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「ちわっス。太郎さん、俺、新記録更新したんスよ」
アメリカンヤンキーさんが、口を開いた。
……今の、何語だった?
英語?日本語?
「二十人っスよ」
不敵に口角を吊り上げる、アメリカンヤンキーさん。
日本語を喋ってらっしゃる。
彫りの深い顔立ちに、明らかに外国人とわかる容姿。
なのに、その口から発せられる言語は日本語だ。
そのミスマッチに、呆気にとられた。
「お前な……ほどほどにしとけよ。ガキか?相手は」
傷だらけのアメリカンヤンキーさんを前にしても、太郎さんは態度を変えなかった。
こんなにも、痛々しい姿なのに。
私なんかビビりまくってるのに。
けど、そりゃそうだよね。
太郎さんだって元ヤンで、この人と同じように暴れてたんだろうし。
今はどうなんだろう。
もう、そういうことはしてないのかな。
働いてるって言ってたし。
何の仕事をしてるのか、ちょっぴり気になるけど。
「しょーもねえヤツらっス」
「ガキ同士ならいいけどよ……“上”にはヘタに吹っ掛けんじゃねぇぞ」
二人の会話の内容はさっぱりわからないけど、太郎さんの声が少しばかり低くなった。
重みが増して、何かに対して念を押すような、そんな声。
「心配しないでください。太郎さんに尻拭いさせるような真似だけはしませんから」
真剣な太郎さんに、アメリカンな彼もふざけた様子を消した。
太郎さんは「そーいう意味じゃねぇよ」と、呆れたように短く息を吐いた。
「……太郎さん、何なんスかこの女。また拾ってきたんスか」
油断してぼーっと二人を眺めていると、私の方に視線を向けたアメリカンヤンキーさんと目が合ってしまった。
その目が、太郎さんと話していた時のものとはがらりと豹変する。
突き放すような。
拒絶するような。
冷え切った目。
そこには、露骨な嫌悪があった。
私の存在を許さないような、そんな眼差し。
っていうか……。
拾うって何!?
まさか、この人にも私が犬に見えてたりするの!?
もう国境越えちゃって、私ったら犬として世界デビュー!?
なんて、ドギマギしてたら。
「俺の大事な女」
さらっと、太郎さんがアメリカンな彼に答えた。
……え?
我が耳を疑って、思わず太郎さんをガン見してしまう。
だ、大事な……女?
どういう意図なのかはわからない。
けれど、その言葉を一切の躊躇なく口にした太郎さんに、目ん玉が飛び出そうになった。
次の瞬間。
怪訝そうに眉を寄せたアメヤン(省略)が、私をじろりと睨んできた。
その目つきが一層険しくなって、私にグサグサ突き刺さる。
『おいおいマジかよ、こんなへちゃむくれなジャパニーズガールに太郎さんが!?いや、ぜってーありえねえ!俺は認めねえ、断じて許さん!!』
なんて、心の声が聞こえてくる気がした。
目がそう言ってる。誤解なのに。
「……冗談もほどほどにしてくださいよ、太郎さん」
低く、冷めた声。
アメヤンはどこまでもクールだった。
「まあ、俺にとっちゃ特別な子だよ。それよりお前、タイガ達が待ってんぞ。お前が顔見せねえって、グチってるよ」
「ああ、今から行くとこっスよ。つか、なんでアイツいるんスか。女といるんじゃなかったんスか?」
「知らねーよ、アイツに聞け」
「アイツいるとメンドーなんスよね……うるせーし。飛野とジローだけならすぐ終わんのに。ま、しゃーないっスね……じゃ、失礼します」
「おう。お前ムチャだけはすんなよ」
アメヤンは、私と太郎さんの横を通り過ぎ、奥の部屋へ向かっていった。
太郎さんの最後の言葉に、
「太郎さんにだけは言われたくねぇっスよ」
そう言い残し、振り返らずに片手を軽く上げると、そのまま去っていった。
それから少しして、奥の部屋──タイガ達のいる部屋から。
「ぎゃははは!なんだその顔!!ひでえなオイ!笑わせんなよ、ぶわはははは!!」と大爆笑する金髪の声が漏れてきた。
相変わらず、声がでかい。
おそらく、アメヤンのボコボコにされた顔がウケたんだろう。
どこが笑えるのか、私には一つも理解できないけど。
でも……あの人、もしかして……。




