とある可能性に気づいてしまいました 1
容姿端麗なヒーローが跪いて主人公に愛を乞うー…前世でさんざん読みまくった転生モノの恋愛小説にもあった、貴族設定の物語だとたまに見られるシチュエーションだ。
それが今、私の目の前で私に向けられてパフォーマンスされている…?ちょっと待って。何が起きてるの??
速まる心拍、上がっていく体温を感じながら脳内で必死に状況を整理する。まず、ヴァン先生とダンスの練習が出来るの最後ですねー楽しかったですー的な会話をした。次に、誰かからパーティー当日のダンスに誘われたのか聞かれたから、全く誘われてないですよーって答えて…。そしたら先生が急に跪いてー…。
「トゥシェ=ルルーさん。今度の卒業パーティーで、僕と…僕と最後のダンスを踊っていただけませんか?」
…いやいやいや!?!?!?最後のダンスって、アレだよね!?前にフルール様が言っていた、誘う=告白…みたいな。それに誘われたって事は、つまり…。
まさかそんな訳。
さっきから差し出された右手ばっかり見てる(正確には視点を動かすのが怖くてそこしか見られない)けど、その手は初めて私をダンスに誘った時と違い、いつまで経っても下げられる様子が無い。勇気を出して恐る恐る顔を少し上げると、手を差し出している当人と目が合う。それは一連の行動をする前と変わらない、強い意志を持ったままのふたつの綺麗なエメラルドだった。
先生、本気なんだ。
ヴァン先生は変な冗談を言う人じゃ無いって、そんな事はわかっている。真っ直ぐすぎる眼差しは私にその事実を痛い程思い知らせた。
つまり彼は本当に私の事が好きで…これは愛の告白で。
「…っっ!?!?」
理解が追いついた途端、心拍と体温の上昇スピードは更に加速した。あちこちから汗が噴き出る感覚がする。状況把握はしたものの、ここから私はどうすれば良いの!?
差し出された右手。ここに私が手を乗せると誘いを受けた事…告白にYESの返事をした事になるんだよね?彼は今こうやって好意を示してくれているけど、私は先生の事が好きなのかな…?
ヴァン先生は真面目な人だ。堅苦しい感じがして最初はどう接したら良いか戸惑った。けれど補習の時間を通して、人の話をしっかり聞いてくれる所、口数が多くないだけで考えは丁寧に伝えてくれる所、堅物どころかむしろ包み込んでくれるような優しさがある所…先生のいい所をいっぱい知れた。
彼はとてもいい人だし、尊敬している。勿論…好き。
だけどこの好きは恋愛の『好き』じゃ無いと思う。恋ではなくて何というかその…親愛的なやつ?人生2回目のくせに恋愛経験ゼロだから違う可能性もあるよ?でも、小説で書いてた主人公の恋焦がれる描写とはなんか違うと言いますか…あーーーもう上手く説明が出来ない!!
もしかしたら自覚が無いだけで、私の『好き』も先生と同じものなの?
どれくらいこうしているかわからないけれど、彼はずっと同じ姿勢で私の返事を待っている。
今…今、返事するべきなの!?私はー…
「…ごめんなさい、ちょっと考えさせてください!」
震える唇でやっと言葉を紡ぐ。発した瞬間お辞儀をして、流れるように鞄を取り走って部屋から飛び出した。足がもつれているみたいで上手く走れない。それでもとりあえずあの場所から遠ざかりたくて必死に進んだ。
やっとの思いで辿り着いた自分の部屋。制服にシワが出来るかもなんてお構いなしに勢いよくベッドへ倒れ込んだ。
…ー逃げてきてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
枕に顔を埋めて大声で叫ぶ。何でって?どうしたらいいかわからないからだよ!!!!
ヴァン先生私の事好きなの!?いつから!?そんな素振り全く無かったじゃん!教師でしょ?仮にも教師が生徒のこと好きになってもいいの!?物語の世界じゃあるまいし!!
『僕が伝えられる立場で無い事は、僕自身が誰よりもわかっているのですから。…それでも、どうしても嫌なんです。あなたが僕以外の男性の手を取る事が。』
彼から伝えられた言葉の一部が思い起こされハッとした。
教師が生徒に恋心を抱く。それが不適切だって、真面目な先生は誰よりもわかっていたはず。それなのに私に恋をしてしまって、きっかけはわからないけど想いが止められなくなって…。
「…私、知らないうち先生を傷つけてたのかも知れない。」
返事はどうしよう。
彼から向けられているものと同じ感情を、私は返せるのだろうか。
明日の登校が憂鬱だなぁ…。




