緻逆な党
ボクは途方に暮れていた。
隣から仮面越しの視線を感じる。
「どうすんのこれ…」
一瞬だけ、彼らに向けた視線を戻す。今は生きている者を助けないと。
とりあえず陲画を担いで平らな場所で寝かせる。まだ息はしている。傷があるわけじゃないから、そこから何をすればいいのかわからなかった。
息をついて、視界の端で動くものに気づいた。
崔冠のほうだったから、仮面の子だと思った。
違和感を覚えて二度見した。
よく見ると、何かが服の下で動いていた。
近づいて確かめようとすると、袖から何かが転がり出でてきた。
人形だった。立ち上がっても膝までもない高さで、おそらく棒と粘土でできていてる。
それがひとりでに動き、崔冠の首に触れた。
その動きを黙ったまま見下ろしている仮面の子と、呆気にとられていたボクとに、順番に顔らしき部分を向けた。
崔冠が人形を操ることができるのは知っていた。
でもなぜ動いているんだろう?今崔冠は意識がないのに。そういうものだったか?
人形はボクに見えるように、床にいくつか線を引いた。歪なそれが文字だということに、ボクは遅れて気づいた。
「もしかして…崔冠?キミなの?」
新たに文字が増える。そうらしかった。
彼の能力はよく知らないが、今意識が人形のほうにあるということだろうか。
考えていると、人形は動かない本体のほうを指しながら文字を書いた。
『オコセ』
戸惑うボクに急かすような動きを見せる。
「…起こすの?キミを?」
否定はなし。
「自分で戻れないの?」
『ワカラン』
「ええ…。どうすんのそのままだったら」
仕方なくしゃがんで崔冠の体に近づき、袖にしがみついたままの仮面の子の手から外して引き起こす。
「あっ」
完全に意識を失った体は思った以上に重く、手が滑った。頭が床にぶつかる寸前で仮面の子は素早く受け止め、ボクから庇うように崔冠を引き寄せた。
「…ごめんって。本当に」
向けられた無機質な視線の両方に謝った。
どうしたものかと思ったとき、別の足音に気づいて顔を上げた。
わざわざこんなところに来る人なんていると思わず、下僕たちの誰かだと思った。だから反応が遅れた。
二人組がいた。
「イース?」
首からゴーグルを提げた一人が、仮面の子に向かって呼びかけた。そちらへ歩きながら辺りの惨状を見回す。
「何があったの?」
「虐殺」
イースと呼ばれた仮面の子は、静かな声で短く答えた。ボクはその声を初めて聞いた。
「誰が「君たちは誰ですか?」
突然、背後のもう一人が遮るように言った。
振り向いても目は合わないから、気のせいだと思った。
「たち?」
ゴーグルが怪訝そうに辺りを見回した。イース以外は誰もいないはずだ。返事をしうる者は。
「今の誰に訊いたの?」
「君たちですよ」
白いマントをまとって、フードを被っている。目はこちらを見ていなかった。
「訊いてるんですけど」
だけど何故か、話しかけられているのは自分だとわかった。
「なんで見えてるの?」
ボクはまっすぐ目を見て訊いた。
「目を開けてるからです。質問に答えてくれますか」
ゴーグルはもう何も言わなかった。
「なんで?」
「自分なら君たちを助けられるかもしれないんですよ」
「…キミ、何者?」
「自分はエルです」
エルと名乗ったそいつの、感覚を読もうとした。
「ッ!」
訳が分からなかった。
「…?」
思わず頭を抑えるが、どこも痛くはなかった。
そんなボクを尻目に、エルはゴーグルに訊いた。
「プレア持ってますよね」
「なんに使うのそんな」
「くれますか」
ゴーグルは仕方ないというように、鞄から飾りを取り出し、差し出した。エルが掌を上に向けたから、わざわざ近づいて乗せてやった。
それを礼も言わずに受け取りながら、エルは目線を足下の人形に向ける。
「何が見えてるの」
何もない場所を見つめるエルを不思議がったゴーグルが、その視線の先に手を伸ばし、躱そうとした人形に僅かに触れた。
「…」
触れた感触はないはずだが、自身の感覚と干渉された実際の動きに違和感はあっただろう。それを確かめるように、手を握って開いた。
ボクは諦めて能力を解除した。
ゴーグルはそこで初めて手を伸ばした先にいる人形の存在に気づき、目を見開いた。それから倒れている崔冠、陲画、ボクに順に目を向ける。
一方、エルは陲画に隣に立って呼びかけた。
「聞こえますか」
「…誰あんた」
陲画は仰向けで天井を見たまま答えた。いつの間にか気がついたらしい。
「エルです」
「…名前?」
「覚えてていいですよ。この世界の中心です」
黙る陲画に再び声をかける。その間も視線はあらぬ方向を向いている。
「今の感想を聞きたいです」
「…意味わかんねえ」
「つまらないですね。不合格です」
「…なんで初対面で篩にかけられなきゃいけないの」
「君は悪魔の子ですね?」
「「!」」
人形がエルを指し、ボクに合図するように動いた。それに首を振って返す。
「悪魔の子って…あの?」
「君の力を貸してほしいんです。いいですね」
ゴーグルの言葉を無視した。
「…なんで?」
「そうすればここにいる全員が助かります」
「…そんなこと出来んの?」
「頼んでるんですけど」
言いながら、エルは手に持った飾りを眺めていた。よく見ると、小さな球体がいくつか連なっている。
「…おれは何すればいいの?」
「許可がほしいです」
「…好きにして」
エルは飾りを振った。奇妙な音がした。
次の瞬間、周囲の風景が変わっていた。景色が途中で途切れていた。
ボクは何度か見覚えがあった。
「…ほんとにやりやがった」
陲画はそう言って目を閉じる。
「悪い、しばらく寝る。あと頼んだ」
その言葉は多分ボクに向いていた。
「何が起きたの?」
「説明できますか?」
ゴーグルに訊かれたエルがボクに向かって言った。
「…悪魔の力。あとは知らないよ。ていうか知ってるならキミが説明すればいいのに」
「世界の一部を切り離したんです」
「わからないんだけど」
「じゃあ置いて行きます」
「知ってはいたけど不親切ー」
呆れ顔を引っ込めたゴーグルの目がボクに向く。
「それが悪魔の力ってこと?」
「そう。なんでアイツにできたのかは知らないけど」
「自分はこうなるように決めただけです。実際に作ったのはそこのヒトです」
「そもそもなんでわかったの?」
ボクの問いは無視された。
エルには会話をする気がないらしい。
「キミらも悪魔の子なの?」
呆れた目でそれを見ていたゴーグルが、こちらに向き直って問う。
「…そう」
「ほんとにいるんだー」
人形がもの言いたげにこちらを見ているのはわかっていた。だがもう隠し通すのは無理だ。
「見せてもらえる?悪魔の力ってやつ」
「ダメ。こっちも聞きたいんだけど、2人は何者なの?なんでこんなところにいるの?そっちの子とは知り合いなの?」
「ウチのことはリアって呼んで。バフスに拠点がある。この子は」
「イース」
仮面の子は呟くように名乗った。
「ウチは少し前にこの村に来たことがあって、そのときに会った。エルとは会ったばっかだけど、ここに来てみたいって言ったから。旅人って言ってたけど、正直ウチも怪しいとは思う」
エルは聞いているのかいないのか、床を見ていた。
視線を戻したリアは目を細める。
「答えたよ。次、そっちの話が聞きたいな。キミらは何者?ここで何があったの?」
崔冠が咳きこんで起き上がる。声をかけると顔をしかめ、耳を抑えて声を出す。
「二度と使いたくない」
動かなくなった人形をしまいながら言う。
「まあ戻れてよかったね。もうずっとこのままかと思った。やだよずっと担いで歩くの」
「思いつきで動くのはよくないな」
「キミは?」
リアを一瞥してぶっきらぼうに答える。
「崔冠」
「そっちの彼は?」
「…陲画」
「おれは名前言わなかったかなあ?」
陲画は目を閉じたまま、天井に向けてそう言った。起きていたらしい。
「…ルノ」
「そうだよ。おれはルノ」
「2人も別に名前があるんだよね?なんでそんな変な名前使ってるの?」
一瞬、崔冠と目が合う。
「知らん」
「ヤツらに捕まったときに、この名前を名乗れって言われた」
「みんなそんな呼び方使ってたんだ?」
「そうだね」
「そうだな。基本的に互いの本名は知らないな」
「ふーん?じゃあほかに使われてた名前教えてよ。字もね」
「多いね」
ボクの見せたものをなぞるように指を動かしながら、リアが言った。
「まあ」
「普段使うような字じゃないね」
「だろうな」
「でもある程度わかってきた。斑絡も故事由来だしね。革命家の英雄は夢から抜け出せなくなったって話」
「「…」」
「ほかのも同じような感じじゃないかな。全部はわからないけど」
「よく知ってますね」
エルが口を挟んだ。
「気になると調べずにいられなくてさ」
一度息を吐く。
「で、そこは悪魔の子がいっぱいいるの?」
「そうだな」
「さっき言ってたの全員?」
「そうでもないね。全然把握できてるわけじゃないけど」
「なんでそんなに集まってるの?」
「集められた」
「なんのために?」
「…世界を変えるために」
リアがエルを振り返る。
「どう思う?」
「ごまかした部分がありますね」
エルはこちらを見もせずに答えた。
「なんでそんなに知りたがるの」
「ウチは全部知りたいの」
「やめとけ」
陲画――ルノだった。
「ここで何があったかって話した?」
「だいたい。キミが寝てる間に」
「ならわかるだろ」
言いながら体を起こす。
「悪魔の力なんて碌なもんじゃねえんだよ。この村の人たちはみんな死んだ。おれのせいだよ。おれの近くにいたらあんたらもすぐにああなるぞ。余計なことに首突っ込まないほうが身のためだ。ああ…」
ルノはリアに向けていた視線を上に向ける。リアはボクを見る。
「みんな死んだよ…なんで…おれさえ「ルノ」
名前を呼ぶ。
「落ち着いて」
ルノは顔に掌を当てて深く息を吐く。
「大丈夫…おれはルノ。陲画じゃない…」
「ヒトが死ぬのを見るのが初めてだったからな」
「あー…」
「悪かったな世間知らずで」
「話終わったなら教えてくれますか?」
ルノもエルを睨む。
「知ってどうなる?何ができる?」
「関係ないです。知りたいんですよ。考えるのは聞いてからです」
ルノは閉口する。
「まあ、知らないままでいるよりはマシなんじゃないかな。本当に世界を巻き込もうとしてるなら、ウチらだって無関係ではないだろうし」
リアが口を挟む。
「何もできなくても?」
「うん」
「どうせおれたちだって全部は知らないんだから、知らないまま「知らないほうがいいことなんてこの世にない」
リアは断言する。
「…変なやつら」
ルノは口の端で笑う。
「自分から巻き込まれに行くやつの気が知れない。知らねえよ?何があっても」
「もちろん」
ルノは一瞬、ボクと崔冠を見る。
「悪魔の下僕」
リアは首を傾げる。
「連中の目的は悪魔の復活。悪魔の子を集めるのもその一環。何が言いたいかわかる?」
ルノは挑発的な目を向ける。
「…想像はつく。ソイツらには叶えたい願いがあるんだ」
「やるじゃん」
「…すごいね」
「悪魔に関してはいろいろ調べてたことがあるから。でも、だからこそ言える。無理でしょ」
「悪魔の子って本来すごく希少なはずでしょ。それがボクらが把握できてるだけで十人以上集まってる。年齢もそこまで離れてない」
「…何か今までにないようなことが起きてる?…それでも簡単ではないでしょ。でも」
リアは一人で頷く。
「でもそうか。そうまでして叶えたい願いなんだ。普通に生きてるだけじゃ叶わないような。世界を変える…願いか」
ボクらは顔を見合わせて肩をすくめる。
「それでこの村は襲われたわけですね」
エルの声が割って入ってきた。
「…エル、遊んでるでしょ」
「何がですか」
「今の質問必要あった?」
「自分が必要のないこと言ったことがありますか」
「趣味が悪いよ。人の心を弄ばないで」
「自分の知ってるヒトは、こういう事実を蒸し返すと怒ります」
「へー。どこで知ったの?」
「物語ですかね、ほとんどは」
「そういうところだよ。怒らせるとわかってて言うのも。間違ってはいないんだろうけど、残酷」
「話を戻して、君たちはこれからどうするんですか?」
崔冠、陲画の2人と顔を見合わせる。
「…たしかに、もう奴らに従う理由もなくなったわけだが」
「エルはボクらにどうしてほしいわけ?」
ボクの言葉が終わる前にエルが歩き出す。
「聞いてる?」
黙っていたイースは、近づいてくるエルから距離を取った。
「賢いですね。近づけちゃいけないものの見分けがちゃんとついてるみたいです」
エルは足を止め、嬉しそうに笑う。
「自分は獲物でも敵でもないって、伝えてくれますか」
距離を保ったまま言う。イースのほうは見ていない。
「…自分で言いなよ。どっちにしろ意味わかんないけど」
「人間」
イースが短く言葉を放る。
「そうですよ」
単語しかないその言葉の意図を読み取ったのは、おそらくエルだけだった。
「何もしない、というかできないんですけど。その仮面見せてもらえますか」
「シェーレク」
イースが呟く。
「アネモネでどうですか」
「ケネラ」
「白ですか?」
「黄」
「…花言葉で会話しないで二人とも」
それを理解できるリアもおかしい。なんのことやらさっぱりだった。
「敵はなんでこの村に悪魔の子がいることが分かったんですか?」
「言われてみればたしかに…敵?」
「敵ですよね。世界を変えようとしてるんですから」
「そうなの?」
「それ自体は知らないけど。解釈次第だろうから。でも方法は問題じゃない?それ以外の方法で叶えられない願いなんだろうし」
「近道は許されないんですよ。何かを変えたいなら、ちゃんと踏むべき手順があるんです」
エルのほうは意味が分からない。ほかの誰もわかっていないようだった。
「…えーと。それに、キミたちを利用してるわけでしょ?自分の願いのために。それで「ちょっと静かにしてて」
遮るとリアは口を閉じた。代わりにエルが再び口を開いた。
「君たちも、そのヒトたちのことも、自分にも無関係じゃ「エル」ないんですよ。世界を巻き込んだ企みに加担するつもりなら、君たちも敵です」
「…エル」
聞こえなかったと思ったのか、静かになってから崔冠が改めて名前を呼ぶ。
「聞こえてますよ」
「黙れ」
「いやです」
エルははっきり断り、崔冠は苦り切った顔をする。
「何様のつもりですか」
そんな予感はした。
「…どういうこと?」
「リア、止まれ」
崔冠が命じると、リアは揺らしていた足を止めた。
「…おー。悪魔の力か。命令?」
「そんなところだな。何故奴には効かない?」
「言葉で命令するのが条件なら、言葉で断ればいいじゃないですか」
エルが何でもないことのように言い、崔冠が黙る。
「今ので納得したんですか?」
「…理屈としては通っている」
「じゃあもう二度と自分には効かないと思いますよ。どうせ効果はないと思いながら行動しても、何も起こるわけないじゃないですか。魔法を使うときに不発の可能性を考えますか?」
「確かにな。覚えておこう」
「というか試したことなかったんだ?」
「悪魔の力は絶対ってイメージがあるからですかね」
「まあその能力を知ってて断る人なんて普通はいないよね。でもさ、ボクの力も効かなかったよね?それはなんで?」
「知るわけないじゃないですか」
「イースにも効かなかったけど」
「少しは自力で考えたらどうなんですか」
「ボクが考えてわかるようなことじゃないと思う。さっきのは説得力あったし、エルなら何かわかると思ったから訊いたの」
無視された。
ボクが黙ると、リアが恐る恐る口を開いた。
「もう動いていい?」
「よし」
「キミ、魔法使えるの?」
リアは崔冠に訊いた。
「使える」
リアはボクに目を向ける。首を振って答えた。
「なんで?悪魔の子って魔法使えないんじゃないの?」
「よく知ってるな」
「そうらしいね。なんでかは知らねえけど、おれも使えるよ」
ルノが口を挟む。
「たしかあともう二人だけいる。魔法使えるの」
「名前は?」
陲画、崔冠、游嬰、渾谺。
名前だけならボクも聞き覚えがあった。
名前を告げたルノはリアに挑戦的な目を向けた。
「…わからないね。共通点はなさそう」
「この名前自体命名したのは奴らだからな。悪魔の子に関しては、奴らもよくわかってないんだろ」
「じゃあ能力のほうは?」
「「…」」
「いいよキミらのは。あとの2人のは?」
「…俺はまず知らん」
「おれもちゃんと知ってるわけじゃないんだけどね。触れたものにはたらいてる力を操作するのと、あと暗いの」
逆に気になる。
「2人もそうだけど、あんまり悪魔らしくないね」
「…?」
「うーん…」
リアは頭を捻る。
流石に無理かな。
「あ、別に四に拘る必要はないから。多分あいつらも探してる途中なんだよ。悪魔の子」
「え?まだいるってこと?」
思わず口を挟む。
「そんな話をしていた気がする」
「キギリスの木霊は…一応四人か。三人はそれっぽい」
「何それ」
「『旅する指輪』に出てくる庭のシャベルとかの名前の元ネタ。知らない?」
「へえ」
「ただ、一人合わないんだよね」
「誰?」
「…崔冠」
リアはそちらに目を向ける。
「えーと…この名前呼びづらいんだけどー?」
崔冠は観念したように目を伏せる。
「…ラズだ」
「うん!そっちのほうが人間らしい!」
褒めてるのか?
「ラズの枠が合わないかな」
「それは?」
「なんて言ったらいいかな、腕が伸びるやつ」
「ん、心当たりないなあ」
それとなく目線だけでルノを見る。表情は読み取れなかった。
「ラズに関してはワンジャラナとかのほうがイメージ合う気がするんだけど。最近過ぎるかな。コイテンバのほうが近いかなー」
「…というか、逆にほかの3人は合うんだな」
「それぞれにまつわる…逸話でいいのかな」
「さっきの、悪魔らしいっていうの、どういう意味?」
「んーなんて言ったらいいかな」
「わざわざ答えるんですね」
エルは毎回前触れがない。まんまと不意を突かれてボクは小さく飛び上がった。
「…訊かれたから。キミはどうなのか知らないけどね、ウチらは会話してるの。相手に伝わんないと意味がないんだよ、エル」
相変わらず聞く気があるのかわからないエルにも、リアはわざわざ振り返って伝えた。
「…で、なんの話してたんだっけ?」
「そのヒトたちにこれからどうするのかって訊いてたんですけど」
「懐かしーよく覚えてたね。もしかして待っててくれた?」
「話題変えたのそいつだぞ」
「そーだっけ。で?」
ボクはルノを見た。
「おれはもうやだよ。あいつらのために何かするの。うんざりだ」
「そうか。よかった」
「ぶっちゃけルノ次第だもんね。ルノが一緒に来てくれないと、ボクらだけだとすぐに見つかっちゃう」
「責任押し付けないでくれるかな」
「敵は?」
「止めるよ。どうせあいつらがいる限り、おれはほかに行く場所なんかないだろうし」
「ウチは協力するけど、エルは?」
「なるようになります」
「は?」
「できるだけほかの人巻き込みたくはないんだけど」
「知ったことじゃないです。自分としてはこれ以上世界に波風を立てないでほしいんですけど」
「立てられると困るの?」
「世界がこうなるまでに自分が何をしてきたか、想像したことはありますか?それをほかのヒトにめちゃくちゃにされちゃたまらないんですよ」
「世界がこんな風なのはキミのせいなんだ?」
「世界がこんなに面白いのは自分のおかげです」
「面白いかな?」
「自分がいたからこれで済んでるんですよ」
「キミ何者?」
「世界の中心です」
「やっぱどっかのアニメかなんかで聞いた気がするな、そんなセリフ」
エルは笑顔を深める。
「六秒待ってもらえますか」
「まあエルはもう知らない。どうせボクらが何言っても意味ないでしょ。イースは…」
「名前」
仮面越しの目はボクを見ていた。
「あ、ボク?ローチェだよ」
教えたところで、イースが呼ぶとは思えないが。
「協力」
「…止めることはできないよね。どこかに保護してもらうことってできないかな」
「どう説明するんだ。それに、奴らのことを考えると、むしろ来てもらったほうが安全かもしれない」
「いいんじゃない?人は多いだけ心強いし」
「それでいいのか」
ルノは手を鳴らして笑った。
「そうと決まれば、今後のことを考えるよ、みんな」
「世界を救うためにね」
「殆球ってわかるかな」
「何それ?」
「あいつらが変なこと知ってるのはあれがあるから。だからあれはあっちにあるとまずい」
「そんなに?」
「念の為。盗み出してきてほしい」
「…誰が?」
「おれ以外の誰か。頑張って」
「…それくらいはやるか」
「家もほしいなあ。隠れ家。ちゃんとしたやつ」
「ねー、ルノってなんでそんなに怠そうなの?なんかずっと疲れてない?」
「いろいろあんのおれにも」
寝転がりかけたルノが跳ね起きる。
「あ、そうだ。さっきの」
「どれ?」
「リアの言ってた、おれらの能力の由来みたいなの」
「キギリスの木霊ね」
「それってなんか…生まれながらの役割?みたいなのだったりする?」
「使命?宿命?」
「違いわかんねえや。多分そんな感じの」
「どーだろ。あれの世界観で生まれるって定義が難しいからなー」
「あら。違ったか」
「なんで?」
「別に。聞いたことあった気がしたんだけど、気のせいかも。別のかな」
誤魔化した。心当たりを確認するための訊き方じゃなかった。何か仮説があったんだ。
リアが一瞬ボクたちを見る。
「何か隠してる?」
今度こそ寝転がったルノに、視線を戻して尋ねた。
ボクらは互いのことをそれほど知っているわけじゃないけど、ルノは特に話したがらない。軽口は多いが、話の途中で突然誤魔化すことがある。その誤魔化し方が上手くないのだが。ボクらの中でも下僕に加わるのが一番遅かった。その割に向こうの事情に一番詳しい。そのことにも疑念がなくはない。
「ん。…いや」
ルノは背を向け、会話を拒否した。
「我ながら結構な失言だったな。忘れて。その気になったら話す」
「早めにね。死ぬまでには教えてほしいんだけどなー」
「…本当にいいの?」
ボクが訊くと、リアは振り返って意味が分からないという顔をした。
「ボクらと一緒に来ること。きっとそのうち理不尽な目に遭うよ。エルはともかく、キミは怖くないの?」
「ウチは好きでやってるから。感謝も謝罪もいらないの。別に正義のためとかじゃないし」
「…知りたいんだっけ」
「そうだよ?最初から言ってるじゃん」
「なんでも?」
「まだ知らないことがあって、それを知らないままにはできないなー。怖いは怖いけど、だから何って感じ」
「長生きできなそうですね」
「まーね。それでも今まで生きてこれたわけだし。新しいこと知るのって楽しいと思うんだけどなー」
「否定はしないが」
「なんかね」
「何回も言わせないでよ。キミらが来るなって言わない限り、ウチはついていくよ」
ラズと目が合う。肩を竦めて見せる。
「まともな人は巻き込みたくなかったんだけど、別に気にする必要なさそうだね」
「え、ウチ、エルと同レベル?」
「そこまでは言わないが」
ルノの押し殺した笑いが聞こえた。
伝わらないと意味がない。そうなんだ!




