王子達とのお茶会は波乱の予感です 5
他ページより少し長めとなっております!
「!?!?」
突然の大声に驚く周囲。その人物のフォークを持つ手の動きは止まったけど私は止まれなかった。
ローテーブルに身を乗り出し、離れた場所のティーカップとケーキがのったお皿を勢いよく払い除けて床に落としてしまった。
「……。」
「……。」
食器が割れる音が止み、静寂に包まれる室内。
上半身どころか膝の辺りまでテーブルにのりかかった状態の私。
少しだけ冷静になる。自分の現在の姿を客観視するとあまりにもやばすぎる人間…と居た堪れくなって、顔を上げたくなくて私はこの状態で動きを停止した。
「…トゥシェ、さん?」
ようやく耳に入ったのは、戸惑いを隠せずにいるよく知った綺麗な女性の声。
「…はい。」
「…一体、何をなさっているんですか?」
流石にずっとこのままではいれないらしい。ゆっくりと力無く、元のようにソファーに座った。
スライディングしたせいで胸元のアクセサリーやドレスの飾りに傷をつけてしまったかもしれない。弁償かな、いくらかかるんだろう…。
「急に大きな声を出して身を乗り出すなんて、どうされたのですか?せっかくのケーキと紅茶が落ちてしまいましたわ。」
「…ごめんなさい。」
和やかになりつつあったはずの空気はどこへやら。私の奇行のせいで、私以外の人の頭上にはクエスチョンマークが飛び交っている。でもこの奇行には理由がある。口にするのも怖いけどちゃんと言わなきゃ。
「…フリュ殿下に、ケーキを食べて欲しくなかったんです。」
「え?」
私を除く全員の目が点になる。
私が視た映像、そこで苦しみ倒れ込んでいたのは、今と全く同じ装いをしたフリュ殿下だった。映像が途絶え状態を把握し、フリュ殿下の様子を確認すると、彼は今まさにケーキを食べようとしていたのだ。
確証はない。でも、ケーキや紅茶を口に入れる事と彼が倒れる事態がどうしてもリンクしているように思えて。だから彼にケーキを食べさせない為に無我夢中で動いた。斜め前の位置のあるケーキと紅茶を払い除け、咄嗟に食べ飲み出来ない状況を作ったのだ。
「…詳細を詳しく聞かせてもらえますか。」
「…はい。」
スエテさんがあわあわと落ちた物を片付けるのと対照的に、落ち着いた口調で、でも疑惑の眼差しで発言するフリュ殿下。払い除けた反動で彼の服に紅茶が跳ねていたらしい、ブラウスには先程まで無かったはずの茶色い雫の形がいくつか散らばっていた。
「さっきケーキを食べた後、ソファーを触りました。その時映像が視えたんです。魔法を使うつもりなんて無かったからびっくりしました…でも、視えた内容が怖くて、びっくりはびっくりでも恐怖のびっくりに変わりました。」
「恐怖…どういった映像が視えたんだ?」
前のめりになったフラム殿下に尋ねられる。
言わなくちゃ。改めてそう思い、言葉を続けようとする。いつの間にか私の手は小刻みに震えていて。気づいたフルール様がそっと手を重ねてくださった。少し安心出来た気がする、小さく深呼吸した後、フラム殿下の質問に答える。
「今と同じ格好で、苦しんで倒れるフリュ殿下が視えました。手前には食べかけのケーキと、飲んだか飲んでないかわからないくらいの紅茶があって…だから、その。」
手だけでなく足も震え始める。言わなきゃ、これは言うべき事だ。
「…これはあくまでも可能性の話です。でも、もしかしたらケーキか紅茶のどちらかに…何か混ぜられてるのかも。って、思って…。」
「…なんだって?」
再び訪れる静寂。
とんでもない事を言った自覚はある。でも視ちゃったんだもん。私の魔法の正確さは私が1番わかってる。
「つまりトゥシェさんは、何者かがフリュ様に毒を盛った可能性があると言いたいのですか!?」
いつの間にか片付けを終わらせたスエテさんが困惑した様子で叫ぶ。そう、そう言う事なんです。主人の命が狙われたかもしれないスエテさんからしたら、とんでもない事だよね。私は静かに、しっかりと首を縦に振った。
「これは…これは大事件ですよ!?王子殿下の命を狙うだなんて言語道断です、速攻調査を開始すると共に報告をせねば!!」
「落ち着きないスエテ君。」
シュポールさんが今すぐにでも部屋を飛び出しそうなスエテさんを引き留める。何故ですかと対抗するスエテさんだったが、シュポールさんの鋭い睨み?で大人しくなった。
「トゥシェさんの魔法能力は私達も存じております。しかし、一瞬視えたその映像の様子のみで毒殺を疑うのは少々短絡的かと。」
「た、確かにそうですね。」
「毒殺の筋も十分考えられますが、あなたの予知という証拠のみでこの話を公表し、捜査を大々的に行うのは早まった行為に考えられます。」
「仰る通りです、でも…。」
現状で最も良いと思われる行動は何?毒殺の可能性がある限り、無かった事には出来ないだろうし…自分の視た映像、発した言葉の重みをひしひしと感じる。
「仮に私が視た場面が本当に毒殺だったとすると、今回失敗した事ならきっとまたフリュ殿下を狙ってきますよね?彼の身に危険があると知りながら何もしないのは嫌です、私に何か出来ることはありますか?」
真剣さが伝わるよう、真っ直ぐにシュポールさんを見つめる。彼は少し考えた後、やんわりと首を横に振った。
「お気持ちは大変有り難いのですが、これは王族の問題です。平民であるトゥシェさんが深く関わる必要はありません。」
「でも映像を視たのは私なんですよ?私が触って何かを視る事で何かわかるかもしれないですし…。」
必死に訴えるもなかなか了承を得られない。むしろ言えば言うほど、シュポールさんの拒絶は強まっていく。終わりの見えないお互い譲らない状況をしばらく続けていると、フラム殿下からの静止がかかった。
「トゥシェの気持ちは嬉しい、でもこれは君が責任を負えるような問題じゃない。まずは俺やフリュと、俺達が信頼する者たちで調べてみるよ。どうしても行き詰まってしまったら、その時は手伝ってもらえないか?」
フラム殿下も私を除け者にするんですね…場合によったら協力はさせてもらえるらしいけど。
これ以上首を突っ込むことは出来そうにない事を悟り、私はフラム殿下の提案に了承した。
「招待しておいて申し訳ないが今日はもうお開きにさせてくれないか?いろいろ調べたいからな。」
「すいません、お茶会はまた改めて機会を作ります。」
「そうですわね…私に出来ることがあれば仰ってくださいね。」
「わかりました。」
そして私達は追い出されるような形で王城を後にした。
何故、私はあの時魔法を発動したの?あれは本当に毒殺未遂?私…本当に関わらなくていいの?
離れながら見る白亜の城は、近づきながら見たものよりくすんでいて。
私は芽生えた胸騒ぎをどうしても消す事が出来なかった。




