!」


「だ、だから知らないッスよ~自分はスネークビーチ市警で……」


「嘘をつけッ!」


クロウはデイヴが持っていた酒瓶を奪い取ると、そのままエヴァの頭を殴りつけてへし割り、その断面で頭蓋骨を突いた。


頭から血をだらだらと垂らしながらエヴァは脳の衝撃からか、涎を垂らしながら意識を朦朧とさせた。


「貴様らFBIはペドフィリアで不正だらけだ!私たちを騙せるとホントに思ったのか!」


「……だ、だから……本当に知らないッス……」


クロウは自身のサムスン製のスマホからFBI副長官が人身売買をしている際のロス・クルティードとの通話記録を再生すると、エヴァの表情が一変した。


「そ、そんな……そんなことが……そんなことあるわけ……」


『〝スナッフポルノだけじゃそろそろ飽きてきた。切り株の男の子と女の子を一匹ずつ寄越せ。いいか、〝切り落としたて〟を頼むぞ。切り口は焼け〟。』


「お前の組織は子供を豚のような男の餌食にして、手足を切り取って弄んでるんだよ!お前の信じたFBIはそんな組織だ。そしてお前もその仲間に違いない。」


クロウは腰からキンバーを抜くとハンマーを起こしてエヴァの頭に突き付けた。


「志半ばで死ね。悪党。」


「やめろ!」


ブルーはクロウのキンバーを腕で跳ね除けて全身を使ってエヴァを庇った。


「どけブルー!そいつは悪の温床FBIの手先だ!殺してしまうのが一番なんだ!」


「待て、待ってくれ!エヴァは私のシェルビーを直してくれた友達だ!異音がしたときにローラーベアリングが壊れてたことを教えてくれた。他にもいっぱい話したいことがあった!だから、エヴァを殺すなんてやめて!」


「意味が分からないぞブルー!お前はシェルビーなんて乗って無かっただろうが!」


「とにかく辞めて!エヴァは何もしてないんだ、エヴァは私の友達なんだ!これ以上私から友達を奪わないで!」


「……私はお前の友達じゃなかったのか?」


「へ?」


その瞬間だった。外から5.56×45mmNATO弾の銃声が聞こえ、プレハブ小屋の窓から外を見ると2mほどの体格をしていて、Cryeのマルチカムの装具で完全武装した一人の兵士が外で車を弄っていたニーナをモザンビークドリルで撃ち抜き、射殺した。


その瞬間ブルーの視界にはドギー・デッカード警視のホログラムのような映像が流れた。


『〝私にはもうブラックラインを止めることができない……希望だったエヴァまでも毒牙にかけたあの組織はもう壊滅させることしかできないんだ。頼むリッキー。腕利きのコントラクターを……〟』


デイヴとポールは大焦りになりながら近くにあった拳銃で窓越しに照準するが、殺気に気づいたのかアッサリと二人は射殺されてしまった。


「デイヴ!ポール!……まさかブルー、お前私を殺すために刺客を送り込んだのか!?」


「……いや、私じゃない。けど、わかったことがある。クロウ、私は貴女のことが大好きだったけれど、貴女が生きていては現実は歪んでしまうってこと。」


「どういう意味だ……?悟ったような態度を取って……!」


「だからもう、終わらせる。アニマルシティにはブラックラインが必要だって前に言ってたよね?」


キンバー・TLEIIがクロウの手から消え去り、ブルーの手に握られるとハンマーを起こして引き金に指をかけた。


「これが私の〝ブルーライン〟。」


その瞬間、ブルーは引き金を引くとクロウの頭を撃ち抜いた。


そしてその瞬間ブルーの目の前からクロウの体は消えてしまった。


銃声に気づいたのか外からコツコツと歩く音が聞こえると、ブルーは持っていたキンバーを床に捨てて手を挙げた。


「……なんや自分、えらい素直やんか。」


ブルーの目の前に現れたエイニス・ホマーはL119A2を構えながら頭を照準した。


「エイニス、迎えに来てくれたんだね。私はもうこの世界に疲れた。早く撃って終わらせてほしい。」


「なんや自殺願望でもあるんか?」


「エイニスは私のことを殺しに来たんでしょ?この現実から私を救いに。」


「自分みたいなやつ……ウチは知らんわ。頭おかしなったんとちゃうか。」


「殺せ……殺せ!」


「こましてやってもええねんけどな、これは契約や。証人を一人連れて来い言われてんねん。でも、主犯は自分がやってしもうたやろ?じゃあ、殺すわけにはいかんわ。とっとと後ろ向きや。きつく縛んで。」


そういうとエイニスは抵抗しないブルーの腕をきつくケーブルタイで縛ると、そのままブルーの視界は何故かブラックアウトした。






エイニスに確保されたブルーは潔く裁判でブラックラインという組織がどのように不正な捜査と私的な殺人行為を行ってきたかについてを全て話すことに決めた。


このようなあまりにも存在理由が不正としか形容できない組織が警察内部に存在していたという件が表沙汰になったアニマル市警は大問題となり、組織を作り上げたドギー・デッカード警視は懲戒免職処分と実刑判決になることが決定した。


ブルー自身は令状が無い状態で容疑者を射殺した件やFBI捜査官に対する拷問への関与があったが、自身が庇ったエヴァ捜査官の計らいで懲役10年の判決にまで減刑された。


だがブルーはもうこの世界に対して深い未練が無かった。


戦友もCLAWの大事な仲間も全てが居なくなって全てが不幸になり、あれだけ求めていたはずのクロウでさえも撃ち殺してしまった。


最早彼女にこの世界に対する執着は存在せず、ただ無気力に刑務作業をこなし続けるただ生きているだけの灰色の日々を送った。


こうなるぐらいであればまだ借金苦で悶えていた時期の方が遥かにマシであるとすら思えた。


「なあおい、今日のアニマルシティ・タイムズ読んだか?」


「ああ、なんでもメキシコ政府が陥落してカルテルに支配された挙句、アメリカに宣戦布告して戦争が始まったんだってな。……この世界は一体どうなっちまうんだ?」


「塀の中の方がまだ安全に思えてくるな……徴兵とかされないことを祈るよ。」


「それにいい記事書いてたアニマルシティ・タイムズの記者の一人が行方不明になったらしいぜ。ほら、治安悪い地域の取材してた日系人の記者さ。文章上手かったんだけどな。なんでも医者に取材に行った後に消えちまったらしい。」


感覚が麻痺したブルーは最早知っている人間の死にも驚く気力すら残っていなかった。むしろ、クロウが生きているだけでこれだけ世界が変わることの方が驚くべきである。


学の無い人間でもバタフライエフェクトの恐ろしさを身をもって味わうことになった。


世界にも国にも絶望したそんなある日のことだった。


1人の刑務官がブルーの独房の前へと来ると「アンフォーチュン!」と声を掛けた。


「……どうしたんですか?」


「釈放だ。」


「……?」


ブルーには他に心当たりが無かった。刑務作業こそ黙々とこなしているが懲役10年の刑に処されたにも関わらず、たかだか1年程度で何故か出所になるというのは意味不明でしかなかった。


困惑したまま刑務官に連れられて外へと歩を進めると、そこには意外な人物が待ち受けていた。


「君がエリス・アンフォーチュン?私はロス・ビソンテスという民間軍事会社のCEOをやってるカレン・パッカードという者だ。オッドホーンとも呼ばれてる。」


自信満々な顔つきをしたオッドホーンはレイバンのサングラスを服の胸元にかけると、ブルーに対して握手を求めた。


ブルーはその握手を無視したが、やれやれといった態度で歩き始めた。


「……裏で手を回して、なんで私なんかを釈放させたの?」


「わからないか?連日の報道でお前は一躍有名人さ。アニマル市警のラングレーにいた唯一の生き残りだのなんだのとな。私はお前に興味がある。色々調べたところによれば関与した事件で仲間はおろか戦友さえも全て失ったとか……ここ最近ビソンテスは経営拡大とメキシコ戦争で優秀な人材の手が足りていなくてね。そこで契約してるアメリカ政府とのコネクションでお前が元フォース・リーコンであることを知った。お前のようなブラックオプスに慣れた優秀な人材が今喉から手が出るほど欲しいんだ。ほとぼりが冷めるまでのこの1年間が待ち遠しかった。」


「……要は私をスカウトしに来たってこと?……もう私には何も残ってない……」


「だからこそだ。お前はこんなところで燻っていいような人材じゃない。私がお前に生き甲斐を与えてやる。」


刑務所の前へと着くとそこにはワインレッドのカラーでまるでルビーのように輝くハイパーカー、ケーニグセグ・ジェメラが停まっており、オッドホーンは手に持っていた家紋を模したキーでロックを解除すると、ラプタードアが自動で90度回転しながら開き、後部座席には〝唯一残された希望〟が待っていた。


「ア……アラン……!」




〝……なぁ、最期に頼みがあるんだ。お前が兵士ならこの状態の俺がどれだけ苦しいかわかるはずだ……だから、終わらせてほしい。〟




〝……何故。……何故、私はこんなつらい目に遭わなきゃいけないっ!私は、私は今日で私に優しくしてくれた人を2人も失ってしまった!私からどれだけ奪うつもりなんだ!私は何度も失ってきた!だが、得られるものは何1つとしてなかった!何1つ、何1つだ!私の好きになった人間はなんでみんな死んでいくんだ!残酷すぎる、こんなのってない、こんなのって無いよ、私は、私はただ普通の幸せを享受したいだけなのに!〟




ブルーの頭の中で1年前の激動の記憶が蘇った。瞳から涙が溢れそうになった。


「なんだ?おいアラン、エリス・アンフォーチュンと知り合いだったのか?」


「……いや、初対面だ。なんで俺の名前を?」アランことアレクサ ンテリ・トゥルヴァイネンは全く心当たりがなく困惑するしかなかった。


ブルーはなんだか面白くなって微笑むと、その唯一の希望に向かって手を伸ばすことを心に決めた。


「……オッドホーン、そのオファー受けるよ。」


もうブルーに迷う気持ちはなかった。かつては死合った仲だからこそ、あの時手を差し伸べられなかったからこそ、全てを失ったこの世界でぐらい一緒に居たっていいじゃないかと感じた。


この言葉を聞いたオッドホーンは運転席に乗ってシートベルトを締め、口角を上げてニヤリと笑いながらブルーに向かって振り返った。


「……交渉成立だな。ようこそ、ロス・ビソンテスへ──」






「──はっ!」


ブルーは目を覚ますとそこはエイニス・ホマーの家の中にあるベッドの中だった。


体全身にべっとりと滝のような脂汗をかいて不快な感覚に覆われていた。


「……んー……どしたん?えらい魘されとったみたいやけど……」


「エ、エイニス、今は、今は西暦何年?」


ブルーは慌てふためきながらスマートフォンを見ると、そこには2028年の文字があった。


「ボケとんの~?2028年やってぇ~。自分、バック・トゥ・ザ・フューチャーの見過ぎやで。」


「エイニス、エイニス!私の頬を抓って!」


「はぁ?」と困惑しながらもエイニスがブルーの頬を抓ると、まるでペンチに挟まれたかのような鋭い痛みが走って眠気が吹き飛ぶと、自分がきちんと現実にいるという安心感を再認識することができた。


「いでっいでででででで……よかったぁ~……」


「もうええか?ちゃんと寝んとヤバイで。明日早いねんからさ~。遅刻したらケイト怒んで?」


「ご、ごめん……お休み……」


ブルーはケイトが生きているという事実を確認してここが現実であるという確信を持つと、再びベッドに横たわって安心して瞳を閉じたのだった。

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