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「太郎さん、俺が行きますよ」
「いや、いい。お前はまだこいつらと“会議”があるんだろ?俺ももう少し、ももちゃんと話したいことがあるんだ」
飛野さんの申し出を、太郎さんは断った。
私は帰らなきゃいけないけど、飛野さん達はここに残るらしい。
“会議”って、いったい何の会議?
って疑問を抱いたところで、多分物騒なものには違いない。
聞いたところで意味不明なのは、わかりきってる。
「にしても、肝心のミッチーが来ねえと始まんねえよなぁ。さっき南高行った時もあの人いなかったしな。どこフラフラしてんだ」
若ダンナは立ち上がるとソファーに歩み寄り、ジローさんの対角線上の位置に腰を下ろした。
タイガもまた、テーブルに無造作に置かれているタバコを手に取り、ジローさんと同じように吸い出した。
ジローさんは、相変わらず口を閉ざしたまま。
タイガに言葉を返すことはしなかった。
「ももちゃん、行こうか」
「あ……はい」
太郎さんに促されて、彼の後を追って部屋を出る。
出て行くとき、ちらっとジローさんに視線を送ってみた。
けれど彼は私の方を、見向きもしなかった。
「……お邪魔しました。おやすみなさい」
挨拶だけはしときたくてそう言うと、タイガは片手をあげて笑って見送ってくれた。
飛野さんには、「急に連れてきたうえに、こんな遅くまで付き合わせて悪かったな」と申し訳なさそうにされた。
私は、そんなことないと、首を横に振る。
「いえ、貴重な時間をありがとうございました」
私にとって、お兄ちゃんの話を聞けたことも……ジローさんのあんな顔を知ることができたのも。
どれもが掛けがえのないひとときには、違いなかったから。
飛野さんも、笑って「おやすみ」と言ってくれた。
だけど。
ジローさんだけは、やっぱり何も返してはくれなかった。
それが心残りでちょっぴり寂しく思ったものの、私は部屋を後にした。
長い廊下を、太郎さんについて歩いていく。
太郎さんは、私の歩幅に合わせて、少しだけ速度を落としてくれていた。
そして角を曲がった時。
不意に、彼が立ち止まった。
「わわっ、……」
危うく逞しい背中に、顔から突っ込んでいきそうになる。
寸前で踏みとどまり、どうにか衝突は免れた。
「晴哉……お前、また随分とやられたもんだな」
……ハレルヤ?
太郎さんの体に遮られて、私の視界には彼の背中しか映らない。
どうやら誰かに声をかけているらしかった。
“ハレルヤ”という名前の、誰かに。
角を曲がろうとして、向こうから来た人と鉢合わせになったんだろう。
どんな相手なのか気になって、そっと太郎さんの背後から顔を覗かせる。
「っ、!」
言葉にならない悲鳴が、喉の奥で弾ける。
太郎さんの正面に立ってたのは、一人の男の子。
南遥高校の制服を着崩した、不良然とした人物だった。
息を呑んだのは……彼の有り様を見て、だった。
殴り合いでもしてきたのか口元や目元には赤黒い痣がいくつも浮かび、乾ききらない血が、痛々しく残っている。
かなりの怪我のはずなのに──
それでも彼は、弱っていなかった。
その眼光は、闘志に燃えている。
鋭い眼差しに貫かれそうだった。
そして、それ以上に衝撃だったのが。
彼の瞳の、色。
深く澄んだ、ディープブルー。
髪はブロンド。
タイガみたいな、いかにもな金髪じゃない。
白に近い、自然な金色だった。
心底、度肝を抜かれた。
外国人の不良なんて、実際に見るのは初めてだったから。
しばらく私は、そのアメリカンなヤンキーさんから目を離せずにいた。
太郎さんもジローさんと同じくらいの背丈だから、180センチは超えているはず。
それなのに──その彼をも凌ぐ長身。
でかい。
190はありそうだ。
体格も、日本人とは明らかに違う。
がっしりとした肩幅、厚みのある胸板。
骨格からして、もう別物だった。
なんでこんなに、大きい人ばっかりなんだろう。
白鷹兄弟に、風切兄弟。
飛野さんも、みんな揃って高身長。
この中で一番低いタイガでさえ、周囲が規格外なだけで、平均よりはずっと高い。




