とある可能性に気づいてしまいました 6
「…つまりトゥシェさんは、現在2人の男性から好意を寄せられているのに自分の気持ちが分からなくて困っている、と。」
「まぁ、そんな感じです…。」
流石にこの男性が誰かまでは言わない方が良いよね…と思って色々伏せた結果、相手との関係性や最後のダンスに誘われるまでのシチュエーションは殆ど伝えられなかった。ただ、頭の中で考えるだけじゃハッキリ見えなかったある結論が、言葉にする事で見えた気がする。
『自分の本当の気持ちがわからないから答えを出せない。』
これ。
「どうしたら私の気持ちがわかるんだろう…。」
こんな悩みは人生2回目でも流石に初なので途方に暮れる。フリュ殿下もアドバイスに困っているようで黙ってしまった、ごめんなさい。
「トゥシェさんは、その2人の他に最後のダンスを共にしたい相手はいないんですか?」
「わからない。って事は、いないんだと思います。そう言うフリュ殿下はどうなんですか?誰か踊りたい相手、いないんですか?」
「っ!」
尋ねた瞬間彼の瞳が少しだけ開かれた。小さくギクッとした感じ、誘いたい相手がいるって事!?
「えっ殿下好きな人いるんですか!?うわーマジかー!王子様の恋、片想い?両想い?両片想いも美味しいなー。誰だろう、私の知ってる人だったりする?殿下はその方にダンスのお誘いはしたんですか?こんなキラキライケメンからのお誘いとかトキメキ不可避でしょ、うっわ何それ楽し…」
思わずテンションが上がって早口で盛り上がっていた所に冷た〜い視線に突き刺さる。瞳の色も相まって氷そのもののような殿下の睨みだった。
「…すいませんでした。」
かなり恐怖を感じたので私はすぐに縮こまって謝罪した。…もしかして触れちゃ駄目だった?誘ったけど振られた…とか。いやいやまさかフリュ殿下に限ってそんな事無いよね。
縮こまりながらも別方向へシフトチェンジしたおかげで元気になった私の思考回路。妄想の世界で楽しみ始めた私は、隣に座る彼の表情の変化に気づかずにいた。
「…ーそうだ。トゥシェさん!」
「!?はいっ!?」
突然名前を呼ばれてびっくりする。振り返ると、先程と別人のように瞳を輝かせたフリュ殿下と目が合った。
「名案を思いつきました、最後のダンスは僕と踊りましょう。」
「は…え!?」
「最後のダンスを人前で踊るという事は相思相愛の証明。そう言われていますが、実際に全員がそうとは限りません。2人への気持ちがわからないのなら、僕とパートナーという立場になる事で何か見えるかもしれませんし。」
「えっ、いやでもそれってどうなの…」
「いけませんか?それともトゥシェさんは、僕と踊るのは嫌ですか?」
「別に嫌って訳じゃ…ってそうじゃなくて!!」
何!?どこが名案!?益々混沌させるだけじゃん!!それにそれに、今殿下自身も言ったけど、最後のダンスは相思相愛のアピールなんだよね??
「殿下は…っ、好きな人がいるんじゃ無いんですか!?なのに私誘って良いんですか?その子に誤解されちゃいますよ!?」
王子に向かってめちゃくちゃ声を荒げてしまった。キョトンとするフリュ殿下と乱れた呼吸を整える私。必死な私に真っ直ぐ向かい、落ち着いた口調で彼は応えた。
「…だからこそです。僕だって好きな女性と最後のダンスを踊りたい、望みを捨てたく無いー…その為にもトゥシェさん、今回だけでいい、僕と最後のダンスを踊る予定にしてくれませんか?」
「いやちょっと、だいぶ意味わかんないんですけど…?」
「分からなくて大丈夫、僕の事が好きじゃ無くてもいい。ひとつの選択肢として、考えておいてください。」
それだけ言うと、フリュ殿下はベンチたら立ち上がってそのまま去っていった。1人残された私は呆然、ベンチから動く気力すら無く…。
今の、何?
ヴァン先生とオルロージュ先輩は、真っ直ぐに私を最後のダンスに誘ってくれた。ハッキリでは無いとしても、私の事が好きだという言い回しを添えて。だから、私の自惚れじゃ無くて、本当に彼等は私の事が好きなんだ…と、理解する事が出来たのに。
フリュ殿下の言動は、なんか違う!!最後のダンスの意味を知った上で私を誘ってきたのに、私自身はフリュ殿下を好きじゃ無くても良いとか…片想い上等的な?いやでもそれなら初めからダンス誘わないよね。それにフリュ殿下は、私の事を好きだという事も、それっぽい事も言ってない気が…本気でどういう事だ。
意味わかんない意味わかんない意味わかんない!!!!
頭を抱えていたら午後の授業の終了を告げる鐘の音が聞こえた、帰るか…。
先程フリュ殿下と遭遇した場所と違い、中庭なら位置関係を覚えている。私は力無く立ち上がり、今世紀最大級の溜息を吐いてからふらふらと帰路に着いた。
一連のやり取りを、柱の影から見ていた人物の存在を知らずに。




