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「三那晴哉。南高の三年。ハーフなんだよ、アイツ。あんなツラして、英語はさっぱりらしい。可笑しいよなぁ」
私の疑問を見透かしたようなタイミングで、太郎さんが教えてくれた。
ミツナ、ハレルヤ。
南遥高校の三年生。
ハーフ、か。なるほど。
だから日本語があんなに流暢なんだ。
それにしても、日本人の血が薄いのか、顔立ちはほとんど外国人そのものだった。
澄んだディープブルーの瞳に、白に近いブロンドの髪。
目を引くというより、視線を奪われる。
ハレルヤさんが、南高のトップ?
だとしたら。
「あの人ですか?タイガが言ってた“ミッチー”って……」
「そう、ぶっきらぼうなヤツだけどな。悪いヤツじゃねえから」
やっぱり。
あの人が、ミッチーだったんだ。
“翔桜のヤロウの鼻折りやがった”
タイガが興奮気味に語っていた、ミッチーさんの武勇伝。
今のアメリカンな彼だったのね……。
太郎さんが「悪いヤツじゃない」と言うなら、きっとそうなんだろう。
でも……。
初対面であの傷だらけの顔を見て、さらにタイガの話まで聞かされていた私の中には、どうしても先に“近づいちゃいけない人”という印象が刷り込まれてしまっていた。
「無駄に時間食っちまったな」
太郎さんは苦笑して、再び歩き出す。
私もその後を追った。
玄関に近づくと、いつの間に集まっていたのか、大勢の男の人たちが廊下の端に整列していた。
目がチカチカするような原色の髪色だったり、坊主頭にラインが入っていたり、首元にタトゥーが覗いていたり。
何十人ものイカツイにーちゃん達が、ずらりと並んでいるこの光景。
みんな目がギラギラしてて、すごい迫力だった。
その前を、太郎さんは何のためらいもなく進んでいく。
すると男たちは、一斉にすっと頭を下げた。
私はといえばこの状況に気圧されて、思わず足を止めてしまっていた。
ダメだ。
置いていかれる。
ついていかなきゃ。
太郎さんに、ついていかなきゃ。
ここに一人残されるのは、怖すぎる……!!
「ももちゃん?」
私がついてきていないことに気づいたのか、太郎さんが振り向いて、不思議そうに声をかけた。
完全に怯えきった私の顔を見て太郎さんは察してくれたのか、イカツイにーちゃん達に顔を向けた。
「お前ら、もういい。部屋に戻れ」
低く、よく通る声。
そのひと声で、男たちは一斉に顔を上げ、そして私を見た。
心臓が跳ね上がる。
けれど彼らは、ハレルヤさんのように好奇心を隠さず見つめてくることもなく、無遠慮に値踏みすることもなかった。
頬を引きつらせる私に向かって、静かに一礼する。
それだけだった。
そして何事もなかったかのように、次々と部屋の中へ消えていく。
……あっさりと。
それも、太郎さんの存在があってこそなんだろう。
この家の主で、彼らの“上”でもある人。
何の取り柄もない、冴えない私にもあんな人達が無言で頭を下げる。
不躾な視線も、侮るような目も、向けられない。
そんな無礼は許されないと、彼らは知っている。
“してはいけない”と。
私が、太郎さんと一緒にいるから。
あんなにも凶暴そうな獣たちを、言葉一つで従わせる。
太郎さんや、太郎さんに関わる人間に、どう接するべきか。
彼らはきっと、それを徹底的に叩き込まれている。
この人には、絶対的な力がある。
そう、まざまざと思い知らされた。
「ごめんな、怖がらせちまって。俺は見慣れてるから何とも思ってなかったけど……ももちゃんからしたら、あんな物騒なヤロウがうじゃうじゃいたら怖えよな」
眉尻を下げて謝る太郎さんに、私はただ、首を左右に振ることしかできなかった。
ワイルドで優しくて、大人な太郎さん。
でも野獣の王様で、不良の世界では名の知れた人。
きっと私の前で見せる顔と、あのにーちゃん達の前で見せる顔は、まるで違う。
そんな“裏”の太郎さんを、これ以上知ってしまう日が来なければいい。
心の底から、そう願った。
穏やかな表情の太郎さんに私も何とか笑みを作って応え、やっとのことで白鷹家を後にしたのだった。




