とある可能性に気づいてしまいました 4
私の行動にオルロージュ先輩は目を大きく見開いた、そりゃそうか。頬がじんじん痛むけど、お陰で少し冷静になる事が出来た。
「心配かけてすいません。でも本当に些細な事なので、今回は自分で何とかしますから。」
営業スマイルを向けて声色明るめに伝えた。流石にここまできっぱりシャットアウトしたらこれ以上は聞いてこないでしょ。私は先輩にぶつからずに広い場所に出ようと右足を横に出した。足に合わせて全身をずらそうとした時。
「…なんで?」
消えそうなくらい小さな声と共に、私の顔の右側が先輩の左腕で遮られた。ちょ、進めないんだけど。恐る恐る顔を正面に向けると、目の前の彼はとても悲しげな表情をしていた。
「なんで言ってくれないの?前も最初は渋ってたけど、最終的には相談くれたじゃん。あの時の俺、そんなに頼りなかった?」
「だってあれは魔法に関する話だったから…今回は人間関係的なやつなので、先輩が頼り甲斐があったとしても相談するべきじゃ無いんです!」
「人間関係?」
右が駄目なら左、左に抜けようと足を動かすも、そちらも先輩の腕で行手を阻まれてしまった。待て待てこれっていわゆる壁ドンだよ?確か前にもこんな事あったな。
「…その人間関係の悩みって、もしかしてヴァン先生関係してたりする?」
「!?」
その名前に思わず肩を揺らす。私、今日この場で先生の話題出してないのに、何でそんなに鋭いの!?
「…そっか、やっぱりアイツか。」
何も言ってないのにバレたよ。反応に出てた?嘘下手なんですよごめんなさいね!
あわあわしていると、オルロージュ先輩は両腕そのままに首を垂れてからの長ーーい溜息をついた。私がヴァン先生の事で悩んで先輩が溜息?どゆこと?
「あの先生トゥシェちゃんに何したの?まさかとは思うけど…好きですとか言われちゃった?」
「!?…いいい言われてませんよ、そんなストレートな言葉は。」
「つまり、回りくどくそれっぽい事を言われたんだね。」
ゔっ。
口を開けば開く程ボロが出て、このままではボロが溢れてしまう。どうすべきかわからなくてとりあえず黙った。先輩も黙ってて、次の言葉を考えてる?少しして、彼は何かに合点がいったらしく、小さく「ああそーいう事」と呟いてゆっくりと顔を上げた。
「ヴァン先生に卒業パーティーの最後のダンス誘われたんでしょ。」
「!?」
当てられた。
そうだよね。頭が回る彼の事だ、私の様子とかやり取りからその結論に辿り着くことくらい容易いよね…。でもここであっさり認めると、先生の立場的に良くないんじゃ…。
「…ち、違いますよ?」
「ここにきてまだ嘘つくの?俺そっちの方が悲しいんだけど。だいたい、アイツがトゥシェちゃんに惚れてるのは明らかだったし。」
「そうなんですか?私全然わからなかったのに…。」
「トゥシェちゃんは初心だからね、そういう所も可愛いんだけどさ。」
小さくニコッと笑いかけられた。と思ったら次の瞬間、彼の顔から笑顔が消え去り真剣な表情に打って変わる。その変化に思わず心臓が跳ねた。
「まさかとは思うけど、その誘いに乗ったりしてないよね?」
「…乗ってないです。どう返事するべきかずっと悩んでるんです。」
「そんなの悩む必要無い、さっさと断りに行こう。」
「いやでも、教師と生徒だから断るっていうのは違う気がして…。先生は真面目な人だから相当の覚悟?を持って私を誘ったと思います。だから、彼の真剣な気持ちに私も真っ直ぐ応えたいんです。」
ここまで言えば先輩も納得してくれるでしょ。
そう思っていたのに、先輩はここで小さく舌打ちをしたのだ。
「アイツの事が好きなの?」
「好きです、でもこの好きが先生と同じ物なのかがわからないんです。」
「ふぅん、じゃあ俺の事は好き?」
目の前のふたつのトパーズが私の瞳を捉える。普段なら冗談として流してしまいそうな質問なのに、その声色と視線のせいで私は思わず息をのんだ。
「…勿論好きですよ。先輩は話しやすくて根はいい人だし…。」
「ありがとう。だったらさ、俺でいいんじゃない?」
「え?」
…この人は何を言ってるの?話の論点ずれてませんか?
というツッコミを入れたいのに、先輩の顔つきは変わりそうに無い。
「先生なんてやめて俺にしなよ、卒業パーティーの最後のダンスは俺と踊ろ?」
「…何言ってるんですか?先輩は卒業パーティーでもいろんな女の子と踊りますよね?最後のダンスに私なんか誘ったらその子達怒らせちゃいますよ、意味分かってます?」
「怒らないよ、だって俺トゥシェ以外の子とはダンス踊るつもり無いもん。」
「え、な、なんで…」
詰まりながら問いかけてハッとした。女たらしな彼が誰ともダンスを踊らず、その上で最後のダンスに私を誘っている。そこから導かれる彼の返答はー…。
「俺が踊りたい子はー…
俺が好きな女の子は、トゥシェちゃんただ1人だから。
笑っちゃうよね、まさか俺が1人に本気になるなんて思わなかった。でも気づいたら…ううん、きっと初めて会った日から君に惹かれていたんだ。
アイツと踊るなんて言わないで俺を選んでよ。トゥシェちゃん…」
心拍が加速して今にも心臓が破裂しそう。吸い込まれそうな煌めくトパーズが、少しずつ、確実に距離を詰めてくる。やがてお互いの吐息がかかるようになり宝石は閉じられてー…




