とある可能性に気づいてしまいました 5
ってちょっと待てええぇぇえい!!
ゴッ!!!!
無我夢中で蹴り上げた私の膝は、目の前の男の急所にヒットした。
先輩は声にならない声をあげてへなへなと崩れていき、やがて私の足元にうずくまった。
「…もしかして今キスしようとしました!?許可もなしに?あり得ない!!この…この女たらし!!」
数瞬前まで獲物を定めたような眼差しだったはずの彼の瞳は、私の反撃のせいかすっかり活力の無い涙目になっている。それでも逸らされないままの視線に気付かないふりをして、鞄を持って慌てて退室した。
少しでも早く部屋から離れたくてがむしゃらに走る。息も絶え絶えに走りながら、先程起こった出来事を振り返った。
……。
いやなんでこうなった!?
誰にも言うつもりの無かったヴァン先生からのお誘い(告白)の件が先輩にバレたのは仕方ないとしよう、先輩鋭いし。でも何で、そこから先輩に壁ドンされて責められ…迫られ?て、からの。
「俺が好きな女の子は、トゥシェちゃんただ1人だから。笑っちゃうよね、まさか俺が1人に本気になるなんて思わなかった。でも気づいたら…ううん、きっと初めて会った日から君に惹かれていたんだ。アイツと踊るなんて言わないで俺を選んでよ。トゥシェちゃん…」
一気に全身が熱くなったのは、彼の言葉を思い出したからなのか、はたまた走ったせいか。
オルロージュ先輩は飄々としてどこか掴めない人だ。距離も近いし手も早い、だから最初は苦手だった。けれど一緒に過ごしていくうちに、なんでもそつなくこなすように見えて私よりもっと先で努力している所とか、なんだかんだで凄く頼りになる所とか、身分なんて気にせず話せて一緒にいると楽しい所とかー…初対面ではわからなかった彼のいい所が沢山見えてきて。
「…だけど、あんな顔は初めて見た。」
私の事を好きだと言った時の先輩の表情は、出会ってから数ヶ月間を過ごした内のどの彼とも似つかないものだった。おそらくそれだけ…本気だという事。
「…返事に困る相手増やしてどうすんのよ〜!」
先生の事は好き、先輩の事も好き。これは本心だ。そして2人に対する『好き』には違いがある。
けれどどっちが恋愛の『好き』なの?もしくはどちらも恋愛の『好き』では無い?
「もーー、わかんないよーー!!」
「何がわからないんですか?」
「!?!?」
独り言のつもりだった叫びに返事が返ってきたのに驚いて身体足どりがおかしくなった。バランスを崩して後ろに倒れそうになった時、誰かがふわりと優しく私の背中を受け止める。
恐る恐る振り返ると、プラチナブロンドの髪とアクアマリンの瞳をもつイケメンの顔がドアップで視界に飛び込んできた。
「フリュ殿下!?お久しぶりです!!」
「久しぶりですね。どうしたんですかこんな時間にこんな所で。時の魔法の実技室からこの場所は、なかなか離れていると思いますけど…。」
ち、近い…カッコいい…。って見惚れてどうする私!
慌てて殿下から距離を取り、姿勢を正す。当たりを見渡すと知らない景色だった。無我夢中で走ってたから、どこに向かうとか考えてなかったーここどこですかー!?
「…ごめんなさい、ここってどこですか?」
「えっ?」
びっくりされてしまった、心の中でもう一度謝っておこう。
私の様子や発言が引っかかったのか、彼は眉間に皺を寄せて首を捻る。そして私にこの場で待つように言ってからどこかへ行ってしまった。
呆れられた…のかな。やばい奴だって放置された?気持ちはわかるぞ!とか考えつつ、どこに行けばどこに繋がるのかわからないので言われた通りその場で待つ。しばらくすると、フリュ殿下が消えた方向からこちらに近づく足音が聞こえてきた。
「お待たせしました。と、いってもどこなら落ち着いて話が出来るかな…。」
「えっ話?それなら寒いかもしれないけど中庭のベンチとか…。」
「ありですね、行きましょう。」
「え、えっ??」
私のぼやきを採用された?のか、殿下は私を中庭に案内してくれた。そしてベンチに横並びで座る。時折頬をくすぐる風は冷たいけど、それを除けば日差しもあって案外寒く無かった。
「…えっと、殿下?私は何故、ここに連れてこられたんでしょうか?」
ここにきてようやく尋ねる事が出来た。殿下は「あっ」と零して少し黙った、言葉を探しているようだ。
「…先程僕が呼び止めた時に場所を把握していない様子だったので、何か事情があるとかと思ったんです。僕で良ければ話を聞きます。」
「ありがとうございます…でも今、授業中ですよね、殿下は授業に戻らないと。」
「でもトゥシェさんは戻るつもりは無いですよね、だったら僕も、ここにいます。」
本当に大丈夫なのか尋ねると、既に早退の旨を伝えてきたと言われてしまった。先程一瞬私を置いて行ったのはその為だったらしい。彼は水と光、2属性の魔法が扱えるのでその日によって参加するグループを変えたり、時間を分配しているとの事で、今日の分の光魔法の実技を終えて、水の魔法の実技室に向かう道のりで私を見つけたと言われた。
「…気を使わせてしまったようで、なんだか申し訳無いです。」
「構いませんよ、トゥシェさんは大事な友人ですから。」
殿下はそう口にすると、それ以上何も喋らなかった。
『友人』
何故かその響きに安堵する。
そして、異性の友人である彼なら、私の置かれている現状に対して新しい着眼点からアドバイスをくれるかもしれない。ふとそう思った。
殿下の行動から推測するに、私の様子を心配してこの場所へ連れてきてくれたのだろう。本来ならあまり広めるべき事じゃ無いかもしれないけど、隣に座るこの人なら信頼できるし、きっと親身になって聞いてくれるよね…?
「…フリュ殿下。」
「何ですか?」
「…ひとつ、悩みというか…相談?を聞いてもらってもいいですか?」
殿下が首を縦に振った事を確認した後、ぽつり、ぽつりと言葉を選びながら、私は昨日から先程までの出来事を彼に話した。




