私ヒロインなんて柄じゃありません 4
プリントを受け取った後はフルール様と何気ない話をした。無理をしていないか、しんどくなってきたらすぐに言って欲しいと言う彼女の優しさに触れて、もやもやした気持ちが少し綻んだ気がする。
「…先程のプリントなんですけど。」
「はい?」
さっきまで普通に会話していたのに、不意に彼女が言葉を躊躇う。プリントがどうかしたの?
「本来なら、担任が寮の管理者に渡して本人に届ける物なんです。」
「え、そうなんですか?」
「はい。だからこうして私が届ける事はイレギュラーなんですが…どうしても私が届けたくて来ちゃいました。通例通りヴァン先生にお願いしても良かったんですけど…もしかしたら先生、その足でこの部屋にお見舞いに来るかもしれないと思いまして。」
…なんですと?
突如出されたヴァン先生の名前と、彼がお見舞いに来るかもというワードに思わず肩が揺れる。
「本来女子寮は男子禁制なんですが、先生はトゥシェさんの様子をとても心配していらしたので…。でも!それは流石に良く無いと思ったんです、だから先手を打ちました!」
「せ、先手…?」
「ええ、先手です。…ただでさえ体調が優れない時に、何があった相手と会うのはお辛いでしょう?」
「えっ。」
何かあったって、バレている…どういう事!?
私はこの件に関してフルール様に一切話していない。フリュ殿下から何か聞いたの?でも、フリュ殿下に話した時も先生の名前は出してないのに…。
驚きと困惑が顔に滲み出ていたのだろう。フルール様は困った様に笑いながら、そっと私の手に彼女のそれをのせた。
「昨日の朝ヴァン先生が連絡事項を伝えに来た時、トゥシェさんは表情が強張っていました。先生が来る前からなんだか様子もおかしかったので、時期的にも何かあったとしか思えなくて…。」
鋭い。時期的にって所だけよくわかんないけど、それ以外は詳細省いて異変に気づかれていたって事だよね。
本音を言うと相談したい。フルール様にだったら、数日前からの怒涛の出来事を事細かに話したいし聞いて欲しい。あった事洗いざらい吐き出してしまえたらどれ程楽になるだろう。
でもやっぱり言えない。全部話そうと思ったらどうしても、彼女の婚約者の恋慕の対象が彼女で無いと突き付けなければいけなくなる。そんな酷い事、私には出来ない。
「…何も無かったと言えば嘘になります。けど、フルール様が気にかける様な事じゃありません。自分でなんとかします…多分これは、自分で決めなくちゃいけないんです。」
なるべく真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて伝えた。
乙女ゲームのヒロインは自分で攻略するルートを決める。だから私も、自分で最後のダンスを踊る相手を決めなくちゃいけないんだ。
「そうですか…そうですよね。わかりました。私も、あなたには悔いのない選択をして欲しい。力にはなれなくても、それだけはずっと願っています。」
そう言ってフルール様は私に笑いかけた。さっきとは違い困った風では無く、美しい優しい笑顔で。それ以降も、彼女は私に悩みがあると気づきながらも、深掘りをしてくる事は無くて。そんな気遣いに安心したし、もし彼女に何かあったら私も彼女の様に寄り添いたいと強く思った。
それから少しして、フルール様は長居は良く無いと言って帰っていった。1人になって直後はどうも無かったけど、夜になるとまた熱が出てしまいもう1度解熱剤を飲む羽目になってしまった。そのおかげで?この晩はぐっすり眠れたけどね。




