とある可能性に気づいてしまいました 7
そうして寮に戻ってきたは良いものの。
さっきのフリュ殿下とのやり取りを忘れようとするとヴァン先生が、先生とのやり取りを忘れようとすればオルロージュ先輩が、先輩とのやり取りを忘れようとしたら殿下が思い浮かんでしまい、私の脳内はパニックどころの騒ぎでは無かった。
気を紛らす為に何かしようにも、昨日何をしてもヴァン先生の事が頭から離れなかった私だ。3倍になってしまった悩みの種から逃げるにはどうすれば良いのか、これっぽっちも見当がつかなかった。
無駄に掃除をしてみたり、室内をウロウロ回ったり…おかげで洗面所の鏡は見違える程綺麗になったけど、映る私はお世辞にも綺麗と言えない重い表情で。皆様、こんな濁った瞳の田舎娘のどこが良いんですか…?もう何度目かわからない溜息がまた漏れた。
夜。
暗く静かな室内に、カチコチと時計の音だけが響く。時刻はもうすぐ0時になるけれど、勿論寝付けるはずもなくて。ベッドから離れて窓の外を見ると、綺麗な月がぽっかり浮かんでいた。
「…外の空気吸ったら、ちょっとは気分変わるかな?」
私はそのままドアのほうに向かい、ふらふらと寮の裏口へと足を進めた。裏口から外に出て次はどうしよう…どこでも良いや、思うままに進もう。風の吹くまま気の向くまま歩いていく。
やがて暗くはあるけれど見慣れた景色が視界に入ってきた。以前は毎日のように来ていたけど、最近寒くて行く事をやめた場所。そう、寒くて…
「さむっ!!」
待って、私コート着てない、寝衣だ!!ボーっとしてたとはいえ流石にもうちょっと早く気付こうよ!?
気温に対して薄着である事に気づいた途端、さっきまで感じなかった寒さが急に襲いかかってきた。全身が小刻みに震えだし、ふと両手を合わせるとびっくりする程冷たくて。部屋に戻ろう、シンプルにそう思い踵を返した時。
「誰だ?」
「!?」
どこかから突然呼び止められて肩が揺れる。聞き覚えのある声、ゆっくりと発された方を向くと、月明かりに照らされたベンチに腰掛ける久しい姿が見えた。
「…フラム、殿下?どうしてこんな所に。」
「それはこっちの台詞だ、今何時だと思ってる。」
「どうしても寝付けないから散歩に来たんですよ、なんとなく歩いてたら足がこの場所に向かってました。」
「…そうか。」
彼のガーネットの瞳が細められうっすらと微笑まれる。でもその笑顔は私の知っているフラム殿下とはなんだか違って、感情に乏しい印象を覚えた。
殿下とこうやって会うのはヘアゴムを外せと怒鳴られたあの日振り…1ヶ月半は過ぎたと思う。怒鳴られた直後は、予知夢の事も重なって怖いと恐れていたけど、何故か今はそのような感情が湧いてこなくて。それよりも、とりあえず元気そうな彼の姿にホッとした気持ちが大きかった。
「なんだか殿下と話すの久しぶりですね。ランチにも来ないで今まで何してたんですか?」
「別に何でもいいだろ、強いて言うなら色々考えてたんだ。」
「考え事かぁ…実は私も今悩みがあって、考えまくって頭パンクしそうなんです。」
ベンチに歩み寄って、殿下の隣に腰を下ろす。パンクというワードに合わせ、頭の横で両手をグーパーしてみせた。何してんだよ、と鼻で笑われる。ムッとして笑うなーと少しキツく返事した。ああ、懐かしいなこの感じ。
しばらく話していると月が陰って勢い良く風が吹いた。薄着の私はブルっと大きく震えあがる。そうだ、寒くて帰ろうと思ってたんだった。そこで私は適当に話を切り上げ徐に立ち上がった。
「…もう帰るのか?」
「はい、こんな格好で来ちゃったんで。風邪引くといけないし。」
「じゃあ俺のコート貸すよ。」
「大丈夫です。気持ちだけ頂いときます。」
ペコッとお辞儀をしてから私は寮への道に戻ろうと歩き出した。やばい、これ以上ここにいたら本気で風邪を引く。足取りを少し早めた。
「…やっぱり俺じゃ、駄目なのか?」
「え?」
うっすら何か聞こえた気がした次の瞬間、腕を掴まれぐいっと後ろに引かれた。そして背後から伸びるふたつの腕に包まれ、背中に何かしらの温もりを感じる。
…ん??
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