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星霜の片  作者: 匹々
25/27

緻逆な党

ボクは途方に暮れていた。

隣から仮面越しの視線を感じる。

「どうすんのこれ…」

一瞬だけ、彼らに向けた視線を戻す。今は生きている者を助けないと。

とりあえず陲画を担いで平らな場所で寝かせる。まだ息はしている。傷があるわけじゃないから、そこから何をすればいいのかわからなかった。

息をついて、視界の端で動くものに気づいた。

崔冠のほうだったから、仮面の子だと思った。

違和感を覚えて二度見した。

よく見ると、何かが服の下で動いていた。

近づいて確かめようとすると、袖から何かが転がり出でてきた。

人形だった。立ち上がっても膝までもない高さで、おそらく棒と粘土でできていてる。

それがひとりでに動き、崔冠の首に触れた。

その動きを黙ったまま見下ろしている仮面の子と、呆気にとられていたボクとに、順番に顔らしき部分を向けた。

崔冠が人形を操ることができるのは知っていた。

でもなぜ動いているんだろう?今崔冠は意識がないのに。そういうものだったか?

人形はボクに見えるように、床にいくつか線を引いた。歪なそれが文字だということに、ボクは遅れて気づいた。

「もしかして…崔冠?キミなの?」

新たに文字が増える。そうらしかった。

彼の能力はよく知らないが、今意識が人形のほうにあるということだろうか。

考えていると、人形は動かない本体のほうを指しながら文字を書いた。

『オコセ』

戸惑うボクに急かすような動きを見せる。

「…起こすの?キミを?」

否定はなし。

「自分で戻れないの?」

『ワカラン』

「ええ…。どうすんのそのままだったら」

仕方なくしゃがんで崔冠の体に近づき、袖にしがみついたままの仮面の子の手から外して引き起こす。

「あっ」

完全に意識を失った体は思った以上に重く、手が滑った。頭が床にぶつかる寸前で仮面の子は素早く受け止め、ボクから庇うように崔冠を引き寄せた。

「…ごめんって。本当に」

向けられた無機質な視線の両方に謝った。

どうしたものかと思ったとき、別の足音に気づいて顔を上げた。

わざわざこんなところに来る人なんていると思わず、下僕たちの誰かだと思った。だから反応が遅れた。

二人組がいた。

「イース?」

首からゴーグルを提げた一人が、仮面の子に向かって呼びかけた。そちらへ歩きながら辺りの惨状を見回す。

「何があったの?」

「虐殺」

イースと呼ばれた仮面の子は、静かな声で短く答えた。ボクはその声を初めて聞いた。

「誰が「君たちは誰ですか?」

突然、背後のもう一人が遮るように言った。

振り向いても目は合わないから、気のせいだと思った。

「たち?」

ゴーグルが怪訝そうに辺りを見回した。イース以外は誰もいないはずだ。返事をしうる者は。

「今の誰に訊いたの?」

「君たちですよ」

白いマントをまとって、フードを被っている。目はこちらを見ていなかった。

「訊いてるんですけど」

だけど何故か、話しかけられているのは自分だとわかった。

「なんで見えてるの?」

ボクはまっすぐ目を見て訊いた。

「目を開けてるからです。質問に答えてくれますか」

ゴーグルはもう何も言わなかった。

「なんで?」

「自分なら君たちを助けられるかもしれないんですよ」

「…キミ、何者?」

「自分はエルです」

エルと名乗ったそいつの、感覚を読もうとした。

「ッ!」

訳が分からなかった。

「…?」

思わず頭を抑えるが、どこも痛くはなかった。

そんなボクを尻目に、エルはゴーグルに訊いた。

「プレア持ってますよね」

「なんに使うのそんな」

「くれますか」

ゴーグルは仕方ないというように、鞄から飾りを取り出し、差し出した。エルが掌を上に向けたから、わざわざ近づいて乗せてやった。

それを礼も言わずに受け取りながら、エルは目線を足下の人形に向ける。

「何が見えてるの」

何もない場所を見つめるエルを不思議がったゴーグルが、その視線の先に手を伸ばし、躱そうとした人形に僅かに触れた。

「…」

触れた感触はないはずだが、自身の感覚と干渉された実際の動きに違和感はあっただろう。それを確かめるように、手を握って開いた。

ボクは諦めて能力を解除した。

ゴーグルはそこで初めて手を伸ばした先にいる人形の存在に気づき、目を見開いた。それから倒れている崔冠、陲画、ボクに順に目を向ける。

一方、エルは陲画に隣に立って呼びかけた。

「聞こえますか」

「…誰あんた」

陲画は仰向けで天井を見たまま答えた。いつの間にか気がついたらしい。

「エルです」

「…名前?」

「覚えてていいですよ。この世界の中心です」

黙る陲画に再び声をかける。その間も視線はあらぬ方向を向いている。

「今の感想を聞きたいです」

「…意味わかんねえ」

「つまらないですね。不合格です」

「…なんで初対面で篩にかけられなきゃいけないの」

「君は悪魔の子ですね?」

「「!」」

人形がエルを指し、ボクに合図するように動いた。それに首を振って返す。

「悪魔の子って…あの?」

「君の力を貸してほしいんです。いいですね」

ゴーグルの言葉を無視した。

「…なんで?」

「そうすればここにいる全員が助かります」

「…そんなこと出来んの?」

「頼んでるんですけど」

言いながら、エルは手に持った飾りを眺めていた。よく見ると、小さな球体がいくつか連なっている。

「…おれは何すればいいの?」

「許可がほしいです」

「…好きにして」

エルは飾りを振った。奇妙な音がした。

次の瞬間、周囲の風景が変わっていた。景色が途中で途切れていた。

ボクは何度か見覚えがあった。

「…ほんとにやりやがった」

陲画はそう言って目を閉じる。

「悪い、しばらく寝る。あと頼んだ」

その言葉は多分ボクに向いていた。

「何が起きたの?」

「説明できますか?」

ゴーグルに訊かれたエルがボクに向かって言った。

「…悪魔の力。あとは知らないよ。ていうか知ってるならキミが説明すればいいのに」

「世界の一部を切り離したんです」

「わからないんだけど」

「じゃあ置いて行きます」

「知ってはいたけど不親切ー」

呆れ顔を引っ込めたゴーグルの目がボクに向く。

「それが悪魔の力ってこと?」

「そう。なんでアイツにできたのかは知らないけど」

「自分はこうなるように決めただけです。実際に作ったのはそこのヒトです」

「そもそもなんでわかったの?」

ボクの問いは無視された。

エルには会話をする気がないらしい。

「キミらも悪魔の子なの?」

呆れた目でそれを見ていたゴーグルが、こちらに向き直って問う。

「…そう」

「ほんとにいるんだー」

人形がもの言いたげにこちらを見ているのはわかっていた。だがもう隠し通すのは無理だ。

「見せてもらえる?悪魔の力ってやつ」

「ダメ。こっちも聞きたいんだけど、2人は何者なの?なんでこんなところにいるの?そっちの子とは知り合いなの?」

「ウチのことはリアって呼んで。バフスに拠点がある。この子は」

「イース」

仮面の子は呟くように名乗った。

「ウチは少し前にこの村に来たことがあって、そのときに会った。エルとは会ったばっかだけど、ここに来てみたいって言ったから。旅人って言ってたけど、正直ウチも怪しいとは思う」

エルは聞いているのかいないのか、床を見ていた。

視線を戻したリアは目を細める。

「答えたよ。次、そっちの話が聞きたいな。キミらは何者?ここで何があったの?」


崔冠が咳きこんで起き上がる。声をかけると顔をしかめ、耳を抑えて声を出す。

「二度と使いたくない」

動かなくなった人形をしまいながら言う。

「まあ戻れてよかったね。もうずっとこのままかと思った。やだよずっと担いで歩くの」

「思いつきで動くのはよくないな」

「キミは?」

リアを一瞥してぶっきらぼうに答える。

「崔冠」

「そっちの彼は?」

「…陲画」

「おれは名前言わなかったかなあ?」

陲画は目を閉じたまま、天井に向けてそう言った。起きていたらしい。

「…ルノ」

「そうだよ。おれはルノ」

「2人も別に名前があるんだよね?なんでそんな変な名前使ってるの?」

一瞬、崔冠と目が合う。

「知らん」

「ヤツらに捕まったときに、この名前を名乗れって言われた」

「みんなそんな呼び方使ってたんだ?」

「そうだね」

「そうだな。基本的に互いの本名は知らないな」

「ふーん?じゃあほかに使われてた名前教えてよ。字もね」


「多いね」

ボクの見せたものをなぞるように指を動かしながら、リアが言った。

「まあ」

「普段使うような字じゃないね」

「だろうな」

「でもある程度わかってきた。斑絡も故事由来だしね。革命家の英雄は夢から抜け出せなくなったって話」

「「…」」

「ほかのも同じような感じじゃないかな。全部はわからないけど」

「よく知ってますね」

エルが口を挟んだ。

「気になると調べずにいられなくてさ」

一度息を吐く。

「で、そこは悪魔の子がいっぱいいるの?」

「そうだな」

「さっき言ってたの全員?」

「そうでもないね。全然把握できてるわけじゃないけど」

「なんでそんなに集まってるの?」

「集められた」

「なんのために?」

「…世界を変えるために」

リアがエルを振り返る。

「どう思う?」

「ごまかした部分がありますね」

エルはこちらを見もせずに答えた。

「なんでそんなに知りたがるの」

「ウチは全部知りたいの」

「やめとけ」

陲画――ルノだった。

「ここで何があったかって話した?」

「だいたい。キミが寝てる間に」

「ならわかるだろ」

言いながら体を起こす。

「悪魔の力なんて碌なもんじゃねえんだよ。この村の人たちはみんな死んだ。おれのせいだよ。おれの近くにいたらあんたらもすぐにああなるぞ。余計なことに首突っ込まないほうが身のためだ。ああ…」

ルノはリアに向けていた視線を上に向ける。リアはボクを見る。

「みんな死んだよ…なんで…おれさえ「ルノ」

名前を呼ぶ。

「落ち着いて」

ルノは顔に掌を当てて深く息を吐く。

「大丈夫…おれはルノ。陲画じゃない…」

「ヒトが死ぬのを見るのが初めてだったからな」

「あー…」

「悪かったな世間知らずで」

「話終わったなら教えてくれますか?」

ルノもエルを睨む。

「知ってどうなる?何ができる?」

「関係ないです。知りたいんですよ。考えるのは聞いてからです」

ルノは閉口する。

「まあ、知らないままでいるよりはマシなんじゃないかな。本当に世界を巻き込もうとしてるなら、ウチらだって無関係ではないだろうし」

リアが口を挟む。

「何もできなくても?」

「うん」

「どうせおれたちだって全部は知らないんだから、知らないまま「知らないほうがいいことなんてこの世にない」

リアは断言する。

「…変なやつら」

ルノは口の端で笑う。

「自分から巻き込まれに行くやつの気が知れない。知らねえよ?何があっても」

「もちろん」

ルノは一瞬、ボクと崔冠を見る。

「悪魔の下僕」

リアは首を傾げる。

「連中の目的は悪魔の復活。悪魔の子を集めるのもその一環。何が言いたいかわかる?」

ルノは挑発的な目を向ける。

「…想像はつく。ソイツらには叶えたい願いがあるんだ」

「やるじゃん」

「…すごいね」

「悪魔に関してはいろいろ調べてたことがあるから。でも、だからこそ言える。無理でしょ」

「悪魔の子って本来すごく希少なはずでしょ。それがボクらが把握できてるだけで十人以上集まってる。年齢もそこまで離れてない」

「…何か今までにないようなことが起きてる?…それでも簡単ではないでしょ。でも」

リアは一人で頷く。

「でもそうか。そうまでして叶えたい願いなんだ。普通に生きてるだけじゃ叶わないような。世界を変える…願いか」

ボクらは顔を見合わせて肩をすくめる。

「それでこの村は襲われたわけですね」

エルの声が割って入ってきた。

「…エル、遊んでるでしょ」

「何がですか」

「今の質問必要あった?」

「自分が必要のないこと言ったことがありますか」

「趣味が悪いよ。人の心を弄ばないで」

「自分の知ってるヒトは、こういう事実を蒸し返すと怒ります」

「へー。どこで知ったの?」

「物語ですかね、ほとんどは」

「そういうところだよ。怒らせるとわかってて言うのも。間違ってはいないんだろうけど、残酷」

「話を戻して、君たちはこれからどうするんですか?」

崔冠、陲画の2人と顔を見合わせる。

「…たしかに、もう奴らに従う理由もなくなったわけだが」

「エルはボクらにどうしてほしいわけ?」

ボクの言葉が終わる前にエルが歩き出す。

「聞いてる?」

黙っていたイースは、近づいてくるエルから距離を取った。

「賢いですね。近づけちゃいけないものの見分けがちゃんとついてるみたいです」

エルは足を止め、嬉しそうに笑う。

「自分は獲物でも敵でもないって、伝えてくれますか」

距離を保ったまま言う。イースのほうは見ていない。

「…自分で言いなよ。どっちにしろ意味わかんないけど」

「人間」

イースが短く言葉を放る。

「そうですよ」

単語しかないその言葉の意図を読み取ったのは、おそらくエルだけだった。

「何もしない、というかできないんですけど。その仮面見せてもらえますか」

「シェーレク」

イースが呟く。

「アネモネでどうですか」

「ケネラ」

「白ですか?」

「黄」

「…花言葉で会話しないで二人とも」

それを理解できるリアもおかしい。なんのことやらさっぱりだった。

「敵はなんでこの村に悪魔の子がいることが分かったんですか?」

「言われてみればたしかに…敵?」

「敵ですよね。世界を変えようとしてるんですから」

「そうなの?」

「それ自体は知らないけど。解釈次第だろうから。でも方法は問題じゃない?それ以外の方法で叶えられない願いなんだろうし」

「近道は許されないんですよ。何かを変えたいなら、ちゃんと踏むべき手順があるんです」

エルのほうは意味が分からない。ほかの誰もわかっていないようだった。

「…えーと。それに、キミたちを利用してるわけでしょ?自分の願いのために。それで「ちょっと静かにしてて」

遮るとリアは口を閉じた。代わりにエルが再び口を開いた。

「君たちも、そのヒトたちのことも、自分にも無関係じゃ「エル」ないんですよ。世界を巻き込んだ企みに加担するつもりなら、君たちも敵です」

「…エル」

聞こえなかったと思ったのか、静かになってから崔冠が改めて名前を呼ぶ。

「聞こえてますよ」

「黙れ」

「いやです」

エルははっきり断り、崔冠は苦り切った顔をする。

「何様のつもりですか」

そんな予感はした。

「…どういうこと?」

「リア、止まれ」

崔冠が命じると、リアは揺らしていた足を止めた。

「…おー。悪魔の力か。命令?」

「そんなところだな。何故奴には効かない?」

「言葉で命令するのが条件なら、言葉で断ればいいじゃないですか」

エルが何でもないことのように言い、崔冠が黙る。

「今ので納得したんですか?」

「…理屈としては通っている」

「じゃあもう二度と自分には効かないと思いますよ。どうせ効果はないと思いながら行動しても、何も起こるわけないじゃないですか。魔法を使うときに不発の可能性を考えますか?」

「確かにな。覚えておこう」

「というか試したことなかったんだ?」

「悪魔の力は絶対ってイメージがあるからですかね」

「まあその能力を知ってて断る人なんて普通はいないよね。でもさ、ボクの力も効かなかったよね?それはなんで?」

「知るわけないじゃないですか」

「イースにも効かなかったけど」

「少しは自力で考えたらどうなんですか」

「ボクが考えてわかるようなことじゃないと思う。さっきのは説得力あったし、エルなら何かわかると思ったから訊いたの」

無視された。

ボクが黙ると、リアが恐る恐る口を開いた。

「もう動いていい?」

「よし」

「キミ、魔法使えるの?」

リアは崔冠に訊いた。

「使える」

リアはボクに目を向ける。首を振って答えた。

「なんで?悪魔の子って魔法使えないんじゃないの?」

「よく知ってるな」

「そうらしいね。なんでかは知らねえけど、おれも使えるよ」

ルノが口を挟む。

「たしかあともう二人だけいる。魔法使えるの」

「名前は?」

陲画、崔冠、游嬰、渾谺。

名前だけならボクも聞き覚えがあった。

名前を告げたルノはリアに挑戦的な目を向けた。

「…わからないね。共通点はなさそう」

「この名前自体命名したのは奴らだからな。悪魔の子に関しては、奴らもよくわかってないんだろ」

「じゃあ能力のほうは?」

「「…」」

「いいよキミらのは。あとの2人のは?」

「…俺はまず知らん」

「おれもちゃんと知ってるわけじゃないんだけどね。触れたものにはたらいてる力を操作するのと、あと暗いの」

逆に気になる。

「2人もそうだけど、あんまり悪魔らしくないね」

「…?」

「うーん…」

リアは頭を捻る。

流石に無理かな。

「あ、別に四に拘る必要はないから。多分あいつらも探してる途中なんだよ。悪魔の子」

「え?まだいるってこと?」

思わず口を挟む。

「そんな話をしていた気がする」

「キギリスの木霊は…一応四人か。三人はそれっぽい」

「何それ」

「『旅する指輪』に出てくる庭のシャベルとかの名前の元ネタ。知らない?」

「へえ」

「ただ、一人合わないんだよね」

「誰?」

「…崔冠」

リアはそちらに目を向ける。

「えーと…この名前呼びづらいんだけどー?」

崔冠は観念したように目を伏せる。

「…ラズだ」

「うん!そっちのほうが人間らしい!」

褒めてるのか?

「ラズの枠が合わないかな」

「それは?」

「なんて言ったらいいかな、腕が伸びるやつ」

「ん、心当たりないなあ」

それとなく目線だけでルノを見る。表情は読み取れなかった。

「ラズに関してはワンジャラナとかのほうがイメージ合う気がするんだけど。最近過ぎるかな。コイテンバのほうが近いかなー」

「…というか、逆にほかの3人は合うんだな」

「それぞれにまつわる…逸話でいいのかな」

「さっきの、悪魔らしいっていうの、どういう意味?」

「んーなんて言ったらいいかな」

「わざわざ答えるんですね」

エルは毎回前触れがない。まんまと不意を突かれてボクは小さく飛び上がった。

「…訊かれたから。キミはどうなのか知らないけどね、ウチらは会話してるの。相手に伝わんないと意味がないんだよ、エル」

相変わらず聞く気があるのかわからないエルにも、リアはわざわざ振り返って伝えた。

「…で、なんの話してたんだっけ?」

「そのヒトたちにこれからどうするのかって訊いてたんですけど」

「懐かしーよく覚えてたね。もしかして待っててくれた?」

「話題変えたのそいつだぞ」

「そーだっけ。で?」

ボクはルノを見た。

「おれはもうやだよ。あいつらのために何かするの。うんざりだ」

「そうか。よかった」

「ぶっちゃけルノ次第だもんね。ルノが一緒に来てくれないと、ボクらだけだとすぐに見つかっちゃう」

「責任押し付けないでくれるかな」

「敵は?」

「止めるよ。どうせあいつらがいる限り、おれはほかに行く場所なんかないだろうし」

「ウチは協力するけど、エルは?」

「なるようになります」

「は?」

「できるだけほかの人巻き込みたくはないんだけど」

「知ったことじゃないです。自分としてはこれ以上世界に波風を立てないでほしいんですけど」

「立てられると困るの?」

「世界がこうなるまでに自分が何をしてきたか、想像したことはありますか?それをほかのヒトにめちゃくちゃにされちゃたまらないんですよ」

「世界がこんな風なのはキミのせいなんだ?」

「世界がこんなに面白いのは自分のおかげです」

「面白いかな?」

「自分がいたからこれで済んでるんですよ」

「キミ何者?」

「世界の中心です」

「やっぱどっかのアニメかなんかで聞いた気がするな、そんなセリフ」

エルは笑顔を深める。

「六秒待ってもらえますか」

「まあエルはもう知らない。どうせボクらが何言っても意味ないでしょ。イースは…」

「名前」

仮面越しの目はボクを見ていた。

「あ、ボク?ローチェだよ」

教えたところで、イースが呼ぶとは思えないが。

「協力」

「…止めることはできないよね。どこかに保護してもらうことってできないかな」

「どう説明するんだ。それに、奴らのことを考えると、むしろ来てもらったほうが安全かもしれない」

「いいんじゃない?人は多いだけ心強いし」

「それでいいのか」

ルノは手を鳴らして笑った。

「そうと決まれば、今後のことを考えるよ、みんな」

「世界を救うためにね」

「殆球ってわかるかな」

「何それ?」

「あいつらが変なこと知ってるのはあれがあるから。だからあれはあっちにあるとまずい」

「そんなに?」

「念の為。盗み出してきてほしい」

「…誰が?」

「おれ以外の誰か。頑張って」

「…それくらいはやるか」

「家もほしいなあ。隠れ家。ちゃんとしたやつ」

「ねー、ルノってなんでそんなに怠そうなの?なんかずっと疲れてない?」

「いろいろあんのおれにも」

寝転がりかけたルノが跳ね起きる。

「あ、そうだ。さっきの」

「どれ?」

「リアの言ってた、おれらの能力の由来みたいなの」

「キギリスの木霊ね」

「それってなんか…生まれながらの役割?みたいなのだったりする?」

「使命?宿命?」

「違いわかんねえや。多分そんな感じの」

「どーだろ。あれの世界観で生まれるって定義が難しいからなー」

「あら。違ったか」

「なんで?」

「別に。聞いたことあった気がしたんだけど、気のせいかも。別のかな」

誤魔化した。心当たりを確認するための訊き方じゃなかった。何か仮説があったんだ。

リアが一瞬ボクたちを見る。

「何か隠してる?」

今度こそ寝転がったルノに、視線を戻して尋ねた。

ボクらは互いのことをそれほど知っているわけじゃないけど、ルノは特に話したがらない。軽口は多いが、話の途中で突然誤魔化すことがある。その誤魔化し方が上手くないのだが。ボクらの中でも下僕に加わるのが一番遅かった。その割に向こうの事情に一番詳しい。そのことにも疑念がなくはない。

「ん。…いや」

ルノは背を向け、会話を拒否した。

「我ながら結構な失言だったな。忘れて。その気になったら話す」

「早めにね。死ぬまでには教えてほしいんだけどなー」

「…本当にいいの?」

ボクが訊くと、リアは振り返って意味が分からないという顔をした。

「ボクらと一緒に来ること。きっとそのうち理不尽な目に遭うよ。エルはともかく、キミは怖くないの?」

「ウチは好きでやってるから。感謝も謝罪もいらないの。別に正義のためとかじゃないし」

「…知りたいんだっけ」

「そうだよ?最初から言ってるじゃん」

「なんでも?」

「まだ知らないことがあって、それを知らないままにはできないなー。怖いは怖いけど、だから何って感じ」

「長生きできなそうですね」

「まーね。それでも今まで生きてこれたわけだし。新しいこと知るのって楽しいと思うんだけどなー」

「否定はしないが」

「なんかね」

「何回も言わせないでよ。キミらが来るなって言わない限り、ウチはついていくよ」

ラズと目が合う。肩を竦めて見せる。

「まともな人は巻き込みたくなかったんだけど、別に気にする必要なさそうだね」

「え、ウチ、エルと同レベル?」

「そこまでは言わないが」

ルノの押し殺した笑いが聞こえた。

伝わらないと意味がない。そうなんだ!

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