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Development / 巨悪と善人

CLAWに新しい隊員が四人参加した!彼女らの真価を見定めるべく、エマ警部は彼らに試練を課す……

アニマルシティとメキシコの国境で特殊核爆破資材がさく裂し、タスクフォース・アースソングが全滅した一日後。


過去に例のない被害を受けたアニマル市警はデッカード警視正と相談を行い、これまでの規模とは比べ物にならない敵と相対することとなった為、CLAWに新たなメンバーを緊急配備して増員することが決定した。


一人目はアミーナ・カーン。スネークビーチ市警からやってきた爆発物処理班……と名目上ではなっているが実際のところはエヴァによって間接的にFBIから送られた爆弾処理班である。


彼女はハッキリ言ってスワット隊員として適格な体力や戦闘技術を持ち合わせてはいないが、分析官として過ごしてきた経験から地球上に存在する人間が作ることができるあらゆる爆弾の知識が頭に叩き込まれている。


クルティードにもう一度核兵器を使われる危険性があることと、エヴァから送られてくるクルティードの捜査情報を持っている以上、彼女がいなければ全滅は必至であるため、隊に絶対にいなくてはならない存在だ。


二人目はニーナ・カルミア。正確に言えば新しい人員ではなく、ブルーが後任として可愛がって鍛えていた代わりのブリーチャーである。着任早々ではあるが多額の給与の増額と引き換えにこの仕事を請け負った。最初はブルーを呼び戻すという考えもあったが、彼女は度重なる事件で精神的に疲弊し続けており、僅か数分しか関わりが無かったとはいえ、アランと戦い彼を殺害したことは心の傷となっていた。そしてようやくここ半年はスニッド・ロウの家賃五十ドルの賃貸ではなく、アニマル市警が貸出している寮へと移り住み、スワット隊員の教官として様々な候補生やニーナの面倒を見て心の傷を癒し始めて自活能力が戻ってきたこともあり、彼女をもっと休ませたいという意向を皆が示したため、世間に公表されている事件の真相は彼女に通知せずに代わりにニーナがブルーのポジションを担うことになる。


三人目はルース・サマーズ。かつてタイラーとアンジーが救った人身売買の被害者で現アニマル市警の一等巡査。先日、タイラーを撃ったことで正規のスワット隊員の候補生としての資格が永久剥奪となったが、それを口実としてデッカード警視正が上層部を説得してCLAWへの左遷が決定された。


当初彼女に平和に過ごしてもらいたかったタイラーは通常のスワット以上に危険な任務を担当することになるCLAWに彼女を入れることに猛反対したが、ルース自らがタイラーへの贖罪をするために命を懸けると説得したことでようやく仲間として認められた。


彼女はタクティカル・シールドを使うポイントマンとしての訓練を受けており、かつてのエヴァと同じポジションに属する。


四人目は──


「……で、ボス。なんなんだこのデカいのは。」とアンジーがぼやくと、エマは手元にある履歴書を読むがそこにはピースサインをしたスモークレンズの防弾メット越しの写真と筆跡を消すために定規で書かれた雑なセンチュリオンという文字だけがあった。


そしてエマの目の前には身長はおそらく二メートルはあるであろう巨大な体躯で、全身に隊爆スーツと防弾装備を着込み、ロシア製のPKM機関銃を背負った謎の人物がいた。


写真からしておそらくこの人物がセンチュリオンであることは明白なのだが、何ひとつ言葉を喋ろうとせず、あたりにはひたすらに静かな呼吸音だけが響いていた。


「あー、えーと……君がセンチュリオンなら頷いて欲しい。」とエマが言うと、センチュリオンはゆっくりと首を動かして頷いた。


「なぁ、コイツどっからどう見ても警察官には見えねえんだけど、というか機関銃持ってるし……てか、アニマル市警のバッジがどこにも見当たらないし……」


アンジーがセンチュリオンの周りを見回してヘルメットにコンコンと指を当てるが、全くと言っていいほどびくともしない。


「元から喋れないのか……それとも〝喋ることを許可されていない〟のか?」とエマが言うと、センチュリオンは動き始め、鼻息を荒げてそうだと言いたげに激しく頷いた。


「〝喋ることを許可されていない〟ねぇ……CIAか軍あたりから送られてきたヤツなのか?核の話はもう嗅ぎ付けてるはずだし。」


センチュリオンは違うと言いたそうに手を横に振った。


そんなことを話しているとルフィナがフランス製の美しい陶器に入った紅茶を豪華な装飾がされたトレーと共に運んできた。


「皆さん、マリアージュ・フレールを淹れましたわ。これだけ大きな作戦、まずはこういう細かいところから英気を養わなきゃいけませんわ!……って、この方は誰ですの!?おっきいですわ!?でっかいですわ!?」


するとセンチュリオンはルフィナの持ってきたマリアージュ・フレールに興味を示すと、コレを呑みたいと言いたげなジェスチャーを行った。


「……もしかして、この紅茶が飲みたいんですの……?でも、そのマスクを被っていたら飲めないんじゃないですこと?」とルフィナが言うと、センチュリオンはハイドレーション(注・登山や軍用に使用される歩きながら水分補給ができるパックのこと)用のチューブを取り出すと、その管をマスクの顎部分にあるジョイントに差し込んだ。


「ああ!それでマスクを外さずに飲むことができるんですのね!それでは一杯差し上げますわ。淹れたばかりでまだ熱いですから、気を付けてくださいまし。」とルフィナがティーカップを渡すと、それを受け取ったセンチュリオンはチューブ越しにチューチューと紅茶を飲み始め、何やら唸るような声を出すとサムズアップをした。


「そういえばスコーンもあるのですが……その格好だと食べれないですわね……」とルフィナが言うと、センチュリオンはしょんぼりとした。


「へ、へぇ……あ、案外面白い奴なんじゃねえか?もしかしてイギリス人だったりしてな!紅茶とスコーン好きっぽいし。」


「まぁいいか……とりあえず訓練で出方を見て本当に作戦を遂行できるだけの技術があるのかを確かめれば済む話か。機関銃も……まぁ、ビソンテスと戦った時のように相手が重武装している可能性も高いからな。今回ばかりは仕方ない。」


そんな話をしていると旧署の地下から四・六リッターの三バルブV8エンジンの轟音が響く。


聞き覚えのある音にアンジーが地下へと向かうと、ブルーが乗っていた二〇〇七年式シェルビー・マスタングの中から、狂犬のような目をした小柄な体格のスワット隊員がガムを噛みながら現れた。


ブルーが候補生として鍛えていたニーナ・カルミア一等巡査だ。


ニーナは周りを見渡すと近くに停まっていたルフィナのポルシェ・パナメーラを見ると、何やらムカついたような表情をして舌打ちした。


「お前がブルーが言ってたニーナってやつか。なんでブルーのシェルビーに乗ってんだ?」


「来て早々質問?めんどくさいからノーコメントで。」


「そのシェルビーはブルーが戦友から貰った大事な車だ。そんな車を渡された奴がそんな素っ気ない態度してていいのかよ?名前ぐらい名乗るのが通りってもんだ。」


「ブルーってエリーお姉ちゃんか。それにシェルビーってこの〝エレノア〟のこと?それならエリーお姉ちゃんに借りた。この仕事をするなら早い車がいるからってキーを貸してもらった。」


「エ、エリーお姉ちゃん?ブルーってお前にエリーお姉ちゃんって呼ばれてんのか?」


「そうだけど。」


「ク、クク……エリーお姉ちゃんね……アイツがお姉ちゃん……ククク……」


二人がそんな話をしていると、後からタイラーがルース・サマーズを連れてほぼ同時刻にやってきた。


「よう。相棒。そっちの子は?」


「ブルーが言ってたニーナって奴だよ。聞いてくれよ相棒、ブルーの奴、コイツにエリーお姉ちゃんって呼ばれてるんだってさ。」


「ブルーがお姉ちゃんね……まあ、ブルーはそういう存在を持ったことが無かったから張り切っちゃったんじゃないか?まぁいい、私はタイラー・ナイトウッド二等巡査部長だ。よろしく──」


タイラーが握手を求めるがニーナはそれを無視してそのまま本署内へと足を運んでいった。


「……素っ気ない奴だ。ブルーはちょっと生意気な奴だって言ってたけどこれほどツンツンしてるとは……」とタイラーがぼやくと、ルースは耳打ちをした。


「タイラーさん、気を付けてください。あのニーナは候補生の中でも指折りの不良ってことで有名なんです。過去の経歴も何度か少年院に入ったことがありますし、格闘訓練中のスパーリングでも反則の常習犯でした。アニマル市警の人手不足と車両窃盗犯に対する専門知識を持ち合わせていたことで選ばれたようですが……ブルーさんが担当を務めるようになってからは幾つか落ち着きましたが、少し警戒していた方がいいと思います。」


「……そうか。有益な情報をありがとう。」


「とはいっても、私もタイラーさんのことを混乱して撃っちゃいましたから、人のこと言えないのですが……」


「まぁ、あの早撃ちを作戦で生かせれば敵なしさ。大丈夫。だってお前は私の大切な仲間なんだからな!」とタイラーが微笑むと、ルースは小さな声で「だから貴女のことがこんなにも……」と呟いた。






新人の皆はエマの指示の下で旧署の地下に設置された訓練施設に集められていた。


ここでは純粋な射撃、近接格闘、CQBによるクリアリング、その全てが行えるように設計された複合施設だ。


きちんとした訓練が行えるようにするための設計に三ヶ月掛かり、その建造にも三ヶ月掛かった出来立てほやほやの施設である。


「新人の諸君。今から君たちの実力を見せてもらう。今回の作戦は非常に困難が伴う任務になるはずだ。専門技能を持つアミーナ以外は私の前で確かな実力や技術を証明できなければ抜けてもらう。これはただお前たちを跳ね除ける為ではない。的確な戦闘能力を持たなければ早期に殉職するからだ。私はこの十数年をスワットで過ごしてきたが、スワット配属一日目で殉職した隊員を見たことがある。それも一度じゃない。そういった悲劇が起こらない様に全力で勤めろ。」


エマがそういうと新しいメンバーたちは一斉にプレートキャリアを着て銃の支度を始めた。


「……訓練の時ぐらい、ガム噛むの辞めたらどうです?」とルースが伝えると、ニーナは睨みながら近くにあったゴミ箱にガムを吐き捨てた。


そして弾薬をパチパチと弾倉にはめ込むルースに装填済みのマガジンを投げ付けると、ルースはそれを見事にキャッチした。


「貴女がどれだけの不真面目かは知っていました。私を虐めるつもりなら甘く見ないで。貴女にこの程度のことをされた程度で堪えるほど甘い人生は生きてません。」


ルースの言葉を聞いてニーナはにやけながら自身の持っているモスバーグ・590にシェルを装填すると、わざと脅しを入れるように大げさにポンプを動かした。


そして隣で既に準備を済ませて椅子に座って自分の番まで待っているセンチュリオンの足元に蹴りを入れて「鈍い木偶の棒め。」とぼやくと、そのままアンジーとルフィナの待つ射撃場へと入った。


「よし、それじゃあ射撃訓練をするぞ。私とルフィナがお前たちの射撃を見る。射撃は着弾点が二~三インチより外に出たらもう用はない。まあここまで上り詰めたお前たちなら余裕だろう。見せてみろ。」


「ニーナさんの射撃は同じくショットガンナーである私がチェックしますわ。」


「よし、それではゴーイング・ホット!」


エマがそう叫び、全員が同じくゴーイング・ホットと返すと、ルースは引き金を引くが、その瞬間に持っていたガイズリー・スーパーデューティのアッパーレシーバーが飴細工のように広がって爆裂した。


「きゃっ!」


「なんだ!?おいどうした!?ケガはないか!?」


エマが心配しながらルースのもとに駆け寄り傷のチェックをするが、運よく無傷のようであった。


「なんで銃が爆裂したんだ……?」


エマが破断されたスーパーデューティの欠片をチェックすると、そこには五・五六ミリの弾薬ではなく三〇〇ブラックアウト弾の薬莢が転がっていた。


「あっ……やっっっべえええええ!」


「は?おい、アンジーどういうことだ?」


エマに詰め寄られたアンジーはかなり青ざめた顔をして釈明を始めた。


「実は……つい先日射撃場を組み終わった後の休憩時間に私物のライフルを持ち込んで遊んでたんだが……右手で三〇〇ブラックアウト弾が入った箱の中身を五・五六ミリ弾の入ったアモー缶にぶちまけちまってな……全部拾ったと思ってたんだが……やっちまった!すまんボス!マジでどう謝ったらいいかわかんねえ……マジで心の底からすまなかったルース……」


「は?え……?……」


ルースは明らかに犯人がニーナであることがわかっていた。ニーナは咄嗟の判断で嫌がらせをするために缶に残っていたブラックアウト弾を〝わざと〟装填して渡してきたのだろう。ルースはアニマル市警に入るまでにタイラーに銃の構造や弾薬の構造を習っていた為、このような初歩的なミスをするはずがないという確信があった。


そしてルースがニーナの方に視線を向けるとニタニタと笑いながらモスバーグを撃ち続けていた。


「相棒、この馬鹿野郎が!」とタイラーはアンジーの胸倉を掴んで壁に押し付けると、弁解の余地が無いためかひたすらに「すまん……」と謝り倒していた。


「いやっ、違っ……」というルースの声は銃声によって掻き消される。


「アンジー、次からこのミスは絶対にするんじゃないぞ。隊員の命に関わる行為だからな。それとルース、今度から弾倉に弾を入れるときは一発一発確認してから入れるんだぞ。とはいえこれは誰にでも起こりうる可能性のある不運なアクシデントだ。このミスがあったからお前を追い出すとまでは言わない。とりあえず代わりの銃を用意しろ。」とエマが指示を出すと、待機していたシバサンがガンロッカーに置いてあったヘッケラー・アンド・コッホのMP5をルースへと渡し、ルースはそれを力なく受け取った。


「MP5の使い方はわかるよね?」


「……はい。候補生の時にスーパーデューティとMP5、グロックとFN509の使い方はちゃんと習いました。」


「じゃあ、これがマガジン。まぁ、アンジーがやっちゃったことなら仕方ないよ。アイツ、右手が震える上に人差し指も無くしちゃってるからさ。本人も相当堪えてると思う。でも健康のために酒もタバコもおクスリも辞めた上に僕を庇って免停まで喰らっちゃって、もう楽しめることが射撃しかないんだ。責めないでやって。」


「……」


ルースはMP5のコッキングレバーを引っかけて弾倉を装填し、HKスラップを行うと立ち上がって怒りをぶつけるように標的を撃ち始めた。


MP5は常用していたスーパーデューティと比べて重量はこちらの方が上だが、反動が小さくて精度に優れている。


スーパーデューティを難なく使いこなしてきた彼女にとってMP5を使うことはあまりにも容易かった。


彼女のMP5は何一つ曇りを見せずにターゲットのど真ん中を撃ち抜き、精度は過去最高と言っていい結果が出た。


エマがターゲットリトラクターを戻すと、グルーピングは良好で素晴らしい結果が出ていた。


「さっきは酷いアクシデントだったが……このグルーピングは素晴らしい結果だ。この際だそのままMP5に持ち変えてみるのもアリなんじゃないか?」と、エマがルースに対して賞賛の声を送ると、ニーナは少しイラっとした表情をして舌打ちをした。


そしてニーナが空になったモスバーグにクワッド・ロード(注・競技射撃で用いられる一回に四発のショットシェルを掴んで装填するテクニックのこと)をすると、ルフィナはそれを静止した。


「待ってくださいまし。」


「……なんだよ。」


「そのクワッド・ロードは特殊作戦において確実性に欠けますわ。シェルを落とす危険があるし、その動作に気を取られて他のことがおろそかになってしまう。着実に一発一発装填する形でなきゃダメですわ。」


「戦闘中じゃ一秒一時を争うんだろ。ならより素早いリロードをした方がいいに決まってる。」


「そんなことはありませんし、実際の戦闘はじょん・うぃっくのように甘くありませんわ。映画が好きなのは結構ですが、本当の殺し合いはそんなことしてる暇はありませんわ。」


「ちっ……」


「それにあなた……とても態度が悪いですわ。ショットガンのグルーピングは問題なし……ですが、他人に対する振舞い方がなっていません。どんな育ち方をしたのであれ、警察官になった以上は品性を持たなくては。」


「うるさい!お前に私のことなんてわからないだろ……」


「わかりませんわ。でも、あなたを正しい方向に導くことはできる。ハッキリ言ってあなたのやっていることは〝間違って〟いますわ。ブルーさんが溺愛するあなたのことを私は任せられた。なら、私はあなたを正しい方向に導きたいんですわ。」


「私のお母さんにでもなったつもりか?それに私は……お前みたいな金持ちが大嫌いだ。その腕時計を見るたびに反吐が出る!どうせガレージに停めてあったポルシェもお前のなんだろ!私はゴミ箱を漁って車を盗み、お前みたいな金持ちに〝プア・トラッシュ〟と蔑まれて生きてきた。生きる世界が違う人間を啓蒙できると驕るな!この成金淫売のクソッたれマザーファッカーが!」


「あなたがどれだけ理解を拒もうとも、私は決してあきらめませんわ。今まで辛い人生を過ごしてきた分、これからは私があなたの人生を幸せにしますわ!例え驕りと言われても構いません!」


「だから母親を語る──」


ニーナとルフィナの口喧嘩がヒートアップするかと思われた次の瞬間、隣でロシア製PKM機関銃をフルオート射撃する轟音がその声を掻き消した。


「クソ……うるっせぇ──」


十数秒の連射を終えたあと、センチュリオンが銃身から煙の出たPKMを片手で担ぎながらターゲットリトラクターを戻すと、紙全体がぐしゃぐしゃになっていてとてもグルーピングが確認できるような状態ではなかった。


しかし、エマが遠距離の壁に空いた黒い穴を確認すると、機関銃をフルオート射撃下にしては異様なまでに精度の高い射撃痕がそこにはあった。


「す、すごいな……こいつは……私じゃ機関銃でこんな精度は出せない……というか……機関銃を撃ったことがそもそもないしな……お前本当に何者なんだ?」とエマが呟くと、センチュリオンは「どんなもんだい」と言いたげに自信満々なジェスチャーを取った。


「クソ……話が遮られちまった。こうなったら……次の格闘訓練で勝負だ。私が勝ったらあんたのおままごとは無しだ。」


「では……わたくしが勝ちましたら、ちゃんとわたくしの言うことを聞くこと……わかりましたわね?」


「上等。」


そんな話をしている横で数メートル離れたターゲットにマトモに着弾させられていないアミーナの姿があった。


「あ、あ、あ、当たらない……な……」






射撃訓練を終えた後の休憩室でルースはニーナに対して詰め寄った。


「貴女が私に渡した弾倉……あれにブラックアウト弾を詰めましたよね?そもそも貴女はショットガンナーだから、スタナグ弾倉に弾を込める必要なんかない……」


「どこに証拠があるんだ?うん?映像がある?その目でちゃんと確かめた?確証も無いことをさも事実かのように述べるのは警官の道理に反するんじゃないか?」とニーナはルースの瞳を睨んでニヤけながら、歯を噛み合わせてカチッと鳴らす挑発のジェスチャーをした。


「今回は運よく助かったようですが……次からは絶対に許しません。私は絶対に貴女のことを信頼しませんから。」


「ふぅん……ま、頑張れ。」とニーナは手を振りながら休憩室で寝ていたセンチュリオンを再度蹴ると、むくりと起き上がったセンチュリオンに腕をがっしりと掴まれた。


「な、なんだよ……」


「……」


その腕力は桁違いの強さであり、とてもではないが今まで相手にしてきた犯罪者とは一線を隔するものだった。下手をすればこのまま圧力を上げられただけで腕の骨がへし折れてしまうだろうと確信した。


「は、離せ……離せって……やめろっ……」


「……」


センチュリオンは更に力を強めていき、掴まれた腕が物凄い形に変形していることを知覚したニーナはだんだん恐怖心が沸き始めていく。


「や、やめて……」


センチュリオンは弱気になったニーナを見て気が収まったのか徐々に手を離すと、ニーナの掴まれた腕は内出血を起こしていた。


「ク、クソ……覚えてろよこの木偶の坊……」


と捨て台詞を吐いてニーナは逃げ腰になりながらその場を後にすると、そのままガレージに向かった。


そしてルースが自身のロッカーを入れると、そこには大量のタンポン(注・女性隊員に対して主に男性隊員が行いがちな新人いじめ)が入っていた。


「ああ、クソ……痛てぇ……はぁ……ポルシェに日産にホンダか……どれもこれも高い車ばっかだな。」


ニーナが辺りを物色していると名だたるスポーツカーやセダンが停められている中で一台だけ浮いたEV車が停まっていた。


「二〇一九年型のフィアット500か。EVなんてゴミ乗ってる奴はどこのどいつなんだ?気色悪い……ガソリンで動かない車は車って名乗るべきじゃないだろ。ああ、なんだか物凄くムカついてきたな。EV車を見ると無性に腹が立つ……」


フィアット500のドアに蹴りを入れて少し凹ませると、ニーナは腰に収納していた端末を使って車両をハッキングし、システムを乗っ取った。


ニーナはスニッド・ロウに住んでいた幼少期から車両窃盗をして生きていた。車両そのままを盗んだり、高いパーツだけ剥ぎ取ったりといった行為を山ほど行ってきた。


故に停まっている車両を盗むことはドアを開けるのと同じぐらい当たり前にできることなのだ。


「よし……開いた。」


座席に座ってスターターボタンを押すと、イタリア映画〝アルマンド〟のテーマ曲をアレンジした始動音が響いた。


「……は?舐めてんの?エンジンの音が聞こえないとかきしょ……てか、充電半分しかないし……はあ、ゴミだなこの車。大事にしてる奴は心まで貧乏なんだろうな。どうしようもない。早く死ねばいいのに。」


ニーナがシフトを動かしてアクセルを全開に踏んで急発進すると、そのままガレージを飛び出してブルドッグウェイからニーナの馴染みのあるスニッド・ロウ地区まで移動した。


すると、案の定ゴロツキがフィアットに近づいてきた。


「へへへ……EV車じゃねえか……おい、寄越せよこの車。」


ニーナはドアを開けて外へと出ると、そのゴロツキは目の色を変えた。


「あ、ニーナじゃねえか。なんでEV車に乗ってんだ?」


「よう。なんかムカついたからかっぱらってきた。でももう充電がちょっとしか残ってない。適当にバラすなり燃やすなり好きにしていい。」


「うおっ、マジか最高じゃんかよ。ぶっ壊してやろーーーっと!」


「VINコードと車体番号は潰せよ。」


ゴロツキはVINコードを剥がしてその辺に持っていた鉄パイプでフィアットを乱雑に殴り始め、窓ガラスやサイドミラーをボコボコにし始めた。


その様子をニーナは懐から取り出したメンソールのニューポートというブランドのタバコを取り出し、火を付けて吸い始めた。


「はぁ……最近は禁煙が厳しいから署内じゃタバコ吸うなと言われる。代わりにニコレット(注・アメリカの禁煙ガムのこと)を噛んでるけど、全く満足できやしない。ずっとニコチン不足でムカついてる。」


「警察官ってのも大変だなあ!」


「そうでもない。犯罪者を強請ってたんまり金をふんだくれる。」


「いいなあ、俺も警察官になろうかな!」


「いんや、多分お前には無理。字読めないだろ?」


「読めねえ!喋ることしかできねえよ!」


「じゃあ駄目だ。まあ、そういう私も十五になるまで読み書きできなかったけどな!」


「ぎゃははははは!スニッド・ロウ出身に言語能力を求める方がお門違いなのさ!」


フィアットはどんどんべこべこに凹んでいき、フロントライトやボンネットまでもをバットで叩かれて無残な状態となっていた。


「よし、そろそろ燃やして花火を上げよう。」


チンピラの一人はフィアットに缶からガソリンをぶちまけると、ニーナは持っていたライターで滴ったガソリンに火を付け、フィアットはものの見事に燃え上がった。


「はぁーーーっ!花火だぜーーーーっ!最高!」


「やっぱり人の車を燃やすのは楽しいなあ!人があくせく働いて貯めた金で買った大切なものをぶち壊すか盗む時はオナニーよりも気持ちいい!」


「よう、ニーナ、車燃やしてんのか?」


爆発音を聞きつけたのかホンダ・シビックフェリオを改造してド派手なキャンディ色に塗装を施し、爆音でレゲエ・ミュージックを流すローライダーがやってきた。


「ムカついたから燃やした。アレ、EV車なんだ。」


「EV?ふざけんな!EVクソくらえだ!アニマルシティに住む人間はガソリンの日本車に乗ってねえと人間じゃねえ!ぎゃははは!」


「……おっと、楽しい休憩時間は終わりだ。なあ、お前らブルドッグウェイまで乗せてってくんないか?」


「いいぜ、乗ってきな!今日は暇してたからドライヴ日和だしよ!」


ニーナはシビックの後部座席に座ってその場を後にすると、すれ違うようにリトル・トーキョー署のパトカーとすれ違い、後ろから警官の声が聞こえ始める。


「おい、そこのお前!車を燃やしたな!現行犯で逮捕させてもらう!」


「知らねえよくたばれポリ公!」


チンピラの一人は鉄パイプを持って警官を襲おうとすると、警官は即座に腰のホルスターからFN509を抜き、そのチンピラの頭に二発の弾丸を撃ち込んだのだった……






「よし、昼休みは終わりだ。今度はお前らの格闘技術を見せてもらう。まずは……そうだな、やると言ってたんだルフィナとニーナでスパーリングをして見せろ。」


そういうと部屋の真ん中にあるボクシング用のリングにルフィナとニーナが上がった。


「ルールは相手に致命的な怪我をさせないことだけだ。制限時間は十分間。私たちの任務は常に死が伴う。確保する必要が無い相手に容赦をする必要はない。でなければ私たちが殺されてしまう。」


「言っておきますが……わたくしのことを舐めない方がいいですわよ。」


「そっちこそ。こっちはスニッド・ロウ仕込みのボクシング殺法をみせてやる。」


「よし……よーい……始め!」


ルフィナとニーナが互いに構えると、相手の出方を伺った。


そして先に仕掛けたのはニーナだった。ニーナはてっきりジャブから来ると思っていたルフィナの股間を狙って躊躇なくローブローを入れた。


「あ゛うっ!」


そして態勢を崩したルフィナの喉元にアッパーを加えて地獄突きを行うと、そのまま髪の毛を引っ張ってリングロープに投げつけた。


「は、反則だ……あれは反則ですよ!辞めさせないと。」


「ボスは致命的な怪我をさせないことだけがルールと言ってた。それに、あの程度でやられるようなルフィナじゃない。」


ルフィナは倒れた直後に直ぐに立ち上がると、再度態勢を整えた。


「ふぅ……その程度ですの?意外と大したことありませんのね?」というと、ルフィナは手で挑発のポーズを取った。


「ほら。いいかルース。あの息遣いを見てみろ。アレはシステマの呼吸法だ。ルフィナの近接格闘技術は軍の特殊部隊仕込みの合わせ技でいろんなところからいいとこどりをしてる。基本はアニマル市警で習ったボクシングやジュウドーの技を使い、痛みはシステマで耐える。それが彼女の戦い方なんだ。」


ルフィナは軽快な動きでフェイントを食らわせると、そのままキツイジャブをニーナの顔面へとぶち込んで逆にリングロープへと押しやった。


そのジャブの衝撃でニーナは意識が朦朧として今にも倒れそうになった。


自分と大して変わらない体躯の人間がこれほど重いパンチを繰り出せるとは思ってもいなかったのだ。


「はぁっ……はぁっ……ぺっ……」


「それから貴女……少しタバコの臭いがしますわ。先ほどタバコを吸ってきたんですの?スワット隊員は体力が重要。肺を侵すタバコを吸うのは初歩の初歩から間違っていますわ。」


「ざけんな……そのぐらい好きにしたっていいだろうがっ!」


ニーナは拳でルフィナの瞳を狙って一撃を入れようとするが、先ほどの攻撃で反則を狙った戦い方を好んでいたことを事前に察知していたニーナは拳の角度から瞳を狙って来ることを一瞬で予想すると、拳を掻い潜って腕を掴み、そのまま地面へと投げた。


「ぐはっ……!」


「……どうです?まだ続けますの……?」


「こんな簡単に……終わるわけないだろうが!」


立っているルフィナの膝にニーナは肘打ちを命中させて態勢を崩すと、そのまま足の指を掴んで死に物狂いで関節を逆に曲げ、抵抗するルフィナの左手を掴んで関節を逆に曲げようと動いた。


そしてその動きを解こうとするルフィナ瞳に軽くジャブを加えた後、後頭部に何発も肘打ちを食らわせて脳震盪による昏倒を狙った。


「は゛ぁっ……ふぅっ……ふぅっ……あ゛っ……」


「流石にシステマの呼吸法と言えど、直接脳を狙った攻撃じゃあ回復に時間がかかるだろ?」とニーナはルフィナの首根っこを掴んで凄むが、ルフィナは鼻血を垂らしながらニヤリと笑った。


「なら……こっちにも秘策はありますわ!」


「なんだと?」


ルフィナは思い切りニーナの顔面に頭突きを食らわせた。ただでさえ脳震盪が起きている状態で更に脳を揺らすこの行為はニーナが想像できる動きではなかった。


そのままニーナの鼻にクリーンヒットして痛みに悶絶しているところにルフィナは渾身のボディブローを放つと、ニーナは一瞬息ができなくなり、そのまま視界がブラックアウトしてその場で倒れ込んだ。


「かはっ……くはっ……」


「10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……この勝負はルフィナの勝ちだ!」


「やったなルフィナ!」


「……ちょっと待ってくださいまし。」


そういうとルフィナは倒れたニーナに手を差し伸べた。


「いい試合でしたわ。」


「……クソ、反則塗れの試合で皮肉を言うんじゃない……」


「いえ、貴女がやっていることは確かにスポーツマンシップに則れば反則……ですが、我々のような仕事をしている人間にとってそれは間違いではありませんわ。」


「クソが!」


ニーナは肉体面でも精神面でもルフィナに完全敗北したことを悟ると、ルフィナの手を払いのけてみぞおちを抑えながら休憩室へと、とぼとぼと歩いて行った。


「……信用できないな。あいつは。」


「エマさん……確かにニーナは未熟で卑劣かもしれません、ですが我々のような仕事をする人間にとって彼女は必要ですわ……ブルーさんの意志のためにもどうか……」


「だが、本当にいいのか?いつか寝首を掻かれるかもしれないぞ。」


「その時は……その時ですわ。任されたことはちゃんとやらないと。それに……きっとあの子は根はいい子のはずなんです……」


「……わかった。お前がそこまで言うなら仕方ない。」


「感謝しますわ……」


「よし、次はセンチュリオンだ!アンジー、相手をしてやれ!」


「は、ハァ!?あのデカブツとやり合うってのか!?」


センチュリオンはのっそのっそとリングへと上がるが、ロープに足を引っかけたのかそのまま態勢を崩してリングに倒れ込み、少し経つとそのまま起き上がった。


「ど、どんくさい奴……ってか、格闘で戦うってんだから着込んだ装備ぐらい脱げよ。」とアンジーがぼやくと、腕でバツマークを使って脱ぐことを拒否したが、代わりに着込んでいるプレートキャリアの下部から防弾プレートを引っこ抜いた。


「まあ奴にもできないことがあるんだろう……とりあえず試合開始だ。」


「よし……」


アンジーは早速渾身のジャブをセンチュリオンの腹部に叩き込もうとするが、全くと言っていいほどびくともしなかった。


「あ……?」


ジュウドーの投げ技をしようと飛びかかるが、あまりの重量に持ち上げることができない上に足を引っかけようとしても微動だにしない。


そして何よりも不気味なのがセンチュリオンは何一つ抵抗しようとせず、〝不動のまま〟ひたすらにアンジーの攻撃を受け続けていた。


「び、びくともしねえ!」


「……」


「おらっ!」


知りに向けて攻撃を浴びせてもセンチュリオンは全く動かなかった。


「なんて奴だ……」


そのままアンジーは十分ほど全力でセンチュリオンに殴りかかるが、結局一切動かすことはできずにそのまま試合時間を過ぎて結果はドローとなった。


「は゛ぁっ……は゛ぁっ……お、おい、ちょっとは抵抗とかするべきだろ!なんで動かないんだよ……」


「敵を倒すのに動く必要もないってことか……本当に奴は何者なんだ?」


「知らねえよ話さないんだから……クソ、判定はドローだが完全に私の負けだ。」


疲れて倒れ込んだアンジーに対してセンチュリオンは手を差し伸べると、アンジーはその手を掴んだ。


「おおっ?おおっ!!」


すると、そのままセンチュリオンは片手でアンジーを持ち上げてファイアーマンズキャリー(注・主に消防隊員が行う火災現場等で片手を空けた状態で人を担ぐ技術のこと)をすると、そのままリングを降りて休憩室へと向かっていった。


「とんでもない化け物だったな……正直私でも勝てるかわからん……まあともかく次はルースだ。タイラーと……」


「嫌です!」とルースは叫んだ。


「……どうして?」


「たとえスパーリングであってもタイラーさんに殴りかかることなんてできません!あの美しい体を傷つけることは……私にはできません!」


「は、はぁ……命の恩人だから?」


「そ・れ・以・上・で・す・!」


「ま、まぁわかった。じゃあ私との勝負ならいいか?」


「はい!」


エマはルースを連れてリングへと上がった。


「さて。じゃあ私と勝負をするわけだが、お前が私の胴か頭に一発でも当てられたら勝ちと思ってもらって構わない。」


「……は?流石に甘すぎじゃないですか?」


「違う。お前はまだまだ経験の浅い新人だ。お前の動き方を見て使えるかこの目で確かめる。それに私は反則もしないし、お前に対しては攻撃をしない。甘いわけじゃない。この条件でもお前が私に勝つ可能性は極めて低いからだ。」


「じゃあ……行きますよ!」


「ああ……来い!」


タイラーの「始め」の号令と共にルースはまず最初にストレートなジャブをするがそれをアッサリと避けられる。


避けられることをあらかじめ察知して回し蹴りをしようとするが、あっさりと片手で受け止められた。


「ふむ、勢いは悪くない。」


続いてルースは飛び蹴りしようとするが、それも避けられ自重でリングに叩きつけられる。


「動きが直線的すぎるぞ。もっと搦手を使わなければ駄目だ。」


ルースはヘッドスプリング(注・仰向けの姿勢から手の反動を使って全方へ飛び起きる体操技のこと)をして起き上がると、そのまま走り近づいて拳で連打を行うが、エマはそれを軽々と片手で一発一発丁寧に受け止めていった。


そして攻撃が終わった後に軽く一回転すると、そのまま少し離れた距離を保った。


「お前が使っている技はタイラー仕込みだろうが、そのタイラーに技を教えたのは私だ。故に挙動でお前がどこを殴ろうとしているかが一目瞭然だ。いいか、格闘技というのは真似をするだけではダメだ。自分の動きやすい技術体系を体得して初めて身に着けたと言える。自分のオリジナルを見つけなければならない。お前はタイラーではないし、タイラーになることはできない。ルース・サマーズとしての自分をぶつけ、私に勝ってみせろ。」


エマがそういって手で挑発のポーズをすると、ルースは飛び上がって二段蹴りを行い、足技主体で攻め始めるがそれをエマは数ミリの間を掻い潜って避けていく。


「ふむ、足技のスピードは悪くない。キックボクシングやテコンドーを学ぶといいかもな。」と言いながら、ルースの最後の蹴りを両手で受け止めると、そのまま回転させて地面に落下させた。


「流石に警部は強敵だな……がんばれルース!あとまだ五分残ってる!」


「もっと足技を見せてほしい。タイラーはボクシング主体だったが、お前のオリジナルとなり得る技術は蹴りかもしれない。」


「ま、負けませんよ!」と自信を奮い立たせながら、ルースは蹴り主体に切り替えてエマを蹴り始めると、それと全く同じ動きをぶつけてエマは攻撃を相殺していく。


「そこがお前のダメなところだ。言われたことを馬鹿正直に出力して単純なワンパターンで攻め続けるのは自殺行為だ。」


そう言われると、ルースは蹴りと共に打撃や肘打ちを組み合わせて自分なりに動きを模索していった。


「いいぞ、悪くない。もっと我武者羅に自分に合った動きを模索しろ!若さを生かせ!頭を柔らかくしろ!私に当てるんだ!」


「喰らえ──」


ルースは渾身の一撃を放とうとするが、エマに軽く平手で押されると、そのまま態勢を崩してリングロープに体がぶち当たった。


「今、何故当たらなかったと思う?お前の今の動きには苛立ちが入っていたからだ。当たらないことの苛立ち、時間が経過する苛立ち、もし失敗すれば隊を追い出される苛立ち、そのすべてが焦りとなってお前の動きをゆがめた。我々のような任務を遂行する人間にとって焦りは禁物だ。残された時間は一分だけ。さて、お前はどう私に勝つ?」


「……頑張れ!ルース!」


「……!」


ルースは先ほど行った蹴りの連撃を全く同じ動き方をした。そしてエマが全く同じ動きでガードしているとこを確認すると突きを行った。


「だから、言っただろう!同じ動きは私には通用しない!」とエマが受け止めたのを確認してニヤリとすると、「いえ、違います。」と返し、地獄突きの要領で突きに使ったグーの手を平手にすると、その指先がエマの胸元へと少し当たった。


「要は勝てばいいんですよね……!あなたを〝倒す必要はない〟んだ。格闘技であなたに拳をぶち当てればいいとばかり考えていましたが、頭が固すぎました。とにかくどんな方法でも一発を当てる方法を考えるべきだったんだ。」


「……合格だ!」


「やったな!ルース!」とタイラーはルースを抱き締めると、ルースは頬を赤らめた。


「そ、その……汗臭いかもしれないので離れたほうが……」


「いや、よくやったよ!あの警部に一発当てるなんて!それでこそ、私の訓練生だ!」


「え、えへへ……」


タイラーは汗を拭くためのタオルをルースへと渡すと、そのままリングを降りていった。そしてリング周りにはシバサンとアミーナの二人が残された。


「……じゃあ一応、スパーリングしとくか。」


「……え、い、い、い、嫌なんですけど……ひ、ひ、ひ、人とか殴ったことありませんし……」


「体裁上チェックだけさせてよ。別に殴ったりしないし。」


「は、はぁ……」


シバサンとアミーナはリングへと昇ると、二人は構えのポーズを取った。


「まぁ、ほら、好きに殴ってきてよ。」


「じゃじゃじゃ……じゃあ、い、い、いきます……」


とアミーナが殴りの姿勢に入った瞬間、そのまま足首を捻って地面へと倒れた。


「い、い、い、い、痛い……ああ、あ、足を捻っちゃいました……!」


「ハァ……ダメだこりゃ。」






三人は武器庫で自分たちの武器をシムニション弾にコンバートしていた。


「ククク……なんでわざわざ一発一発弾薬を確認してるの……?」とルースに対してニーナが煽り、それに睨み返す。


「……言っておきますが、訓練中に余計な真似をしたらぶん殴りますから。」


「おお、怖いね。すっっっっっごく怖い!」


センチュリオンはかなり手慣れた手つきで軽々しくシムニションにコンバートすると、プレスチェックを行って動作の確認を行っていた。


「よし、これが今日最後のチェックだ。」とエマはキルハウスの上で下を見下ろしていた。」


「新入りのルース・ニーナ・センチュリオンの三人で陣形を組んで他のメンバーが待機してるキルハウスをクリアリングして行け。中には自動で動く的とCLAWの隊員が隠れている。シムニションのグロックを持っている奴は撃ってもいいが、持っていないやつを撃ったら即座にアウトだ。持ってないやつでもタイラップで拘束しろ。慎重にやるんだぞ。アミーナは休んでていい。」


三人はシムニションの準備を終えてエントリーポイントまで移動すると、ドアの両側面で待機した。


エマがボタンを押してブザーが鳴ると、ニーナがドアに対してモスバーグのブリーチング弾を撃ち込み、ドアを蹴破ったルースがセンチュリオンと共に突入していく。


部屋の形はわかりやすい四角い箱型に区切られていて進むルートは決まっている。


「背後をカバー!」というルースの掛け声で二人が死角を警戒しながら進んでいくと、瞬間的に表れた的に銃口を向けるが、銃を持っていない標的だったため銃口を上げて前進していく。


そして次の部屋ではルフィナと民間人の的があった。


「きゃーっ!撃たないでくださいまし!」


「両手を床について腹這いになれ!」とルースが警告すると手を上げるが、一瞬の内に銃を抜こうとしたことに気づいたニーナが頭にシムニション弾を二発撃ち込んだ。


「容疑者の挙動を見ずに下手に近づきすぎ。お前甘いよ。」


「ぐぬぬ……」と思いながらルースはルフィナの手首を縛った。


そしてほかにも高速で現れる標的を正確に絞り込んでセンチュリオンは全ての的の頭を正確に撃ち抜いていった。


「木偶の坊だと思ってたけど、射撃は上手いんだなお前。てかそのマスク被ってて本当に照準できてんの?」


ルフィナを縛り終わったルースがさらに次の通路にゆっくりと先行していき、他の二人が背後からカバーしていく。


次に標的は敵の標的に挟まれたシバサンで、両側の標的を撃ってシバサンを囲み、銃を持っていないかをチェックすると、そのまま腹這いの態勢にして拘束した。


「もっと優しく縛ってよ。」


次の部屋へと突入すると、そこにはアンジーとタイラーの二人が挙動不審な動きをしながら待機していた。


そしてそれと同時に標的が現れるのをルースが撃つが、その隙にアンジーが銃を構えるのをセンチュリオンがカバーした。そして残るはタイラー一人となったが、ルースはタイラーに手荒な真似をすることに抵抗があり、徐々に近づこうとする。


そしてそれをチャンスと思ったタイラーがアンジーのグロックを拾おうとした挙動を確認したニーナが最後の一発を胸に撃ち込んだ。


「タイラーだから撃たない素振りを見せたってバカじゃないの?」とニーナがぼやきながら、倒れたタイラーをケーブルタイで拘束して部屋のクリアリングを完全に済ませると、訓練終了のブザーが鳴った。


「よし、見事な動きだ。誤射無しで銃を持った相手をせん滅した。素晴らしい結果だ。総評に移るが……ルース、お前の指揮能力は中々に優れていると思う。だが、タイラーが銃を持っているときに少し撃つのを躊躇していたのが見えたぞ。あくまでも訓練だ。躊躇なく弾を撃ち込まなきゃダメだ。それとニーナ。お前は跳ねっかえりの割にはカバーが上手いじゃないか。今後ともその技能を活かして貢献しろ。センチュリオンは……特に言うことが無い。明らかにブルーのような元軍人の動きだった。おそらくお前にとってこの訓練は朝飯前だっただろう。懸念点は体躯が大きすぎて通路を通るときに少し狭そうにして構えがおざなりになっていた気はするが……まぁ、それだけ着込んでいてはな……総評はこんなところだ。全員合格と認めよう。今日は皆疲れただろうから、着替えが終わったら退勤して明日からの作戦に備えるんだ。それでは皆、解散だ。」


とエマが言うと、皆は疲れたのか一斉にロッカーに向かっていった。


「アミーナは悪いがもう少し残って私と作戦会議をしよう。明日になって作戦を練り始めてからでは遅いからな。」


「わ、わ、わ、わかりました。上から提供された情報を基にささ、さ、作戦を考えましょう……」






数時間後、エマとの会議を終えてガレージに向かったアミーナだったがそこにはグルカ以外の車が何一つ停まっていなかった。


「な……なななな、……無い……私の……わわ、わ、わ、私のチ、チ、チンクエチェント(注・フィアット500の愛称)が……ど、どどど、どこなの……どこ……」


ガレージを探し回ったアミーナだったが、結局どこにもフィアットは停まっておらず、混乱した彼女はアニマル市警に問い合わせて所在を探した。


すると、リトル・トーキョー署の職員と連絡がつながった為、タクシーに乗って保管所へと急いだ。


「す、す、す、すみません……ふぃ、ふぃ、フィアットってありませんか……?」


「あん?なんて言った?上手く聞き取れないよ。」


「ふぃ、ふぃ、ふぃ、フィアットです……フィアット……」


「フィアットぉ?えーと、お嬢さん名前は?」


「ア、ア、ア、アミーナ・カーンです……一応これでも警察官です……」


「へぇ、あんたも警察官なのか。フィアットね……えぇと、ああ、今日の昼に運ばれた奴があるよ。ひっどい状態だったけどね。」


「ひ、ひひ、ひどい!?なんで!?」


「いやあ、スニッド・ロウでガソリンぶっかけられてバッテリーに引火して燃えたんだよね。この辺じゃ別に珍しいことじゃないよ。まあ、運が悪かったとしか言いようがないね。盗難保険には入ってる?」


「と、とと、とりあえず……見せてくださいフィアット……私の大事なチンクエチェント……」


「わかったよ。でももう廃車にするしかないと思うけどね。」


保管所の職員が腰を上げて懐中電灯を持ちながら移動すると、そこには外装がべこべこになった状態で真っ黒こげになったフィアット・500Eの姿があった。


「い、い、いいいい゛い~!」


「まあ、ショックを受ける気持ちはわかるよ。でも、スニッド・ロウ地区は置いた奴が悪いんじゃねえかな。車両窃盗が当たり前すぎてリトル・トーキョー署の職員はまともに捜査してくれないよ。だってそれどころじゃないんだから。えーとこの車は廃車でいいか?ここにずっと置いてても邪魔なだけだし、スクラップ工場に……」


「や゛め゛て゛……」


「お、おう……わかったよ……まあともかく、処遇が決まらなきゃスクラップだから三ヶ月以内にどうするか決めろよ。とはいってももう治せないと思うが……」


「わ、わ、わ、わ、私のフィアット!私の゛チンクエチェント゛!う゛うううう゛ううううううう゛!」


静かな車両保管所にはアミーナの絞るような悲鳴が響き続けたのだった……

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